マガジン登場記念
今最もホットな方をお呼びしました。
人には誰しも、普段抑えていた欲求が爆発する日がある。そしてその解消方法は人それぞれだ。
陽務楽郎ならばクソゲニウムの多量摂取を指し、魚臣慧ならばティア1使用によるランクマッチの蹂躙を指すそれは、はたしてカリスマモデル天音永遠ならば何を指すのか?
答えはズバリ、豚骨ラーメンバリカタニンニクマシマシである。
「んー、そろそろかな?」
天音永遠はカリスマモデルであり、他者から見られる自分というものに極めて敏感である。
だからこそ、他の誰もが気づかないうちに自らの不調に勘付くことも容易であるのだ。
欲求不満状態というのは自分が思っている以上に外見に影響する。立ち居振る舞いや肌のハリ、顔色が少し変わるだけで今着ている服と合わなくなる恐れがあるのは職業柄死活問題だ。
まぁそれは言い過ぎ感があるが、それでも今の自分はあまり調子が良くない。それは事実だ。
「前ならこういう時は2.3人ハメたらなんとかなったんだけど…」
初期阿修羅会所属時の永遠は充実した日々を送っていた。重厚な装備で固められたプレイヤーたちに対し時間をかけて策を練り欺き罠にかける…
PKはまさに永遠にとってのリフレッシュと呼べるものであった。しかし今は足を洗った身。
戦争準備中ということもあり、軽率に動くことも難しい。となれば、この鬱屈とした感情はリアルで解消するに限る。
外出用のメイクを済ませ、普段は着ないような暗色の組み合わせに厚めの伊達眼鏡。これだけで私を天音永遠と気づく人は居なくなる。そしてこの格好だからこそ向かう先は一つだ。
「「らっしゃーせー!!!」」
扉を開けた瞬間に襲い掛かる猛烈な香り。
無骨な内装と元気だけが取り柄の店員たち。
これこそ、天音永遠が求めるラーメン店である。
必要最低限のコミニュケーションで注文を済ませ、後は座して待つ。
この類の店において過度の会話は拒まれる傾向にある為、逆に自分が気を使う必要も一切ない。
この点も今の永遠にとってありがたい。
そう。ニンニクマシマシ豚骨ラーメンを食べる時は孤独であるべきなのだ。
誰にも咎められず、1人で、心ゆくまで堪能する1杯。それこそが今の欲望を満たすに相応しい。
元から多めにニンニクを入れてもらった一杯に更に卓上の生ニンニクをぱらり。
明日はどうせ誰に会う予定もない。だからこそできる暴挙であり、だからこそ目一杯楽しめる。
ひと口すすると麺が程よい硬さでありながらスープとよく絡んでいることがわかる。多量のニンニクも良いパンチとなり卓上の一杯を更に野性的なものにする。
元から誰にバレる事もないが、それでも夢中になって頬張り過ぎないようには努めるのは、こういうときの行動が普段の仕事でのボロに繋がることを自覚しているからだ。
流石に普段の食事でがっつく事はないが、心掛けを欠くと後からしっぺ返しが来るのは未だに使い所を持たない自宅の臼と杵が物語っている。
何事も力の入れ時と抜き時を自覚することから始まるのだ。
早々に完食した永遠は、替え玉を頼む事もなく会計を済ませて早々に退店した。
勿論退店前に店内のトイレで上着を脱ぎ消臭スプレーを全身にかけ、豚骨のフレグランスで街中を歩く愚は犯さないよう努める。
後はこのまま帰宅すれば良い。
その筈だった。
「向かいのあの子…気付いてるね」
そう、上着を脱いだことにより少々普段の天音永遠的コーデに戻ってしまった為か、彼女のファンと思わしき1人に捕捉されてしまったのだ。
これに気付いた瞬間、彼女は苦虫を噛み潰したような面持ちになる。
「うーん…流石に至近距離でも服から香る事はないんだけど…」
万全の対策の甲斐あって、今の服から香りたつ危険性は消えた。しかし、永遠は自分が多量のニンニクを摂取したことを自覚している。
「このまま面と向かって話すわけにはいかないなあ…」
それとなくまこうと試みても、彼女は私をしっかり捕捉し、見失うことはない。
そして5分程消極的逃避行の末、ついに捕まった。
「あの…永遠様、ですよね?」
意を決して話しかけたであろう彼女を背に、同じく永遠も意を決する。
「そうだよー。オフコーデだったのによく分かったね!」
「……。」
話しかけられた彼女は、何も喋らず固まっている。
「………。」
「…っはい!そりゃ分かりますよ!!永遠様暗めのコーデでも凄い似合っててほんとに凄いです!!」
どうやら憧れの人から返答が返ってきたことでフリーズしていたようだ。
…如何やら仕込みも上手くいっていたらしい。
退店後捕捉された時点で、永遠は歯の裏に仕込んでいたミント型強力口臭防止タブレットを噛み砕いていた。
そしていかに強力といえど、その効果の発現にはおよそ5分ほどの時間を要するのだ。
そしてその強力な効果の代償に、不味い。
折角のご機嫌な食事だったが背に腹は変えられなかったのだ。
その後少々の会話の後に永遠は話を切り上げる。
「ごめんだけど、予定あるからそろそろ…」
「あぁ!ごめんなさいオフだったのにこんなに話しちゃって!!」
「大丈夫大丈夫!オフでもファンサービスに手を抜く私じゃないよ」
「本当にありがとうございました!!」
「うん!それじゃ…」
「…あの、最後にひとつ良いですか?」
「…?なになに?」
「…今使ってるリップ、もしかして新作ですか!?」
「…秘密!」