「おにーさんこれ、間違えて作っちゃったからサービスしとくね」
そういうと、おかみさんは僕のテーブルににゅうめんを置いた。
作ってから暫くたっているのだろう。熱いというよりぬるいと言った方が良いそれは、僕のテーブルの端で存在感を放っている。
「……」
正直にゅうめんは嫌いではない。だがタイミングが好みでない。
今自分は注文した定食を半分以上食べている。そして全てをちょうど良く食べきる配分に大体見通しがついた矢先のにゅうめん。
個人的にこのにゅうめんは横槍に近しいものと感じてしまう。
このにゅうめんに悪気はないのは重々承知している。しかしこの新参者によって後の食べるペース配分を考え直さねばならないのは事実だ。おかずを食べ白米を食べ味噌汁をすする。このバランスが新たな汁物の参入によって汁気に比重が寄ってしまう。それを考えると少々、心中の安寧がほんの少し乱れるのだ。
いやしかし、逆に考えよう。ここで来たのがおかずでなかったことを安心すべきかもしれない。もしおかずが現れていたら、中途半端に残った白米では味の濃いおかずを処理する羽目になったかもしれない。そう考えるとこの展開はマシな類なのだろう。うん。
心中で納得をつけ、僕はにゅうめんに手をつけ…
「あれ、にゅうめん食べちゃった?」
「うん。いらないって顔に書いてた」
「そっか。」
にゅうめんの到来にやきもきしているうちに、どうやら夏蓮の胃の中に収まっていたらしい。
しかし……
未だに胸の中がざわついている…
「今になって食べたくなった?」
僕の表情を見てか、夏蓮は僕の胸中を察したようだ。
「かもしれない」
にゅうめんによる食事の均衡危機は過ぎ去った。
しかし
既に僕はにゅうめんを組み込んだ食事で折り合いをつけてしまった。
逆に言うと、にゅうめんがなければ食事にバランスを欠いてしまう。
先程は忌々しかったにゅうめんが、今は手元にないことに歯噛みしてしまうのだ。
「なにそれ。食べたいなら先に食べちゃえばよかったのに」
「だね…」
背に腹は変えられない。
僕はにゅうめんを注文することにした。
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サイガ-100とカップ麺
43分と20秒。
職場から家に帰るまでに必要な時間だ。
日々十全に働き帰路に着くこの瞬間は、自ずと足取りが軽くなる。
今日はレオ・ネメアレクスの目撃情報が上がっているエリアに赴き、対リュカオーンの模擬戦代わりに挑む予定なのだ。モンスターとしての特性としては彼の最強種とは似つかないが、強者たる一との戦いそれ自体がリュカオーンを撃破する礎となると百は思案していた。
戦略、編成、予期せぬ事態への対策。考えを巡らせていると、帰り道のひと時はすぐに消費される。あぁ。今日もきっと、楽しくなりそうだ。
3分と42秒。
今日食べるカップ麺の最適な待ち時間だ。
新作のそれを箱買いして研究した結果、百は発売1週間で湯を入れてから食べるまでの最適な時間を発見していた。麺が湯によって完全にほぐれる一歩手前。それこそがこの麺に相応しい。
帰宅後すぐに湯を沸かし、フルダイブのための身支度を済ませる。
着替えが終わりカップ麺の蓋を開け湯を注げば、後は待つだけだ。
インスタント麺というものは不思議なもので、最初は食事を高速で終えるための苦肉の策だった筈なのに、今では立派な楽しみの一つだ。各種様々なフレーバーが百の生活に彩りを添えている。
湯を注ぎ、待つ。ただそれだけの簡単な行為に心が躍るのは、あるいはこの後の武者修行が待ち遠しいからだろうか。
少し硬さが残る麺を頬張りながら、クランメンバーとの連絡を済ませる。今日参加予定のメンバーは全員所定時刻に間に合いそうだ。
あっという間に食べ終えた後は、お楽しみの時間だ。
どうやら、件の獣はすでに所在が割れているらしい。後はそこに赴き、挑むだけ。
1年9ヶ月と12日。
あの衝撃から、もうすぐ2年が経とうとしている。
絞った知恵を嘲笑うかのようにことごとく破られた日々は、それでも打倒のための1手を練るためには十分な時間だった。
1番乗りとはいかなかったが、すぐに追いついてみせる。今はただ、己に出来ることを重ねるのみ。
あの日ずいぶん遠くに感じた最強。
未だに手は届かないが、後ろ姿は見えた。
もうすぐ、そこに追いついてみせる。
1呼吸と、瞬き1回。
戦う自分を鼓舞する為に、それ以上はいらない。