ブラウンシュヴァイクからフォーゲルに転生したけど、立ちはだかったのはヤン・ウェンリー(原作読破済み転生者)だった   作:ひいちゃ

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第29話『戦い終わって日が暮れて』

「何、停戦交渉だと!?」

 

 帝国軍総旗艦、ブリュンヒルトの艦橋でラインハルトは、報告してきたシュトライトに、そう聞き返していた。

 

「はい。条件としては、一つ、『現在行われている二つの戦いの終結』、一つ、『自由惑星同盟の存在を認めること』、一つ、『互いの政権が存続している間の両軍の停戦』。後の条件は今後の交渉で、ということですが」

「こちらが手も足も出ない状態で、停戦を持ち掛けるとは……」

 

 ラインハルトが苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべて立ち尽くしているのを、シュトライトらは固唾を飲んで見守っている。

 自らの主君が大将位についてから今までずっとそばにいた彼らは、ラインハルトのことをよく熟知している。生きたまま敗北を受け入れるくらいなら、他の狭量な将のように玉砕は選ばずとも、自ら死を選ぶのが彼だということを。

 だが、自らの主君を死なせるのは、自分たちの忠義に反するし、またこんな素晴らしい主君を死なせたくない、という私情もある。いざとなれば自らの命を賭けてでも止めなければならないと覚悟を決めていた。

 その時である。シュトライトの元にある報告が入ったのは。

 

「閣下、オーディンのキルヒアイス軍務尚書から通信が入っておりますが……」

「キルヒアイスから……? よし、つなげ」

 

 ラインハルトが命じると、艦橋の正面の通信スクリーンに、彼の親友の姿が映し出された。

 

「キルヒアイスか。この状況を打破できる魔法の呪文を教えてくれるのか?」

「いえ、残念ながら……」

「そうだろうな……」

 

 そこで沈黙。そして先に沈黙を破ったのはキルヒアイスのほうであった。

 

「ラインハルト様。自ら死を選ぶつもりでしたら、どうぞおやめください」

「ふ……お前には全てお見通しか」

 

 そういうとラインハルトは、腰のホルスターに伸ばした手を離した。

 

「死を選ぶのは簡単なことです。しかし、ラインハルト様が亡くなれば、その後、ラインハルト様という核を失った帝国は再び混乱に陥り、分裂して互いに争いあうことになるでしょう」

「……」

「そうなれば、再び多くの帝国国民の血が流れてしまいます。自らの感情のためにそれを許すのであれば、門閥貴族と同じです。ラインハルト様は、それをよしとするのですか?」

「そうだな……」

 

 そこでキルヒアイスは、表情を緩めた。ラインハルトが自決を思いとどまってくれたことが感じ取れたからだ。

 

「幸いにも、今の叛乱……いえ、自由惑星同盟の要求は、我が帝国を損なうものではありません。いわばイーブンに戻っただけです。そこからどう有利な条件を得られるかは、今後の交渉次第でしょう」

「そうだな……お前の言う通りだ、キルヒアイス。わかった。叛乱軍……いや、自由惑星同盟軍の停戦を受け入れよう」

「ありがとうございます、ラインハルト様」

 

 そして通信は切れた。その一連の通信を聞き、シュトライトらも胸をなでおろす。

 

「聞いての通りだ。自由惑星同盟軍と停戦する。同盟軍司令部にそのことを通達するとともに、ウォルテンブルグ星域のフォーゲル機動艦隊群にもこのことを伝達せよ」

「はっ」

 

 ラインハルトの指示を受け、幕僚たちはあわただしく動き出した。それを見ながら、ラインハルトは再び表情を引き締めた。戦いはまだ終わっていない。この先には、交渉という、武器を使わない戦いが待っているのだ。

 

* * * * *

 

 ウォルテンブルグ星域。我がフォーゲル機動艦隊群旗艦シェルフスタットⅡ。

 前方の敵主力艦隊と五分五分の戦いをしているわしは、大本営から停戦の知らせを受け取った。

 

「やれやれ、不本意な結果ではあるが、なんとか終わったか……」

 

 わしはそうため息をついた。はっきり言って本音では停戦になってくれて本当によかった、と思っている。五分の戦いと言ったが、実際のところは敵艦隊がかなり守りを固めていたおかげで、なかなか撃ち崩せず、攻めあぐねていたのだ。本当のところは四分の戦いと言ってよかった。

 このまま続けていれば、先にこちらが弾薬とヘリウム3を使いつくしてやられるか、降伏するかのどちらかだっただろう。そうなる前に停戦になってくれたのは、本当に助かったという気持ちだ。

 

「前面の敵艦隊のほうはどうだ?」

 

 わしがそう聞くと、副官のナギ大尉がいくらか疲れたような、沈んだ様子で報告してきた。彼女も、また今回の停戦のことが応えているらしい。無理もない。停戦とは言うが、実際には攻勢限界に達してしまったこちらの負けも同然だからな。

 

「はい。向こうも砲撃を停止しています。あ、指示が来ました」

 

* * * * *

 

 同じくウォルテンブルグ星域。同盟軍総旗艦リオ・グランデの艦橋で、同盟軍宇宙艦隊司令長官ビュコック大将は、疲れたように椅子に腰かけた。

 

「やれやれ、やっと終わったか。それにしても、向こうでの帝国軍の進撃は怒涛のようだった、という。ヤンの奴も、たいそう苦労したじゃろうな」

「そうですね。今頃、『給料分以上の働きをさせられた』とぼやいているかもしれませんな」

「何、独立軍司令になるまで、いや、あのクーデターの時まで、さんざんぐうたらしていたんだから、その分のつけが回ってきただけじゃよ。あいつも内心ではそこはわかっておるじゃろう」

「ですな」

 

 そこでビュコックとチェン参謀長が互いに微笑んだ。

 

「さて、お客さんをこのままにしておくわけにもいくまい。帝国軍に、ステーションでのヘリウム3の補給を許すと伝達してくれ。ああ、そのさいには、火器のロックをしておくこと。もし変なことをすれば四方からレーザーやミサイルの雨霰が飛ぶことになるぞ、ともな」

「了解しました」

 

* * * * *

 

 そして再び舞台は戻って、アイゼンフート星域の、同盟軍ヤン独立軍総旗艦ヒューベリオン。

 

「ヤン閣下、帝国軍から返信が届きました」

「なんと言ってきたかな?」

「停戦を受け入れるとのことです」

 

 それを聞くと、ヤンは椅子に深くもたれこんだ。ため息をつきながら。

 

「やれやれ、やっと終わったか……。本当に、今回は給料分以上の働きをさせられたよ。これは長期の有給を申請しなきゃやってられないな」

 

 彼がそういうと、フレデリカはくすくすと笑った。

 

「有給なんかとらずとも、もう少しして停戦が成ったら、どうせ退役するんだからいいじゃないですか。その時は私もご一緒しますけど」

「まぁ、そうだけどね。でも、そうすんなり停戦して全てが終えるとも思えないな。何かもう一山ある。そんな気がするんだよ。だから今のうちに……」

 

 その時、フレデリカの元に通信士官がある通信文を持ってきた。それに目を通した彼女は顔を曇らせて、上官にそれを手渡す。

 

「どうしたのかな?」

「はい。フェザーンの元自治領主、ルビンスキー氏からの極秘通信で……」

「極秘通信……どれどれ……」

 

 受け取った通信文に目を通したヤンは、こちらもまた表情を曇らせた。

 

「やはりか……。いや、あのシロッコ氏のことだから、そんなことだろうとは思ったが。これは絶対、停戦交渉のところで何かあるな」

「停戦交渉のところで……ですか?」

「あぁ。シロッコ氏が停戦を望まず、再び帝国と同盟を戦わせようとするなら、停戦交渉の場で事件を起こすのが一番だ。そうなれば、責任の所在やら怒りやらで交渉が一気に決裂しちゃって戦い継続。彼としては願いかなったりだからね」

 

 そう。ルビンスキーからの情報は、シロッコの真意が、同盟に帝国を倒させ、同盟が銀河を統一させることであること、もし停戦になった場合、彼がそれを良しとせず、何かを仕掛ける可能性がある、というものだったのだ。

 

「それに、これは一山どころか、もう一山ありそうだぞ……」

「どうなさいます? 帝国と同盟両政府に知らせますか?」

「そうだね。それと、一応、ビュコック長官と……あと、そうだ、フォーゲル氏にも知らせてやってくれ」

 

 それを聞いて、フレデリカが目を丸くする。

 

「フォーゲル氏に……ですか?」

「あぁ。同盟領侵攻作戦での彼の手腕を見るに、彼なら我々や帝国首脳とは別に、うまいことやってくれそうな気がするからね。それに、情報では彼は自分の国と国民を大切にしている人物だという。それなら、停戦交渉をなんとしても守ってくれるんじゃないかな」

「なるほど……わかりました。向こうに伝えておきます」

「うん、よろしく頼むよ。……あぁ、そうだ。あともう一つ」

「はい?」

 

 そう聞き返してきたフレデリカに、ヤンはさらに先を見据えているような思慮深い目をして答えた。

 

「ルビンスキー氏に確認してほしいことがあるんだ。そして……」

 

* * * * *

 

 一方、フェザーンの自治領主府。そこの自治領主執務室で、パフティマス・シロッコは思いっきり床にワイングラスをたたきつけていた。

 

「帝国と同盟が停戦だと!? 馬鹿な、あと一歩、いや半歩でラインハルト・フォン・ローエングラムは倒れ、帝国は同盟のものになっていたというのに! 我が野望がもう少しでかなったというのに! おのれ、おのれヤン・ウェンリー……! あの俗人めが……!」

 

 と、そこでシロッコは思い直したように軽く息を吐いた。

 

「いや、まだ終わったわけではない。停戦とはいっても、あくまでも脆いもの。一つ火種があれば簡単に崩れ去る。ふふふ……」

 

 そう言うとシロッコは電話を取り、どこかに連絡をとった。そして電話を切って。

 

「まさかここに来て、あの男が役に立つとはな。儚き停戦を崩す火種として、利用させてもらうとしよう……」

 




さて、次回から最終章に入ります!
まずは、帝国と同盟の停戦交渉、場所はあの柊館とくれば、何も起こらないはずがなく……?

次回『柊館の喜劇』

転生提督の歴史が、また1ページ
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