ブラウンシュヴァイクからフォーゲルに転生したけど、立ちはだかったのはヤン・ウェンリー(原作読破済み転生者)だった 作:ひいちゃ
アスターテ星域、惑星アトラ・ハシースのヤン独立軍司令部。
そこの作戦室で、フレデリカがヤンに最新の報告を行っている。
「ティアマト、ダゴン、エルゴン各星域の惑星からの全住民、全物資の引き上げは80%ほど完了した、とのことです」
「そうか、順調のようだな。先輩、ありがとうございます。助かりましたよ」
ヤンがそうぺこりと軽く頭を下げると、独立軍の兵站担当参謀であるキャゼルヌは渋い顔をして答えた。
「お前はそう頭を下げるだけで済むがな。こちらは大変だったんだぞ。兵站がパンクするかと思った。もしパンクしたらどうするつもりだったんだ?」
「いえ、キャゼルヌ先輩だったら、パンクさせずにやってくれると信じてましたよ」
それは本心である。前世で銀英伝を読み込んだ彼としては、キャゼルヌがこれだけのことを兵站をパンクさせずにやってのける力があると知っていたし、信じていたのである。
「それで例の件はどうかな?」
「はい。『彼ら』は既に所定のポイントに到達。補給艦隊襲撃の準備を整えている、とのことです。しかし閣下、本当に彼らを信用して使ってもいいのでしょうか?」
フレデリカにそう聞かれると、ヤンは頭をかいて返事した。
「あぁ。パストーレ元中将やストークス元少将がお目付け役としてついてるから大丈夫だと思うよ。それに、政府としては『共和主義のすばらしさに目覚めた貴族たちに力を貸す』という名分があるから、波風が立つこともない。何より、使えるものは何でも利用しないとね」
* * * * *
一方そのころ。ティアマト外縁部の小惑星帯に、ある艦隊が伏せていた。
構成されている艦はどれも、帝国軍の標準型戦艦である。しかしその色は、一般艦隊のものとも、黒色槍騎兵のものとも違い、同盟軍の戦艦と同じ緑色に塗装されていた。
そのうちの一隻の艦橋に立つ男に、オペレーターが報告する。
「男爵閣下、軍事補佐官殿、間もなく、敵補給艦隊が襲撃ポイントに到達します」
その報告を受けた同盟軍軍服を着た男……パストーレが、片割れに立つ男に丁寧に声をかける。
「男爵閣下、いよいよ我々の初陣です。各員に激励の言葉をお願いします」
「うむ! 皆の者! いよいよ我々、正統なる帝国貴族が集う銀河帝国正統政府軍の初陣である! 帝国を再び我ら正しき貴族たちの手に取り戻し、あの金髪の孺子に一泡吹かせるのだ! 皆の力、この私、フレーゲル男爵に貸してほしい!」
その言葉に、艦橋から、そして周囲の艦からも歓声があがる。もっとも、歓声を上げたのは、フレーゲルと同じ貴族たちだけであったが。
「お見事でした、男爵閣下。よし、全艦、戦闘配置!」
フレーゲルを差し置いて、戦闘準備の指揮をとるパストーレに、フレーゲルは顔をしかめて抗議する。
「あの、助けてもらってこんなことを言うのもなんだが、パストーレ軍事補佐官殿。この正統政府軍の首魁は私なのだが……」
「何を言っているのです、フレーゲル男爵殿。組織のトップたる者は、実際の指揮は下の者に任せ、椅子にどっしりと座って構えていればいいのです。それも真の貴族のふるまいですぞ」
「そうか、そうだな! それではパストーレ軍事補佐官殿、ストークス副軍事補佐官殿。後のことはよろしく頼むぞ!」
「了……御意」
うまくフレーゲルを言いくるめ……もとい、納得させて艦隊指揮に戻るパストーレ。なお、うまくフレーゲルを説得することができたのは、ヤンが前世の記憶をもとに記した『門閥貴族説得マニュアル』のおかげだということを、フレーゲルは知らない。
かくして、『銀河帝国正統政府軍』の新緑の艦隊は、猛然と目の前の補給艦隊に襲い掛かった!
護衛艦隊が迎撃に動く前に、正統政府軍の各艦は機先を制し、レーザーやミサイルを発射し、敵を次々と沈めていく。
パストーレの指揮は実に見事であった。彼は、護衛艦隊を沈めながら、輸送艦を重点的に攻撃していったのだ。
かくして、戦闘が終わったころには、ほとんどの輸送艦は宇宙の塵となっていた。
それを見たパストーレは矢継ぎ早に指示を出す。
「よし、長居は無用だ! ただちにこの星域を離脱するぞ!」
「なに? パストーレ軍事補佐官殿。このまま孺子を潰しにいくのではないのか?」
また異論を述べてくるフレーゲルに、パストーレは『門閥貴族説得マニュアル』の内容を思い返しながら返答する。
「いえ、ローエングラム公の艦隊はいまだ強力です。今挑んでもただ踏みつぶされるだけでしょう。ここは敵の戦力を少しずつ削り取っていくのが肝要です。偉大なフレーゲル男爵閣下なら、言わなくてもおわかりのことだと思いますが」
「おぉ、そうだな! パストーレ軍事補佐官殿の言うとおりだ! よし、軍事補佐官殿。その方に任せるぞ!」
「ははっ」
見事にフレーゲルを手玉にとり誘導していくパストーレの手腕に、フレーゲルの参謀であったシューマッハは目を輝かせるのであった。なお、彼もこの手腕が『門閥貴族説得マニュアル』のおかげだということを知らない。
* * * * *
一方、ラインハルト率いる帝国軍侵攻艦隊本隊は順調、どころか出来すぎているほど順調に進軍していた。
総旗艦ブリュンヒルトの中で、ラインハルトは各艦隊からの報告を受け取る。
「閣下、エルゴン星域のレンネンカンプ艦隊より報告。星域内の各惑星を制圧した、とのことです」
「ふむ。ティアマトのルッツ、ワーレン艦隊のほうはどうだ?」
「はい。そちらも滞りなく制圧したとのことです。ただ……」
「ただ?」
ラインハルトは、眉をぴくりと動かし、報告してきた副官のシュトライトのほうを見た。
「ルッツ艦隊からの報告では、惑星アンシャルの市街地には一人の市民も見当たらず、物資もほとんど見当たらないと」
「なに?」
ラインハルトはその報告に違和感を感じた。市民が見当たらない、というのはあり得ない話ではない。政府が市民が戦火にさらされるのを防ぐため、内地のほうへ避難させることも考えられるからだ。しかし、物資がほとんど見当たらない、というのは……。
「各艦隊に伝達せよ。各艦隊が担当した惑星の市街地の様子を至急確認せよ、と。それと、補給艦隊にも状況を確認させよ」
「了解しました」
そして結果はすぐに出た。
「惑星ラームのワーレン艦隊より報告、やはり市民、物資ともに存在せず、と」
「惑星シャンプールのレンネンカンプより報告。市街地はまるでゴーストタウンのようになっており、物資も見当たらず、とのことです」
「惑星ウォフ・マナフのケンプ艦隊より報告。市民の姿は見当たらず、物資倉庫は全て空。住宅にも一切の物資はなかった、ということです!」
次々と報告がもたらされる。そのたびに、ラインハルトの表情が険しくなっていく。
そして決定的な報告がもたらされた。
「か、閣下! 補給艦隊からの応答ありません! 通信途絶!」
それを聞いてラインハルトはいきなり立ち上がった。幕僚たちが何事かと彼の方を向く。
「してやられたか! 各艦隊、ただちに撤収の準備をせよ!」
「閣下!?」
「叛乱軍は我々を領内の奥深くまで誘引し、焦土戦術と補給線の寸断により物資不足に陥れ、それによって士気が低下したところを一気に叩きつぶす腹積もりだ!!」
* * * * *
ラインハルトが全軍撤退を決めた直後の、惑星アトラ・ハシース。
その衛星軌道上に浮かぶヤン独立軍艦隊、その総旗艦であるヒューベリオンの艦橋に座り込んでいるヤンの元に、フレデリカが報告にやってきた。
「閣下。帝国軍に動きがありました。撤退にかかっているようです」
「こちらの狙いに気づいたか。こちらの想定より早く気付くとは、さすがローエングラム公というところだね」
「同感です。ですが、どうしますか?」
「何、確かに想定より早かったけど、まだ十分挽回は可能は範囲だよ。同盟軍主力艦隊のビュコック長官に打電してくれ。急いでエルゴン星系になだれ込み、そこの帝国軍艦隊を叩き潰すとともに、帝国軍をティアマトに追い込んでくれ、ってね」
「わかりました」
そしてヤンは頭を一度かくと、自分の前方にいる独立軍主力艦隊副指令のフィッシャー准将に指示を出した。
「フィッシャー准将。独立軍各艦隊に伝達。我が主力艦隊とアッテンボロー艦隊、モートン艦隊はただちに出撃。アスターテとティアマトの境界付近に布陣する。カールセン艦隊は引き続きここに駐屯し、ヴァンフリートの敵軍をけん制してくれ」
「了解しました」
「任せてください先輩。腕がなりますよ」
「了解いたしました」
「了解です。艦隊戦の晴れ舞台に出れないのは少し残念ですが、拠点を守るというこの大任、果たさせていただきます」
そう気負って言うカールセン少将に、ヤンは頭をかいて言う。
「カールセン提督、くれぐれも無理はしないようにね。せいぜい、我々がローエングラム公をたたくまでの時間稼ぎをしておいてくれればいいよ。無理に奴らを撃破する必要はない。アスターテが無事ならそれでいいんだ。必要とあればアレらを使ってくれても構わないから」
「了解いたしました。お墨付きを頂きましたので、使えるものはなんでも使わせていただきます」
「あぁ、よろしく頼む。それでは全艦、発進!」
そして、ヤンの号令一下、ヤン独立軍の3個艦隊はアトラ・ハシースを発ち、目的地へと向かった。
帝国軍と同盟軍。その最初の決戦にして、ラインハルト最初の危機がまもなく、始まろうとしている……!
さてさて! 原作アムリッツァでの同盟軍の立場に陥った帝国軍。(まぁあれよりはいくらかましですが)
果たしてラインハルト、そして帝国軍の運命は!?
次回、ついにラインハルト側に戦死者が出ます!
次回
『さらば、提督レンネンカンプ~愛(?)の戦士たち』
転生提督の歴史が、また1ページ
追伸
サブタイの元ネタは言うまでもなく、某宇宙戦艦からです(笑