ハズレスキル?とんでもない!日本じゃ大当たりのスキルだぞ!? 作:リーグロード
思い付きで出来た他の小説と並行して書いていたら思いのほか時間がかかってしまった。
まあ、できたんだし皆許してね!
さて、家を出たものの、これから何をするのかはまったくのノープランだ。だって、仕方ないだろう。ぶっちゃけノリで家を出たんだから。
とりあえず、あてはないが王都に行くことにした。
何故王都に行くかというと、それには3つの明確な理由がある。
今の時期に王都に行く人間の目的は3種類に分けられる。1つ目は18歳になった貴族がスキルの力を使いこなすために王国騎士育成学園に通うため。2つ目は生産系スキルを手に入れた平民がそれぞれ自分の適性に合った有名店などに弟子入りする為に行くこと。3つ目は戦闘スキルを手に入れた平民が国を通さずに民間の依頼を受けさしたり、王国の騎士の手が回らない場合に戦場にでる手助けをする組織『ギルド』に所属するためだ。
俺が王都に行く一番の目的は3つ目の理由であるギルドに所属する為だ。
俺の家は魔物との戦いの功績で貴族の位を手に入れたんだ。俺もそれにならって戦いで実績を勝ち取ろうと考えている。
その為には、ギルドに所属するのが一番確実であり、さらに面倒事が起きた時にはギルドに丸投げできそうだからだ。
他にも、王都は生産系スキルを持つ者が多い。
何故かというと、王都は物流の中心地点としても栄えており、仮に魔物が襲撃してきたとしても、王国騎士団やギルドの人間が滞在する王都が一番安全なのだ。
それ故に、『欲しい物があるのなら王都へ行け!』という格言ができるほどに、王都には様々な職人が住んでいる。
そこで、2つ目の目的として自分に合った装備を依頼しようと計画している。さらに、ギルドに所属して名を上げている奴の多くは専属契約という自分専用の職人を捕まえている。
この時期は新人が多く弟子入りする。だから、この時期に店に張り付いて期待できる新人を捕まえるスカウト行為が多くなると昔聞いたことがある。
だからこそ、装備を依頼すると同時に専属契約を結びたいと考えているが、そこは出来たらラッキーという程度にか考えていない。
そして、最後の目的は仲間を作ること。ドラゴンボールやワンピースやナルトでも、強敵とは仲間と力を合わせて戦っている。
俺もいつか背中を預けられる戦友を作って共に冒険してみてぇ!
それに、ギルドから団と呼ばれるグループを結成するのを推奨される。大抵の人間はギルドに加入した瞬間に、既に結成されている団に入るか、新たに自分たちの団を結成するのがほとんどで、中には孤高の一匹狼や有能過ぎるスキルゆえに嫉妬や恐れられ団に入らない者も存在するが、そんなのは極わずからしいが。
もちろん、俺は自分で団を作ることに決めている。無論俺がリーダーで、周りは皆気の合うバカばかりってのは理想が高すぎるか……。
とまあ、そんなわけで王都へと向かうことに決めたのだが、その前に旅の準備をしなくてはならない。俺の家があるこの場所は、魔物との最前線に最も近い街に建てられており、王都との距離は馬車でも1ヶ月は掛かる辺境だ。
「んじゃま、大体徒歩3ヶ月って聞いたし、その分の食料と旅の道具も買わねえとな」
懐にしまってある金貨と銀貨の入った袋を服の上から触って、これから買い揃える食料と道具の必要経費を頭の中で計算する。
とりあえず、先に道具の方から調達する事にしよう。食料の方は例え買えなかったとしても、旅の途中で出くわすであろう獣なんかを狩れば問題はないが、道具の方は専門知識もない素人ではどうにもできない。
この時期は自身のスキルを売り子もうと平民が王都へ向けて旅立っていく。中には俺と同じようなハズレスキルもしくは微妙な性能のスキルを授かり、泣く泣く親の跡を継ぐ者もいるが。
金に余裕のある家や生産系のスキルを持つ者は、この時期に出る馬車に乗って王都へ目指すが、金のない家や力自慢の者は安く済ませようと自分の足で王都を目指す。
ここで問題なのは自分の足で王都を目指す者だ。もしそいつらが先に道具屋で商品を買いつくしてしまったら、俺はしばらく商品が入荷するまでこの街で待ちぼうけを食らってしまう。
そうなったら、可能性は極わずかではあるが、喧嘩別れした父親と遭遇してしまうかもしれない。それはマズイ! 非常にマズイ! そんな最悪の未来を想像すると、自然と足は速くなっていき、道具屋に向かって普通に歩いていたはずが、気づけば全速力で走ってしまっていた。
道行く人は何事かと振り向いてくるが、猛ダッシュで駆ける俺のスピードを捉えることはできず、よく分からないナニカが通り過ぎていったとしか認識出来なかった。
例えるなら殺せんせーが給料日にコンビニでおやつを買いに行くレベルのスピード……くらいかもしれないとだけ言っておこうか。
そんな凄まじいスピードのまま走っていると、すぐに視界の先に道具屋を示す看板が映り込んできた。このまま行けば店に突っ込んでしまう。
ルイドは慌てて足を止めようとするが、トップスピードで走っていた足をいきなり止めろというのは無茶で、無理矢理止めようとしたら足がこんがらがって転倒するだろう。
「やっべぇ! 止まれ止まれ止まれ。トォ~マァ~レェ!!!」
このスピードで足を止めれば横転して店に突っ込むのは明白だ。だが逆に考えるんだ。倒れちゃってもいいさと。
とはいえ、そのまま足を止めて倒れるのではなく、一度軽く地面を蹴って飛び、空中で一瞬のうちに態勢を逆クラウチングスタートの形に変えて、地面に着地しながら手と足の裏全体を使って急ブレーキをかける。
そのままズザザザァ──―ッ!! と凄まじい音を立ててギリギリ店の目に前で停止することが出来た。
「よっしゃ! あぶねー、危うく店に突っ込むところだった。って、いてててぇ!」
あのスピードを止めるためとはいえ、手と足を使ってブレーキをかけたのだ。自分でも頑丈な体という自負はあるが、流石に擦り傷くらいはできる。むしろ、あのスピードを手と足だけ使って擦り傷程度で済むのがおかしいのだが……。
「おいおい。随分ハデなお客さんだな……って、ルイド様!?」
客が俺だと分かったとたん驚く店主。俺もこの街で18年も暮らしてきたからな。多少の付き合いはある。この店の店主だけじゃなく、他にもいろんな店の奴らとも交流もな。
「おっ! 店主か。悪いな騒がせちまって。ところで、王都へ行きたいんだが、そこまでの旅の道具とかを見繕って売ってくれ」
「お、王都ですかい? ルイド様なら馬車に乗って行けるのでは?」
「いや~、実は俺今日の朝に勘当されちまってさ、家の馬車とか使えないんだわ!!!」
「んな!? 勘当されたってマジですかい!!?」
何でもない笑い話のように言うが、それを聞いた店主は目ン玉飛び出すくらいに驚いてしまう。
「おう! マジもマジよ。いや~、ちょっち偉そうなバカ殴っちまったら問題になっちまってな。そいつに頭を下げるのが嫌だって言ったら勘当だよ勘当!」
なっはっはっは!!! とバカみたいに笑うルイドを見て、店主もなんだか大げさに考えている自分がバカらしくなってきた。
「ああそうかい。ルイド様が気にしていないんなら俺が気にしてもしょうがないな。それにしても、なんかルイド様って雰囲気変わったか? 以前はもっと堅苦しい感じだったが……」
「ん? そうか、まあ貴族じゃなくなったんだし、これが本当の俺だってことだ!」
そうやってカラッと笑うルイドの顔を見て、店主もああそうかいと納得する。
「そんで、王都へ行くために必要な道具の見繕いですね。それならとっておきのがありますよ!」
「ホントか!? それならそのとっておきってのを見せてくれ!」
店主は興奮するルイドに「ちょっと待ってくださいね」と言って店の奥へと消えていった。最悪の事態にはならなそうだとふぅ~っと一息つくと、今度は店主が言ったとっておきというのに期待で胸を膨らます。
一体どんなのが出てくるのか内心ワクワクしまくっている。子供っぽいといわれるのは仕方ないが、それでも冒険前に渡される特別な物というのは、いくつになっても男心をくすぶるものがあるのだ。
「お待たせしました。これが、この店のとっておきの旅道具でございますよ!」
店主が持ってきた物は両手でようやく持てる大きさの小物入れのような箱だった。
「? それがとっておきの旅道具なのか……」
「ええ。この箱の中には特殊な魔道具が入ってまして。こうやって少し魔力を流してホイ!」
そうやって箱の中にあるカプセルの様な物を一つ手に取って魔力を流し込むと、カプセルが薄っすらと光だしてきた。
そのカプセルを地面に放り投げると、ボン! 少し大きな音と共に紫色の煙が立ち込める。その煙が晴れるとそこには大の大人が余裕で入れる大きさのテントが完成した状態で設置されていた。
「ぽ、ポイポイカプセルだ……。おい! ポイポイカプセルだよ! なあ、店主! これどこで手に入れたんだ!? 作った奴とか分かるか!?」
「え? どこって言われましても。これは王都に仕入れに行ったときにバザーで偶々手に入れた物でして、これがどこで作られたかはまったく……」
「そ、そうか……。いやいいんだ。分からないんだったら」
まさか、この世界でポイポイカプセルがあるなんて。これが偶然かはたまた俺と同じような存在がこの世界にいるのか……?
「あの、それでこの商品をお買いになりますかルイド様?」
「ん? ああ! じゃあ、それ買っちゃおうかな。んで、いくらくらいするんだ?」
自分の持ってきたものを実演して見せた瞬間からルイド様の様子がおかしかった。突然この商品をどこで手に入れたかと聞いてきたかと思えば、なにやら一人考え込んでしまった。
もしや、なにかマズイものだったかと不安になったが、ルイド様は見せた商品を買うと言ってくれた。
なんでも、信じられないものを見たせいで動揺しただけらしく、これはとても素晴らしい物だと褒めてくれた。
それを聞いてホッと胸に詰まった息を吐きだすと、改めて商談の話をする。
(商人として商談となると無様な姿は見せられない。ましてや、商談の相手はルイド様だ気を引き締めてかからねば!)
「へい。そうですな。これは長年道具屋として働いてきた私でも見たことがないもので、希少性に加えこの機能ですから金貨1枚と銀貨3枚といったところでしょうか」
う~ん、なかなか高価な買い物だな。金貨一枚で平民3人家族が一年働かずに食っていけるって考えるとその価値が分かるだろう。
とはいえ、これかなり便利な物だ。特にほんの少し魔力を流すだけで完成した状態のテントが出てきた。片づけるさいも魔法陣が描かれた箇所に同じように魔力を流せば元のカプセルに戻るというのだから、サバイバルが素人の俺にとってこれほどありがたいものはない。
まあ、多少冒険感がなくなるのはあれだが、ストレスでむしゃくしゃしてつまらなくなるよりはマシだろう。俺って前世じゃアウトドアに憧れて一時期色んな道具とか買い漁った事があったけど、知識アバウト経験全くなしでやった時の徒労感のみ残ったあの虚しさと後悔はちょっとしたトラウマだったしな。
「まあ、確かに便利だしな。それじゃあその値段で買うよ」
「へい毎度あり! 金貨1枚と銀貨3枚ちょうどね」
遠いあの頃を思い出しながら、懐に入れていた袋から金貨1枚と銀貨3枚を店主に渡して取引はつつがなく終了した。
「あ、そうだ。爺ちゃんはどこにいるんだ? 一応昔世話になったし、王都へ行く前にちょっくら別れの挨拶をしたんだが」
「え、ああ……。爺さんなら今の時期はルイド様みたく王都へ行く連中がおおいだろうから、そいつら相手に商売するって言って出てっちまいやしたんで。今どこにいるのかは知りやせんが、王都へ行くってんならどっかで会えるでしょう」
そっか、あの爺ちゃんには子供の頃に結構世話になったからちゃんと挨拶したかったが、王都へ行く連中に商売するってんなら検問所の近くにいるだろうし、街を出る前にちょっくら探してみっか。
「サンキュー! 色々助かった。俺はこの街から出ていくけどこれからも頑張れよ!」
「ルイド様こそ、王都でも頑張って下さいね!」
じゃあな! と手を振って道具屋の店主と別れ、今度は旅先で必要な保存食やらなんやらを買いに向かう。その先でも同じように驚かれたが、なんだかんだ俺の吞気な笑い声に呆れながら納得してくれた。
ついでに、王都でも頑張りなよと励ましの声を貰った。こりゃますます頑張らなきゃいけねぇな。
他にも保存食の美味しい調理の仕方や旅先で食える山菜や獣の簡単なさばき方なんかも教えて貰った。万が一食料が尽きた際はこれを参考にするといいってメシ屋のおばちゃんが渡してくれたんだよな。
これで旅に必要な物は全て手に入れた。もういつでもこの街を出ることはできる。懐にしまってある袋の中身はだいぶ寂しくなってしまったが、旅するぶんには問題ないだろう。
目の前には検問所があり、そこに滞在する兵士はウチの関係者で、今の俺の処遇は既に聞いていたようで、行き先だけ聞かれ簡単に通してもらった。
検問所を抜けるとそこから先は森になっており、生まれてこのかた昨日訪れた教会以外でこの街を出たことがなかった俺は自分の足で外に出たことに感激する。
「よ~し! こっから本当の冒険の始まりだ!!!」
家を出た時のテンションが舞い戻り、再び冒険への熱い想いが叫び声となって飛び出す。
「こりゃまた随分とデカイ声じゃのう」
「ん? って、爺ちゃんじゃねぇか!? こんな所で商売してたんか。道理で街ん中で見つからないわけだよ!」
別れの挨拶をしようと思ってずっと探していた爺ちゃんが、道の端っこにシートを広げて座ってこっちを見ていた。
「おん……? って、ルイドの坊ちゃんじゃねえか? こんな所で1人でどうしたんだ? 家のモンはどうしたんだい」
「いやそれがさ、色々あって勘当されっちまたんだよ。まあ、悪いのは俺っていえば俺なんだけどよ。どうしても納得できずに親と喧嘩しちまったんだよ。まあ、詳しいことは爺ちゃんの息子の店主に言っておいたから帰ったら聞いてくれよ」
「ううん? あまり理解できんかったがようわかった。つまり、お前さんがバカやったって話じゃな」
「バカって……、まあ、実際その通りっちゃその通りなんだけどさ。もっと言い方ってのがあんじゃねぇの?」
昔からこの爺ちゃんは貴族の俺に遠慮なく言いたいことを言ってくる。なんでも俺の爺さんの友達で、父さんもガキの頃から世話になったから頭が上がらない存在らしい。
そんな爺ちゃんが売っているのが何か気になって、シートの上に置かれてある商品を手に取って見てみる。
「これ帽子か? なんでここでこんなもん売ってだ?」
「ああ、王都じゃオシャレとして帽子が注目されちってな。さっきのお前さんみたいに、検問所を抜けた時にテンション上がって財布の口が緩くなる連中狙ってんのよ」
まるで獲物を狙う猛禽類のような笑みを浮かべる爺ちゃんに、おおう……と少しドン引きしながら、流石は商売人だなっと思う。
「それで、お前さんもどうせ王都へ向かうんじゃろ。どうだいどれでも好きな帽子を選びな。お前さんならぼったくり値段じゃなく適性の値段で売ってやるわい」
「怖ぇ! ぼったくりを堂々とやるとか、それ誰かに聞かれたらマズくね?」
「な~に、これでも若い頃はテメェんとこの爺さんと一緒に魔物どもを切り殺してきた男だぜ! 戦場のせの字も知らねえ今の若え奴らが襲って来ようと返り討ちよ!」
むん! と年寄りに全く似合わない上腕二頭筋を見せてくる。確かにこんなマッスルジジイだったら大抵の奴らは返り討ちだろうな。
「っていうか、爺ちゃんって昔から道具屋をやってたんじゃねぇのか?」
「おうよ! 今じゃ道具屋なんて経営しちゃいるが、昔はテメェんとこの爺さんに無理矢理に役に立つって戦場に引っ張り出されたもんさ。まったく無茶苦茶だったぜ……」
へぇー、爺ちゃんがまさか昔はウチの爺さんと戦場で魔物と戦ってたなんて知らなかった。俺が生まれる前に爺さんは死んじまったからよくは知らないが、肖像画は家の中にも飾られていて、白髪の屈強な戦士といった風貌の人だってのは知っている。
「っていうことはさ、爺ちゃんのスキルって戦闘スキルだったのか!? てっきり、道具屋なんてやってるから生産系のスキルかなんかだと思ってた!?」
「いやいや、儂は戦闘スキルなんざ持ってねぇよ。儂が持ってるのは千里眼といってな、遠くのものを見通せる力を持つスキルさ」
「えっ!? そんなスキルで戦場で戦ってたのか!?」
「おいおい、バカにすんじゃねぇぞ! こいつのおかげでどんだけ救われたか知らねえだろ。魔物のクソ共がいつ・どこから・どれほどの数で攻めて来るかが分かるってのは物凄ぇアドバンテージなんだぞ!」
「ああ、そう言われればそうだな。戦う最中は使えねが戦う前の準備になら滅茶苦茶役に立つな!」
なるほどと納得する。確かにそう考えれば役に立つどころか、今も戦場で軍師として活躍してもおかしくない有用なスキルだ。
それが何故こんな街で道具屋なんてやっているのか興味本位で聞いてみる。
「じゃあさ、なんで爺ちゃんはそんなスキルを持ってるのにこんな所で道具屋として働いてるんだ?」
「こんな所でって……、お前さん自分の生まれ育った街をそんな風に言うとか……」
「いやだって、そんな役に立つスキルだったら、今でも十分活躍できるだろ?」
俺のそんな質問に、沈痛な面持ちで爺ちゃんは語る。
「確かにな、こんな老い耄れでもまだ頼ろうとする者は多くおる。だがな、もう儂は戦い続けることに疲れたんじゃ。お前さん爺さんが死んだ話は聞いたことがあるか?」
「いや、俺って父さんとはあんまり話しないから知らねえ?」
「そうか、まったく。いつまでもあの愚直バカは治らんの……」
爺ちゃんはため息をつくと、仕方ないと爺ちゃんの昔話を聞かせてくれた。
「これから話すのは結構有名な話でな。王都へ行けば聞く機会もあるかもしれん。
そう、今からずっと昔にお前さんの親父が戦場で千を超える魔物の大群とやりあったことがある。当然、そんな数をたった一人で相手どることなぞできる筈がない。
当初はそんなあやつの独断行動に軍はパニックに陥った。計画されていた作戦を水の泡にする奴の行動に慌てふためく軍の混乱を収めたのが、お前の爺さん
あいつは、別の戦場で戦っていたというのにその一報を聞いた瞬間にすぐさま討伐対象の魔物の首を斬り落とし、混乱のさなかにいる軍の司令部に顔を出して土下座したんじゃ。
当時のあやつは人類の英雄とも呼ばれておってな。そんな人物に頭を地べたまで下げさせる行為をやめさせようと、軍の動きはその時ようやく一つになったんじゃ。まあ、あやつがそれを見越して行動したとは儂には到底思えんが、結果として、すぐさま作戦変更が余儀なくされ、儂の千里眼のスキルで魔物どもの進路を確かめると、驚くことにお前さんの親父は単騎で千の魔物をその場で足止めすることに成功しておったんじゃ。
さらに、軍が混乱している隙をついてあやつの部下も後を追いかけておってな、儂らが軍を引っ張って辿り着いた頃には、戦場は血の海での。その大半の血は魔物どもの血であったんじゃが、それでもやはり人が流した血も多かったんじゃ。片腕や足が無くなっておる者もおったし、中には魔物に喰い殺された者もおった。
だが、その場に立つ者は誰一人諦めた目をしている者はおらんかった。そんなあやつらの狂気じみた闘志に触発されてレジックの奴も作戦なんか忘れて戦場に飛び出しっちまったんだよ。
そこからは完全にレジックの独壇場よ。負傷者を撤退させ、残った魔物も一瞬のうちに八つ裂きにしていきよった。
だが、通常は千を超える魔物なんぞ現れる筈がないんじゃ。それを可能にするとしたら、そんな魔物を従える強者がおるということじゃ……」
そこまで話して爺ちゃんの顔は悔し気に歪んだ。話すことも一旦やめて唇を強く嚙みしめる。
俺はその話の続きがどうしても気になり、爺ちゃんの肩を掴んで続きを話してくれと揺さぶる。
「ああ、分かったわかった。まったく。本当にお前さんら一家は似た者家族じゃな。そういう強引なとこらがそっくりじゃ。こんな老骨にゆっくり感傷にも浸らせてくれんとはな。
それで、さっきの話の続きじゃな。レジックが魔物どもをあと数匹まで切り裂いた瞬間じゃった。突然地面が揺れ動き、大地から巨大な魔物が這い出してきおった。
その魔物の禍々しさといったら、目は深海魚のように不気味で、体は無数の触手が生えたデッカイ蛇のようでの、さらには残っていた魔物の数体を体から生えた触手で貫き殺して喰らったのじゃ。奴は地面に広がっておった死体や血を体から無数に生えた触手で捕食していき、あっという間に土色だった肌が真っ赤な鮮血に染まっていった。
そこからはまさに死闘につぐ死闘じゃった。生えてくる触手はいくら切り落とそうと無限に生えてゆき、切り落とした触手も焼き尽くして灰にせんかぎり動き続けた。
剣が刃こぼれし、血を限界まで流し、気力を最後の一滴まで出し尽くして、ようやく魔物の再生能力が目に見えて落ち始めた。
そこからお前さんが戦闘では役に立たないといった千里眼が最後の決め手になったんじゃ!」
まさか俺の爺さんと父さんがそんな壮絶な戦いを繰り広げたなんて。まるで漫画のような展開だな。そんな最終決戦で現れるような魔王のような奴を相手にする爺さんか……。生きているうちに会いたかったな。
「そんでよ、最後の決め手になったのが爺ちゃんの千里眼って本当か?」
「まあ、疑うのも無理はないだろうな。儂のあの時の力は王都の人間もほとんど知らん。知っているのは王城の一部と儂の知り合いくらいなもんじゃ」
「そんなスゲェのか爺ちゃんの千里眼って?」
「そうじゃ、最初はただ遠くの方まで見通せる程度の力じゃった。それがお前さんの爺さんに戦場に連れまわされ、魔物を共に倒す日々を続けておるとな、ふとたまに見える景色に変化が起こったのじゃ。最初は目が疲れたのかと思った。だが、その変化はだんだんと目に見える形で変わっていった……」
爺ちゃんは自分の目に手をあてて、その時のことを思い出している。
「儂のこの力が真に開花したのは、さっきの化け物との戦いの最後の瞬間じゃった。もう絞るものは何もないという状態で剣を持って立ち上がった時に、その変化は完全なものとして儂の目にあらわれた。
目の前の化け物の体が急に透けて見え始めたんじゃ。奴が次にどう動くのか、儂はどのように動けばいいのかも手に取るように分かった。もう使う力が一切なかったというのも使えるようになった要因の一つだろう。今まで動く際に生じていた無駄な動きが一切なくなり、必要な動きだけを無意識のうちにこなすことにより、儂の千里眼がこの戦いでの答えを教えてくれたのじゃ。
儂の変化した千里眼であの化け物を見ると、奴の異常な再生能力の秘密が分かった。奴の触手は実は奴自身ではなく、奴に寄生していた虫の集まりじゃった。だから、いくら切り落としてもすぐに生え、切り落とした腕も動き続けたのはそういう理由があったからじゃ。
最初に奴が生き残った魔物や地面に残っていた血肉を喰らったのも、寄生していた虫を繫殖させるための栄養源にするため。
実質的に儂らは千の魔物を2度も相手にしていたというわけじゃ。そして、儂は透き通って見えた奴の体の一部に異様に脈動する部位があるのが見えた。儂は直感的にそれが奴の心臓にあたるものと判断した。
儂はレジックにそれを伝え、あやつが化け物の注意を引き付けている間に、儂がとどめの一撃を決めたんじゃ!」
速報!道具屋の爺ちゃんが鬼滅の刃の世界の住人だった件について。
まさか、爺ちゃんが透き通る世界へ到達することができる実力者だったなんて。
さっき道具屋で買ったポイポイカプセルもそうだが、この世界って実はジャンプ作品の集まりみたいな世界なんじゃないか?
「どうした?驚き過ぎて声も出ないか?」
「いや、本当に驚いたよ(いろんな意味で)それで、その後どうなったんだよ」
「その後はレジックと一緒に王都へと帰還したんだが、王都に着いたとたんにレジックの容態が悪化したんじゃ。その後は歳のせいもあってそのまま死んじまったじゃ…」
話し終わった爺ちゃんは悲しい顔をしていた。きっと俺なんかが想像もつかないような日々を過ごしたまさに戦友ってやつなんだろうな。
「そっか、俺の爺さんってそんな英雄だったんだ」
俺の知らない爺さんの話がまさかここまで
「じゃあさ、俺も爺さんみたいな男になって爺ちゃんの店を宣伝してやるよ」
「はっはっは、そりゃ頼もしいな。なら、どれか一つ買ってきな。多少は安く売ってやろう」
ふ~ん、どれか買っていけと言ってもな?俺って別に帽子を被らないし、特に欲しいものとかないしな。
少し物色するも、特に気になるようなものは…
「おっ、爺ちゃん俺これが欲しい!」
「あっ?お前そんなのが欲しいのか?」
手に取ったのは特に何の変哲もない麦わら帽子だった。
「そりゃ、儂が持って来たただの麦わら帽子じゃぞ?そんなもんよりもコッチの方がよかせんか?」
「いんや、俺はこれが気にいった!なあ爺ちゃんコレくれよ」
「お前も変わっとんの。そりゃもうお古だ。別にタダで構わんから持ってけ。その代わり、王都で名を上げたら儂の店の宣伝を忘れんなよ」
やっぱり、ちゃっかりしてんな爺ちゃんは…。
「OK!任せとけよ。王都で名を上げて爺ちゃんの店は最高だって伝えとくよ!」
じゃあ~な!と手を振って爺ちゃんと別れを済ませ、俺は王都へ続く道を走っていった。
最初の設定では爺ちゃんはただのモブだったのに、書いている途中で文章が俺の考えを上回ったストーリーを描いていきやがった。
催眠術だとか超スピードだとかそんなちゃちなもんじゃねぇ、俺は頭がどうかしちまったのか!?