ブラウンシュヴァイクからフォーゲルに転生したけど、立ちはだかったのはヤン・ウェンリー(原作読破済み転生者)だった   作:ひいちゃ

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第28話『アイゼンフート会戦と第二次ウォルテンブルグ会戦。え、第二次ウォルテンブルグ会戦はサブですか?そうですか』

「な、なに!? どういうことだ!?」

 

 ビッテンフェルトは目をむいた。彼率いる黒色槍騎兵艦隊の目前には、先ほど彼が突破したものとそん色ない防御陣が立ちはだかっていたのだ。ビッテンフェルトは目をこすって再び前を見据えるが、やはりそこには敵の防御陣があった。

 

「ええい! 突撃だ! 陣がどれだけあろうと、ただ突き破るのみ! 進め、進めぇ!!」

 

 ビッテンフェルトの号令一下、黒色槍騎兵艦隊は再び敵陣に突撃していった。その後に、ミッターマイヤー艦隊、ロイエンタール艦隊、そしてラインハルトの直属艦隊も続く。

 

 そして帝国軍艦隊は、同盟軍の砲撃をものともせず突進し、再び陣を突き破った。しかし、その彼らの目の前に立ちはだかったのは、また新たな防御陣だった。

 

* * * * *

 

「敵艦隊、第二陣を突破しました」

「よし、第三陣防戦開始。第二陣の残余は、陣の後方に移動せよ。艦隊はそのまま速度568で9時方向に後退。後退しすぎないように気をつけろ」

「了解……第三陣、突破されました」

「さすがに帝国軍。突き破る速度が速いな。第三陣の残余は所定ポイントへ移動するように。第四陣、防戦開始」

 

 そのフィッシャーの艦隊運用を見て、フレデリカがかすかに表情を曇らせる。

 

「帝国軍の攻勢は激しいですね。フィッシャー少将でも手に余っているように見えます」

「あぁ。本当に、ビッテンフェルト提督の攻撃力も、ミッターマイヤー提督の機動力もかなりのものがあるからね。これは、そう簡単にはいかないかもしれないな。フィッシャー少将には頑張ってもらわなくてはならない」

 

 ヤンの言う通り、そう簡単にはいかなかった。ビッテンフェルトの攻撃力と、ミッターマイヤーの機動力を武器に猛攻を浴びせ、突破を図る帝国軍の威力はすさまじく、彼の想定よりも早いペースで、陣を突き破られていたのだ。

 フィッシャー少将の巧みな艦隊運用のおかげで、なんとか陣をすべて突破されるような事態は避けているが、少しでも気を抜けば全ての陣を突破されて、直属艦隊への攻撃を許すことになってしまうのは間違いない。

 

「でも、今はとにかく耐えるしか手はない。向こうのヘリウム3だって無限ではないんだ。いつかは足が鈍るはず」

 

* * * * *

 

 一方の、ウォルテンブルグ星域。

 我がフォーゲル艦隊群は、叛乱軍の主力艦隊48000隻と砲火を交えていた。一気に崩せればいいのだが、敵は固く守りを固めており、なかなか打ち崩せそうにない。その守りはかなり堅固で、どんな奇策も入る余地はないように思える。

 

「奴ら、なかなか粘るな……。このままでは、奴らより先に、こちらのヘリウム3の方が底を尽きかねんぞ。というか、間違いなくそうなるだろうな……。ところで、アイゼンフートのローエングラム公率いる主力のほうはどうだ?」

 

 わしの問いに、ナギ大尉が答える。

 

「はい。そちらもかなり苦戦しているようです。敵陣を10段まで突破したのですが、また新たな陣と遭遇したそうで……」

「10段まで?」

 

 おかしいな。いくらなんでも、そんなに防御陣を敷けるわけがない。いや、やろうとすればできるだろうが、その分各陣を構成する艦艇数は少なくなり、敵の突破を簡単に許すことになる。いくら紙を重ねても、鋭く太い針を使えば、一気にまとめて貫けるのと同じことだ。そんなことをすれば一気に陣が瓦解するのは目に見えている。

 なのになぜ、そんなにたくさんの陣が維持できるんだ? まるでペティコートじゃあるまいし……。

 ん、待てよ? 薄い陣……紙……貫かれた紙はどうする?……待てよ、それ、だいぶ前にもあったような……。

 

 そうか!!

 

「閣下?」

「ナギ大尉、ちょっと待ってくれ」

 

 わしは、手近のメモ帳に、わしが気付いた奴らの策を手短に書くと、それをナギ大尉に渡した。

 

「ナギ大尉。この内容を至急、機密通信で大本営に送ってくれ」

「了解しました」

 

 ナギ大尉が通信士の元に走っていくと、わしは再び前へと視線を戻した。

 

* * * * *

 

「ほぉ……、なるほどな。そういうことだったのか。これに気づいたのが、あのフォーゲル上級大将というのが驚きだが」

 

 ラインハルトは、副官のシュトライト准将から渡された電文を読んで感嘆した。それは、目前のヤン艦隊が無限に見える陣を構成した魔術について、彼の推測が書かれたものだった。

 

「ローエングラム公、フォーゲル上級大将はなんと?」

「あぁ。叛乱軍は薄い陣を何段も構成し、破られた陣の艦艇を後方に戻して、新たな陣を構成させている、ということだ。我が軍は一点突破で突破を図っているため、自然と奴らの被害は少なくなり、新たな陣を作るうえの問題は少なくなる。うまい手を考えたものだな」

「なんと……」

 

 周囲の幕僚から声が上がる。

 そしてラインハルトは、口の端をゆがめた。

 

「だが、カラクリがわかればやりようはある。各艦隊、一時後退。一時再編する。それと、カルナップを呼び出せ」

 

* * * * *

 

 一方のヤン独立軍艦隊。

 

「閣下、帝国軍が一時後退を開始しました」

「そうか、よかった。これでこちらも一息つける。フィッシャー少将。今のうちに防御陣を立て直してくれ。それと補給も頼む」

「了解しました」

 

 そしてこちらも陣形を立て直す。そしてそれが済んだころ。

 

「閣下。我が艦隊の2時方向から一個艦隊が接近。我が軍の側面を突こうとしているようです」

 

 そうムライが報告する。しかしヤンはそれを聞いても動じず、逆に小さく笑みを浮かべた。

 

「向こうもこちらのカラクリに気づいたか。でも彼にとって不運だったのは、私がヴァーミリオン会戦のことを知っていることを知らなかったことだね。グリーンヒル大尉。『彼ら』に連絡してくれ。君たちの出番だ、ってね」

「わかりました」

 

* * * * *

 

 ラインハルト直属艦隊の一分艦隊司令であるカルナップ少将は燃えていた。アイゼンヘルツの戦いでは失態を演じてしまったが、今回、戦局を変える一打を担うという大役を仰せつかったのだ。燃えないはずがない。

 彼の分艦隊は600隻ほどしかない。その周囲にはバルーンダミーが展開しており、その数を一個艦隊に見せていた。敵がこちらを脅威とみなして防御陣を展開している艦隊をこちらに向ければしめたもの。そうでなくても、こちらにいくらか戦力を向ければ、それはこちらを有利にするための一打となりえる。

 

「そろそろ、敵もこちらに気づくころだ。まもなく我が艦隊は激戦を迎えるころになろう。総員、気を引き締めるように」

「か、カルナップ提督! 12時方向から敵が!」

 

 カルナップの分艦隊の12時方向から、艦を緑にそめた艦隊が襲い掛かっていく。それは、帝国軍が別動隊を出撃させた時に備えて配置しておいた、銀河帝国正統政府軍の艦隊であった。

 

 一個艦隊と600隻では話にならない。カルナップ分艦隊は正統政府軍艦隊に半包囲され、四方から砲火を浴びせられ、たちまち窮地に陥った。すぐさま、ラインハルトの大本営に救援要請が飛ぶ。

 

 だが、ラインハルトの返事は冷淡だった。

 

「我に余剰戦力なし。そこで戦死せよ。言いたいことがあれば、いずれ天上で聞く」

 

 ラインハルトとしても心苦しくはあったが、目前のヤン艦隊の防御陣を突破するためには、これ以上戦力を割くわけにはいかなかったのだ。

 その返事を受け取ったカルナップはその文書を破り捨てて、言い放った。

 

「死ねだと!? よし死んでやる。死ねば天上ではこちらが先達だ。雑用にこき使ってやるから見ておれよ。ラインハルト・フォン・ローエングラムめ!」

 

 この言葉が、一言一句、あげくに音程まで前世での最期と同じなのは、何の皮肉であろうか。

 ともあれ、カルナップはただこのまま殲滅されるのを良しとはしなかった。彼は7時方向に転身して、正統政府軍艦隊の包囲を突き破り、一気にヤンの本営を突こうとしたのだ。

 

 だがそれを許すほど、正統政府軍もお人よしではない。正統政府軍艦隊のパストーレ軍事補佐官は、そのカルナップ分艦隊の動きを見てとるや、すぐに指令を下した!

 

「敵は我が軍の包囲を破り、ヤン提督の本隊を突くつもりだ! 全艦隊集結! 火力を集中して、奴らを殲滅せよ!」

 

 かくして、正統政府軍艦隊は迅速に包囲していた艦隊を集結させ、突進してくるカルナップ分艦隊に濃密な集中砲火を浴びせかける。その猛攻の前に、カルナップ分艦隊はたちまち打ち減らされ、壊滅した。カルナップも、自らの旗艦、ルーゲントとともに蒸発して消えた。

 

 それを確認したパストーレは一息つくと、改めて指示を出した。

 

「よし、我が艦隊はこれから、同盟軍の本隊と合流、予備兵力として動く」

 

 その指示に、やっぱりというべきか。さっそくフレーゲル元男爵が異論を唱える。

 

「なぜに合流するのだ? 我が艦隊はあの敵を倒して士気が高まっておる。このまま金髪の孺子を討ちにいくべきではないか?」

 

 そう言ってきたフレーゲルに、パストーレ……ではなく、ストークス副軍事補佐官が、ヤンから教わった『門閥貴族説得マニュアル』の内容を思い出しながら答える。

 

「それは無謀というもの。敵はまだこちらより多勢です。そんなことをしたら、今度はこちらが半包囲されて殲滅されるだけでしょう。それは栄光ある貴族であるフレーゲル男爵としても不本意であると存じます」

「む、確かにそうだが、それならどっちにしても、奴らは孤立している我らをたたきにくるのではないか?」

「いえ。彼らのヘリウム3には限りがあり、それはかなり切迫しています。こちらが仕掛けてきたならともかく、そうでないなら我らをたたきにくる可能性は低いですし、その余裕もないでしょう。彼らにとっては、ヤン提督を討ち取ることが唯一の勝機だと心得ているでしょうから。賢明かつ勇猛なフレーゲル男爵なら、説明しなくてもおわかりだと思いますが」

 

 ストークスの説明とおだてに、フレーゲルはすっかり気を良くして笑い声をあげた。

 

「そうか! 確かにその通りだな! よし、わしはその方らの指示を良しとするぞ。ただちに、同盟軍の本隊に合流させたまえ! はっはっはっ!」

「御意……」

(おぉ……さすが民主主義国家の軍人たち。あのフレーゲル男爵を言いくるめるとは、さすがだ……。民主主義とはなんと素晴らしい)

 

 ストークスがフレーゲルを見事に手なずける様子を見て、フレーゲルの元参謀であったシュナイダー元少佐は、そんなちょっと的外れな感想と、これまた的外れな民主主義への憧れを抱いたのだった。

 

* * * * *

 

「策は失敗したか……。ならば仕方あるまい。奴らが陣を再構成するより早く陣を突破し、敵将を討ち取るのみ! 全軍、突撃せよ!」

 

 さて。敵陣を構成する艦隊をおびき寄せるという策に失敗したラインハルトは、覚悟を決めて、再び全軍に突撃を命じた。

 

 次々と猛攻を仕掛けて、敵陣を突破する帝国軍。それに対して、後退しつつ、次々と陣を再構成して防戦する同盟軍。戦いはやはり拮抗していた。

 

 しかし、ここで痛恨のイレギュラーが発生した! 防御陣の一角を担う、アッテンボロー艦隊の旗艦、トリグラフが直撃を受け、大破したのだ!

 

 その報を受けた時、ヤンはさすがに表情を変えた。それは、報告したフレデリカも同じであったが。

 

「アッテンボローの旗艦が!? それで彼は?」

「はい。被弾時に重傷を負い意識不明となりましたが、幸いにも一命はとりとめた、とのことです」

「そうか……それは不幸中の幸いだね。よし、フィッシャー少将。アッテンボローの艦隊の残余は、この直属艦隊の指揮下に組み入れ、引き続き、防御陣構成に運用することにする。よろしく頼むよ」

「了解しました」

 

 そしてこれが隙となったのだ。この指揮の乱れで、同盟軍の陣の再構成が大きく遅れた!

 

 それを逃すラインハルト、そして帝国軍ではない。帝国軍は最後の力を振り絞るかのように、陣を次々と突破していく。

 同盟軍も必死に防戦するが、その帝国軍の攻勢を防ぎきれず、劣勢になりつつあった。そして。

 

「閣下、戦艦アキレウス、撃沈。モートン提督、戦死の模様……」

「そうか……。今世では生きていてほしかったんだけどな……」

 

 さらに帝国軍の勢いは止まらず……ついに! 帝国軍は、同盟軍の防御陣を突破し、ついにヤンの直属艦隊の目前まで到達した! しかし……。

 

「閣下、既にヘリウム3の残余も限界を迎えつつあり、弾薬も底を尽きかけています。無念ながら……」

「攻勢限界に達してしまった、か……」

「はい……。今の弾薬とヘリウム3の残量では、戦っても敵艦隊を撃破するのは極めて難しいと考えます」

「なんということだ……無念……」

 

 帝国軍の進撃は、あと一歩というところで、攻勢限界を迎え、止まってしまったのだ。

 動きを止めた帝国軍艦隊に、同盟軍から停戦の打診があったのは、その時である。

 




さてさて、かくしてあと一歩で力尽きた帝国軍ですが、この先どうなりますか。

次回『戦い終わって日が暮れて』

転生提督の歴史が、また1ページ
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