ブラウンシュヴァイクからフォーゲルに転生したけど、立ちはだかったのはヤン・ウェンリー(原作読破済み転生者)だった 作:ひいちゃ
「いいタイミングに出くわしたものだな。ぜいたくを言えば、もっと早く到着したかったが」
旗艦シェルフスタットⅡの艦橋で、わしはそう言ってうなずいた。そのわしに、副官のナギ大尉が聞いてくる。
「このまま、敵艦隊に攻撃を仕掛けますか?」
だがわしはその問いに首を振る。
「いや。我が艦隊は一個艦隊。しかも、選り抜きに選り抜いたので、実際の数は一個艦隊にも満たない。今攻撃を仕掛けるのは自殺行為だ。ここは、友軍が撤退を終えるまで、敵をけん制するのが賢明だろう」
「ですが、それなら、もしかしたら、こちらが少数なのを察知した敵が押し寄せてくるのでは……」
まぁ、それは当然の懸念だな。だがしかし、そのことを考えていないほどわしはおろかではない……つもりだ。
「大丈夫。ちゃんとそのへんの対策は立ててある。『アレ』の準備はできているか?」
「はい。いつでもいけます」
オペレーターの報告を聞いたわしは、うなずくと再び前を見据えて、我知らずにやりと口の端をゆがめる。
「よし。それでは、奴らにティアマトでの意趣返しをするとしようか」
* * * * *
一方、ヤン独立軍総旗艦、ヒューベリオン。その艦橋にアラームが鳴り響いた。
「閣下! エネルギー反応多数! レーザーが来ます!」
「全艦、エネルギー中和磁場、最大出力! 着弾に備えろ!」
次の瞬間、独立軍主力艦隊各艦をレーザーの雨が襲った! エネルギー中和磁場の出力を上げたので、被害は最小限で済んだが、それでも何隻もの艦がその餌食となって沈んだ。
「閣下、今のレーザーの数からすると、敵艦隊は我が独立軍と同規模かと……」
「あぁ。しかも、消耗している我が艦隊で、彼らと戦うのは危険だ。艦隊後退。アッテンボローたちと合流して守りを固める。今回の戦いは、あくまでこのウォルテンブルグを確保するのが目的だ。帝国軍を撃ち減らすことじゃない」
そして主力艦隊は後退し、他の艦隊と合流する。
* * * * *
その様子を、わしはスクリーンから見ていた。やれやれ、うまくいったようだな。
「うまくハッタリに引っかかってくれたか。それで、友軍のほうは?」
「はい。まもなく、しんがりのトゥルナイゼン艦隊が、我が艦隊の横を通り過ぎます」
「よし。我が艦隊も、トゥルナイゼン艦隊の撤退が済み次第、この宙域から離脱する。できれば、それまでに奴らがこちらのハッタリに気づかなければいいが。奴らに気づかれないためにも、『アレ』は引き続き、わしらが撤退するまで撃ち続けるように。最悪、壊れてもかまわん」
「了解しました」
そして、トゥルナイゼン艦隊は無事に、この宙域から離脱していった。さて、それではわしらも引き上げるとするか。
「よし、わしらも離脱するぞ! レーザー・トラップ、最大出力で斉射!」
我が艦隊の周囲からレーザーの束が敵艦隊に飛んでいき、敵艦隊のいるあたりに、いくつかの火球を作り出した。
* * * * *
そして、フォーゲルの艦隊が撤退した後。
「それで、アッテンボローのほうはどうだい?」
「はい。残骸の回収と分析が終わったそうです。通信、つなぎますね」
フレデリカがそういうと、通信スクリーンが開き、アッテンボローの姿が投影された。
「お疲れ様、アッテンボロー。それで、どうだった?」
『はい。どうやら、戦艦の中性子レーザー砲を取り出して改造した戦闘衛星のようです。奴ら、これをたくさんばらまいていたみたいですね。あと、バルーンダミーも多数、散らばってました』
「ふむ……。つまり、彼らのハッタリにまんまと引っかかったってわけか。これはちょっとしくじったな」
ヤンはそう言って苦笑し、頭をかいた。
これが、一個艦隊にも満たないフォーゲルの艦隊が、四個艦隊に匹敵するような弾幕を展開できたカラクリであった。フォーゲルは、これまでの戦いで大破して使い物にならない戦艦や巡航艦から、主砲の中性子レーザー砲を取り出し、それをもとに小さな簡易戦闘衛星を作り、それを持ち込んでいたのだ。
とはいえ……。
「ですが、いくら簡易な戦闘衛星とはいえ、短期間であれだけのものをたくさん作れるとは思えません。もしかして、この作戦があることを予期して用意していたのでしょうか?」
ムライ参謀長の質問に、ヤンはまた頭をかくと、腕を組んで口を開いた。
「どうだろう。ただ、予期していたにしろ、そうではなかったにしろ、あらかじめ何かあった時のために、これだけの用意をしていたってことは、向こうの司令官はよほどの軍才の持ち主ということは間違いないだろうね。これはこの戦い、そう簡単には進まないだろうな」
* * * * *
キフォイザー星域。ウォルテンブルグを脱したわし……フォーゲルの艦隊は、ここで叛乱軍にやられた艦隊の再編を行っていた。
なお、わしはもともと彼らの救援のために来たわけではない。叛乱軍がフェザーンへ向かっていると聞いたわしは、フェザーンを通って帝国へ侵攻するのではないかと考えた。ローエングラム公も同じ考えだったのか、すぐさまわしに叛乱軍迎撃の命令が出た。
そこでわしは、叛乱軍の侵攻速度とルート、そして我が艦隊の速度を考えて、迎撃するのにちょうどいいポイントとして、ウォルテンブルグを選び、そこに急行していたのだ。当初は先に到着して、展開しているであろう友軍と合流して迎撃するつもりだったが、その前に彼らが大打撃を受けたのと、その彼らが逃げ崩れてきたので、急遽予定を変更して、迎撃はせずに撤退することにした次第だ。
なおそのさいには、なるべく速く到着できるように、率いる艦隊には高速戦艦や巡航艦など足の速い艦を選りすぐり、さらにワープエンジンにかなり無理をさせて飛んできた。おかげで整備兵には『ワープエンジンの整備が二カ月は早くなった』と文句を言われたが……。
あと、そのおかげで艦隊規模は一個艦隊に届かないほど少なくなったが、その数を補うための、いわばハッタリとして、あのレーザー・トラップを用意した。どうやって積んだかというと、高速戦艦の何隻かについて、ミサイルやレーザーのエネルギーパックなどを抜いて、開いたスペースに積んでおいたのだ。元はといえば、あのビュコックとかいうかつて何度か戦った叛乱軍の司令官への意趣返しとして作っておいたものだが、それがこんなところで役に立つとは思わなかった。
と、そこに。
「閣下、ローエングラム公から通信です。回線をまわします」
「うむ」
ナギ大尉に言われて正面に向きなおると、正面の通信スクリーンに、ローエングラム公の姿が現れた。
『フォーゲル上級大将。ウォルテンブルグへの救援ご苦労だった』
「ありがとうございます。ですが、ウォルテンブルグを守れなかったのは私の力不足。どのような処分も……」
わしがそう言って頭を下げると、ローエングラム公は苦笑を浮かべた。
『いや、そもそもあれだけの大軍の急な侵攻という無茶な状況を前に、友軍が壊滅する前に駆け付け、救出できたのは十分な戦果だと思うが。なんでも失態のたびに謝るのは卿の悪い癖だぞ。開き直るのも困りものだがな』
「はぁ……」
『さて。卿が救出したトゥルナイゼンらの艦隊だが、再編したうえで卿に預ける。卿の艦隊の分艦隊として組み入れるなり、独立艦隊として艦隊群に組み入れるなり、卿の思うように運用するがいい』
「御意」
『これから、叛乱軍の本格的な我が帝国内での軍事活動が始まるだろう。その脅威に対し、卿の奮闘を期待する』
「ははっ」
そして通信は切れた。と、そこでナイゼバッハが聞いてきた。
「とのことですが、トゥルナイゼン少将らの艦隊はいかがなされますか?」
「うむ。まず、トゥルナイゼン少将の艦隊は、司令官を失ったアルトリンゲン少将の艦隊と合わせて再編成し、独立艦隊として我が艦隊群に編入する。ザウケン艦隊も被害は大きくないので、再編成のうえ、独立艦隊として編入しよう。ブラウヒッチの艦隊は、再編成のうえ、わしの主力艦隊に分艦隊として組み入れることにする」
「了解しました。では、その線で再編成を進めます」
「うむ」
* * * * *
そして、一週間ほどの時が経ち、艦隊の再編成が完了した。
「閣下、トゥルナイゼン少将らから通信です。回線つなぎます」
「うむ」
そして通信スクリーンに、トゥルナイゼン少将らの姿が映し出された。
『閣下、トゥルナイゼン少将であります。この度は助けていただき、ありがとうございます。このご恩は、閣下の艦隊群にて戦果を挙げることにて、返させていただく所存です』
「うむ。本来卿の指揮下ではないアルトリンゲン艦隊の残余も指揮するのは骨の折れることとは思うが、卿なら必ずや彼らを束ね、十分な活躍をしてくれると信じている。卿の健闘に期待する」
『はっ!』
わしの激励にトゥルナイゼン少将がびしっと敬礼する。そしてその後も、同じくわし指揮下の独立艦隊の指揮官となったザウケン少将や、分艦隊司令となったブラウヒッチ少将からも着任の挨拶を受け、通信は切れた。
「トゥルナイゼン少将は凛として真面目な印象の青年ですね、閣下」
そう言ってくるナギ大尉に、わしもかすかに微笑んで返す。
「うむ。今回の戦いでは惨敗を喫してしまったが、レポートを見る限り、とっている戦術は適切だったし、経験さえ積めば素晴らしい提督になってくれるだろう。本当に、どこかのグリルなんとかとは偉い違いだ」
「セクハラのフォーなんとか提督とも偉い違いですね」
「ぐっ」
さ、さて。オチがついてしまったところで、再編もできたことだし、アムリッツァに戻ろうか。
しかし、アムリッツァに戻ってすぐ、再び事態は動くのだった!
さて、次回、ヤンがさらなる手を打ってきますよ!
これに対して、ラインハルト、そしてブラ公はどう出るのか?
次回「同盟軍のネイティブアメリカン隊!?」
転生提督の歴史が、また1ページ