多重転生〜未来の自分がウザすぎる〜 【完結】   作:痣丸スイ

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1話 田中一郎─前編

 ここはどこにでもよくある剣と魔法の異世界。

 そんなありふれた異世界の、ありふれた国の中心で、この物語の幕は上がった。

 

 

「神に選ばれし勇者たちよ。よくぞ各地から集まってくれた」

 

 豪華な装飾が施された椅子にどっしりと構えて、いかにも私は偉いですという風貌の王様が仰々しく話している。

 

 先ほどから何やら難しい話を長々と続けているが、肝心の勇者達はまったく話を聞いておらず、はやく終わらせてくれとしか思っていなかった。

 

 その対面にいる勇者と呼ばれる者は、三人の美男美女達。

 その比率は男が一人、残りの二人が美少女という内訳である。

 

 ───つまり、俺を中心としたハーレムの始まりというわけだ……と、その金髪の男は王様の話を聞き流しながら妄想していた。

 

「(苦節26年、彼女いない歴=年齢の俺こと田中一郎にもついに春が来た! いつの間にか異世界に転生していた時は焦ったが、元の世界で普段から妄想していたチート能力を神様から貰えたおかげで、なんとかこの世界で無双をすることができた。しかも、顔も前と比べてイケメンになったしな)」

 

 金髪のその男───田中一郎は、心の中でほくそ笑む。

 

 この世界に転生する時に、神様から授けられたチート能力のおかげもあって、田中一郎の勇名はこの国の王様の耳にもすぐに届いた。

 その結果、こうして可愛い女の子と一緒に魔王退治を命じられている、というのが今の現状だ。

 

「~であるからして、諸君らの健闘を祈っている」

 

「(お、やっと王様の話が終わったか。えらい長かったな。俺が学生だった頃の来賓祝辞よりも長かったぞ)」

 

 田中一郎は、王様の話が終わるなり、首をコキコキと鳴らして凝り固まった体をほぐす。

 

 その後、見送りもそこそこに周りの兵士からの敬礼や、まとまった旅の資金などを受け取った田中達勇者パーティーは、城を出ると近くの酒場に行き、きちんとした自己紹介をする手筈になった。

 

 酒場に入ると、まだ昼間だというのに賑わっていて、酔った男の声があちこちで聞こえる。

 

「どっこいしょっと。自己紹介の前に取り敢えず飲み物だけでも注文しちゃいましょうか」

「ええ、そうですね」

「あたしもう喉からから~。あの王様話長すぎ!」

 

 すいませーん、と田中が代表して店員さんを呼び止め、各々注文をする。

 

「「「取り敢えず生一つと枝豆で」」」

 

 すると不思議なことに、彼らは息ぴったりに同じものを注文した。

 店員さんも綺麗にハモッた田中達に一瞬ギョッとしたほどだ。

 イントネーションまでぴったりだったのだから、それも仕方あるまい。

 

「いや~見事に息ぴったりでしたね俺達」

「こんな事あるもんなんですねえ。ビックリしましたよ」

「それより見た? あの店員さんの顔! 面白かったよね~!」

 

「(頼むものまで息ぴったりだなんて俺たち物凄く相性抜群じゃないか。まさに理想的だ)」

 

 田中はうんうんと頷き、この二人との未来予想図を脳内で妄想しながら自己紹介を切り出す。

 

「じゃあ、そろそろお互いに自己紹介していきましょうか」

「はいはーい! 最初はあたしからが良い!」

 

 ここで元気よく手を挙げるのは、ピンクの髪をツインテールにし、フリフリの多いスカートを履いた元気な女の子。

 背中には、その背丈に不釣り合いな大きい斧を担いでいる。

 マシュマロのように白く柔らかそうな肌をしており、小柄な体躯のわりに胸が大きいのが目につく少女だ。

 俗に言うと、ロリ巨乳。

 

「(俺はロリには興味は無いけれど、そっちの趣味の人に受けそうな見た目だ。ロリには興味がないと言っても、その豊満な二つの固まりにはついつい目線が行ってしまうのは男のサガ故。将来の成長が楽しみな女の子だ)」

 

 などと、田中は謎の上から目線で彼女のことを評価する。

 

「あたしの名前はアミリアっていうの! 神様からもらった固有能力は『怪力』だよっ。よろしくね~!」

 

 自己紹介と共に、アミリアは田中に向かってウインクでアピールをしてくる。

 

「(まいったな、俺はもうこの子の心を奪ってしまったのかもしれない。俺も罪な男だ)」

 

 田中はやれやれと肩を竦めて冷静を装うが、テーブルの下の足がガタガタと震えており、動揺している様子が見て取れる。

 前世から女性慣れしていない田中には少し刺激が強かったようだ。

 

「あの……少しいいですか?」

 

 手を挙げてアミリアに話しかけるのは、綺麗な黒髪で穏やかな物腰をした、もう一人の女の子だ。

 

「ん? なぁに?」

「どうみてもアミリアさんって未成年ですよね? それでビールはあまり良くないと思うんですけど……」

 

 田中も同じことは考えていたが、異世界だからという事でスルーしていたことに彼女は突っ込む。

 すると、アミリアはニマァっと口の端を孤月に歪ませて、楽しそうに笑いながら質問に答えた。

 

「そんなことないよぉ? だってあたし二十歳なんかよりもずっと年上なんだから」

「そうなんですか? それなら良いんですけど……。あっ、私の自己紹介がまだでしたね。私の名前はタナカって言います。固有能力は『魔法少女』です」

 

 次に、黒髪のいかにも清楚といった雰囲気の女性───タナカが自己紹介をする。

 

 彼女の特徴はなんといっても、その大きな胸だ。

 黒のローブという、服のラインがあまり出ない格好をしているにも関わらず、巨大な二つの塊の自己主張は激しい。

 

 アミリアも幼い外見の割には、かなりの大きさだったが、彼女と比べると慎ましやかと評せずにはいられない。

 一言で例えるなら、アミリアが巨で、タナカは爆だ。

 

「(そうか、彼女はタナカって言う名前なのか。………俺と同じ名前じゃないか! 異世界で同じ名前の女の子と出会う確率なんて0に等しいだろうに、俺と彼女は出会ってしまった。これはもう結婚するしかない)」

 

 なんとも飛躍した発想で元の世界では発揮したことのない、無駄な行動力を見せる田中。

 何故それを前世で発揮できなかったのか。

 

 襟を正し、タナカに真剣な顔で向かい合う。

 アミリアはその光景を見てキャーキャーと色めきだって姦しい。

 タナカはどこか困った顔をしている。

 そんな彼女の手を取って本気で交際を申し込む。

 

「俺の名前は田中一郎、年齢は26歳、職業は営業マンで趣味はゲームやアニメを見る事、休日には撮り溜めしたアニメ等を見たりしています! どうか俺と付き合ってください!」

 

 勢いに任せて、捲し立てるように一気に自己紹介と告白を済ませる。

 緊張で今の自分の紹介ではなく、元の世界の自分について紹介してしまった。

 これでは駄目だ。元の世界ではこの自己紹介で散々振られてきた。

 だから今回もきっと駄目だろう。

 そう思いつつも、田中は一縷の望みをかけてタナカの顔色を窺ってみる。

 

「ッッ!!??!?」

 

「(もう駄目だぁ……なんかあり得ない物を見たって感じの目で見られてるもん。しかもアミリアまで同じような目で俺を見てくるし。せっかく異世界で可愛い子たちといちゃいちゃ出来ると思ったのに、なんでこうなっちまったんだ……)」

 

 覚悟を決めたはずなのに、今更告白をした後悔の念に襲われる田中。

 そういう優柔不断な所が前の世界でモテなかった理由だと、彼はついぞ気が付くことは無かった。

 

「田中……一郎って、もしかして〇✕年〇月☆日生まれの田中一郎ですか……?」

 

 タナカは、未だ信じられないとでも言いたげな表情でそう聞いてくる。

 その様子は明らかに異様で、いったい何があったのかと田中は疑問を募らせる。

 

「そうですけど……なにかおかしいですか?」

 

「(一体俺の何に彼女は驚いているのだろう? あ、もしかして俺が転生者だと今さら気付いたのかな。それで自分の他にも転生者がいることに驚いたとか?)」

 

 自分が思いつく限りの、タナカが驚いた理由を考えるが、そのシワの少ない脳味噌で答えが出るはずもなく、結局はタナカの返答を素直に待つことにした。

 そして、一拍置いてタナカは頭が痛そうに額を指で押さえながら答える。

 

「実は……私のフルネームも田中一郎なんです。年齢は36歳の」

「は?」

 

 ????????????????

 

「(言ってる意味がよく分からないぞ~? タナカさんが田中一郎で田中一郎は俺のことだ。つまりおれはタナカさんということか??? でも俺は男でタナカさんはおっぱいで、俺はおっぱいだった……?)」

 

 田中は、意味不明な事を考えた挙句に知恵熱で頭から煙を吐き出す。

 

「(うーん、駄目だ。頭が半分くらいバグッて考えが纏まらrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr)」

 

 バグッた。

 

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