ブラウンシュヴァイクからフォーゲルに転生したけど、立ちはだかったのはヤン・ウェンリー(原作読破済み転生者)だった 作:ひいちゃ
国境を越え、パラトループからフェザーンに侵入したヤン独立軍の艦隊。そのヒューベリオンにある通信が舞い込んできた。
さっそく、通信士官がヤンに報告する。
「司令。フェザーン本星から通信です」
「通信? 誰からだ?」
「はい。フェザーン自治領主補佐官兼臨時自治領主を名乗るパフティマス・シロッコという男からです」
「は?」
その報告に、ヤンも傍らのフレデリカも目を丸くした。彼はもちろん彼のことはよく知っている。だが、ヤンの前世の記憶に間違いがなければ、彼は創作の世界の人物のはずだ。
「……司令?」
「あ、あぁ、ごめん。回線をつないでくれ」
「了解」
ほどなくして、通信スクリーンに一人の男の姿が映し出された。ヤンが良く知る、あの白い独特の服装ではなく、スーツ姿であったが、その姿は間違いなく、ヤンが知っている、『機動●士Zガン●ム』の登場人物、パフティマス・シロッコそのものであった。
「閣下、通信をお受けいただき、ありがとうございます。フェザーン臨時自治領主、パフティマス・シロッコと申します」
「自由惑星同盟軍、ヤン独立軍総司令、ヤン・ウェンリー大将だ。さて、臨時とのことだが、正式な自治領主であるルビンスキー氏はどうしたのかな?」
「はい。同盟軍が侵攻してくると聞き、私は同盟軍への降伏を進言したのですが、彼はそれをよしとせず、地下に潜ってしまいました。現在、捜索中でありますが」
「そうか。無事に見つかるといいが」
「全力を尽くします。それで閣下。今言いましたが、フェザーンは同盟軍に降伏いたします。こちらの要求は、私の身分と身柄の安全の保証、それと市民の安全。それだけです。それを飲んでいただければ、ただ降伏するだけでなく、私とフェザーンは全力を挙げて、同盟軍に協力いたしましょう」
「……血判状を出してかい?」
「なっ……!」
シロッコの表情が驚愕に彩られた。それを見て、ヤンは自らの失策を悟った。つい軽く口にしてしまったが、彼を警戒させるのは得策ではない。
「ああ、ごめん。気にしないでくれ。その条件を受け入れよう。ただちに我が艦隊を受け入れる準備を整えてくれ」
「……わかりました」
そして通信は切れた。
(本当にパフティマス・シロッコでしたね。閣下、なぜか私は彼を見て、異常に警戒しました。つい、『小うるさい見物人』という印象が沸いてきちゃいましたよ。でもこの調子だと、シャアも来てたりするんでしょうか?)
(それは勘弁してほしいな。もしシャアまで転生してきたら、私なんかじゃ勝てないだろうからね。……ああ、しまったな)
(どうしたんです?)
(いや、彼に『世界を支配するのは女性』の真意を聞きそびれたな、と思ってね)
* * * * *
一方の、フェザーン自治領主公館。その領主室で、シロッコは同盟軍受け入れ準備の指揮を行っていた。
「あぁ、うむ。くれぐれも、不備がないようにしっかり頼む。それと、ルビンスキーの残党による邪魔が入らないよう気を付けてくれ」
そして一通り指示を終えると、シロッコは椅子に座り込み、顔をしかめて目を閉じた。ヤン・ウェンリーの言っていた言葉に危機感を感じたのだ。
(なぜ、あの男が、『血判状』という言葉を……。あの言葉は……)
そう、『血判状』という言葉は、前世において、自分がジャミトフに取り入った時に言ったセリフである。それを彼が知っていることが引っかかっていたのだ。
(もしや、私が『宇宙世紀』からこの世界に転生したように、ヤン・ウェンリーも、『宇宙世紀』から転生したのでは……?)
だが、シロッコはそこで考えを切り捨てた。なぜなら。
(まぁいい。相手が誰だろうと、この天才が負けるはずがない! ヤン・ウェンリー、我が野望のために精一杯利用させてもらうとしよう)
* * * * *
一方、地下通路内。そこに、自分の地下アジトへ向かっているルビンスキーとその部下たちの姿があった。
「まさか、事を起こすとはな。あの男はもう少し賢いと思っていたが。だが、あのような切り札を用意していたとは思いもしなかった。ルパートの元にいた時に、人型兵器を趣味で作っていたのは知っていたが……」
そう、ルビンスキーは、シロッコがMSを作っていたのは、あくまで趣味の延長だと思い、まさか、今日この日のために作っていたとは思ってもいなかったのだ。
確かに、ミノフスキー粒子が存在しないこの世界では、MSはただの的に過ぎずその出番はない。だが、それでもMSには使いようがある。人型ゆえの踏破性。そして何より、その巨体ゆえの耐久力と攻撃力、そして威圧力だ。機関銃ぐらいではMSの装甲を貫くことはできないし、踏みつぶされれば、戦車といえどもおしまいだ。そして何より、その巨体を目にしては、たいていの者は委縮してしまう。戦術兵器としてのMSはあまり有効ではないが、拠点制圧戦においてはMSは十分に有効な兵器たりえるのである。
大規模戦闘ではまだ使えないとしても、今この時のために用意していたとしてもおかしくない。
そのことに気づかなかったルビンスキーを責めるのは酷であろう。宇宙世紀の人間ではないルビンスキーは、MSについて何も知らないのだから。
シロッコがそれだけのMSをどこで作っていたかというと、それはフェザーンの近くにある小惑星帯の一つにある、小惑星に偽装された工業プラントである。彼は、衛星軌道上にあったケッセルリンク重工の戦闘艇製造プラントを、密かに小惑星に偽装し、中をMSの製造プラントに作り替え、そこでこの時のための戦力を作っていたのだ。
ルビンスキーに気づかせずに、これだけのことをやってのけたのは、さすがシロッコというべきであろう。
さて、シロッコの追手から逃げ続けるルビンスキーは、ついに彼らの地下アジトにたどり着いた。
「これで一息つけるな。それにしても、二大勢力を掌の上でもてあそび続けていたこの俺が、部下に背かれ、地下に潜る羽目になるとはな。見ているがいいシロッコ。この借りは返させてもらうぞ。俺なりのやり方でな……」
* * * * *
一方、フェザーンの宇宙港に集結した同盟軍侵攻艦隊。
「ムライ参謀長。帝国軍の動きはどうだ?」
「はい。若干の遅れはありますが、間違いなくフェザーンに隣接しているアイゼンヘルツ星域に向かっているようです。まもなく、半個艦隊がアイゼンヘルツに到達すると思われます。閣下、帝国軍が集結しつつあるこの状況で仕掛けるのは無謀なのではないでしょうか?」
「いや、大丈夫だよ」
そういうとヤンは、戦略スクリーンに両軍の位置情報を映し出した。
「確かに帝国軍は集結しつつあるけど、帝国軍主力の中で動いているのは、ミッターマイヤーとロイエンタール各提督の艦隊だけ。さらに今アイゼンヘルツに入ろうとしている艦隊はかなり隊列を乱していて、残りの小艦隊たちはどれもかなり遅れている。このアイゼンヘルツに入ろうとしている半個艦隊を急襲して崩せば、勢いでそのまま帝国領に侵攻できるはずさ。いくらなんでもミッターマイヤー提督やロイエンタール提督だけで、これだけの艦隊と戦うのは無謀と、ローエングラム公も考えるだろう。そして計算では、残りの小艦隊群と遭遇する前にウォルテンブルグ星域にたどり着ける」
「なるほど……。ですが、アムリッツァのフォーゲル機動艦隊群のほうは?」
「それについても心配はないだろうね。アムリッツァからアイゼンヘルツへはかなり離れている。彼らが来る前に、我々はアイゼンヘルツを超えているさ。さて、フィッシャー少将。艦隊のほうはどうだい?」
ヤンに問いかけられた艦隊副司令のフィッシャーが、向きなおって報告する。
「はい。独立軍全艦隊、いつでも出発できます。宇宙艦隊の各艦隊も出発準備が完了したとのことです」
「よし、では行くとしようか。帝国と握手するためのピクニックへ」
かくしてヤン率いる独立軍はフェザーンを出発した。目的地は帝国領、ウォルテンブルグ星域である。
さあ、いよいよフェザーンを制圧したヤン艦隊。それに対して帝国はどうするか?
次回、いよいよ前哨戦が始まりますよ!
次回「第一次ウォルテンブルグ会戦」
転生提督の歴史が、また1ページ