ブラウンシュヴァイクからフォーゲルに転生したけど、立ちはだかったのはヤン・ウェンリー(原作読破済み転生者)だった 作:ひいちゃ
さぁお待たせしました! ヤンの登場ですよ!
一方、そのころ。自由惑星同盟首都星・ハイネセン。
その宇宙艦隊司令部に、一人のさえない男がやってきた。
同盟をクーデターから救った英雄と呼ばれている男、ヤン・ウェンリーである。
その彼に、司令長官のビュコックが話しかける。
「来てくれてすまんな、ヤン大将」
「いえ……それで何用でしょうか、ビュコック長官? ……って、大将?」
きょとんとしているヤンに、ビュコックはいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「実はな。戦いを帝国への和平に向けてのものに移行するにあたり、それを円滑にするため、我が軍内に独立軍を結成することになったのだが……」
「はぁ」
「その独立軍の司令官を、貴官にすることに決まった」
「そうですか……ええっ!?」
突然の人事にさすがにびっくりするヤンに、ビュコックはしてやったりという笑顔を向けた。
「し、しかし、私がそんな大した役職につくなんて、いくらなんでも……」
「そんなわけはあるまい。帝国との和平というアイデアを出したのは貴官ではなかったかの? だとしたら、そのための戦略も頭に入っているのではないかな?」
「はぁ……それは、おおよそのことは考えてありますが」
痛いところを突いてくるな、と思いながら、ヤンはそう答えた。
「ならば、それを十分に発揮してもらうために独立した軍を率いてもらおうということになったわけじゃよ。同盟の国益を大きく損ねたり、同盟国民を危険にさらすことでなければ、フリーハンドでやって構わんから、その手腕を十分に発揮してほしい。あ、作戦本部からの指示には基本的には従ってもらうがな」
そこまで言われて、ヤンは観念した。
確かに、帝国との和平に持っていくための戦い、という戦略を提示したのは自分だ。それが受け入れられ、さらにそれを全面的に遂行するとなった以上、自分が何もしない、というわけにもいくまい。その戦略に一番詳しいのは自分なのだから。
「わかりました、お引き受けします。それで、その独立軍の拠点と、あと、始動はいつですか?」
「うむ。司令部スタッフは何人か決まっているのだが、後は全然なのでな。始動にはもう少しかかる予定じゃ。あと、拠点は、アスターテ星域のアトラ・ハシースと決まっておる」
「なるほど」
その発言に、ヤンはうなずいた。アスターテ星域は、イゼルローン周辺の同盟領諸星域をつなぐ交通の要所である。ここに司令部を置くのは、とても理にかなっていると言えた。
「既に決定したスタッフは、アトラ・ハシースの仮司令部に集まっている。貴官も、準備ができたら、ただちにアトラ・ハシースに向かってくれ」
「了解しました」
* * * * *
そして、司令部を退出したヤンは、アトラ・ハシースに向かうため、クーデター鎮圧のさい、臨時の旗艦にしていた戦艦ヒューペリオンに乗り込んだ。この艦が今回正式に、ヤン独立軍の総旗艦に決まったのだ。
そこの指揮官室でのんびりと色々な手続きをしていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「はい、誰かな?」
「ヤン大将の副官に任命されました、フレデリカ・グリーンヒル大尉です」
「あぁ、入っていいよ、どうぞ」
(……え、女性の声?)
そして入ってきたのは、一人の女性軍人だった。
彼女は入ってくると、その場で即硬直した。
「え、えーと、グリーンヒル大尉? どうしたのかな?」
そう心配そうに聞くと、やがて硬直したフレデリカは開口一番、こう言ったのだった。
「ヤン様、好きです。結婚してくださいっっ!!」
……
「は?」
思わず、間抜けな声を出してしまうヤン。
その様子に、自分が何を口走ったかに気が付いたフレデリカは、さすがに顔が赤くなった。
「い、いえ、私ったら、とんでもないことを……申し訳ありませんっ……」
「い、いや。変わった子だな、とは思ったけど……」
と、そこでヤンは気が付いた。好きなものに対してこんな反応をする女性を彼は見たことがある。
……今世ではなく前世で、であったが。
そう、その女性の総称は、腐女子と言った。
しかも、『今の』自分……つまり銀英伝のキャラを愛してる腐女子、ということは……
「あの、君、もしかして、転生者だったりする?」
「え、も、もしかして提督も?」
その後、銀英伝のことですっかり意気投合するヤンとフレデリカであった。しかも、前世で、銀英伝のイベントで顔を合わせた同士であることを知り、さらに盛り上がった。
そして歓談することしばし。
「あー……さて。報告を聞いておこうかな?」
「あ、はい……こほん。既に、我が独立軍に所属する予定のアッテンボロー艦隊とモートン艦隊、カールセン艦隊の三艦隊は、既にアトラ・ハシースに集結しています
「この主力艦隊と合わせて4個艦隊か。なかなかな戦力だね。アッテンボローの艦隊もいるのは心強いな」
「そうですよね。気心が知れた相手が指揮下にいるとはいうのはいいことだと思います。今世でもアッテンボロー少将とはつるんでいたんでしょう?」
「まぁね。ついでに、有害図書愛好会やってたのも原作通りだったよ。そういう意味では、君とも気が合うんじゃないかな?」
「そうですね、色々とお話するのが楽しみです。あ、私、BL以外の作品もイケる口ですから大丈夫ですよ」
「ははは……。さて、それじゃ、報告の続きを頼む」
ヤンに促されて、フレデリカは再びレポートに目を通す。
「はい。司令部スタッフに内定しているムライ参謀長と、パトリチェフ参謀、フィッシャー主力艦隊副指令も、既にアトラ・ハシースに到着している、とのことです」
「そうか。見事なまでに原作通りのスタッフだね。できればパトリチェフもフィッシャーも、死なせずに済ませたいものだが」
ヤンがそういうと、フレデリカも、原作での二人の最期を知っているだけに、表情を曇らせた。
「そうですね……。とりあえず、地球教とビッテンフェルト提督は、二人の死亡フラグと覚えておいたほうがいいかもしれません」
「そうだね。ビッテンフェルトはともかく、地球教は許すまじ、だ」
「全くですね!」
この点についても意見が一致したヤンとフレデリカであった。
「それで、あと、ユリアン君とシェーンコップ大佐はどうなさいます?」
「ユリアンは連れて行かざるを得ないだろうな。シェーンコップと薔薇の騎士は……一応配属要請を出しておくか。イゼルローンの攻略とかに必要になるかもしれないし」
「薔薇……」
「グリーンヒル大尉。変なことを想像しないように」
ヤンに指摘されて、フレデリカはほわわんとした頭から我に返った。
「も、申し訳ありません。では統合作戦本部には、薔薇の騎士の配属要請を出しておきます」
「あぁ、頼むよ。……って、もう昼か」
「あ、そうですね……。私、お弁当作ってきましたので、一緒に食べませんか?」
「え」
その言葉に、ヤンは硬直した。彼が覚えている限り、原作での彼女の料理スキルは……。
「あ、大丈夫ですよ。原作の轍は繰り返すまいと、私の意識が覚醒してから、必死に料理の練習をしてきましたから」
「そ、そうか……それじゃいただこうかな(えーと、胃薬は……)」
そして食べたお弁当は意外とおいしかった。
* * * * *
そして午後になり、薔薇の騎士連隊のシェーンコップが、ヤンとのブリーフィングのために訪れた。
「小官に話と伺いましたが?」
そのシェーンコップに、ヤンはうなずく。
「あぁ。この先あるかもしれない、イゼルローン攻略のことでね。いつになるかわからないが、私としては帝国の内戦が収まり、我が独立軍が始動できるようになったら、さっそく始めたいと思ってる。だから、よく聞いてほしい」
そう前置きすると、ヤンは自分が考えたイゼルローン攻略作戦に関して話し始めた。その内容は、現在イゼルローンに、フォーゲル機動艦隊群がいるという現状にあわせてアレンジされたものであったが、それ以外は、ほとんど原作通りのものであった。
「なるほど……これは小細工ですな」
「あぁ、小細工だ。でも私としてはこれしかないと思っている。5万隻の大軍で正攻法を仕掛けてもダメだったんだからね。これがダメだったら、もうどうしようもない。お手上げだ」
うなずいた後、シェーンコップは原作通り、ある懸念を述べた。
この作戦は、彼と配下の薔薇の騎士が肝心要である。その彼らが裏切ったらどうするのか、と。
それに対するヤンの答えも、原作の通りであった。シェーンコップらを信じることが、この作戦の前提。だから裏切らないと信じるしかないし、信じる、と。
「わかりました。それともう一つ聞いておきたい。なぜあなたは、この作戦を考えたのですか? 名誉ですか? それとも出世欲?」
それに対してヤンは苦笑して首を振った。
「どちらもないと思うな。この年で『閣下』と呼ばれるだけで十分だし、准将から大将まで、一気に昇格しちゃったからね。これで満足だよ。それに、和平がなったら軍をやめようと思ってる」
「和平ですと? この状況で和平が?」
目を丸くしているシェーンコップに、ヤンはうなずいた。
「あぁ。君が思ってる通り、内乱前の帝国ならそれはほぼ不可能だろう。だが、これからの帝国なら、やりようによっては、難しいけど不可能ではないと思っている。これは、アトラ・ハシースに就いたら他の面々にも話すつもりだけど、君にもよく聞いてほしい」
そこでヤンは、シェーンコップはもちろん、フレデリカ、そして軍首脳にもまだ話していない、三つの戦略プランを話した。アルファ、ベータ、ガンマと名付けられた三つのプランは、どれも異なる様相だったが、いずれも、成功すれば帝国が和平に応じるしかない状況に持ち込める可能性が高いことは確かであった。
ラインハルトがそれでも和平に応じない可能性もなくはないが、彼が応じなくても、帝国軍には良識的あるいは常識的な上級士官は少なからずいるはず。彼らが説得に動いてくれれば、成る可能性は高いとヤンは考えていた。
実はこのほかに、ヤンはデルタというプランも考えていたが、彼自身はこれをどうやっても和平につなげることができないときのための最終プランと考えており、この場では話さなかった。
(このプランが私の脳内のプランで終わることを祈ろう……)
話を聞き終えたシェーンコップは、彼のプランを理解しながらも、なお理解しかねる表情のままで言った。
「しかし、その和平による平和が恒久的なものとなりえますかね?」
「なりえないよ」
そう真顔で言い切ったあと、ヤンは真摯な表情で話し始めた。
「恒久的な平和がなかったことは、歴史がこれまでも証明している。だけど、短期的な平和だって、それだけでも幸せな世界を作ることは可能なんだ。いつか壊されるものだとしても、その世界や幸福は、決して無駄なものじゃないと私は思う。少なくとも、その平和の中で生きてる人々にとってはね」
「……」
「私の養子に、どうしても軍人になりたいと思ってる子がいてね。彼だって、こんな時代でなけりゃ、そう、例えば戦争が身近でない世界に生きていたら、軍人はただ『かっこいい』っていうだけの存在で、もっと他のことに、その青春を振り向け、もっと輝かしい青春を送ることができたんだと思うんだ。今すぐには無理だけど、頑張って和平を為して、彼をそんな中で過ごさせてあげたい、そう思うんだよ。バカなことと思うかい?」
それはフレデリカが原作で聞いたことがない言葉だった。そしてそれと同時に、それは平和な前世の世界で生きてきた彼だからこその言葉なのだろうと、彼女は思った。彼女もそんな世界の住人だったのだから。
そしてまた、ユリアンのことをそこまで考えているヤンの姿に、ヤン会いたさが優先して、現世での両親への想いが少し薄くなっていた自身を恥ずかしくも思った。
今度、獄中の父親に何か差し入れを持ってあげようと思うフレデリカであった。
さて、そのヤンの心からの言葉を聞いたシェーンコップは、会心の笑みを浮かべて答えた。
「失礼ながら提督。あなたは、正直者か、どんなヒーローにも勝る善人か、もしくは、ルドルフどころか、ヒトラーを始めたとした全てのアジテーター以上の弁舌家ですな」
そして起立して敬礼する。
「思っていたこと以上、いえ、それを大きく超える言葉をいただきました。それでは小官も全力を尽くすとしましょう。恒久ならざる平和のために」
さてさて、満を持してヤンが登場!
これから彼との戦いが始まるのか?……ってところですが、
残念ながら次回は、帝国の新体制と、ブラ公の新旗艦のお話です。
戦いはもう1話分お待ちください(平伏
ということで次回
『シェルフスタットⅡよ、あれが新体制の灯だ!』
転生提督の歴史が、また1ページ