ブラウンシュヴァイクからフォーゲルに転生したけど、立ちはだかったのはヤン・ウェンリー(原作読破済み転生者)だった 作:ひいちゃ
それにしても我ながら、『おぼれっtter!』って、誰がうまいこと言えと(笑
問題の日の早朝。
軍務省の秘密会議室にて、軍務尚書となっていたキルヒアイスは、帝都防衛陸上部隊を束ねているケスラー中将に命を飛ばしていた。
「これより、我が帝国軍は、ローエングラム宇宙艦隊司令長官の暗殺を謀った宰相の逮捕、及び宰相派貴族の拘束と各省・各機関機能の掌握についての作戦を開始します。ケスラー中将には、帝都防衛陸上部隊を指揮して、地上での対処をお願いします」
「はっ。帝都防衛陸上部隊として全力を尽くします」
そのケスラーの返事に、キルヒアイスはうなずいて続けた。
「制圧割り当ては卿に一任しますが、迅速、かつ確実に宰相派の貴族を拘束することと、各政府機関を制圧、掌握することが重要です。よろしく頼みます」
「はっ!」
そして、命令書を受け取り、帝都防衛陸上部隊司令部に戻ってきたケスラー中将は、すぐに上級幹部を呼び出した。
幹部たちが集まると、彼はさっそく彼らに、制圧目標の割り当てを伝える。
「……割り当ては以上だ。なお、宇宙港は軍務省の直属部隊が抑え、オーディンの衛星軌道上およびヴァルハラ星域は、フォーゲル上級大将の機動艦隊群が抑える手はずとなっている。そして、『新無憂宮』及び皇宮警察本部はモルト中将に任せよ、とのことだ。質問はあるか?」
ケスラーは一通り幹部たちを見渡すが、質問や異論を返す者は誰もいなかった。
それを確認したうえで、ケスラーはうなずく。
「よし、それではこれより状況を開始する。総員、心して掛かれ!」
* * * * *
その一方、惑星オーディン衛星軌道上。
わしは旗艦・シェルフスタットの艦橋にて、指揮下のファーレンハイト大将、アイゼナッハ大将に指示を出していた。
「これより、我が艦隊群は、惑星オーディンおよびヴァルハラ星域内の掌握を行う。主な目標は、宰相派の巡検艦隊だ。情報によれば、巡検艦隊には、フェザーンから供与された新型艦が配備されているという。正直に言って、かなりの難敵だ。
だが、我が艦隊群なら、問題なく片付けられていると信じている。
両提督の奮闘に期待する」
「はっ。最善を尽くします」
「……諾」
* * * * *
そして、宰相邸。執事があわててリヒテンラーデの部屋の戸を叩く。
「旦那様、旦那様、大変でございます!」
私室で寝ていたリヒテンラーデは、寝間着の上からガウンを背負うと、扉の向こうに向かって、イライラしたように声をかけた。
「何事だ、騒がしい」
「ただいま宰相府より知らせがありまして……そ、その、帝都防衛陸上部隊の陸戦部隊が、大挙して襲撃してきたそうでございます!」
「なんだと!?」
さらに執事は凶報を続ける。
「さらに、この屋敷の周囲も、兵たちが取り囲んで……!」
リヒテンラーデはそれを聞くと、すぐに立ち上がり、着替えながら怒鳴った。
「それを早く言わんか!」
(おのれ、孺子ども、図りおったな……! やはり、軍務尚書にキルヒアイスをつけ、帝都防衛陸上部隊のトップにケスラーを着けたのはそのためだったか……!)
リヒテンラーデは、それに感づいていながら、自分の謀略にあぐらをかいてその孺子を侮り、すんなりそれを受け入れてしまった自分を嘆きながら、身支度をして部屋を出て行った。
その一方、オーディンの各地では、政府や軍の重要施設が、ケスラー指揮下の帝都防衛陸上部隊に制圧されていった。その建物から、尚書たちが悪態をつきながら次々と連行されていく。
それを横目に見ながら、リヒテンラーデは地上車を走らせた。宰相邸には、もしものために作られた、地下車庫と秘密通路があるのだ。それがこんなところで役にたとうとは。
「おのれ……だが、あそこへたどり着けば……!」
リヒテンラーデの車の向かう先は、新無憂宮である。そこに到着し、ラインハルトとフォーゲルの討伐の勅命を出せば全ては逆転する。リヒテンラーデはそれに賭けた。
だが、その賭けは彼の敗北に終わった。新無憂宮の周囲は、モルト中将の兵に取り囲まれていたからだ。モルト中将にもラインハルト……正確に言えば軍務尚書であるキルヒアイス……の息がかかっていることは、リヒテンラーデも知っている。
無理に入ろうとすれば、モルトに捕まってしまうだろう。それがわからないほど、彼は馬鹿ではない。
(おのれ……! だが、このままでは済まさぬぞ……!)
* * * * *
一方、そのころ。我が艦隊群は、宰相派巡検艦隊と対峙していた。やはり情報の通り、敵艦隊は全て、フェザーンの新型と思われる、これまでの艦とは細部が微妙に異なる艦で構成されていた。
その艦隊と対峙している中、バルトハウザー准将が何かを持ってきた。どうやら電文のようだ。
「司令。第1巡検艦隊のガーゲルン少将より、警告の電文が入電しました」
「読め」
「はっ。『オーディン衛星軌道上でよからぬ動きを見せているフォーゲル機動艦隊群に警告する。卿らの行動は、畏れ多くも、皇帝陛下への叛逆である。ただちに機関停止し、投降せよ』です」
「それなら、こう返信せよ。『我が艦隊の行動は、宇宙艦隊司令部の命による正規の作戦行動により、オーディン周辺及びヴァルハラ星域の安全確保を行っているものであり、そちらの通告に従う理由は存在せず。異議があるなら、宇宙艦隊司令部に申し立てられたし』だ」
「了解しました」
こちらからの返信を打電して少しして、敵艦隊が前進を始めた。どうやらやる気らしい。よかろう。ならば受けてたとうではないか。
敵は二個艦隊。第1、第2の二個の巡検艦隊。それと、宰相に同調した帝都防衛艦隊の小艦隊が合計1艦隊分で、合計3個艦隊。こちらと同数だ。
しかし、敵にはフェザーンから供与された新型艦がある。詳しいスペックはわからないが、正面からぶつかれば、こちらが不利なのは間違いなかろう。ここは、何か作戦が必要だな……よし。
「ファーレンハイト提督。提督には、カストロプ戦役での、敵の誘引技術を見込んでやってもらいたいことがある。敵艦隊を、ヴァルハラ星系の、アースガルズとオーディンの間にある、U字状のアステロイドベルトのくぼみの部分まで、誘導してきてくれ」
「はっ、お任せください」
「私とアイゼナッハ提督の艦隊は、アステロイドベルトの中に潜み、おびき出されてきた艦隊を左右から挟撃する」
「……」
わしの作戦を聞いたアイゼナッハ提督は、無言のまま、こくりとうなずいた。
「ファーレンハイト提督には、カストロプに引き続き、貧乏くじを引かせることになって申し訳ないが、よろしく頼む」
「いえ。その役目、我が艦隊にしかできないことだろうと思いますので、全力を尽くさせてもらいます」
「うむ」
そして戦いは開始された。
敵艦隊に突撃するファーレンハイト艦隊とは逆に、わしの艦隊とアイゼナッハ艦隊は、急速に後退。戦域から離脱し、一路アースガルズのほうへと向かう。
* * * * *
ファーレンハイト艦隊だけが突出し、残りの艦隊が戦域から逃げるというありさまを見た、第一巡検艦隊のガーゲルン少将は、それを鼻で笑った。
「なんだあの艦隊は。部下にだけ戦わせ、自分からは逃げるとは。あれでリップシュタット戦役の英雄とは笑わせるわ」
それに異論を言ったのは、副官のギュンター=ベッカート中佐だ。
「しかし、明らかに突出した艦隊が不利になるようなことを、何の考えもなくするとは思えません。敵には何か作戦があるのではないでしょうか?」
だから、その懸念も、ガーゲルンは笑い飛ばす。
「あの臆病者にそんなものがあってたまるものか。ただ逃げただけに決まっておるわ。それに、もしあったとしても、目の前の艦隊を潰し、さらに奴らに追撃をかければ済むことだ。そうなれば数はこちらが多いうえに、艦の性能も勝っているのだからな」
「はぁ……」
前者はともかく、後者のことにはそれもそうだと納得しながらも、なぜかベッカートは漠然とした不安をぬぐうことはできなかった。
* * * * *
一方、ファーレンハイト艦隊。彼の艦隊は、主力が所定ポイントに到達するまで、一個艦隊で三個艦隊を相手にするという無茶な戦いをすることになったが、ファーレンハイトは巧みに艦隊を動かすことによって、損耗を抑え、戦線を維持していた。
だがそれでも、数も性能も向こうが上なこともあり、ファーレンハイトは意外な苦戦の中にいた。
旗艦アースグリムの艦橋に立つファーレンハイトがうなる。
「むぅ、さすがにフェザーンの新型。かなり手ごわいな。少々きつくなってきたか」
そう彼が言う横で、アースグリムの僚艦が、敵艦隊の砲撃で撃沈される。
だが、その時!
「ファーレンハイト提督! 本隊より入電! ポイントに到達したそうです!」
「よし、それでは我が艦隊も後退を開始する! 敵艦隊をつかず離れずの距離を保ちながら後退せよ!」
かくしてファーレンハイトはついに後退を開始した。それを、敵艦隊が追撃する。
ファーレンハイトは、敵をうまく挟撃ポイントに誘導するために、艦隊運動に苦心したが、実はその必要は全然なかった。
敵艦隊のガーゲルン提督は、彼の艦隊とフォーゲルたちの艦隊を臆病者と侮り、追撃して殲滅すべく、猛スピードで追ってきたからだ。
おかげで、ファーレンハイトは全速力で後退しても、敵艦隊を逃すことがなく、難なく誘導することができた。
その様子を見て、ファーレンハイトは苦笑をもらす。
「本当に苦労せずに引っ張ってこれたな。もしかしたら、カストロプの時より楽だったのではないか? 楽でいいのか悪いのか……」
その彼に、副官のザンデルスが報告する。
「提督、間もなく挟撃ポイントです」
* * * * *
その一方、我が艦隊の旗艦、シェルフスタット。敵艦隊が警戒することなく、ファーレンハイト艦隊を追ってこちらに向かってくる様子は、こちらのレーダーモニターにも映し出されていた。
「まさに猪としか言いようがないな。敵の提督の頭には、罠とか戦術とかいう言葉はないのか?」
そう苦笑してしまうぐらい、敵艦隊は馬鹿なほど素直に、ファーレンハイト艦隊を追撃してくる。警戒している様子は全然なさそうである。
「司令! 敵艦隊が挟撃ポイントに到達しました!」
よし、敵は罠にかかったな! わしは全艦隊に号令した!
「よし、敵艦隊を挟撃する! 全艦、突撃せよ!」
かくして、我が艦隊はアステロイド・ベルトを出て猛然と突撃していく。わしの艦隊は左後方から。アイゼナッハ提督の艦隊は右後方から襲い掛かる。それはまさに、敵艦隊を半包囲する形だ。
敵の副官が有能なのか、第2巡検艦隊が方向転換して後方のわしらを迎撃しようとするが、当然それを許すこちらではない。
「砲火を、今回頭している艦隊に集中させよ!」
我が艦隊の砲火が第2巡検艦隊に集中する。回頭中で反撃態勢が整っていない奴らの艦はたちまち、こちらの砲火の餌食となり、反撃する間もなく次々と沈没していく。
なお、帝都防衛艦隊小艦隊群は半包囲した時点で動揺して統制が崩れ混乱し、出たらめな反撃を返しているだけだ。中には逃亡を図る艦もある。そもそも、小艦隊群を無理やり指揮系統を統一しただけのものである。こうなるのは当然のことだ。
かくして、正面と左右の後方から砲火を受け、敵艦は次々と撃沈されていき、壊滅への階段を転げ落ちて行った。
* * * * *
第1巡検艦隊旗艦オルバ・ハウゼン。その艦橋には、絶望的な報告が次々と届けられてくる。
「帝都防衛小艦隊群、壊滅! 統制が取れない状態です!」
「第2巡検艦隊壊滅! 旗艦ヴェーグ撃沈! シューマン少将、戦死の模様!」
「我が艦隊の損耗率、83%!」
その報告を、ガーゲルン少将は愕然とした表情で聞いていた。
「そ、そんなバカな……!」
次の瞬間、艦橋が大きく揺れる。
「直撃弾を喰らいました! 弾薬庫に引火した模様!」
「動力炉に被弾! 制御できません!!」
再び艦橋が大きく揺れた。それに足を取られ、ガーゲルン少将は転んでしまう。
艦橋も各所が爆発し、炎を上げる。その炎に包まれながら、副官のベッカートの亡骸の横。そこに転んだままという無様な姿で、ガーゲルンは断末魔の叫びをあげる。
「そんなバカなあああああああ!!」
そして彼は、旗艦とともにこの世から消滅した。
* * * * *
敵艦隊の中心あたりに閃光が走った。おそらく、奴らの旗艦が沈んだのだろう。
そしてその通りだった。バルトハウザー准将が、わしのところに報告を持ってきた。
「司令。敵旗艦、オルバ・ハウゼンを撃沈しました。残存艦隊はこちらに投降を申し出ています」
「了解した、と伝えろ。各艦はただちに、敵艦隊の武装解除の準備を始めよ。武装解除と投降の処理が済み次第、我が艦隊はオーディンに戻り、衛星軌道上の掌握にかかる」
「はっ」
かくして我が艦隊は、宰相派の巡検艦隊を撃破し、オーディンの衛星軌道上、そしてヴァルハラ星域の掌握に成功したのだった。
だが、それが終わると、別な問題がまた立ち上がってきた。そうすんなりとは事は進まないらしい。
宰相……いや、もはや元宰相か……のリヒテンラーデが、わしが戦っている間にオーディンを密かに脱出し、どこかに向かった、というのだ。
リヒテンラーデ戦、まだまだ終わりません。
次は、リヒテンラーデとの決戦の前編ですぞ!
そして、フォーゲルにまさかのピンチが!?
次回
『さよなら、シェルフスタット』
転生提督の歴史が、また1ページ