ガンダムビルドダイバーズ リビルドガールズ   作:守次 奏

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皆様のご愛顧に支えられ、初完走なので初投稿です。


最終話「それは世界で例えようがない」

 嬉しい時に笑って、悲しい時に泣くのが人間なら、きっと嬉しい時にも泣いて、悲しい時に笑うしかなくなってしまうのも人間だ。

 サイコ・キャプチャーに包まれたチィは観念したように、今まで心の中に溜まっていた全ての膿を押し流すように涙をこぼしながら、アキノにどこか縋り付くように問いかける。

 

「……ぐすっ、なぁ、アキノ……本当にチィでいいのかよ、可愛くねえし、銭ゲバだし、そんなだぞ……?」

「馬鹿を言わないでください、チィ。私は……そんな貴女に救われてここにいるのです」

 

 ブリューナクを解除したアキノは、ミネルヴァガンダムを跪かせて倒れ込むチィのモビルドールとその視線を合わせながら、効果時間が過ぎて解除されたサイコ・キャプチャーに閉じ込められていた彼女にそっと手を差し伸べた。

 過ちばかりの人生だったというなら自分もだ。

 シルバリィにいた頃がいい思い出に満たされていた黄金の時間だったとは、今は毛の先ほども思わない。

 そうやって過ちを犯して煙たがられて、心にヒビが入ったとしてもそれを自分のせいだと諦めてきたのがアキノの半生で、受け入れてくれたのはアイカとエリィもかもしれないが、自分を拾い上げてくれたのは他でもないチィなのだ。

 それだけで、理由なんてものは十分だった。

 

「貴女は言ったじゃないですか。私にどんな過去があろうとも関係ないと……ならば私も同じです、私にとっての貴女は少しだけおませでお金にうるさい可愛い子……それで十分ではないですか?」

「……この野郎、随分と言ってくれやがって……」

 

 愛される資格などどこにもない。

 チィはそう思っているのかもしれないが、愛に資格や免許が必要だと一体どこの誰が決めたというのだろうか。

 時は未来に進んでいく。今はそれは変わらないし、もしかしたらずっと変えられないかもしれない。

 それと同じように、愛なんてきっと遥か昔から色んなところに色んな形で転がっていたものだし、あげるのにも受け取るのにも資格なんていらないから、人は繋がりあって、時にすれ違って、傷つけあったりする。

 それでも、いつかまた、人は立ち上がれる。

 差し伸べられたミネルヴァガンダムの手を取って、サイコ・キャプチャーによる過熱を冷ますためにツインアイから冷却水を溢すモビルドールチィが、左手でセンサーを拭う姿を見せる。

 ELダイバーにも心があるなら、それはきっと同じことだ。生まれ方が違うだけで、産土が違うだけで、生き方が少しだけ違うだけで、その他はきっと、人間と変わりない。

 感極まって涙を零すエリィにつられてアイカも今までの想いを吐き出すように涙をこぼしながら、いっぱいっぱいになった思考の片隅でそんなことを考える。

 GBNに出会って、自分はもう一度立ち上がることができた。

 それはきっとエリィも、アキノも、そしてチィだって同じで、そんな四人が寄り合ったことと、再び寄り合うことができた奇跡に、アイカはいるかどうかわからない神様に感謝をする。

 

「おめでとう、君たちはこの戦いに勝利した」

「げっ、GM……!」

「……そう露骨に嫌われると堪えるものだな」

 

 四人が勝利の余韻に浸っていると、戦禍の全てがロールバックされた月面に降り立つガンダイバー……に拡張パーツを取り付けた、ガンチョッパー姿のGMと、その隣にはほぼ全壊といった惨状に近くとも、確かにあの「マギー」を相手に生き残ったアリアと、彼女が跪く悪魔の王であるガンダム・バエルの姿があった。

 そしてその隣には、彼女と死闘を演じて中破したマギーのラヴファントムが、バエルの肩を支える形で直立している。

 チィが露骨に見たくないものを見たような顔をする理由は確かにわかるからいいとしても、傷つくものは傷つくのだと胃の辺りがきりきりと痛むいつもの感じを覚えながらも、ガンチョッパーことカツラギは言葉を続ける。

 

「まずはここでは話しづらかろう、運営班のルームまで案内しよう」

 

 カツラギがぱちん、と指を鳴らすと同時に、満身創痍だった「リビルドバンガード」……改め「リビルドガールズ」に戻った四人、そしてアリアとマギーはいつも運営班がゲーム内で調整を行っている部屋、「SDガンダムフォース」の司令室へと一瞬で転移させられていく。

 運営がラグなしの転移を使えるのもガードフレームやベースガンダムの強みだったりするんだろうな、と、どこか場違いなことが浮かぶ程度には勝利の余韻に浸っていたアイカは静かに苦笑しつつ、エリィと顔を見合わせる。

 

「……運営さん、すごいなぁ、って……」

「うん、あたしも同じこと考えてた」

「やれやれ、終わった途端にこれかよ、気が早ぇーなぁ、アキノ?」

「そういう貴女もどこか浮かれているように見えますが」

「う、うっせバーカ!」

 

 この漫才じみたやりとりを聞けるのもいつ以来だろうか。

 そう考えると、本当にチィを引き止められてよかったのだとアイカは思う。

 四人揃わないと「リビルドガールズ」にはならない。あたしたちは四人揃ってようやくその名前になれるんだ。

 きっと魂の居場所を示す、そんな名前に。

 GMに招かれるままに応接室のような部屋に通されると、腰掛けた四人に向けて口を開いたのは彼ではなく、今まで静かに黙していたアリアだった。

 

「まず、結論からご報告致しますわ。チィさんの身柄についてですが、GM……」

「うむ、チィくん、君の身柄と後見人については、一年前に曖昧なままとなってそのまま行方不明になっていた。故に、再び後見人保護申請を出してきた橘忠治に引き渡されることになる……はずだった」

 

 一瞬差しかけた不穏な空気に、「リビルドガールズ」の四人は顔をしかめかけるが、最後の「はずだった」という部分で一様に小首を傾げて、代表者であるアイカがその言葉をおうむ返しに問いかける。

 

「はず、ですか?」

「うむ。だが……彼の手続きにどうも『不備』があることが発覚してね、そこで却下されたためにチィくんの後見人は不明のまま、つまり由々しき問題だったのだが……いやあ、アキノくん。君がまさか後見人申請を予め届け出てくれているとはね」

「は……? 私はそのようなもの……」

「ええ、とても喜ばしいことですわ。その証拠はこのわたくしが……桜宮凛音が確実に保証いたしますわ、なので万が一ですが……まあそんなことありえないとは思いますけれど、裁判になったとしても確実に勝てる、そういうことですわ」

 

 アキノの言葉を遮ってアリアはオペラを歌い上げるかのような大仰な仕草を交えて、「アキノがどうしてようがどうしてまいが筋書きとしては最終的にそういうことになったしそうした」という、背後でどんなことが起こっていたのか想像もしたくないような政治的な含みを持った言葉で、「リビルドガールズ」の勝利を締めくくる。

 

「……お嬢様、あんたえげつないぐらい政治家してんな……」

「ふふ、それほどでもありませんわ。わたくし一人では絶対にこの勝利は勝ち取れなかった……ですから、アイカさん。貴女という親友と、『リビルドガールズ』という存在が……この奇跡を手繰り寄せたのです」

 

 ぱちぱちと手を叩きながら、アリアは心の底から試練を乗り越えて今一度、一つになった「リビルドガールズ」へと賛辞を送る。

 事後処理に関してはあの「提督」……アトミラールと自分の仕事だが、そんな後ろ暗い汚れ仕事というか死体蹴りをした上で全身の毛を毟り取るような所業について語るなど、無粋も極まっているだろう。

 だからアリアは、そういうことにした。

 この物語は、「リビルドガールズ」が愛と勇気で仲間を取り戻した電子の海のフェアリィ・テイル。

 そこで一度「La Fin」の文字が打たれて、チィはアキノに引き取られて無事に暮らす。そしてアイカとエリィもいつも通りに仲睦まじく平穏に過ごして、「リビルドガールズ」は今一度一つになる。

 アグニカ的にも完璧な筋書きだと、高笑いを上げて咳き込みながらもアリアは多くを語らずして、その笑顔を全ての答えとした。

 

「良かったね、チィちゃん」

「……お、おう……クソっ、なんでだよ、嬉しいのにさ……なんだかこっ恥ずかしくて、そんで、涙が出てきやがる……」

 

 きっとこれから、ELダイバーを巡る世界も少しずつ良くなっていくだろう。

 一歩ずつ、星の一秒から見ればあまりにも遠い歩みかもしれないけれど、電子の海に浮かべられたテクスチャの空と、肉眼に映るこの惑星の青い空の間に引かれた長い国境線は少しずつ崩れていく。

 そんな未来を、願ってしまうのだ。

 アイカはチィの背をそっと撫でながら、涙ぐんで嗚咽を噛み殺そうとして、それでもできずに大泣きしてしまった彼女の子供らしさに愛おしさを感じてそっと微笑んだ。

 

「……嬉しい時も……人は泣くんです。だから……チィさんも、泣いていいんです……」

「……おめーも泣いてどうすんだよ、エリィ……クソっ……畜生……」

「チィ……」

 

 ごしごしと乱雑に涙を拭いながら、言葉に詰まった自分をその胸にそっと抱きとめて、優しく髪を撫でながら、「チィ」という名前を呼んでくれたアキノの姿は、チィがずっと求めていたものであるはずなのに、どうしてか涙が止まるどころか余計にこぼれ出してきて止まらない。

 どーしてくれんだ、と、声にならない声でアキノの胸に顔を埋めながら、チィは今まで泣けなかった分だけ、いくら泣いても足りないとばかりに涙をこぼして、彼女の愛を受け取る選択をする。

 ああ、きっと。きっと自分は、これからも金銭への執着が捨てられないんだろうけれど、それでも、そんな自分でもこいつは受け入れてくれる。

 そして当たり前だと言ってくれる。それがどれだけ嬉しいだろうか。初めて人間に引き取られた時に、言ってもらいたかった言葉だっただろうか。

 チィはまだ、自分の蹉跌を受け止め切れていないと、他でもないチィ自身が分かっていた。

 だが、それでも、つまづいて、転んで、その先にそれこそ潮時になるまで金を稼ぐつもりで作ったただの宿木だったはずの、終の住処があったというなら、やはりそれは喜ぶべき奇跡なのだろう。

 いや、それでも足りない、きっと乱数の神様がどこかで気まぐれを起こした思し召しなのだろう。

 それを掴み取ったのが、アイカであり、エリィであり、アキノであり、チィである──人間の手だったというだけの話で。

 

「……うまく言えねーんだけどさ……チィ、初めて……生まれてきてよかったって……そう思ったんだ……だからよ、ありがとう……ありがとう、アイカ……エリィ……アキノ……チィなんかを、拾ってくれてさ……」

「なんか、じゃありません。チィはチィです……今日から私の大事な家族です」

 

 だから、帰りましょう。

 アキノは立ち上がって、チィの手を取りながらフレンド申請を押し、アイカとエリィもそれに倣ってチィへのフレンド申請を飛ばしてから、フレンド画面でのワープをメニューに開いて待機する。

 

「……ありがとよ、お前ら……って、帰るって……?」

「私たちのフォースネストですよ」

「はあああああ!? いくらかかったんだよそれ!?」

「大体500万BCぐらいかなっ☆」

「この前の報酬全部パーじゃねえか畜生……」

 

 別の意味で泣けてきたぜ、と皮肉を飛ばしながらもチィは三人からのフレンド申請を受け入れて、三人に返した申請が承認されたのを確認すると、そのフォースネストに、帰るべき居場所に向けてワープする。

 なんてことはない。「リビルドガールズ」のフォースネストは、シーサイド・エリアの海が見える小高い丘に建てられた一軒家だ。

 たまたまそこを出るフォースがいたから格安で買えたというこれまた乱数の神様の気まぐれに出くわした結果、「ノイエ・シルバリィ」戦の報酬は泡へと消えてしまったわけだが、それでも色んな意味で安いものだとアイカは笑う。

 

「……くすっ、ふふふ……」

「何笑ってんだよエリィ、他人事じゃねーんだぞ、チィたち完全に素寒貧だぜ……?」

「あ、いえ、その……チィさんが、ううん……チィちゃんが、そういうことを言うの……久しぶりに聞いたから、嬉しくて……」

「んだよそれ……まあいいや、今日からバシバシ稼いでくかんな、ってことで頼むぜアイカ!」

 

 転移したフォースネストのベランダから、そこに広がる大海を一瞥して、悪くないとばかりに照れ隠しに頬を染めながら、チィはリーダーであるアイカに号令を求める。

 

「うん……あたしたち、リビルドガールズ! 再結成記念と再始動記念ってことで……またよろしくっ☆」

 

 もう、決めポーズを取らなくてもいい。四つの掌が重なり合う温度と、めいめいの、そしてバラバラのテンションな返事がアイカの耳朶を打つけれど、その方向は全く同じところを向いている。

 思えば、空中分解を起こしてもおかしくないようなフォースだった。

 途中で崩れて、今のようなことが起きて、そしてまたGBNを今までのように捨ててもおかしくなかった。

 だからこれは、蹉跌を抱えた四人じゃなければ、この四人じゃなければ成り立たなかった、再生の物語。

 そして、再構築のお伽話。

 とりあえずは家を建てるのに使った500万BCを稼ぎ直すために、ヴァルガで鉱石を掘るとか、宝探しミッションを受けるとか、またフォース戦をするとか、ああでもないこうでもないと他愛もない言葉を交わす時間を、その幸せを、アイカたちはいっぱいに噛み締めるのだった。

 

 

 

「まさか、何かあったら頼ってねとは言ったけど、最初にリアルで頼られることになるとは思わなかったわぁ」

「すいません、なんか知ってるお店とか、絵理のこととか受け入れてくれそうなの、マギーさんしかいなかったんで……」

「……ご、ごめんなさい……」

 

 それから数日後。梅雨の晴れ間といった風情の日差しが照らす新宿駅東口で、愛香と絵理はフレンド繋がりから、ツイスタを通じて送信した「オフ会を開けないか」という無茶な依頼を嫌な顔一つせず快諾してくれたマギーに揃って頭を下げていた。

 

「いいのよぉ、アタシだってもっとGBNでも頼って欲しかったんだからぁ……でも、やっぱりリアルとGBN、いい意味で印象が変わるわね。愛香ちゃんはキリッとした美人で……絵理ちゃんは宝石みたいにキューティクル。その白い帽子とワンピース、似合ってるわよぉ」

「……そ、そうですか……? え、えへへ……あ、ありがとう、ございます……」

 

 このワンピースと帽子は愛香に選んでもらって新調したものだったから、絵理にとってはとびきりのお気に入りだったのだ。

 そして帽子のツバが広いこともあり、絵理は初めて眼帯を外して、人前では右眼を隠すように帽子を目深に被るけれど、その傷跡をさらけ出しながら外を歩いていた。

 理由は単純なものだ。これからチィと、そしてアキノと会うのだから、心の傷をさらけ出してくれた二人に隠し事をするのは申し訳が立たないような気がして、だからこそ絵理は眼帯を外して、いつものように愛香と二人で腕を組んで歩いていたのだ。

 

「おう、そこにいる癖っ毛がアイカで……そんで白ワンピがエリィか? なんつーか変わんねーなお前ら」

「こら、チィ、失礼でしょう。ああ……お待たせしました。私は涼月秋乃……アキノ・ベルナールです、こちらは知っての通りチィ」

「おう、チィはチィだぜ、こっちでもよろしくな」

 

 しかし一年ぶりに吸った娑婆の空気は美味いな、と、チィは、眼鏡をかけて、茶色がかった髪をGBNのアバターと同じおさげにしている秋乃が小脇に抱えたハンドバッグからひょっこりと顔を出して、そんな刑期を終えた罪人のような軽口を叩く。

 変わらない、というのも愛香はなんだか不思議だった。

 愛香のアバターは現実からかけ離れた容姿をしているのにも関わらず、チィはそんなことを当たり前のように口にするのだから、きっと、人間よりも人間を見た目じゃなくて本質で見ているのかもしれない。

 でも、そんなチィだからこそ助けたいと思ったのだし、あれから仲間としてやっていけたのだと思う。

 

「しかしあれから一日後に大規模な電波障害が起こるとは思いませんでしたね……」

「そうなのよぉ、GMとかプロバイダとかが色々頑張ってくれたから二、三日で復帰したけど、現代ってなんでも電波頼り、ってことを思い知らされちゃったわぁ」

「……ってこたぁ、よく考えたらチィ、下手したら死んでたんか……」

 

 一応ツカサの家にいた頃はプラネットコーティングを常に供給されていたから理論上は強制ログアウト措置が取られた後にモビルドールの肉体へとチィの意識は戻っていくのだろうが、データ関連、それもELダイバーに関わるものは未知数だ。その可能性がないとは言い切れない。

 そうなるととことん乱数の女神様は自分達にデレてくれたらしい。

 チィはその幸運に感謝しつつ、明日から乱数の女神様に足向けて寝れねえな、と冗談を飛ばしながら溜息をつく。

 

「あはは……なんだかあたしたち、本当綱渡りだよねー」

「……はい……出会ったのも、ヴァルガでしたし……」

「そんで結成するきっかけになったのもヴァルガ」

「更に再結成する記念になったのもヴァルガですね」

「それだけ聞くとなんだかアナタたち、修羅の道を歩んでるみたいねぇ」

「あはは……」

 

 いや本当にそんなつもりなんてないんです、と愛香はマギーに反論しようとしたのだが、好奇心で覗いた掲示板に自分たちのスレッドが立っていたことに驚いて蓋を開けてみれば、砲火後ティータイムだのゆるふわ武闘派だのと書かれていて、挙げ句の果てに自分のファンアートの実に九割が包丁と血に塗れていたのだからもうなんとも言えない気分となる他にない。

 一応、エリィと、絵理とセットになっている絵はお耽美というかどことなく厳かで儚い雰囲気を醸し出しているものが多かったのが救いだろうか。

 

「あたし武闘派じゃないのに……てかなんでヤンデレ扱いされてんの……」

「な、泣かないでください、愛香さん……」

 

 ガックリと肩を落として涙を眦に滲ませる愛香に、絵理は絡めていた右手を解いてそっと、頭を撫でるのだった。

 

「ありがとう絵理、あたしには絵理しかいないよ……」

「いえ……愛香さんがいなければ、わたし……死んでましたから……」

「あはは、じゃあお揃いだね」

「はい……えへへ……」

 

 そんなんだからヤンデレメンヘラコンビ扱いされてんじゃねえのか。

 チィは思わずそう口に出しかけたが、秋乃が睨みつけてきたために慌ててそれを飲み込むように口元に手を当てながら、白々しく彼女から視線を逸らす。

 なんというか、あまりにも変わらない。

 変わらなさすぎて安心する、というのが、チィも、秋乃も、そして愛香と絵理も胸に抱いている想いだった。

 これもまた縁が手繰り寄せる奇跡なのだろうか。マギーの案内に従って、オフ会の場である彼女のお店へと向かう愛香たちは、他愛もない言葉を交わしながらそんなことを思う。

 きっと、この蒼穹の下で、それぞれに違う弱さを、そして同じ痛みを抱えて巡り合ったからこそ、生まれた奇跡がそこにある。

 

「……あの、愛香さん……」

「どしたの、絵理?」

「あ、えと……その……わたし、そろそろ、愛香さんを、名前で、呼びたいなぁ、って……えへへ……」

「なんだ、そんなことならいいよ! さあ来て絵理!」

「……あ、あぅ、そ、その……!」

 

 ──だいすきです、愛香。

 絵理は愛香の声を頼りにその輪郭に触れて耳元で囁きかけると、その唇にそっとキスを落とした。

 やってくれたな、とばかりに赤くなった愛香がお返しに舌を入れたことで、絵理はたちまち、頭から湯気を噴き出す勢いで耳まで真っ赤になってしまう。

 そしてそんな二人を見てようやく察した秋乃は顔を赤らめながらもお幸せに、と言葉を送り、鞄から顔を出すチィがひゅーひゅーと吹けもしない口笛で囃し立てる。

 徒競走ではずっと三位だった。

 中学の三年間、死に物狂いで頑張ってきた吹奏楽は全部ダメ金で終わった。

 だけど、ここにあたしの一番がある。

 愛香は絵理に甘えるように頬をすり寄せながら、絵理もそうするのに応えてしばらく立ち止まり、もう一度エンゲージリングを交換するようにベーゼを交わす。

 ああ、きっと。

 

「……愛香……」

「絵理」

 

 ──だいすきです。

 何度も確かめるように、二人は互いに囁き合う。

 その蹉跌だらけの軌跡はきっと、この世界にありふれたもので、それでもそんなありふれて、途絶えた場所だらけの足跡が連れてきてくれた奇跡は、きっと。

 愛香と絵理、そしてチィと秋乃、四人まとめて「リビルドガールズ」であることは、そして愛香が絵理と互いに恋人として同じ目線に立つことができたのは。

 きっと、この世界で例えようもない、小規模だけれど、唯一の、奇跡だった。




わたしたち、リビルドガールズ!-完-
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