ブラウンシュヴァイクからフォーゲルに転生したけど、立ちはだかったのはヤン・ウェンリー(原作読破済み転生者)だった   作:ひいちゃ

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さぁ、いよいよラインハルトとヤンの戦いが、本格的に幕を開けますよ!


同盟領侵攻作戦編
第10話『毒を飲んだら皿まで。その次はテーブルまでいきますか?』


「ローエングラム公、叛乱軍領から通信が入っております」

 

 その日、外務諜報局長のオーベルシュタイン上級大将が、ラインハルトにそう告げた。

 

「叛乱軍領からだと? まさか今更降伏などと、虫のいい話は言うまい。誰からだ?」

 

 そのラインハルトの質問に、オーベルシュタインは、表情を一切変えずに返答する。

 

「はい。元自由惑星同盟最高評議会議長のヨブ・トリューニヒトという者からです」

「元議長だと?」

「はい。情報によれば、自由惑星同盟を名乗る叛乱軍領では、帝国の内乱と同時期にクーデターが二度発生し、その二度目のクーデターにより、旧政権は倒れ、新政権に移行した、とのことです」

「その倒された旧政権の長が、トリューニヒトというわけか。そんな男が何の用だ?」

 

 そのラインハルトの質問にも、オーベルシュタインはやはり表情を変えずに答える。

 

「本人の話では、我が帝国に助けを求めたい、とか。また、これは帝国にも悪くない話とも言っていますが」

「ふむ……まぁよい、つなげ」

「御意」

 

 オーベルシュタインがうなずくと、通信スクリーンに一人の男の姿が現れた。

 スーツを見事に着こなし、淡麗な容姿を持つが、その容姿の中にうさん臭さも感じる男。彼がトリューニヒトである。

 

「おぉ! 宰相閣下、通信をお受けいただき感謝いたします! なんと偉大な寛大さでありますことか!」

「世辞はよい。それで、共和主義者が、仇敵である我が帝国に助けを求めたいと聞いているが?」

 

 ラインハルトが悪意を込めてそう訪ねると、トリューニヒトはそれを意に介さず、大げさに両腕を広げて話を始めた。

 

「はい。我が自由惑星同盟でクーデターが発生したのは聞き及んでいるとは思いますが、それからというもの、この同盟はあるべき姿から逸脱したものとなっておりまして。ああ、あのにっくきアイランズとヤン・ウェンリーによって!」

 

 そのトリューニヒトの言葉に、ラインハルトは内心で苦笑を浮かべた。

 『あるべき姿から逸脱した』とはよく言ったものだ。自分が支配していた頃の、自分にとって都合のいい姿から離れれば、それは確かに『あるべき姿から逸脱した』ことになるだろう。嘘は言っていない。ただ、この言葉の前につくのが、『共和主義の』ではなく、『自分の理想に』に変わっているだけで。

 

「それで、私どもは追放されてから、同盟をあるべき姿に戻すべく、地下に潜って色々と活動しているのですが、哀しいかな、我々には十分な戦力がなく、小さなことをコツコツとすることしかできないのです」

「それで、我が帝国軍の力を借りたい、と? だがそれでは、我々がこれに乗じて、同盟とやらを乗っ取ってしまうかもしれぬぞ?」

 

 ラインハルトが意地悪にそういうと、トリューニヒトはこれまた大げさに頭を抱えた。

 

「おぉ、それは困ります! とても困ります! ですが、もはや今となっては、そのリスクを抱えながらも帝国の力を借りざるを得ないのでして……」

 

 そのトリューニヒトの言葉を聞き、オーベルシュタインの眉がかすかに動いた。本当にかすかに、だったが。

 

「もちろん、ただでとは言いません。もし同盟領に侵攻し、助力していただけるのでしたら、私や、私が指揮するグループ『トリューニヒトの子ら(トリューニヒツ・チルドレン)』も、それに報いるべく、ささやかながら助力いたしましょう! それともう一つ、貴重な情報を差し上げましょう。これを聞けば、同盟領に侵攻する気がさらに増すこと間違いなしですぞ」

「ほう?」

「実は、我が同盟領に、先の帝国領内の反乱で敗北し、逃れてきた門閥貴族の残党が潜んでいるのですよ。いかがです?」

「ほう……」

 

 それは無視できない情報であった。『叛乱軍領内に逃げ込んだ門閥貴族の残党を討伐する』のなら、それは立派な大義名分となりうる。もちろん、情報を提供し、協力を申し出たトリューニヒトを助けることも忘れてはならないが、それは副次的な目的になるであろう。

 

「……わかった。検討してみよう。ただ、過度に期待されても困るがな」

「わかっております。ですが、なにとぞ、なにとぞお願いいたしますぞ!」

 

 そして通信は切れた。

 ラインハルトは息をつき、オーベルシュタインに顔を向けた。

 

「どう思う? オーベルシュタイン」

「あの男、油断ならぬかと。あの男の顔は、ありとあらゆるものを利用して、復権し、頂上に返り咲くのを目論んでいる顔とお見受けします」

「そういう点では、卿と似た者同士だな。同類は同類を知る、というところか」

「……否定はいたしません」

 

 オーベルシュタインは表情を変えず、そう返した。

 だが、ラインハルトはあえて言及しなかったが、彼とトリューニヒトを同列に扱うのは誤りである。

 トリューニヒトが、周囲を利用し、謀略に張り巡らすのは私利私欲によるものだが、オーベルシュタインが謀略を使うのは、かつてはゴールデンバウム朝を破壊するため、そして今は、新たな覇者・ラインハルトを盛り立てるためなのだから。

 それを肌でわかっているから、ラインハルトの言葉には皮肉はあっても、悪意はなかったし、オーベルシュタインも悪意を示すことはなかった。

 

「まぁ、トリューニヒトの人格の話はよい。問題は、これは叛乱軍領に攻め込む好機ではあろうが、果たしてあのトリューニヒト、頼りになるかどうか、我らを裏切らないかどうか、だ」

「どちらの答えも否、とお答えしておきます。地下に潜って活動するレベルの大きさでは、叛乱軍に対して戦略レベルどころか戦術レベルの被害を与えるのは至難でしょうし、裏切って我が軍に攻撃してきても同じ。我が軍に牙を剥けば、あっという間に潰されているのは目に見えています。あの男がそれがわからぬはずはありますまい」

「ふむ。ということは、あの男は大義名分以上に頼りにしないほうがよく、過度に警戒する必要もない、ということか」

「御意」

「わかった。キルヒアイスやミッターマイヤー、ロイエンタールと、この件について検討することにしよう」

「は……」

 

 そしてオーベルシュタインは退出した。

 

* * * * *

 

 さて、イゼルローン要塞に帰着してから数日後、また出兵の話がきた。本当に、そろそろ骨休みしたいのに、せわしない話だ。

 

 話によれば、叛乱軍の領内から、帝国に助けを求める通信が届き、それと叛乱軍領内に逃げ込んだという門閥貴族の残党の討伐を口実に、叛乱軍領に侵攻して橋頭保を再び築き、あわよくば叛乱軍の首都星まで攻め込もう、という話になったらしい。

 共和主義者が、敵である専制主義の帝国に助けを求めるのはいかがなものか、と思ったが、他に頼るものがなければそれもやむを得ないことかもしれない。

 

 ただ一つ問題は、その通信の主であるヨブ・トリューニヒトはあまり良い評判のある人物ではない、ということだ。叛乱軍との最前線にあるイゼルローンにいるので、叛乱軍の情報はよく飛び込んでくる。が、その情報のいずれも、トリューニヒトは良い人物ではないことを示していた。

 政権にいたころは、自分の反対者を私兵を用いて陰で潰していた、とか、宗教テロリスト・地球教と結んでいた、とか、クーデターの時には雲隠れして難を逃れ、クーデターが収束したころにひょっこりと現れてトップについた、とかそんな話ばかりだ。

 そんな奴の話を真に受けていいものかどうか、嬉々として攻め込んだら、後ろから刺されるのではないか、という懸念があったが、ローエングラム公の話では、トリューニヒトの地下勢力はとても小さく、例え帝国に牙を剥いたとしても大した影響はないから大丈夫、ということだ。

 

 さて、作戦についてだが、我が艦隊群は今回は舞台裏だ。

 叛乱軍は前線司令部をアスターテ星域に置いている、という。そこで我が艦隊群はヴァンフリート星域に進出して、そのアスターテの敵軍をけん制することになった。その間に、ローエングラム公率いる主力がティアマト方面から攻め込む、という寸法だ。

 なぜ、ヴァンフリートやアルレスハイムの方から攻め込まないか、というと、そちらから攻めた場合、敵の拠点があるアスターテを通らなければならないからだ。それに、三方向から攻めた場合、それだけ戦力の分散を招くことになる。

 

 まぁ、舞台裏とはいえ、手を抜くわけにはいかない。やるべきことをやらなければな。

 

 わしはさっそく、艦隊の整備を始めた。

 

* * * * *

 

 一方そのころ。アスターテ星域の惑星アトラ・ハシース。

 

 その惑星上のヤン独立軍司令部に、ヤン・ウェンリーは降り立った。

 指令室にやってきた彼を、先に到着していたスタッフや艦隊司令官たちが出迎える。

 

「ヤン・ウェンリー大将だ。これからよろしく頼むよ」

「先輩、お待ちしてましたよ。また一緒につる……戦えることになって嬉しいです」

「相変わらずだね、アッテンボロー。一緒につるむことができて、と素直に言っていいんだよ」

 

 そのヤンに、まじめそうな男……総参謀長のムライ少将がせきばらいする。

 

「……こほん、提督。よろしくお願いします。真面目に」

「あ、あぁ、ムライ少将、よろしく頼むよ」

「パトリチェフ准将です。よろしく頼みます。はっはっはっ!」

 

 その豪快に笑いながらあいさつしたパトリチェフは、ヤンの背中を大きくたたき、彼は大きくせき込んだ。

 

 そしてそこに、フレデリカがやってきた。

 

「ん、どうしたのかな? グリーンヒル大尉」

「はい。情報部からの報告で、帝国軍が同盟領への本格的な侵攻作戦を開始したそうです」

 

 それを聞き、ヤンの顔がまじめになる。

 

「着任してさっそくか。まさか、プラン・アルファよりベータのほうが先になるとは思わなかったな。わかった。情報部には、帝国軍の動きを早く正確につかむように言ってくれ」

「わかりました」

「おそらく今度の作戦は、帝国軍の動きと、それを知ることが鍵だ。しっかり調査するように言ってくれ。くれぐれも……」

「はい。猫の餌係という評価がつかないように、ですね。了解しました」

 

 そう言って、ヤンとフレデリカはお互いうなずきあう。

 その意味がわかったのは、彼ら二人しかいなかったが。

 

 それはともあれ。

 

 帝国のラインハルトとフォーゲル、そして同盟のヤン・ウェンリー。

 銀河を代表する英雄たちの最初の対決が、いよいよ始まろうとしていた―――。

 

 




最後の『猫の餌』係という表現は、星界シリーズからのものです。
二人とも、あのアニメを見ていた、ということで。

いよいよ、ここからいよいよ戦いが始まりますよ!

次回『大騒ぎの前』

転生提督の歴史が、また1ページ
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