俺の家にTASがやって来た 作:ニコnc
俺の家にそれは住み着いた。
いくら追い出してもあの手この手で入り込んでくる彼女の名は『TAS』。
軽く調べてみると『ツールアシステッドスピードラン』の略称らしい。
そんな彼女の特徴は普通の人とは大きく違うその美貌。
どちらかと言うと可愛さだろうか、ステータス表示があったらカンストしてそうだ。
巷じゃ金髪幼女なんて呼ばれているが目の前にいるTASは銀髪無表情。
幼女かどうかと問われると微妙な位置にいる。
「浩一さん。私は貴方の生活をアシストするためにいます」
ほーら見ろ。
名前言ってもないのに俺の名前を知ってやがる。
俺のプライバシーはどうなっているのか気になるところだ。
「はぁ……じゃあ聞きたいんだけど、アシストって何してくれんの?」
俺はもう、こいつを帰す事を諦めた。
ドアは破壊されたし、テーブルが床に埋まってるし、電球がラジオになったし。
もうやだ、色々辛い。
「何か、と問われるとありとあらゆることとしか……」
「えっとつまり、
「そうですね。理論的には多分合ってます」
果たして理論的かとなるが、もう気にする気にもなれなかった。
しかしドラ◯もんと同じか。
なんでも出来る、ね。
「じゃあなんか腹減ったな。作ってくれよ」
「わかりました」
……残念ながら、俺の家の冷蔵庫はビールしかない。
飯なんてコンビニで買ってきてってぐらいだから。
おまけに今はお金がない。
料理なんて作れるはずがないのだ。
ガチャっと言う音ともにTASが冷蔵庫を開ける。
しかし冷蔵庫には勿論何も入っていないので、見つめるだけである。
少しするとビールを一本、二本と取り出す。
と言うか二本しかないからそれ以外取り出すものがない。
そして勢いよく冷蔵庫を閉める。
次に床に埋まっているテーブルを勢いよく引き抜いた。
そしてドンってしっかり置いて、軽くテーブルの上を払う。
「な、何してるんだ……?」
つい気になって聞いてしまう。
彼女はかも当然かのようにこう言った。
「料理ですが?」
いや何処が?
なんでビール出してテーブル引っ張り出して、それで料理って言えるんだ……?
俺が幻覚を見てんのかな……。
軽く目を擦って見てみるが、やはり変な行動を取っている。
次はパカパカと冷蔵庫を開き閉めし始める。
一定のリズムで、何度も何度も。
そしてビールを一本手に取ったかと思うと全力で振った。
コレでもかってぐらいとにかく振った。
最後に全力で冷蔵庫に投げ入れて閉めた。
とんでもない音がしているが、もうこの際だから全て任せることにする。
壊したら弁償してもらおう。
そしてもう一度冷蔵庫を開けると中には
「え?」
俺は間抜けな声を出して、それを見る。
なんせさっきビールを投げ入れたのに何もなくなっているのだ。
驚かない方が無理があるだろう。
いやさっきから驚いてばっかだけどさ。
「ちょちょちょ……ビール何処行ったんだよ!?」
しかしTASは気にする様子はなく、冷蔵庫に手を突っ込んだ。
そして何かを取り出すような行動を取る。
その手には何もないのに。
もしかして俺じゃなくて
……もう考えたくないな、うん。
その見えない何かを持ったまま、皿を取り出してテーブルの上に置く。
「……えっと?」
「完成です」
「な、何を作ったんだ?」
「『無』です」
「ごめん。ちょっと何言ってるのかわからない」
なんだよ『無』って。
もうコレ新手の詐欺かなんかだろ。
そもそも食えって言うけど……見えないし。
「……コレ、食えないだろ」
「確かにそうですね」
そう言ってフォークを取り出した。
いやそこじゃない。
確かに食器がなかったら食えないけどさ、それ以前の問題なんだよ。
取り敢えず俺はフォークを手に取る。
TASのなんとも言えない視線が突き刺さる。
俺はその手にあるフォークを動かして、『無』に刺す。
何も見えないが、それを口に運ぶ。
「……なんも味しないんだけど」
そもそも食べてる感触すらない。
やっぱりコレ、新手の詐欺だろ。
TASの方を見ると、相変わらずの無表情のまま言った。
「当然でしょう。だって刺さってないですから」
「じゃあ刺した時に言ってよ!?」
「いえ、新しいギャグかと思いまして……」
「どう見たらそう見えんだよ!」
次こそはと、指を指してもらいそこに刺す。
刺した時に感触はない。
もう一度フォークを口元に運んだ。
一度噛んでみる。
「ん? んん?」
なんかよくわからない感触が口の中でしている。
グニョグニョしていて、それでいてジャリジャリしている。
だけど硬いようでとても柔らかく、それでいて新感触。
一言で表すなら……気持ち悪い?
「でもなんだこれ……美味いな」
「お口に合ったようですね」
感触のせいで味を楽しめないんだけどな。
「……なんでだろう。なんか納得できない」
俺はそのよくわからない感触と、例えようのないそれを味わいながら、これからどうしようか考えたのだった。