ブラウンシュヴァイクからフォーゲルに転生したけど、立ちはだかったのはヤン・ウェンリー(原作読破済み転生者)だった 作:ひいちゃ
同盟軍が、アイゼンヘルツ星域に展開していたカルナップ艦隊を一蹴して、帝国領に侵攻した。
その知らせは、既にオーディン宰相府のラインハルトの元へ届いていた。
彼は、宰相府の執務室で、キルヒアイスと話し合いを持っていた。
「ついに来たか……。やはり同盟軍の司令官……ヤン・ウェンリーと言ったか。彼は、俺と同等の名将と見えるな。まさかラグナロック作戦を逆にやってくるとは」
「ラグナロック作戦?」
「あぁ。第七次ティアマト会戦で大ダメージを受けず、イゼルローンを失ってなければ、やろうと思っていたフェザーン制圧と叛乱軍領侵攻作戦、その作戦名だ。叛乱軍に引導を渡すには、ぴったりの名前だろう?」
「確かに。そういえばラインハルト様。今回の彼らの侵攻について、少し気になることがあるのです」
「気になること? なんだ、キルヒアイス?」
ラインハルトがそう聞くと、キルヒアイスは、ラインハルトの席のコンソールを操作して、スクリーンに帝国南部の星図を映し出した。
「叛乱軍の侵攻ルート、普通に見てみると、ただ南方宙域を通って、このオーディンを目指しているように見えますが、その途中にあるこの……」
「ウォルテンブルグ星域……。まさか……!」
「はい。もしかしたら、彼らの目的は、ウォルテンブルグ星域のウォルテンブルグαにあるのではないでしょうか?」
キルヒアイスの推測を聞いたラインハルトは顔をしかめた。もしウォルテンブルグαを同盟軍に抑えられたら、帝国軍はヘリウム3の供給を断たれ、半身不随に陥ってしまう。
「もし、ウォルテンブルグを通って、このオーディンを突きにくるとしても、そのついでにウォルテンブルグαを抑えようとする可能性は高いな。いや、あのヤン・ウェンリーなら絶対そうするだろう」
「シャンタウで再編中のロイエンタール、ミッターマイヤー、両艦隊をウォルテンブルグαに向かわせますか?」
キルヒアイスの提案に、ラインハルトは首を振った。
「いや、俺と同等の敵将だ。いくら双璧でも、彼らだけでは荷が重いだろう。せめて、俺の艦隊とビッテンフェルトの艦隊の再編が済めば話は違ってくるだろうが……」
「……」
「だからと言って、簡単にウォルテンブルグαを叛乱軍にくれてやるわけにはいかない。せめて、俺の艦隊とビッテンフェルトの艦隊の再編が済むまで持ちこたえてくれなくてはな……。トゥルナイゼン、アルトリンゲン、ブラウヒッチ、ザウケンの艦隊を向かわせよう。キルヒアイスは、他のヘリウム3供給ルートの模索とその構築を行ってくれ」
「わかりました」
* * * * *
一方、帝国領を進む同盟軍。彼らの側にも問題が持ち上がっていた。
「補給が?」
『うむ。フェザーンの地下組織の暗躍で、主力艦隊への補給が滞っておってな。わしらのフェザーン出発はもう少し遅れそうじゃ』
「そうですか……」
『今のところ、シロッコとやらに頼んで、地下組織の邪魔をなくすことと、補給体制の改善をやってもらっているが……」
「わかりました。こちらはなんとかします。主力艦隊はできるだけ早く、出発の準備を終えてください」
『うむ、了解した』
そして通信は切れた。ヤンがほっと一息をつく。
「閣下、これはやはり……」
「あぁ。まず間違いなく、ルビンスキー氏の仕業だろうね。帝国と同盟のバランスがフェザーンの存亡に関わると考えているあの御仁としては、私たちの帝国領侵攻は看過できないんだろう」
そう説明するヤンに、パトリチェフ参謀が挙手して提案する。
「ですが、どうなさいます? 主力艦隊が合流するまで待ちますか?」
だが、そのパトリチェフの提案に、ヤンは首を振った。
「いや、行動を遅らせては、帝国にウォルテンブルグαを守る態勢を作る時間を与えてしまう。この作戦は時間が勝負なんだ。少し無理をすることになるが、我々の艦隊だけでウォルテンブルグを攻略するしかないだろうな」
そしてヤン独立軍は速度を上げ、ウォルテンブルグ星域に突入した。
* * * * *
そして。
「さすがローエングラム公だね。できる範囲でではあるが迎撃態勢を整えているとは」
ウォルテンブルグ星域。そこで、ヤン独立軍4個艦隊32000隻は、帝国軍4個半個艦隊16000隻と対峙していた。
同盟軍は帝国軍の二倍だが、それでも油断は禁物である。決定的な戦力差、というわけでもないのだ。
「でも、まずはこの目前の敵を撃破しなくては事は進まない。撃て(ファイアー)!」
「撃て(ファイエル)!」
かくして戦端は開かれた。だが、帝国軍の防戦の前に、同盟軍は攻めあぐねていた。
先述したように、1対2という戦力差は、有利ではあるが決定的な差というわけでもない。地の利を活かせば、十分にその差は埋められるのだ。そしてウォルテンブルグには、その地の利があった。
ウォルテンブルグαの近くには、大きなアステロイドベルトがあるのだ。帝国軍は、そのアステロイドベルトの向こうに布陣し、小惑星を盾にして防戦していた。さらに、彼らの9時方向にはウォルテンブルグαがあり、そちらの方から回り込むことも至難。結果として帝国軍は、前面、そして3時方向に注意を払うだけでいい。これはまさに、二倍という戦力差を補うのに十分な自然の要害であった。
だが、攻める側のヤン独立軍としては、攻めあぐねているわけにはいかない。ここで停滞していては、帝国軍に反撃の準備を整えるための時間を与えることになってしまう。
ヤンは正攻法で戦いを進めながらも、打開策を考えていた。そして。
「よし。フィッシャー少将。我が艦隊は一時後退。大きく迂回して、敵の側面を突く」
「了解しました」
「アッテンボロー。君たちの艦隊は、ミサイルのいくつかを弾頭を抜いて準備しておいてくれ。そして私が合図したら、それを小惑星帯に撃ち込んでくれ」
『わかりました。また先輩の奇術ですね。楽しみにしています』
「うまくいくかどうかは天のみぞ知る、だけどね。それじゃ行くとしようか」
ヤンの指令を受け、ヤンの主力艦隊は、一時後退し、それから3時方向へと移動を開始した。
* * * * *
そのヤン艦隊の移動は、帝国軍にも知れていた。艦隊司令官の一人、トゥルナイゼンはその報告を受けると、すぐに指示を出した!
「奴らは、3時方向から我が艦隊の側面を撃ち、ウォルテンブルグαに追い落とすつもりだ! ブラウヒッチ、ザウケン。卿らはそのまま前面の敵に当たってくれ。私とアルトリンゲンは、奴らに備える!」
『了解』
『了解した』
そしてトゥルナイゼン艦隊、アルトリンゲン艦隊は3時方向に転回し、ヤン艦隊を迎え撃つ態勢をとった。やがて、交戦距離に入り、砲火が交錯し始める。
「こちらの意図をすぐに見抜いて対処してくるとはさすがだね。……でも、まだ甘かったな。アッテンボロー、やってくれ」
『了解です』
ヤンの合図を受け、アッテンボロー、モートン、カールセンの各艦隊からミサイルが発射される。それは次々にアステロイドベルトを構成する小惑星に衝突し、衝撃と慣性でその小惑星を帝国軍の方向に加速させる。さらに、それにウォルテンブルグαの高重力波が影響し、弾き飛ばされた小惑星は弾道が読めない弾丸となって、帝国軍艦隊に襲い掛かった!
「陣を崩すな! 奴らにつけこまれるぞ!」
「し、小惑星が! うわああああ!!」
「か、回避、回避ぃぃぃぃ!!」
ある戦艦は小惑星の餌食となり爆沈し、またある艦は小惑星を回避しようとして他の艦と衝突して大破した。
この攻撃で帝国軍の艦列は大いに乱れた。いや、それどころか、満足な迎撃態勢をとることすら困難になっていた。
それを見てとったヤンは、指揮デスクにあぐらをかいたまま、艦隊に号令を下す!
「よし。各艦隊、総攻撃を開始せよ!」
艦列が乱れたところに、ヤン艦隊が猛攻を加える。前面のアッテンボローらの艦隊も攻勢を開始し、帝国軍は劣勢に追い込まれた。帝国軍の艦隊はたちまち大損害を受ける。3割の損害で済んだザウケン艦隊はまだいい方で、トゥルナイゼン、ブラウヒッチ艦隊は艦艇の半数を失い、アルトリンゲン艦隊は旗艦沈没、アルトリンゲンが戦死するほどだった。
「このままではやられるだけだ……! 撤退する!」
「しかし、閣下、この状態ではその撤退こそ至難の業かと……」
「それは承知のうえだ! だが、それでもやられないためにはするしかない!」
残存艦隊はトゥルナイゼンの指揮の元、なんとか態勢を立て直し、撤退を開始した。いやそれはもはや、撤退というより潰走と言ってもいいかもしれない。
当然、それを許すヤンではない。彼はただちに追撃の指令を出そうとした。その時!
ヤン艦隊の前衛の何隻かの艦がレーザーの攻撃を受けて爆沈した。
「どうした、新手か?」
「はい。ウォルテンブルグ外縁に敵艦隊! その艦隊の中に、シェルフスタットⅡを確認! 援軍の艦隊は、帝国軍のフォーゲル艦隊と思われます!」
それはまさに帝国軍にとっては希望の星に見えるであろう。フォーゲル率いる騎兵隊の参上であった。
さあ、さっそうと(?)駆けつけた我らがブラ公。
果たしてこちらより多い同盟軍とどう戦うのか?
次回「ウォルテンブルグ会戦、その後のこと」
転生提督の歴史が、また1ページ