「そういえば、アメリア車買ってたんだね…」
タクシーは私が乗るには低すぎたので、自分ので用意するのが快適だと気づきました。」
「へ、へぇーそうなんだ…」
アメリアが用意した車は高さも幅もド派手、かつ妙に迫力のあるものだった。待ち合わせの場所でこの車からサングラスをかけた彼女が降りてきた時は、その圧倒的存在感で周囲一帯が凍り付いていたのも納得である。シルヴィアが声をかけていなければもうしばらくは硬直状態が続いていただろう。
「……。」
「………。」
後部座席には僕と恵が、助手席にはシルヴィアが乗っており、シルヴィアは窓からキョロキョロと外を見回していた。
沈黙に耐えきれず、恵はコツンと慧に小突いた。
(ちょっと慧。何か喋りなさいよ)
(無理いうなって。この空間で出せる話題とか僕持ってないからね!?)
(共通の話題とかすればいいじゃない…顔隠しの話とか食いつきそうだし)
(食いつくというか、その話題はほぼ禁句だよ…前の番組の敗戦の話をしたら今でも機嫌悪くなっちゃうし)
「顔隠しは呼ばなかったのですか?」
「「!!」」
いかに地雷を避けた会話をすべきか思案していると、アメリアから突然直球のワードが飛んできた。
「あ、あいつも誘ってみたんだけど、今日予定あって来れなかったらしい」
「そうでしたか」
「うん。あいつも来ればよかったのに、残念だよ、うん。」
実際サンラクにも予定の有無だけやんわりと聞いてみたのだが、奴は実家に帰省しているとかでどうにも引き込むことが出来なかった。
正直なところこの場に呼び寄せた所で死なば諸共。僕と奴が受けるダメージは等しかっただろうし、後から槍玉にあげられることを考えれば来なかったことは幸運だったかもしれない。もう1人の外道に話すら投げていないのは察してほしい。
「Hey!見えてきたわ!」
心底楽しそうにこちらに呼びかけるシルヴィアの言う通り、目的地はすでに眼前だった。
照りつける日差しが水面に反射して輝く。
周囲の緑も呼応するように煌めき、爽やかな風とともにその存在を主張する。
今日は晴天。絶好のキャンプ日和である。
しかしながら、今この場に存在するのは4人だけ。
アメリア・サリヴァン
シルヴィア・ゴールドバーグ
夏目恵
魚臣慧
プロゲーマーの世界を生き抜く彼ら彼女らに与えられたささやかなる休暇。
絶好のロケーションですることといえば…
「……」
「……」
「………」
「そ、それじゃあ流すよー。」
「カマンカマン!遠慮なくやっちゃって!」
「……」
「…本当に何やってるんだろう私。」
夏の風物詩、流しそうめんである。
さりとて彼女達のそれは少々異なっていた。
下流にて彼女達3人は慧がそうめんを流すのを待ち構えているが、特質すべき点として、魚臣を除く3人が目隠しをしていた。
シルヴィアが流しそうめんとスイカ割りと混合した認識をしていたらしく、ノリノリで目隠しを始めたのが事の発端。そうはならんやろ、と静止に入ったアメリアを軽く煽りその気にさせて空気を作り上げてしまうと、夏目恵に断る余地はもう残されていなかった。
「Shit!」
「アラ、どこを狙ってるのかしら?」
しかし当初の困惑を裏腹にこのブラインド流しそうめん、なかなかに競技性が高かった。
慧がそうめんを流すタイミングを水音で把握、麺の現在位置を把握した上で的確な位置へ箸を持っていく…
相当な技量を要求する行為のオンパレードを成立させているのは、さすがはプロプレイヤーといったところだろうか。
思うように掴めないからか距離感を測り直し箸を寄せる素振りを始めたアメリアを横に、恵は完全に萎縮していた。
(どうしよう…まるでついていけない…!)
日本人として箸を使うことによるアドバンテージがあるはずなのに、それでも初動が遅れることにより全ての麺をシルヴィアにかっさらわれている。
(こんなことするつもりは無かったけど…やるからには、少しは慧にいい所見せたい!!)
気合を入れ直し、目隠しの上にさらに目を閉じて集中力を高める。
耳をすませば、水の音が一定に聞こえ、次第にその音が塊の流れる音に変わる。
「ここっ!」
完璧のタイミングで箸を出した!これならシルヴィアよりも速いはず…
スコン!
恵よりも先に、というか少々フライング気味にアメリアから繰り出された箸は、勢い余って流しそうめんの台に突き刺さった。
「……」
「アメリー…元気いっぱいね」
「…Sorry」
アメリアサリヴァンでも、自分に非があれば普通に謝るらしい。慧と恵は1つ賢くなった。