ブラウンシュヴァイクからフォーゲルに転生したけど、立ちはだかったのはヤン・ウェンリー(原作読破済み転生者)だった 作:ひいちゃ
そして、フェザーンではついに……!
シロッコは、自室にて、帝国と同盟の軍事情報を見つめて、顔をしかめていた。
帝国軍が、彼の予想を上回る早さで、フェザーンの周辺星域に艦隊を集結させているのだ。この調子でいけば、同盟軍がフェザーンに到着するころには、既に帝国軍艦隊は同盟軍に備える体制ができているだろう。
「迅速すぎる……。ルビンスキーが先手を打って、詳細な情報を帝国にリークしたか、それとも、帝国側が極めて有能なのか……。だが……」
だが、この程度の誤算であれば十分取り返すことができると、シロッコは読んでいた。帝国軍の集結を遅らせ、同盟軍が作戦を成し遂げるための時間を稼ぐための手を、彼は持っているのだ。
彼は、某所に極秘回線で通信を入れた。
* * * * *
そのころ。フェザーンに近いアイゼンヘルツ星域に向かっている艦隊があった。カルナップ艦隊。第七次ティアマト会戦での損害を補うために編成された、新しい艦隊である。
その旗艦ルーゲントの艦橋に立つカルナップ少将は、仁王立ちしたまま、傍らの副官に尋ねる。
「後続の艦隊はどうだ?」
「はっ。ミッターマイヤー上級大将、ロイエンタール上級大将の各艦隊は、出撃準備でのトラブルより出撃が多少遅れてしまいましたが、それでも順調に進んでおります。ですが、トゥルナイゼン少将、アルトリンゲン少将、ブラウヒッチ少将、ザウケン少将らの艦隊は、何者かの妨害工作により、かなり進行が滞っております。おそらく、真っ先にアイゼンヘルツに到着するのは我が艦隊が先かと」
「そうか。何が事が起こった時、おそらく我が艦隊が真っ先に対処をすることになろう。その心構えをするよう、各員に……」
「て、提督!」
「なんだ!?」
オペレーターに、そうカルナップが聞き返した時、突然艦隊の後背で爆発が起こった。艦隊の後尾の輸送艦が突然爆発を起こしたのだ。それと連動するように、次々と、輸送艦が爆沈していく。
その爆発の衝撃波で、ルーゲントは揺れに揺れた。
* * * * *
「偉大なる天才、そして偉大な地球、ばんざーい!」
ある輸送艦の中。
帝国軍の軍服を着た男がそう叫ぶと、小型の低周波爆弾を起爆させる。彼が自爆したのは、輸送艦のヘリウム3貯蔵庫で、その爆発で、積んでいたヘリウム3が核反応を起こし、艦全体をも爆散させる大爆発を起こした。
また別の輸送艦では。
「ぐはっ! ふふふ……世界は天才の手で……ぐふ」
艦橋にて、不正な操作をしていた、機関担当の乗組員が射殺される。しかし、時すでに遅く、彼の手によって暴走させられた核融合炉はやがて臨界を迎え、中の乗員ごと、自らが搭載されていた輸送艦を宇宙の藻屑とした。
怪しい者たちによる艦隊への妨害工作。それはカルナップ艦隊だけではなく、アイゼルヘルツに向かっている各艦隊で起こっていた。
幸いながらに、ロイエンタールらを始めとした上級大将の歴戦の提督たちは、その適切な対処もあって、被害は最小限で済んでいたが、問題はカルナップ艦隊を始めとした、新設の小艦隊である。
彼らの艦隊はまだ編成まもなく、人員のチェックも十分甘かったので、被害がより拡大していたのである。
この工作により、帝国軍の集結はかなりの遅れを余儀なくされた。
* * * * *
「これはいかんな……」
……という報告を、わしはアムリッツァ星域の惑星クラインゲルトに設営された、艦隊群司令部にて受け取っていた。
幸いながらに、わしはそれほどイゼルローン失陥の責任を問われることはなく、イゼルローン方面軍司令官の役を解任されるだけで済んだ。キルヒアイス軍務尚書が秘策を用意してくれたおかげだ。本当に感謝の言葉しかないわい。
あ、もちろん、途中でオフレッサーが閉じ込められたカプセルを回収したのは言うまでもない。
さて。
「はい。ミッターマイヤー提督たちが指揮している主力級の艦隊では、被害はそれほどでもなかったようですが、それでも、破壊工作への対処のため、一時行軍を停止しているそうです。本当にほれぼれするような工作です」
「ははは……。しかし、笑ったり、感心してばかりいるわけにもいくまい。まさかとは思うが、我が艦隊群にも工作員が紛れ込んでいる可能性は否定できぬ。彼らに、この司令部施設の機能を破壊されたら一大事だ」
「工作員のあぶり出しを行いますか?」
「そうだな。……そうだ、オフレッサーに工作員摘発の指揮をやらせよう。彼に勝てる者はおらんし、頭の切れる奴を補佐につけてやれば、してやられることもあるまい。ナイゼバッハに補佐をさせよう」
「了解しました。しかし、本当に素晴らしい手を打ってきますね。私が弟子入りしたくなるほどに。やはり、あの同盟軍の提督の仕業なのでしょうか?」
そのナギ大尉の疑問を、わしは首を振って否定した。
「いや、それはあるまい。わざとトゥールハンマーを外すような人道的な指揮官が、こんな破壊工作なんかやるはずがない。もし彼がそんな人間だったら、わしらは今頃ここにはいなかっただろう」
「確かにそうですね……」
ナギ大尉は、そういうと、体をぶるっと震わせた。やはり、あのイゼルローンでトゥールハンマーにやられかけたことが、トラウマにでもなっているのだろうか。
「大丈夫か、ナギ大尉? なんなら、わしが肩を抱いてやろうか?」
「結構です。さすがに35才以上の老人は範囲外ですので。それに、そんなことをしたら、軍務省にセクハラで訴えますから。あることないこと付け加えて」
「……冗談だ。そんな怖い目をしないでくれ」
そしてその後、わしはさっそくオフレッサーとナイゼバッハに、工作員の摘発の命を与えた。
オフレッサーには、向こうが抵抗してきたらやむを得ないが、それ以外では無用な殺戮を控えること。ナイゼバッハには、彼をよく補佐することと、彼が暴走しそうになったらうまく抑えることを伝えてある。
そのおかげもあって、工作員摘発は速やかに進んでいったのであった。
* * * * *
一方、フェザーンの自治領主公館。その一室で、シロッコは部下から報告を受け取っていた。
「ふむ。妨害工作は順調のようだな。それで、同盟軍はどこまで来ている?」
「はい。既にパラトループ星域に集結を完了。まもなく、パラトループとフェザーンの境界を越えようというところです」
女性部下からのその報告を受けたシロッコは、にやりと笑みを浮かべた。いよいよ、時が来たのを彼は確信した。
「よし、いよいよ動くぞ。MS隊出撃。ただちに、フェザーンの主要施設を抑えるとともに、自治領主ルビンスキーの身柄を抑えるのだ」
「わかりました」
そしてその日! 同盟軍がフェザーン回廊に侵入したと同時に、惑星フェザーンの首都の各所に突如、鉄の巨人たちが現れた!
天空からバリュートを装備して舞い降りた彼らは、ただちにフェザーンの主要施設に降り立っていく。そしてそれと同時に、シロッコの私兵や、彼の息のかかった(洗脳された、ともいう)地球教徒たちがその施設を制圧していった。
フェザーンの市民たちは、自分たちの頭上に現れた巨人たちに、ただ驚き、そして恐れた。
その彼らを見下ろす巨人たちの一体、MS、『ジ・OⅡ』のコクピットで、シロッコは不敵な笑みを浮かべるのであった。
(いよいよ、大勝負の始まりだ。帝国のラインハルト・フォン・ローエングラム、同盟のヤン・ウェンリー。相手にとって不足はない! たやすくはないが、やってみせよう! このパフティマス・シロッコが、今度こそ世界を我がものに収めてくれる!)
さぁ、シロッコがいよいよ動き出しました。
しかし、黒狐ことルビンスキーも、このまま終わるつもりはないようで……?
次回『あの人もこちらに来てたんですね……』
転生提督の歴史が、また1ページ