ブラウンシュヴァイクからフォーゲルに転生したけど、立ちはだかったのはヤン・ウェンリー(原作読破済み転生者)だった   作:ひいちゃ

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さぁ、いよいよ新章開幕です!

さっそく、シロッコがルビンスキーの意思から離れて動き出しそう……?


イゼルローン攻略戦編
第17話『シロッコのささやかな蠢動』


 アスターテ星域の惑星アトラ・ハシース。

 その星にある、ヤン独立軍司令部にて、ヤンは昼寝から目覚めた。

 

「さて……」

「何か?」

 

 どこかで聞いたような声。その声に、ヤンが顔を上げると。

 

「うわぁっ! ぐ、グリーンヒル大尉。どうしてここに?」

「いえ、今日の分の書類をお持ちしたのですが……」

 

 そう、すぐ目の前にフレデリカの姿があった。それは、ヤンならずとも驚く。

 

「そんなびっくりすることはやめてくれよ。私はもう、心臓に無用な心配をしなくて済む年齢じゃないんだ。……それで、いつからここにいたんだい?」

「はい。一時間ほど前から。ヤン様の寝顔、とても素敵でした」

「……」

 

 腐女子、おそるべし……。

 改めてそう感じるヤンであった。

 

「それで、『さて』とおっしゃってましたが、いかがなさったのですか?」

「いや。我が軍の戦力もだいぶ再編できてきたし、そろそろプラン・アルファ……イゼルローン攻略に取り掛かろうかと思ってね」

 

 あれから約1カ月。同盟軍は、第7次ティアマト会戦で失った戦力を回復しつつあった。特に、ヤン独立軍は『帝国との和平に結び付けるための戦い』という戦略の要だけあって、優先的に戦力の回復が行われ、今では再び作戦活動が可能なほどに再編ができていた。

 帝国軍も戦力の復旧を進めているのだが、最前線のフォーゲル機動艦隊群兼イゼルローン方面軍を除けば、まだ半数ほどが再編ができていない状況である。

 

「イゼルローン攻略戦ですか……。原作でのヤン様の晴れ舞台ですよね。今回もあのような華麗な戦術が見られるかと思うと、わくわくします」

「そう言ってもらえると嬉しいけどね。でもどうだろう。今回あそこにいるのは、ゼークト提督ではなく、精鋭のフォーゲル機動艦隊群だからね。そう一筋縄ではいかないだろうな」

「そうですね……。でも、ヤン様だったら大丈夫だと信じてます」

「ありがとう。それじゃ、そこで待っていてくれるかな。今、さっそく作戦案を練るから」

「はい。ヤン様の作戦案を作ってるときの真剣な顔も素敵ですから、見てて飽きません」

「……」

 

 腐女子おそるべし……。

 

* * * * *

 

 一方、フェザーンの自治領主公館。

 その秘書室で、パフティマス・シロッコは、同盟領からのある情報に目を通していた。それは、アトラ・ハシースに潜りこませていた工作員からもたらされた、同盟軍がイゼルローンを攻略しようとしている、という情報であった。

 ヤン独立軍のセキュリティは非常に硬く、詳しい作戦案まではわからなかったが『参戦するのはヤン独立軍のみ』『艦隊戦ではなく、それ以外の方法で攻略する』という情報だけは判明している。

 だが鋭利な頭脳を持つシロッコは、この二つの情報だけで、ヤンがどのような作戦をもってイゼルローンを攻略するのかを導き出していた。

 

 だが、シロッコは、その作戦の情報や、自分の推測は胸の中に秘め、上司たるルビンスキーには同盟軍がイゼルローン攻略をしようとしていることだけを話す腹積もりでいた。

 それはなぜか。

 

(ルビンスキーはそれを知れば、帝国軍にリークして、作戦を失敗させようとするだろうが……。ここは帝国と同盟のバランスを保つよりも、むしろ同盟に加担して、彼らに帝国を倒させ、そして全宇宙を支配した同盟を、天才たる私が裏から支配するのが一番だ。情報によればヤン・ウェンリーは、戦いが終われば軍を退役するつもりだそうだし、奴がいなくなれば俗人どもが支配している同盟など、私の手でどうとでもなる。そのためには、こちらからも帝国軍に手をまわし、ヤン・ウェンリーの作戦を裏から助けてやるのも面白い)

 

 そう考えをまとめると、シロッコは、情報が記されたレポートを握りつぶすと、極秘回線をあるところへつないだ。

 その通信の先は……。

 

* * * * *

 

 一方、そのころ、イゼルローン要塞。

 

「グリルパルツァー少将です。よろしくお願いします」

「うむ。私が、このイゼルローン方面軍を預かる、フォーゲル機動艦隊群司令、フォーゲル上級大将だ。よろしく頼む」

「はっ!」

 

 グリルパルツァーと名乗るその若者は、わしにきりっと敬礼を送ると、すたすたと去っていった。実に凛々しくしっかりした若者だ。どこかのフォーゲルにも見習ってほしいものだ。だが……。

 

「何か?」

 

 わしの傍らに立っていた参謀長のナイゼバッハ中将がそう聞いてきた。おっと、また口に出ていたか。

 

「いや、あのグリルパルツァー少将の瞳、かなり野心を秘めていたような気がしたのでな。それが原因で、大変なことにならなければいいが、と思っただけだ」

「はぁ」

「まぁいい。それではさっそく、演習に出てくる。要塞のほうは任せるぞ」

「了解しました」

 

 そう言葉を交わすと、わしは愛艦のシェルフスタットⅡに乗り込んだ。

 

* * * * *

 

 グリルパルツァー艦隊旗艦、エイストラ。

 その艦橋で、彼はたたずみながら、あることを考えていた。

 

(フェザーンめ。一体何を考えていることか。私が同盟からの亡命者を名乗る者をイゼルローン要塞に収容する手助けをすれば、裏で手をまわし、昇進に便宜が図られるようにしてやるなどと……しかも、失敗して窮地に陥っても、亡命させてくれるうえに、その手はずまで整えてくれるなどと至れり尽くせりな……。だがまあいい。これで私が昇格するのなら、むしろ安いくらいだ)

 

 だが彼は知らない。そのフェザーンの取引が、実はその帝国を窮地に陥れるためのものだということ。そしてこれが、自分が奈落に落ちるもとになるということを……。

 




次回はいよいよ、イゼルローン攻略の本編に入ります!
お楽しみにしてくれると嬉しいです。

次回
『薔薇の騎士、と言っても男色じゃないそうです(前編)』

転生提督の歴史が、また1ページ

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