ガンダムビルドダイバーズ リビルドガールズ   作:守次 奏

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第五部が完結するので初投稿です。


第六十話「誇りと勇気の御伽噺(フェアリィ・テイル)〜再び繋がるブーケトス」

 ヴァルガの宇宙は、いつにない混沌に満たされていた。

 ロンメルと入れ替わり立ち替わりで現れた謎の男、キャプテン・ジオンはその愛機であるν-ジオンガンダムが掲げるジオニックソードで、タチバナ商会の艦隊を薙ぎ払い、アドラステアをいとも容易く一掃してみせる。

 

『ば、バカな! アドラステアだぞ! プロに作らせたんだぞ!?』

「他人に作ってもらったガンプラに感謝もせず、ただ政治の駒として利用するだけの愛なき傭兵たち……迷惑だ、とてつもなく迷惑だ!」

『この、昼飯全身タイツ──』

「守ろう心の南極条約! マナー違反を通り越し、愛も感謝も持たぬ者にはアクシズではなくこの剣を落として決着としよう!」

 

 最後に残っていた「リシテア」を、ジオニックソードのハイメガサーベルモードで一刀両断し、キャプテン・ジオンは生配信をしているハロカメラに向けて親指を立ててみせた。

 そして、今度は「ビルドダイバーズのリク」の介入によって何とか被害を免れたマスドライバーを使って宇宙に上がってきた、改ドゴス・ギア級「天城」とその随伴艦である「赤城」、「加賀」の三隻が、キャプテン・ジオンの周囲に集まっていたクルトたち「第七機甲師団」のメンバーが誰一人欠けていない──のではなくなんか一人変なのが紛れ込んでいて肝心のロンメル隊長がいないことに肩を落としつつも、主砲による砲撃を行う。

 

「む……彼らの到着が予想以上に早かったな、しかして私はキャプテン・ジオン! この『GHC』が誇る艦隊にも一人で立ち向かい、勝利してみせよう! クルト君、君たちはバロノーク連合の支援を!」

「はっ、キャプテン・ジオン! どうかご武運を!」

「うむ!」

 

 一連のやり取りは配信の都合上オープンチャンネルで中継されているため、アトミラールはなんとなく今目の前にいる全身タイツの中身がなんであるか想像がついたのだが、怒髪天を衝く勢いな愛妻が怒りを募らせていることに小さく苦笑する。

 

『むむむ……提督はロンメル大佐との戦いを所望してるのデース、だから……大人しくそこを退いてもらいマース! 主砲、Fire!』

『いやあれどう見ても……っていうかどう聞いても……まあいいや、一人で立ちはだかるというなら、キャプテン・ジオン! 貴方の知っている物量の恐ろしさ……それをご馳走するとしよう!』

 

 アトミラールは中破しながらも残存していた「山城」を筆頭に残された艦隊をまとめ上げると、艦載機を発艦させてν-ジオンガンダムへと容赦ない急降下爆撃を放ちつつ、足を止めたそこに主砲による猛攻を浴びせかけるという艦隊戦を仕掛けていく。

 だが、キャプテン・ジオンとて猛者の一人だ。

 どこまでも作り込まれたベルティゴに敗北を喫した経験を活かして急降下爆撃を回避しながら、直撃コースの主砲を、対ビームコーティングの施されたコンバットナイフで切り裂いて、「天城」との距離を詰めていくという離れ技を披露してみせる。

 

『What's!?』

『やるね……ならばモビルスーツ隊発進、そしてコンゴウ、「第七機甲師団」を引き摺り出すぞ……ハイパーメガ粒子砲回路開け!』

『サー、イエッサー! ハイパーメガ粒子砲、回路開きマース!』

 

 残存艦のうち、ガンプラを搭載している「天城」「赤城」「加賀」の三隻からリゼルやメタス改などを中心としたTMSが出撃し、キャプテン・ジオンの猛攻を阻むべく包囲し、常に十字砲火を狙える陣形を組みつつ、アトミラールはハイパーメガ粒子砲を今度は120パーセントの出力で放つべく、対空砲火と正面投射を「赤城」「加賀」「山城」と残存艦何隻かに任せてチャージを開始した。

 戦略、戦術の手管に関して、数に頼みを置いていると勘違いされることが多いアトミラールだが、彼の本番は追い込まれてからだといっていい。

 スチームローラー作戦を突破してきた相手にこそ、細かな戦術は打つものであって物量作戦といえば聞こえはいいがそれは戦術を弄する更に前にある前提の話でしかない。

 そして、スチームローラー作戦もただいたずらに数を突っ込ませるだけではない以上、彼に対する偏見や評価が誤りであることをキャプテン・ジオン──というかその中の人──は誰よりも知っている。

 配信者としては一人で戦い抜くことが理想だが、戦略家としてはクルトたち腹心の部下を呼び戻して頭脳戦を楽しみたい。

 そのジレンマが、なんともキャプテン・ジオンを悩ませるのだ。

 

「時に提督殿、こんな言葉を知っているかね?」

『ほう? ご教授願いたいな、キャプテン』

「力は、更なる力によって滅ぼされる……今ここに見せよう、私の切り札を! 君たちが頑張りすぎたからその心意気にアクシズ落とし! 守ろう皆のG・B・Nッ!!!」

 

 そしてキャプテンは、配信者としてのプライドを選ぶことに決めた。

 はっきりいってしまえば、この状況下におけるアクシズ落としの発動は博打もいいところだ。

 宇宙である以上底がなく、ましてやアクシズ自体の弾速も遅いとあっては、いかに「天城」が巨大な戦艦であろうと直撃など期待できるはずもない。

 だが、艦載機群や随伴艦はどうか。

 派手な絵面やよく考えたら勢いだけで言ってる台詞に誤魔化されそうだが、キャプテンの狙いはあくまでも「GHC」の連携を分断しての各個撃破だ。

 その「中身」の本質はソロになろうとも変わっていない。

 そして、召喚されたアクシズが乱戦エリアの中央を目掛けてゆっくりと落下していく、そんな混沌とした戦場に、アイカたちは向かわなければならなかった。

 

「なにあれ……」

「……あ、アクシズ……?」

「キャプテン・ジオン……彼も戦いに参加していたのですね」

 

 三者三様に、アイカは知ってこそいたが、改めて間近で見るその規模にドン引きし、エリィはアクシズが落ちているという状況そのものに困惑し、アキノは冷静に、配信者なら今は美味しい状況だから参戦もしてくるだろうと、状況を分析する。

 ミネルヴァガンダム・アテナイが纏っている「アテナの衣」のエネルギーは大気圏離脱でそのほとんどを使い果たしてしまっていた。

 だからこそ、月面には迂回せずに直行しておきたかったのだが、直行ルートだとキャプテン・ジオンと「GHC」残存艦隊の決戦が繰り広げられていて、迂回しようにもそっちでは「光の柱」が無数に林立する光景が展開されているなど、どこをどう見ても地獄しかない。

 とはいえ、アクシズ落としに自分から突っ込んでいく理由がない以上、選択肢は自ずと一つに絞られていく。

 未だに生き残っていたタチバナ商会の傭兵たちが放つビームを躱し、時には強化されたバリアで受け止めつつ、「アテナの衣」が持つその限界までアキノはなるべく最短コースをなぞるようにして、「リビルドバンガード」を最前線へと運んでいった。

 しかし、そこもまた地獄であることには変わりない。

 アイカは目の前に展開される光景に、思わず固唾を呑み込む。

 キャプテン・ジオンが壊滅させたアドラステア艦隊はタチバナ商会の傭兵群、その中ではごく一部であり、此方ではガデラーザとリボーンズガンダムを中心とした編隊が、映像作品「機動戦士ガンダムAGE」に登場する海賊戦艦バロノーク一隻を取り囲んでいる。

 そして更にその周囲を護衛する黒塗りの、どこかで見たことがあるような、具体的にはチャンプが率いるフォース「AVALON」に所属してそうな機体群が奮闘こそしているものの、有志側にハイランカーが付いているのもあって中々膠着した戦線を打開できずにいるようだ。

 

「ここを抜けないとチィちゃんに会えないなら……っ!」

「……アイカさん、落ち着いて……!」

「エリィちゃん?」

「……あ、えと、その……ごめんなさい、今のところ、あの……わたしたち、無視されてるみたいなので、通り抜けちゃえばいいかな、って……」

 

 エリィから指摘されて気づいたが、レーダーに映る敵影は確かにバロノークと、それを護衛する「バロノーク連合」及び「第七機甲師団」へと集中攻撃を仕掛けているだけで、アイカたち「リビルドバンガード」が飛び入り参戦したことに気付いているのはそういなかった。

 或いはいたとしても、アイカたちにわざわざ構っている余裕などないのだろう。

 明らかに偽装だとわかる、MGダークハウンドの頭部パーツを被って、肩のラッチからアンカーショットをぶら下げたその機体──ガンダムAGEⅡマグナムハウンドは機体を損傷させながらも数百の敵機と、一機、いや、一柱と数えるべき「光」と渡り合っている以上、リソースを分散させるべきでないことは明白だ。

 

「ありがとうエリィちゃん、あたし、また周り見てなかったみたい」

「……あ、いえ、そんな……」

「貴女の観察眼は謙遜すべきではなく、誇るべきことですよ、エリィ」

 

 それでも自身に接近してくるギラ・ドーガをビームサーベルの一刀で両断しながら、アイカはエリィにお礼を言いつつ、機体を採掘エリアに向けて加速させていく。

 それにしても、明らかにバレバレだとはいえチャンプはチャンプだ。

 数百の敵に囲まれたなら、普通は戦うどころか諦めているだろう。それだけ、数というのは圧倒的な優位を持っている。

 だが、三人寄れば文殊の知恵という言葉があっても同時に、船頭多くして船山に登るという格言があるように、数ばかりを集めてしまうとそれが弱点になるのだろう。

 無論生き残れる腕があればの話だが、チャンプは傭兵たちの射線を混線させて、常にフレンドリーファイアが起きる状況を狙った上で立ち回っている。

 バトルロワイアルミッションでもフレンドリーファイア狙いは常道ともいえる戦術だが、それをこの数とこの規模相手にやってのけるのが、チャンピオンがチャンピオンたる所以なのだろう。

 アイカは感心しつつ、コアバスターライフル・フェアリィでデブリの影に潜んでいたジム・スナイパーカスタムを撃たれる前に処理しながら嘆息した。

 

「彼がここを引き受けてくれるのなら、私たちは早めにここを──っ!?」

『そう簡単に事が通ると思うてか、お主たちよ』

 

 再び残ったエネルギーを振り絞って光の翼を展開しようとしたアキノとミネルヴァガンダム・アテナイ──その中核となる「アテナの衣」が光の柱に包まれたかと思えば、剥離するように砕けていく。

 

「すまない、『リビルドガールズ!』」

『今です!』

「むうう……っ、やる! 更に腕を上げたなクーコくん!」

 

 何故今まではチャンプを追尾して、その軌跡に残骸の山を築いてきた光の柱が、アキノからその翼だけをもぎ取ったのか。

 その答えは、チャンプの操るマグナムハウンドに食らいつくダイバーランク11位たる女性──「クーコ」が駆る、ザンネックの改造機である【月華武者ザンキ】が奮戦を見せているからだ。

 しかしチャンプとてそう簡単にやられる男ではない。Fファンネルで一旦クーコとの接近戦を仕切り直しながらも、自身はドッズランサーマグナムのビームマシンガンで牽制打を加えつつ突撃するというクレバーな攻撃を繰り出しているのは流石の腕前といったところだろう。

 だが、そんなチャンプですら無視できない、脅威として振り払うのではなく立ち向かうことを選ばせたクーコという女性の腕前も相当なもので、そして。

 

『月並みな台詞じゃがの……先に行きたいのであれば妾に覚悟を示すが良い、そなたらが……本当にあの娘を救えるかどうか、その覚悟をじゃ』

 

 老獪な喋り方を、脳が溶けそうな甘いボイスでやっている光の柱を操る主、「テンコ」にアイカの脳は一瞬バグって処理落ちを起こしそうになったが、間違いでなければこの人は確実にトップランカーで、自分の知っている最高のダイバー──チャンプを除いて──であるFOEさんを遥かに上回る実力を持っているということだ。

 アキノから光の翼が失われた以上、ここからは自力で採掘エリアにたどり着くしかない。

 だが、その前に立ちはだかる壁は強大だった。あまりにも強大すぎた。

 サイコ・キャプチャーの温存などもってのほかだ、それどころか自分たちが全てのリソースを使い果たしても勝てる可能性なんて天文学的な確率、いや、違う。

 ゼロだ。全くの皆無なのだ。

 それほどまでに、腕を組んで立ちはだかる九尾のガンダムレギルスは、【天道天照】は、アイカたちの道筋を照らすどころかその光さえ奪い去り、闇に閉さんとしている。

 

「……アキノさん、何かあった時チィちゃんを頼めますか」

「アイカさん、何を……!」

「あたしは……チィちゃんにはアキノさんが必要だって思ってます、だってあたしには教えてくれなかった本音を教えてくれたのは、アキノさんにですよね? なら……あたしはリーダーとして、ここで皆の背中を任されます! それぐらいの猶予は許してくれますよね、テンコさんっ!」

 

 アイカはビルドボルグを抜き放ち、躊躇いなくシステム・フェアリィ・テイルを起動させると、震えるその切っ先を天道天照へと向けて、戦線を布告する。

 

『よいよい……では、参ろうかの』

「……ッ……! エリィちゃん、絶対に生き残ってね!」

「アイカさんっ! ダメですっ!」

 

 エリィが未だかつてないほど大きな声で制止するのも聞かずに、アイカは一秒でもいいから時間を稼ぐべく、天道天照の全容をその高機動の中で観察しながら、「光の柱」の状態を探っていく。

 まず、追尾するタイプのそれの正体は、あまりに密度の高いレギルスビットだ。

 避けているつもりでも、フォトン・トルピードが掠ったかのようにウイングゼロの羽が穴だらけになっていくのにアイカは歯を食い縛りながら、微動だにせずその光を散らす九尾のガンダムを睨み付ける。

 そして恐らく、追尾せずに撃ち下ろすタイプの何かがあって、その正体はわからないが、ここに沈んでいる戦艦やモビルアーマーなどはそれの犠牲になった確率が高い。

 あまりにも「綺麗すぎる」円形に穿たれた、残骸の傷跡からアイカはそう推測した。

 だが、わかったところで何か対処法があるわけでもない。

 ──だったら。

 

「っ、あああああああッ!!!」

『猪を狩るのは簡単でな、足を奪えば良いのじゃよ』

「させるかっ! ボルト・アウト! そして行けっ、あたしの……ビルドドラグーンッ!」

『なんと……っ?』

 

 面白い童じゃ。テンコがそのレギルスビットを極限まで収束させた「アメノサカホコ」で狙ったフェアライズガンダムの脚部が一瞬の内に分離すると、刺突を狙ったのかと思ったその大剣の先端が分離して弧を描き、テンコに僅かながらも回避運動を選ばせる。

 だが、それだけだ。

 テンコは密度を増したレギルスビットを両腕と両脚に装着された、レギルスシールドを改良した特殊装甲──「ヤサカニノマガタマ」から発振したビットで全身を包み隠すと、折り返しで更に分離したビルドドラグーンBのコンビネーションを、その刃を融解させる光の衣で防ぐという芸当を披露してみせた。

 

「なっ、対ビームコーティングしてるのに……っ……!」

『アマノイワト……同じ光に届かんとするならば、剣などという無粋なものでは開かんのう……じゃがそなたの一撃、筋は悪くない』

 

 全てを懸けたつもりだった。

 隙を晒したフェアライズガンダムの全身をレギルスビットが蝕んでいき、同じようにシステム・フェアリィ・テイルによって展開された「妖精の羽」を機体に纏わせることで防御しようとアイカは試みるが、元々のスペックが違いすぎる。

 僅か十数秒。文字通り後先を考えずに何もかもを擲ったアイカの乾坤一擲、その一撃は、トップランカーを両手の指には余る程度の時間しか、止める事ができなかった。

 だが。

 

「……もんか……」

『む?』

「諦めるもんか! まだ手足が残ってる、バルカンがある、やろうと思えばなんでもやれる! あたしは……もう泣かないんだ、もう蹲ってメソメソするのはやめるって、そう決めたんだぁぁぁぁッ!!!!!」

 

 そう叫びながらも、アイカの両眼からは絶え間なく絶望に心を砕かれたことでこぼれ落ちる色のない血液が降り注いでいる。

 巷に雨が降る如く。残ったビルドボルグのコアユニットから発振したビームサーベルでレギルスビットを薙ぎ払いながら、満身創痍の機体を引きずって、アイカは天道天照に、文字通り己の覚悟の全てを込めた一撃で切り掛かった、そのつもりだった。

 だが、慈悲があるならトップランカーなどやってはいないとばかりにその一撃は空を切り、アメノサカホコが後ろの左右から自身を狙っているのを振り返ったアイカは視認し、押し寄せる仮想の死の予感に、きつく目を瞑ってしまう。

 ──それでも。

 敢えていうのならばアイカの攻撃自体は無駄だったのかもしれない。

 しかしそれでも、十分に時間を稼いだという意味では間違いなくアイカの覚悟に、願いに、価値と意味は存在していた。

 蒼い極光がアメノサカホコを打ち払い、そして粒子のマントを翻す白いダブルオークアンタ──忘れもしない。

 あの日、あの時、出会っていなければきっと自分たちが「リビルドガールズ」になることはなかった、命の恩人にしてヴァルガの主人として恐れられる、FOEのあだ名で呼ばれるダイバー、キョウスケの駆る【ディバインダブルオークアンタ】が、アイカの危機にか、あるいは格上の首を狙ってか参陣してくれたのだ。

 

『む、妹御を大事にするえふおーいー……ええいややこしい、キョウスケか、久しいの』

「貴女を見たのは『ヴァルガが静止した日』以来か……しかし、今は一人の敵! さあ行け、『リビルドバンガード』! アイカ! 君の戦場はここではない!」

 

 ディバインダブルオークアンタはアメノサカホコとレギルスビットによる波状攻撃を被弾しつつも致命傷は避けるように捌きながら、とうとう天道天照にそのビームサーベルを使わせることに成功する。

 だが、キョウスケもわかっている。

 これは戯れだ。本気を出すのであれば、彼女はifsユニットを使った予測不可能な跳弾も含めて、弾幕で自分を近づかせる前に処理しようとしていたはずだ。

 

「……キョウスケ、さん……」

「……僕はかつて過ちを犯した。それは結果論かもしれない……だが、もう誰かが自由に生きたいと願う心を止めることはしない!」

『ちょうど良い……童の覚悟も見せてもらったことじゃ、今度はそなたのそれを見せてもらおうかのう!』

 

 テンコはそのターゲットをキョウスケに変えたらしく、満身創痍のフェアライズガンダムを一瞥すると、意地悪なことをして悪かったとばかりに、覚悟は見せてもらったとばかりに小さく首を傾げると、人外魔境の死闘へとその機体を飛び込ませる。

 エリィとアキノはだいぶ先に行ってしまったが、追いつけるだろうか。

 ブーストゲージと損傷度合いを確認しながらアイカはごしごしとその目に浮かんだ涙を拭って、採掘エリアへと傷ついた機体を走らせるのだった。

 

 

 

 この戦いにはいくつかの制約が課せられている。

 テンコの熾烈なる弾幕を防御、回避、切断の三拍子を繰り返すようにして捌きながら、キョウスケはやはりいつもより幾分か隙の多いその攻撃に確信を得る。

 今展開されているのは、GBNの未来と存亡をかけた第二次有志連合戦と重なる部分があれど、その再現でもなければ、目的だって大いに違う。

 キョウヤを経由して耳にしたELダイバー虐待事件、それ自体が表沙汰になることは、最大限に希望的観測をしたとしても相当遅くなるのだろう。

 だが、行方不明になったELダイバーの存在を公表し、わざわざこうしてその奪還戦を生放送で放映することで、「行方不明になったELダイバー」の件については絶対に闇に葬らせず、その証拠として残す意図があるからこそ、アトミラールも初撃でヴァルガを更地にするのではなく、ロンメルは時折敵対しているはずの「GHC」に協力し、テンコはこうして明らかに時間稼ぎを目的とした攻撃を本気の弾幕の中にいくつか織り交ぜている。

 ならば、この戦いで運営が、その背後にいる桜宮とアトミラールが描きたい筋書きとは何か?

 答えは自明だ。

 それはドラマだ。どのような形であれ、劇的に、そして長時間放映されることでそれは多くの人々の目に触れて、もしチィの件を内々的に葬ったのなら知りたがりなマスメディアが突っ込んでくるというコンボを成立させること、それこそが運営の真の狙いなのだろう。

 ならば、こちらも劇的に仕上げなければなるまい。

 キョウスケは装甲値が削られていく中でも不敵にほくそ笑み、そのジョーカーを切ることを決意した。

 

「GNマテリアルカード、クイックドロー! セット、パラライズミスト、ランクSS!」

 

 トライエイジシステムこそ積んでいないが、このディバインダブルオークアンタにはチャンプとのコラボ記念で発売されたトライエイジガンダム、その機能がGNドライヴのなしうる範囲で限定的に受け継がれている。

 生成したカードを、「アマノイワト」を纏った天道天照へと投げつけると、果たしてそれは光の衣に阻まれて消えてしまうが、それこそがキョウスケの真の狙いだった。

 

『む、機体が……? でばふ、というものか、中々やるではないかお主も』

「いいや、驚くのはまだ早い! GNマテリアルカード、ダブルディール! セット、ミラージュデイズ! ランクSS!」

 

 ツインドライヴを接続している自律稼働無人機ともなる大容量コンデンサー、「クアンタムレヴ」の容量全てを使い切って、キョウスケは二枚目のカードをディールすると、GNビームライフルでそれを撃ち抜き、高濃度のGN粒子によるジャミングを周囲に展開する。

 これだけやっても恐らく大した決定打にはならないだろう。

 新たに機体へと装備させたGNバエルソードを構えながら、カレトヴルッフフェーダーとGNソードV2をソードビットの群れに加えて、キョウスケはデバフをかけたテンコへと果敢に斬りかかる。

 しかし、今かけた二種類のデバフは回避と命中に関わるものだけで、「アマノイワト」を突破する決定打となりうるものはない。

 ヴォーパルウェポンを選んでいればあるいは、といった風情だが、それが攻撃を当てることを前提にした博打なら、選ばない方が負け筋を潰せるのだ、よって却下すべきだろう。

 だからこそ、キョウスケは三枚目の切り札を用意し、それを躊躇いなく切ることに決めていた。

 

「……ユユ!」

「はい、お兄様……! ifsプロージョン、フルドライブ! さあ……これより舞うは歌舞伎者の花鳥風月、天の九尾よ、太陽の分け身よ、照覧あれ……!」

 

 テンコの直上から、全身をIフィールドの乱流による攻撃判定と防御判定に包んだユユの機体が、キョウスケの招きに応じて急降下する。

 ダブルディールとクイックディールを使った以上、ディバインダブルオークアンタの粒子残量に余裕は残されていない。

 だが、それでも。

 アイカたちが、「リビルドバンガード」がチィの元へ辿り着くまで精一杯に時間を稼ぐ人、という自らのロールを完遂すべく、キョウスケはまた、戦略としてはナンセンス極まる隠し札のオープンを決定する。

 

『同じifsユニット使いに出逢えるとはのう、そなた、中々見どころのある……流石はキョウスケの妹御よ!』

「ふふ、お褒めいただき光栄です……! ですが、ユユが褒められて嬉しいのはお兄様だけ! ですが……いいですよね、ガンプラビルダーズ!」

『応とも……! しかし、聞きしに勝る「ぶらこん」ぶりじゃのう……』

 

 ユユとテンコは奇しくも同じ作品を起源とするユニットを、その愛機に組み込んでいた。

 分離したユニットから放たれるIFBSの包囲攻撃をテンコの天道天照が受け止めたかと思えばレギルスビットをIフィールドの乱流が弾き返し、その硬直を狙って放たれた「アメノサカホコ」が乱流を割いて、G-イデアの左脚を破砕する。

 名実ともにトップランカーたるユユが二種の強烈な、並み居るダイバーであれば行動不能に陥りかねないデバフによる支援を受けてなお、「二桁の壁」は決して崩れる気配を見せはしない。

 

「故にこそ! トランザムブーストモード……ドライアクセル!」

 

 全てをここで使い切る。

 キョウスケの宣言と共にディバインダブルオークアンタが、FXバーストを彷彿とさせる蒼色に染まったかと思えば、瞬きをする間には視界から消えている程度の速度でテンコに肉薄し、その黄金の切っ先を振り下ろす。

 

『ここまで長く戦ったのも、クジョウの坊との戦い以来じゃの……しかし、こうもアンコールを見せられては心が躍るというものじゃ!』

 

 しかし、太陽に仕える巫女を模した衣装に身を包む狐耳に尻尾という出で立ちの少女は、テンコは全てをその千里眼で見通していたが如く、キョウスケの背後と真横にアメノサカホコを「置いて」いた。

 ディバインダブルオークアンタの右手が破損し、トライフレームホルダーが切り裂かれたことでGNパーティクルマントもその機能を停止する。

 デバフはまだ切れていない。相手のモニターにはこちらの機体が二重三重にぶれて映っていることだろう。

 それでも尚、これか。

 キョウスケは、ユユは、聳え立つ壁に冷や汗を流しながらも、そこにいつか行くべき「未来」を見て静かに笑う。

 この戦いは、理屈ではない。

 誰かが仕組んだ筋書きのあるドラマだとしても、例え自分たちは舞台の上で哀れに役を演じる影法師に過ぎないとしても。

 

「この戦いは……僕の!」

「ユユの!」

『戦場だ!!!!!』

『よくぞ……申した!!!』

 

 光が、爆ぜる。

 そして、重なり合っていく。

 採掘エリアの最外周で、脇目も振らずに鉱石を掘り続けていた旧ザクの炭鉱夫は思わずその手を止めて、星をも動かす奇跡を起こした光によく似たそれが、地球圏を包み込むのを見た。

 閃光が己の目を焼こうとも、さながら「リギルドセンチュリーのサイコフレーム」を掘り当てたときのように、男にとってそれは、一生の宝となりうる光景だったに違いない。

 聖騎士は膝をついた。Gの形象は砕けて散った。

 だが、同時に行く者には道を照らし、阻む者にはその光を奪う太陽の分け身たる九尾も、その「アマノイワト」及び神器の一つと尻尾をいくつか失っていた。

 しかし、この場における勝利者は間違いなく、そして完膚なきまでにテンコだった。

 

『は……はははは!』

 

 よもや、あの妹御がアメノウズメに、そしてあの不屈の騎士がスサノオになろうとは。

 テンコは久しぶりに「壁」として己の任を全うした、そこにある「未来」を見届けた喜びに、等身大の少女が如く満面の笑みを浮かべる。

 ああ、素晴らしい。ここにはこんなにも未来が、希望が、愛が。

 ──そう、「大好き」が溢れている。

 これを狙ってGMがこんなドラマを組んだのなら、苦労人に見せかけて彼は相当な食わせ者だ。

 誇り高き挑戦者たちを見送って、テンコは未だ健在であるチャンプとの戦いに復帰すべく飛び去っていく。

 その誇りと未来と、そしてそれを手繰り寄せた小さな少女の大きな勇気に、感謝をしながら。

 

 

 

「待ってください、チィ! 私たちは……!」

「うっせえ! もうチィとアキノたちはフォースメンバーじゃないんだ! ほっといてくれよ!」

 

 採掘エリア、その天まで伸びる鉱石柱に姿を隠していたチィを見つけ出したアキノとエリィは、ひたすらな彼女をおいかけ、その影を繋ぎ止めるべく言葉を紡ぐ。

 

「め、メンバーじゃ、なくても……! わたしは、アイカさんは……! チィさんのことを……!」

「だったら何でそのアイカがいねーんだよ、エリィ!」

 

 チィは最早発砲もやむなしと判断して、両手に保持していたビームマシンガンによる弾幕砲火を形成し、エリィへと浴びせかける。

 

「させません! だったらチィ、貴女は──貴女はどうして、泣いているのですか!」

 

 その攻撃を一身に受け止めながら、アキノは通信ウィンドウの中で涙をこぼしながら暴言を吐くチィへと、同じような嗚咽と共に呼びかける。

 

「ばっきゃろー、チィは、泣いてなんか──!」

「……泣いて、ます!」

「ッ……!」

「……痛いと、人は泣くんです……身体が痛くても、心が痛くても……わたしは、いっぱい泣いてきたから、わかるんです!」

 

 右眼を失ったときの痛み。そして右眼を失ってからも痛めつけ続けられた心があげた悲鳴としての痛み。

 わかっているからこそエリィは叫ぶ。心が痛いと泣いているから、泣きたいと願っているから、耐え切れずに身体が涙を零すのだ。

 そしてそれは仮想の海でも現実でも、人間でもELダイバーでも、心がそこにあるのなら変わらない。

 だからこそ、手を伸ばす。

 アキノはチィが癇癪を起こしたように振り回す攻撃を受け止めながら、そしてエリィは心がつながり合うその一瞬を伺いながら、チィの心へその指先を触れ合わせようとしていたのだ。

 

「……お前に、チィの何がわかるってんだ! チィは……チィは、名前すら勝手につけられて、勝手に道具にされて……ねーちゃんを……イリハおねえちゃんを……っ……!」

「……わたしは……リアルだと、目が見えません! 小さい頃に……いじめられて、傷が残って……それでも! それでも、アイカさんがいてくれたから! 死なないで生きてきたから!」

「うるっせえ!!! チィにアイカはいねぇんだよ!!!!! 誰が……誰が、金が欲しいって理由で生まれてきたELダイバーなんか愛してくれる!? イリハおねえちゃんの心を、身体をぶっ壊すことを何とも思ってこなかった人間を信じられる!? なあ、答えてみろよ、エリィ!!!!!」

 

 チィはビームマシンガンを投げ捨てると、アキノが庇った隙間をすり抜けてリビルドウォートを蹴り飛ばして体勢を崩させると、その頭部を何度も何度も殴りつける。

 そして、カバーに入ってきたアキノからは徹底的に逃れて、ビームマシンガンを拾い上げながら弾幕砲火をかつての仲間たちに容赦なく撃ち放った。

 

「だったら……私が貴女のアイカさんになります!!!」

「は……?」

 

 アキノはIフィールドソードを投げ捨てて、全ての武装を解除すると躊躇いなく必殺技の発動を選んで、退路を断ちながらチィへと肉薄する。

 だが、その手足を焼かれてもチィはアキノを拒絶するように蹴り飛ばして逃げ出すが、その言葉には少なからず動揺が広がっていた。

 エリィにとってのアイカ。それはきっと自分が求めてやまなかったものだ。

 そしてかつて壊されて、失ってしまったものだ。

 運営に引き取られる直前、左脚をもがれて片目を潰された状態で部屋の隅に転がされていたイリハが、何も語らずに虚空ばかりを見つめていたことを思い出す。

 だからこそだ。だから、イリハをこんな目に遭わせたのだから、自分は願っても愛される資格などどこにもないのだ。

 チィがそう、きつく眼を瞑った瞬間だった。

 

「チィちゃん……捕まえたぁぁっ!」

「アイカ、てめぇどこに……!?」

 

 チィが警戒を怠ったその瞬間、真後ろからそのアンテナや肩アーマーに腰アーマー、ボルトアウトした脚部も含めて、損傷していない箇所を数えた方が早いフェアライズガンダム──否、「アイカのコアガンダム」が、アイカがその脚に組み付いて、モビルドールチハヤを転倒させる。

 

「あたしはここにいる! 絶対三人で……チィちゃんを取り戻すって決めたから! ……エリィちゃん!」

「はい、アイカさん……! お願い、リビルドウォート! わたしの……だいすきな人に、だいすきな人たちに、応えて……っ! サイコ・キャプチャー……っ!」

 

 果たして、アイカの作り出したその一瞬で、エリィのリビルドウォートから分離したフィン・ファンネルは逆紡錘形を──さながら、結婚式で投げ飛ばすブーケのような形を展開して、その花束にチィを包み込んでいく。

 ──ああ。

 倒れ込むアイカも、燃え盛るアキノも、とうとう自分を捕まえたエリィも。

 どうして、泣いてるんだよ。

 チィは諦めたように、自分のことを棚に上げながら涙をこぼして、しかし、その顔には年相応にあどけない笑みを浮かべて、どことなく嬉しそうに、そう呟くのだった。




届け誓いのブーケトス(物理)にて、第五部完結、次回最終回です

【イリハ】……ELダイバー虐待事件で心を壊してしまった、チィの双子の姉に当たるELダイバー。チィが「欲望」により生まれたのなら、イリハは「無欲」、強いていうなら空が綺麗だとかそういう想いを産土にしているため、多くを語らない性格だった。現在はGBN運営スタッフの女性に保護され、「サラ」たちとの対話などを通じて日常会話を交わせる程度には回復しているため、いつかチィと再会できる日も近い。
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