俺の家にTASがやって来た 作:ニコnc
随分とボロ腐ったアパート。
それが俺の住んでいるところだ。
トイレは一つ、しかも共用。
引っ越したいところだが、何せ金がない。
基本的に臨時バイトしかしないのだから、仕方ないと言えば仕方ないのだが。
「TAS」
「はい」
「さっき俺は『無』を食べたよな」
「はい」
「一つ聞かしてくれ。なんで俺の腹の中で音楽が鳴ってるんだ?」
聞いたことがあるようでない音楽。
それがずっと腹の中で流れていた。
と言っても周囲には聞こえていないようで、聞こえているのは俺だけのようだが。
てかこれあれだ、ゲームのエンディングで流れる曲によく似ている。
似ていると言うかそのものに近い。
なんだか少し怖くなってきた。
腹、破ったりしないよね。
TASは言う。
「それはエンディングですね。十分もすれば消えます」
「そっか……いやなんのエンディングだよ!?」
「…………」
「なんか言ってよ! 不安になるんだけど!?」
「
「よりにもよって!?」
もう腹の中の音楽は気にしないことにした。
『無』が美味しかったのは確かなことだから。
美味しかった、美味しかったんだ。
半分くらい虚無になりながら、歩く。
今俺たちは少し出かけていた。
俺の格好は黒パーカーと適当なズボン。
で、問題は隣を歩くTASである。
ちょっとサイバーなよくわからない服を着ている。
だから今日はなけなしの金でTASの服を買うことにした。
出かける前は少し苦労した。
だって出かけると言ったら、TASが突然アパートの二階にある鉄柵に尻くっつけて『ケツワープ』とか言うものの解説を始めたんだもん。
それではどうぞ。と言われた時はどうしようかと思った。
が、なんか壁に埋まりそうな気がしたため断固として拒否した。
そのため今はこうやって歩いている。
歩いているはずなのだが……。
「普通に、普通に歩けないのかな?」
「普通に歩いていますが?」
「何処が普通なんだよ!? 立って歩いていると言う点では普通だけどさ! 前行ったり後ろ下がったり、壁にめり込んだりしなくていいでしょ!?」
「乱数調整中です」
「……もうやだ」
結論から言うと諦めた。
とにかく気になってしょうがないが、極力無視をすることに決めた。
腹から流れる音楽のおかげで、少し無視することができたのが、なんか悲しかった。
スマホの画面を見る。
今は午後の一時を指している。
昼頃ってやつだ。
『無』を食ったが結局『無』だからか腹は膨れない。
そう言えば……。
「TASってお腹とか空いたりするのか?」
「はい。一応空きますよ」
と、壁に埋まったまま答える。
ならば普通に暮らして行く上で食費が二倍。
……二倍、かぁ。
軽く溜め息をついてスマホの画面に視線を戻す。
「悩み事ですか?」
「悩みのタネが大きすぎてね」
本当にでかい、とてもでかい悩みのタネであった。
ほんの少し歩いていると、大通りに出てくる。
壁はなくなり道路がいくつも交差している。
そして奥の方に見える四つの大きな建物。
それがこの町一番のデパート。
名前は確か『ビナーデパート』だったはず。
全三十階の四号館で構成されており、近所じゃ迷宮なんてあだ名がつけられたりしている。
「ここですか」
「ああ。大きいだろう?」
「壁抜けしやすそうですね」
「…………そりゃよかった」
俺は何とも言えない気分のまま、TASと共にデパートへと入っていった。