ブラウンシュヴァイクからフォーゲルに転生したけど、立ちはだかったのはヤン・ウェンリー(原作読破済み転生者)だった   作:ひいちゃ

16 / 34
第16話『次なる戦いへの序曲(オーバーチュア)』

「ラインハルト様、ご無事で何よりです」

「あぁ、フォーゲル上級大将や、何よりお前のおかげだ。ありがとう」

 

 宰相府で、キルヒアイスにそう声をかけられたラインハルトは、そう返すと宰相府の椅子に座った。

 

「しかし、今回の戦いでの損害は無視しえないものがあった。艦隊も再編にかなりの時間を要するほどダメージを受け、何よりもルッツ、レンネンカンプの戦死……。しばらく我が軍は動けまい。イゼルローンとフォーゲルがいまだ健在で、叛乱軍がイゼルローンから攻めてきても問題がないのが、せめてもの救いか」

「確かにイゼルローンから彼らが攻めてきても、イゼルローンとフォーゲル上級大将がいる限り、攻略されることはないでしょう。ですが、問題は……」

 

 キルヒアイスがそう懸念を述べると、彼を言おうとしてることを読み取ったラインハルトが、顔をしかめた。

 

「わかっている。フェザーンのことだろう。俺でさえ、フェザーンを通って侵攻することを考えているくらいだ。あれだけの戦略をやってのけた叛乱軍の首脳がそれに気づかないわけがない。気づかないと思っているのは、門閥レベルの無能か、思考停止してるやつぐらいだ」

 

 そこでラインハルトは一度言葉を切ると、窓の外を見やり、「だが」と続けた。

 

「大きな損害を受けた我が軍に今、フェザーンのほうを警戒する余裕がない。いずれはそちらを警戒するための艦隊群を創設する必要はあるが、今の状態ではな……。願わくば、しばらく奴らが、イゼルローンのほうに固執してくれることを願いたいが……。今はまずは軍の再編成が急務だ」

「そうですね……」

 

* * * * *

 

 一方そのころ。自由惑星同盟領、アスターテ星域の惑星アトラ・ハシース。

 ヤン独立軍が戦いを終えて帰還して数日後。全てのスタッフが到着し、ここにヤン独立軍は、晴れて正式に始動とあいなった。前回の戦いは、あくまで帝国軍が急に侵攻してきたので、非公式な初始動となっていたのである。

 

 さて、そんな中、ヤン・ウェンリーは司令官室で、面白くなさそうな顔をしていた。その彼に、フレデリカが声をかける。

 

「ヤン様、どうなさったのですか?」

「あぁ。せっかく、アムリッツァと似た状況に帝国軍を陥れたのに、ちょっと詰めを誤って、和平を打診することも、ローエングラム公を討つこともどちらもかなわなかったのが残念でね」

「ああ……確かにそれは惜しかったですよね。でも、原作でも、ローエングラム公は我が軍にとどめを刺すことができなかったじゃないですか。ヤン様のおかげでしたけど」

 

 フレデリカがそう言うと、ヤンは少し考えた後に、あることに気が付いて顔をあげた。

 

「あぁ、そうだけどね。原作、か……。そういえば、原作では、トリューニヒト氏は帝国に共和主義を根付かせ、自分がそのトップに立つために、帝国内にコネを広げていたんだっけ」

「はい。確か、彼が殺された段階では、かなりの確率で実現できるレベルまで進んでいた、とか……」

「そう考えると、彼がどれだけ怪物だったのかがわかるね。トリューニヒト氏が死んだときは、ロイエンタール提督グッジョブと思ったけど」

「えぇ、私など、『ブラボー!』と叫んで、前世での母に怒られちゃいました」

 

 そう言って、べろっと舌を出すフレデリカに、ヤンは苦笑した。

 

「ははは……まぁ、それはともかく、やはり帝国との和平にこぎつけるためには、コネは必要なのかもしれないな。あの時、和平がしっかりなると確信を抱いていれば、躊躇することはなかったかもしれないんだから。……というわけで大尉。情報部に、帝国とのコネについての情報について調査するように要請を出しておいてくれないか。特に、キルヒアイス軍務尚書について重点的に」

「はい、わかりました」

「あと……これについても。プラン・ガンマを発動するさいに、必要になるだろうから」

 

 そう言って、ヤンはフレデリカに数ページほどの薄い書類を手渡した。

 

「了解しました。それではさっそく行ってきます」

 

* * * * *

 

 一方、イゼルローン要塞。

 そこで、ある命令を受けたわしは、司令官室にバルトハウザー准将を呼び出した。

 

「何か用でありましょうか、フォーゲル司令?」

「うむ、実はな……。これは私にとっても沈痛なのだが」

「はい」

「貴官を、私の副官の任から外すことになった」

「えぇ!?」

 

 バルトハウザーがいかにもショックを受けました、という表情を浮かべた。

 まぁ、そりゃそうだ。わしもローエングラム司令長官からその話を聞いた時には、同じ表情をしたしな。

 

「し、司令。小官は何か不手際をしましたでしょうか? そうでしたら謝罪します。ですからどうか、これからも司令のそばに……」

「ま、まぁ、落ち着け、バルトハウザー。これは左遷ではない。むしろ栄転だ」

「はい?」

 

 わしは、きょとんとしたバルトハウザーにあるものを渡した。それは、帝国軍少将の階級章だ。

 

「おめでとう、バルトハウザー『少将』。貴官……いや卿は少将に昇格し、半個艦隊の司令官になった」

「は?」

 

 きょとんとしたままのバルトハウザーに、わしは苦笑して話をつづけた。

 

「実はな。先の戦いで、レンネンカンプ元帥とルッツ元帥が戦死したことを受け、彼らの穴を埋めるためと、後進育成のため、若手の准将クラス士官の中で有望な者を艦隊司令に取り立てることになった」

「はぁ……。小官もその一人に選ばれたわけでありますか」

「そうだ。貴官の他にもう一人、グリルパルツァーという者が内定したが、卿らにはレンネンカンプ元帥とルッツ元帥の残存艦隊を再編したうえで、半個艦隊ずつ与えられることになった」

「……」

 

 沈黙しているバルトハウザー。おっと、そうだ。これも言ってやって安心させてやらねば。

 

「安心したまえ、バルトハウザー少将。しばらくの間、卿はグリルパルツァー少将とともに、私の指揮下で実戦経験を積んでもらうことになっている」

「そうですか……それは安心しました」

 

 バルトハウザーはほっと一息ついた。よほど、わしから離れるのが嫌だったんだな。そう思ってもらって嬉しい限りだが。

 

「これは、先ほども言った通り、卿が有望な人材だと、ローエングラム公が判断されたゆえだ。彼の期待を裏切らないように」

「はっ! 失礼します!」

 

 そう敬礼すると、バルトハウザーは退室していった。わしのデスクの上には少将の階級章が置いたままになってたし、出す手と足がそろっていたが、まぁ、彼の名誉のためにもわしの心の中にしまっておいてやろう。

 

 しかし、バルトハウザーが副官から外れると少し寂しくなるな。

 新しい副官候補を探すとするか……今度は女性がいいかな……いやダメだ。わしには、シュザンナがいるのだ。

 




次回はいよいよ、新章突入!
あの戦いに向けてヤンが再始動! そして、シロッコも?

次回『シロッコのささやかなる蠢動』

転生提督の歴史が、また1ページ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。