『何度でもガンプラの民がお前を阻むだろう』
それに──アルスにとって、この惑星を、エルドラという星を守ることは何よりも優先すべき使命だった。
自分が今も帰りを待ち続けている古き民、イルハーヴやシャングラたちが遺した言葉を、約束を糧にしてアルスは今日という日まで幾星霜の時を待ち続けていたのだ。
だが、眠りから覚めて蓋を開けてみればエルドラという星は新き民を、山の民を名乗る動物のような外見を色濃く残す人類種に占拠されて、自らの味方であったはずのクアドルンも敵に回っている。
それだけではない。
異世界からの来訪者、「ガンプラの民」の力を利用すべく洗脳下に置いていた「シド」と【ガンダムテルティウム】も、衛星砲を真正面から撃ち破った彼らに──「BUILD DiVERS」によって解放されたことで、皮肉にも、従えていたはずの彼から自らの使命でありレゾンデートルをアルスは否定されていたのだ。
──ならば、ガンプラの民を根絶すればいい。
だからこそ、彼はその結論を導き出した。
アルスは、壊れた機械だ。
もはや彼に柔軟な思考など、かつてエルドラの文明が栄えていた頃と同じ考えなど望むべくもなく、ただ全てを拒絶して己の使命にしがみつき続けている姿は、クアドルンから見れば哀れなものだった。
だが、アルスはそれでもエルドラの守護という役目を、シャングラとイルハーヴが、旅立って行った彼女たちが帰ってくる場所を守るという、そんな小さな約束を、「自らの役目は終わって、彼女たちはもういなくなった」などという言葉だけで信じることなど到底できない。
だとしたら何故、帰ってくるという言葉を残したのか。
そして何故、クアドルンは自分たちの星にとっての異物でしかないあの獣人たちを認めているのか。
さらに何故、ガンプラの民とやらは自分の使命を邪魔するのか。
いくつもの「ハテナ」がアルスの思考サーキットを埋め尽くしていたが、その答えが分からなくともできることは単純だ。
あの衛星砲を真正面から撃ち破った黄金の、太陽の化身──【リライジングガンダム】が、そしてガンダムテルティウムが異世界からやってきたのならばその異世界を滅ぼすことで、エルドラにとっての脅威を排除すればいい。
それを認めたからこそ、アルスは転送システムからの逆探知を利用する形で、現状投入できるすべての艦隊を率いた上で、「ガンプラの民」の本拠地である仮想郷、GBNへの不正アクセスを果たしてみせたのだ。
だが、勝利を確信した彼の脳裏にあったものは、そして、転移を終えた瞬間に視界で捉えた光景は、その想像を遥か斜め上に突き抜けるものであった。
「いらっしゃ〜い! GBNへ、ようこそ!」
──よく来たな、迎撃する。
そう言わんばかりに、実に数万という規模の「ガンプラの民」が彼の転移してきたメインサーバーに最も近いエリアには控えていたし、分艦隊を念のために派遣した各種サーバーにおいても血に飢えた精鋭たちが今頃待ち構えていることだろう。
諸手を広げて歓迎のポーズを取った紫色のガンダム、ガンダムラヴファントムを駆るダイバーであるマギーの宣言は図らずも宣戦布告の嚆矢となった。
マギー自身は純粋に異世界からの来訪者を歓迎するためにその言葉を発したのだが、事情を知らない大多数のダイバーからすればアルスは降って湧いてきたレイドボスでしかない。
そして、異例のメインターミナルを除く全サーバーをレイドバトルモードにするというGMの対応によって、GBNのアクティブユーザー二千万人の中でもマギーの呼びかけに応じた多くは異界からの侵略者と戦うべく各サーバーに分散し──アルスが用意した数に対しては劣るかもしれないが、その質は圧倒的に勝っている──彼を待ち構えていたのだ。
『これは……一体……?』
アルスは困惑する。
わざわざエルドラへと兵を送り込んできたのだから、あの「ビルドダイバーズ」と、そして「シド」が、ガンプラの民の中では一番強いのだろうと踏んで、それでも慢心せずに全ての戦力を注ぎ込んだつもりだった。
だが、目の前に展開する数々のガンプラは圧倒的に危険だということを、アルスのAIとしての本能が警告している。
しかしそれは、GBNの有志たちもまた、得体のしれない敵である彼らに対しては同じだったのだ。
「空が三分に敵が七分、ってほどじゃないけど……こいつは思ったより多いな」
北欧サーバーに設けられた、ベルリンをモチーフとしたエリアに陣取っていたガンダム・マルコシアス使いのダイバーである「ユーリ」は、アルスたちが本隊を派遣するのに先んじて現れた巨大戦艦二隻と、そこから展開される戦力を睨みつけて苦笑した。
「勝てるんすかね、こんなの……」
彼の後ろで、自慢のジャイアント・ガトリング──「システムウェポンキット」でアップグレードしたものだ──を装備させた、陸戦重装型のペイルライダーを駆る男、「ローエ」は幼さの残る声で彼に問いかける。
幾らガトリングを頑張って作ったところで、推定戦力比はさながらクロスボーン・ガンダムのように三十対一とかそういう次元の話だ。
メインサーバーが置かれているエリアにはあのチャンプや「ジャバウォックの怪物」、「FOEさん」、「黒髪黒和装災害系妹」、「半神半魔」、「リビルドガールズ」、そしてあの「ビルドダイバーズ」という錚々たる面々が待ち構えているとはいえ、各ディメンションに分隊として配置された自分たちが「GHC」の支援もあるとはいえ勝てるのか、初心者であるローエにはわからなかったのだ。
だが、ユーリは彼のそんな不安を否定することなく笑って親指を立ててみせる。
「大丈夫だ、お前は俺たちの後ろで支援火力をやってくれればいいんだ」
「でも……」
「おいおい、緊張すんなよ。ここはGBNだぜ? しかも……レイド戦なんて負けたってただ悔しいだけなんだ、だったら自由に楽しもう、な!」
お前のペイルライダーも、きっとそう言ってるさ。
決戦開始の合図の如く、ベルリンの空に浮かんでいる改ラー・カイラム級戦艦「扶桑」と「山城」が主砲による先制砲火を放ったことを確認した上で、ユーリは己の愛機であるマルコシアスを前線への一番槍とすべく突出させていく。
正直なところ、この気合の入った新規モデリングで作り起こされたレイドボスたちがどれほどの強さを誇っているのかはユーリにもわからなければ、彼もまたローエのように勝利に対する不安を抱いていなかったかと問われれば、それは嘘になる。
だが。
背後において、おそらく障害となる巨大戦艦と「GHC」の戦艦が撃ち合ってくれているなら、さながらハードコアディメンション・ヴァルガのように開幕から大火力で擦り潰される心配はない。
付け加えるなら、各サーバーに分散配置された戦力は、寄せ集めなどでは断じてない。
恐らくはウィンダムをモチーフとしたのであろうやたらと刺々しく、水中眼鏡をかけているようなフェイスエクステリアへと改装されたエネミーユニット、【エルドラウィンダム】のビームサーベルを、バスタードメイスの力強い一撃で弾き飛ばしながら、ユーリはちらりと一瞥した視界に駆け抜けた閃光を見る。
「さてさてそんじゃま……あーしもちょっちやりますか!」
そうだ。自分はともかく彼女を付け合わせのミックスベジタブル扱いできるダイバーなどこのGBNに存在しているはずがない。
着崩した白シャツと、ホットパンツに小麦色の肌、そして金髪の頂点に虎の耳を戴くそのいかにも「ギャル」な感じのダイバーは、まさしく戦場を駆け抜ける光であり、多くのダイバーたちから畏怖と羨望をもって一身に注目を集める「一桁の現人神」その一柱にしてダイバーランキング4位、「テトラ」に他ならない。
彼女が操るガンプラ──【ザ・ギャン】は、ギャンという機体のコンセプトを極限まで高めて、そして極限まで作り込まれた一つの芸術品だ。
自分が処理に手間取っているエルドラウィンダムを、ただその場を駆け抜けただけで一閃したのと勘違いするほど、神速の槍捌きによって何機もテクスチャの塵へと変えながら、テトラは不意を狙って放たれたのであろう大火力砲すらもまるで微風の如くそのミサイルシールドは受け止めて跳ね返す。
大火力砲をそのまま弾き返される形で爆散したレイドボス、【エルドラドートレス】にもしも中身が入っていたなら、自分が何をされたかもわかってはいなかっただろう。
サブアームに持たせたナイフで四肢の関節をもぎ取り、バスタードメイスをエルドラウィンダムのコックピットへと叩きつけながらも、ユーリは、その美麗さと美術品のごとき優雅さを誇る極限のギャンに呆然と見惚れかけていた。
あの光沢はマ・クベが愛していた白磁をイメージしているのだろう。
白立ち上げから丁寧にクリアの層を重ねて研ぎ出しを行い、更にパールクリアを吹き付けてそこからも研ぎ出して仕上げのパールを吹いた上からウレタンクリアでコートする──その塗膜の層の厚さを考慮したクリアランス調整も、その処理一つ一つも気が狂いそうになるレベルの作り込みであることは疑いようがない。
「オタクくん、あーしに見惚れてっとこ悪いけど!」
「わかってます! ……それでも、いつかあなたと同じとこに俺も行きたい!」
背後から襲いかかってきた四脚型のレイドボス、【エルドラブルート】に、サブアームからのナイフ投擲で牽制をかけながらユーリはテトラへと素直な憧れを口にする。
戦いからは離れていたこともあった。
一時期のことを思い返しながら、そしてチャンプとの激闘を思い返しながら、自身に向けられた純朴なリスペクトにテトラはふっ、と、どこか懐かしいような感覚を抱きながら笑みを浮かべる。
そうだ。ガンプラバトルは楽しくて、苦しいことも沢山ある。
それでも、その気持ちを忘れなければ。諦めなければ。
自分を、その立ち位置を正しく見続けていられるなら。
「来れるっしょ! ゴッドフィンガーをマルコシアスに積むの、あーしは嫌いじゃないしね!」
自身はイマイチ乗り切れなかった「ELダイバー争奪戦」だったが、その時に見た全ての光景をテトラは覚えている。
だからこそ、GBNが好きだからこそ、今度は誰の思惑に囚われることもなく純粋にレイドバトルを楽しめる。
その喜悦に満面の笑みを浮かべながら、北宋の壺を思わせる白磁の風は、仮装の海に浮かんだベルリンの街を閃光と共に駆け抜けていくのだった。
機械は決して動揺しない。
ドイツ軍人はうろたえないとかそういう話ではなく、単純にこのGBNへと侵攻してきた「ヒトツメ」──アルスの手駒たちであるガードアイは高度な思考ルーチンなど有してはおらず、ただ彼からの命令に従って動くだけだ。
だが、それでも彼らに感情というものが存在していたなら、ディメンション・シュバルツバルトに派遣された分艦隊はまず困惑し、そして自らの正気を疑っていたことだろう。
「フハハハハハハ! 歓迎しようではないかレイドボスたちよ!」
「おうテメェら! ハートの兄貴がああ言ってんだ……オレたちの『聖地』は穢させねェ……!」
「あたしらバトルとかガラじゃないけど……このディメンション攻めてきて話し合えないんなら断固反対、抗議だかんね!」
永遠の常闇に覆われたメガロポリスの上空にもまた「GHC」の支援艦隊は轡を並べて、一隻という規模で侵攻してきた巨大戦艦に対して主にマゼラン級を中心とした艦隊が砲撃を加えている。
だが、その地上と空中にあるのは主に全身タイツに鳥頭という見た目上は極めて変態そのものな格好をした、バンデット・レースの王者である虹色ゲーミング可変機、パロットスクランブルを操る「パロッツ・パーティー」と、彼の魅せる最速の夢に酔い痴れる暴走族たちが、ガンスタグラムで「バエ」るため、抗議の意味を込めて持ち出したジム・クゥエルと肩を並べているという極めて珍妙にして怪奇な光景だ。
「ムッハハハハ! レースでない戦いなど断るところだが、我々はレースを運営に認めて貰った恩がある!」
「イエッハハハ! そうだとも! ならば運営の用意した祭りに乗って飛ぼうではないか同志諸君!」
「ハハハハハハ! よく見ればこのバインダーガン……フライトユニットのようだな! ならば面白い、空中戦は我らの翼の本領よ!」
言ってることはまともなのに、格好のせいで極めて変態性が高いというかその物腰の柔らかさの温度差で風邪をひきそうな具合だが、普段は水曜と土日にこの「ハイウィンド・エリア」においてバーリ・トゥードなレースに明け暮れる「パロッツ・パーティー」たちはダイバーとしての実力も確かであり、エルドラウィンダムの編隊が敷いた包囲網を巧みに潜り抜けながら、鳥型の首を回しながらその変形ゲロビの照射でもって薙ぎ払っていく。
空を飛ぶのが温度差の鳥なら地上を走るのは熱き魂をその胸に秘めた暴走族だ。
パラリラパラリラと管楽器アレンジのガンダム主題歌を垂れ流しながらも彼らはガリクソンの操縦技術で巧みに弾幕砲火を回避して、エルドラウィンダムを轢き潰すというなんともワイルドな方法で処理していく。
そして、討ち漏らした敵はガンスタグラム勢のジム・クゥエルがそのライフル掃射でもって美味しくいただくといった具合だった。
かつては犬猿の仲として睨み合っていた者たちも、話し合いと歩み寄りを通じて今は同じくこの常闇の住人として互いを認め合っている。
ジム・クゥエルがあわやエルドラドートレスの砲撃に飲み込まれようとした刹那、姿を現したドードラブロズゲーがその巨体で庇い立て、暴走族たちが砲撃手へと殺到する。
「おいゴルァ! カタギに手ェ出すとかてめェ……落とし前どうつけてくれンだ!?」
「このシャバ造が、野郎共突っ込むぞ!」
「ありがとね、族さん、鳥さん!」
「何、これぐらい人として当然のことよ!」
美しき絆。麗しき友情。
たとえ本質的にはわかり合えなくとも、歩み寄ることで隣に立つことはできる。
脳がバグりそうな絵面である以外は、GBNが描こうとしているものは確かにあった。
その絵面こそが最大の問題なのだが。
しかし、不夜城の主たちもまた、侵略者を許すことはなく果敢に不利な戦いを制しようと戦っていた。
見た目も絵面もそこには関係ない。ただ熱意と想いが、「大好き」が溢れていれば、きっとそれこそが、全ての答えなのだろうから。
「そう……この極圏に立つわたくしが、バエルでもって全ての侵略者を一人で葬る! その行いが世界を変える!」
アリアは高鳴る胸を抑えきれず、咳き込みながらも咆哮して、白亜の悪魔にしてその王としての冠を、恐れの頂点に立つ名を冠するガンプラで、ディメンション・トワイライトに侵攻してきたアルス艦隊の実に三割という数を殲滅せしめていた。
恐らくアルスとやらもここが不人気であることは知っていたのだろう。
戦艦一隻と少数の──といっても相対的な話だが──ガンプラ、そんなもので自身とバエルを止めるつもりだったというのなら片腹痛い。
エルドラドートレスもエルドラウィンダムも、そしてダナジンとよく似た機体もその区別なくアリアが掲げる黄金の剣は、その切っ先は全てを裂いて塵へと変える。
まさしくこれが悪魔の力だと、ケンプファーを駆っていたダイバーは、味方であるはずなのに荒れ狂うアリアの圧倒的な暴力に恐怖さえ覚えていた。
「GBNは……わたくしにとって真実の世界! このディメンションを片付けたならわたくしは革命のために、この世界を守り通すという偉業を成すためにバエルと共に全てのディメンションを回り尽くす覚悟! さぁ、悪魔の王を恐れぬのなら……かかってくるがいいのですわぁぁぁぁぁ!!! おーっほっほ!!! ゲッホゲホゲホッ!!!!!」
「お嬢様あああああっ!!!」
むせ返って動きを止めたバエルを狙ってその背後から切り掛かってきたエルドラウィンダムの胴体を、すぐ近くに控えていた∀ガンダム──ヘルムヴィーゲ・リンカーの大剣を手にし、機体色もそれに合わせたミツルギのガンプラがアリアを庇うような形で両断する。
「ゴッホゴホッ……大義でしてよセバスチャン!」
「だから僕はセバスチャンではないと……お嬢様!」
「委細承知、ダウンローデッドですわセバスチャン! 沈めるべきはあの戦艦!」
有象無象に構っている暇などない。
だからこそエルドラウィンダムやエルドラドートレスの対処をミツルギに任せる形で、アリアは宙に浮かぶ巨大戦艦の弾幕砲火を自慢の機動力で掻い潜りながら、分厚い筈の正面装甲に易々とバエル・ソードを突き立てて切り裂いていく。
もはやそれは駆け抜ける嵐だった。バエルという純粋な力が放つ輝きに、ヒトツメたちは圧倒されていたかどうかはわからないが、この戦局を、その行く末を握っているのがアリアであることには誰も何も疑いを持つ余地などない。
「これが……バエル!!! そしてわたくしの……敬愛するマクギリス・ファリド准将の、世界を変える革命の力ですわぁぁぁぁぁ!!!!!」
本能のままにアリアは叫んだ。
そして突き立てたバエル・ソードは巨大戦艦のエンジンを、ブリッジを貫いて爆散させたにも関わらず傷一つ付いていない。
白亜の悪魔も同じだ。手傷など負うことはなく、一つのディメンションにおける戦況をひっくり返して次のディメンションへと消えていくその姿は自由にして奔放、もはやアリアを止められる者などいないのではないかというハイテンションぶりだった。
そして普段であれば諫める立場のミツルギもまた、心を躍らせ、昂る胸には一抹の期待を抱いている。
この戦いは、アリアの革命はきっと彼女をいい方向に導いてくれるのだろうと。
ワープアウトしてきたアルスたちヒトツメ艦隊に対して、メインサーバー近くである本隊との交戦状況は決して良いとはいえなかった。
先陣を切った「ビルドダイバーズ」のガンプラであるモモカプルから転送されてきた情報は全てアンノウンで埋め尽くされているし、先ほどまでカザミが配信していた動画の中に出てきたサイコドートレスとでも呼ぶべき巨大ガンプラまで、戦線には投入されている。
空が四分に敵が六分といったところだろうか。
改ドゴス・ギア級戦艦「天城」の指令席に座る男は、アトミラールら事前に伝えていた射線から全員が外れているのを確認した上で、巨大戦艦を標的にしたマルチロックオンを行う。
「アルスだったか……物量だけに頼る愚か者よ、一つだけ教えてやろう」
そうして、「天城」の艦首に設けられていたハイパーメガ粒子砲二門へと静かに光が灯り、艦首の先に展開していたフォトンリングレイがゆらりと虹色に輝く歪みを空間に作り出す。
「エネルギー充填120パーセントデース! 全艦連動、マルチ隊形を取りつつハイパーメガ粒子砲の回路を収束から拡散へ!」
「ありがとう、コンゴウ……さあ、教えてやるぞアルスとやら! 力は……更なる力によって擦り潰される! このGBNにのこのこ出てきたのが間違いだったとな!」
アトミラールの、「提督」の号令と同時に、決戦開始を告げる号砲は放たれた。
フォトンリングレイによって拡大された拡散ハイパーメガ粒子砲の一撃は、全艦隊集結してのそれとは比べるべくもないが、それでも数隻の戦艦を撃ち落とし、多くの敵機を巻き込んで破壊するという確かな結果を戦場に齎していた。
さながらそれは災禍の雷槌だった。
相変わらず馬鹿げた威力、金満と資本主義が織り成す一撃に、ダイバーたちは苦笑しながらも、レイドバトルはこうでなくてはと、半ば風物詩と化した歓迎ハイパーメガ粒子砲の軌跡を見送る。
「へっ、金金金……フォースとして恥ずかしくねーのか」
「チィ、それは貴女が言えた義理ではないでしょう」
「わーってるよ畜生、どーせチィは持たざる者だよ! ……っと、与太話はここまでか。アイカ、エリィ! そしてイリハおねーちゃん、準備はいいな!」
アキノと漫才じみたやりとりをしながらも、彼らの砲撃を待ってから遊撃隊として前線へと切り込んでいく算段だった「リビルドガールズ」──新たなメンバーとして双子の姉である「イリハ」を加えた──へと呼びかけながら、チィは愛機であるガンダムグラスランナーと共に戦場へと切り込んでいく。
「オッケーチィちゃん!」
「……は、はい……いつでも、行けます……!」
「イリハ、がんばる……チィ、たのしい……アイカ、エリィ、アキノ、たのしい……だから、イリハ、せかい、まもる……!」
かくして、盛大な歓迎となったハイパーメガ粒子砲の一撃をその嚆矢として、「リビルドガールズ」はめいめいにその翼を広げて決戦の空へと飛び立ってゆく。
この戦いの主役は自分たちではないと理解しながらも、それでも「もう一つのビルドダイバーズ」を助けるために、そして。
「エリィちゃんの空を……この世界をどうこうしようってんならあたしが許さない!」
だから全てを叩き切るとばかりに、エリィの、最愛の人のために妖精の女王を、フェアライズガンダムを駆るアイカは、高らかにそう叫ぶのだった。
響く拡散ハイパーメガ粒子砲、そして迎えるは運命の時──!