「ポテトそば?」
「うん、この辺の蕎麦屋に売ってるところがあるんだって。」
関西でのイベント出演の後、慧から突如投げかけられたそれは聞いたことのない食べ物の話題だった。
「そばにポテトって炭水化物過多な気もするけど、ちょっと食べてみたいね」
「!!」
一瞬面食らったが、これはチャンスだ。
普段から様々な手段でアプローチをかけてもうまく行かず、シルヴィア何某との疑惑の同棲生活に歯痒さを覚えていたのだ。
今日は慧からのお誘いだ。逃す手はない!!
「行こう!今すぐ!!」
「う、うん。やけに乗り気だね…」
「慧もイベントで疲れてるでしょ?美味しいもの食べて、英気を養わないと!!」
善は急げ!今すぐポテトそばの店を探して、慧と一緒にSNSへ意味深投稿してやるんだから!!
〜30分後〜
夏目恵は1人でポテト蕎麦を頬張っていた。
「どうして…」
そもそも件の店が駅中、もっというと改札の奥にあったのが悪い。
当日に戻る予定だった慧はその駅に寄っていると帰宅に支障をきたす恐れがあったのだ。
なら仕方ないと私も一緒に帰ろうとした。
しかしながら慧は何を曲解したのか、こっちは気にしないで行って来なよ楽しみにしてたでしょ、と私1人を蕎麦屋に向かわせたのだ。
何故、わたしはここに1人取り残されポテト蕎麦を食う羽目になっているんだ。そもそもこれだって慧と一緒に食べることに意味があったのだ。ポテトだからってなんでも食いつくと思ったら大間違いである。
ジャンクフードとしてのポテトは揚げたてのカリカリ感、時間が経った後のしなびた食感の両方を楽しむものである。麺つゆという外部要因によって汁気を吸ってしまうのはいかがなものだろうか。見た目のインパクトで人を寄せるのは良いがポテトの良さを損なってはいないか。
そう思いながら、恵は麺つゆを吸ってクタクタになったポテトを口に入れた。
「…………。」
「……美味しい。」
麺つゆの柔らかい味付けと少し塩気の残るポテトが合わさり、意外な美味を生み出している。
半分だけ浸かったポテトもサクサク感が残りながら出汁の味がしっかり感じられて良い。
盛られたポテトの最上部ではポテトの醍醐味である揚げたての香ばしさを楽しめる。
なんて事だ。1杯で3度楽しめるとは、私はポテト蕎麦を侮っていた。
そもそもかき揚げそばにだってジャガイモは含まれているではないか。元々無理な組み合わせではなかったのだ。
存外に満足した恵は、メールで送られて来た「今度埋め合わせをする」という文面を見ながら軽快な足取りで店を後にした。
なお、乗り継ぎを考えれば慧もこの駅から十分帰宅できたことを知るのは、もう少し後の話。