気づけばBBQが始まった。
元々アメリアがBBQセットを借りられることを見越して事前予約、そして己の食べたいが為に肉8割で構成された食料の準備によってそれらの準備はスムーズに進んだ。
そして目を離すと慧が消えていた。ついでにシルヴィアも。何ということだ確かに野菜が足りないから買いに行かなきゃとは思っていたが既に動いていたとは、奴の手の早さを侮っていた。
アメリア曰く、ジャパニーズもろこしを買いに行くとの事。アメリアついて行かなくて良かったの?多分シルヴィアがあなたの車を運転するんだよ??
「彼女はたまに私の車を借りて行きます。」
諦めの声色が混じっていることから、これが異常事態でなく日常的に行われているのだと察した。あぁあなたも被害者だったのね。アメリカにいた時からあの行動力の化身に振り回されていると思えば、彼女に同情してしまう。
「あなたも苦労してるのね…。」
「…それはあなたも同じでしょう。」
テキパキとBBQセットを組み立て火を起こし始めたアメリアは、恵に言い返す。
「ケイは人を惹きつけるでしょう。貴方からしたら彼にも振り回されているのではないですか?」
「っっ!!?」
突然ブッ込まれる慧の話題に驚き、咄嗟の反応が取れずにいると、アメリアはさらに続ける。
「日本で草を食べるような人がモテるとは聞いていましたが、彼の周りを見ているとそれも納得です。」
「た、確かに慧は草食系だけど…」
未だに良い返答を思いつかずモゴモゴしていると、アメリアは手持ちの食料を焼き始めた。
肉、肉、肉、肉、そして謎の物体。
「え、これって…」
「tornado potatoです。」
「うわ発音良っじゃなくて、何でトルネードポテト??」
「よい肉にはよい添え物が不可欠です。そして今日持ってきた肉にはこれが1番良い相性です。」
「成る程…」
かのアメリア・サリヴァンが真顔で言うとそう言うものかと納得してしまう。成る程そう言うものか…
それにしても…
トルネードポテト。今まで各種様々なポテトを頬張ってきた恵をして、あまり食べたことのない類のものである。直焼きだと形が崩れないのだろうか…というかどちらかというと型の上で焼く方が上手くいくんじゃ…?
「…食べますか?」
「えっ…」
「私はショーケースのトランペットを眺める少年に我慢を強いる人間ではありません。」
「えっそんな異国の子供並みに目が輝いてたの私?うわ恥ずかしい…」
「食べますか?」
え、これYESかNOで答えない限り永遠にこの問答続く?アメリアさっきから言葉ひとつひとつの圧が凄いよ?
「…食べます。」
串にグルグルに刺され、熱々に焼かれたポテトが恵に差し出される。受け取って結構な大きさなことを再確認した。
…えいっ!
意を決し、恵は眼前のトルネードポテトにかぶりついた。
…
……
………美味しい。
トルネード状にカットされているために中まで火が通りやすく、短時間の高火力で容易にホクホクが楽しめる。そして加熱のムラによって軽く炙られたサクサクな部分としっかり焼かれたザクザクな部分に分かれ、食感だけで2度楽しむことができる。薄めの塩味もまた、飽きさせることなくポテトを彩っている。
…いやこれは
……侮っていたけれども
………中々に美味しい
存外の美味しさを知った恵はあっという間に一本を完食してしまった。
「えっと、美味しかったです。確かにこうやって食べると美味しさが増して良いですねこれ。」
「……。」
食べ始めから完食までジッと見つめていたらしいアメリアは、今ではその鋭い眼光を恵から外し、BBQセットに向けている。
「あの、アメリアさん…?」
「…これも、どうぞ」
「あ、はいありがとう…」
焦げ付く前に紙皿に移されていた肉をズイ、と恵に渡すアメリア。その表情から彼女の意図を伺うことができないのは降り注ぐ日差しが眩しすぎるからか。
もぐもぐモグモグ…
「確かに…これ、さっきのポテトと相性抜群ね。アメリアの言ってたことは間違ってなかったわ。」
「…どうぞ。」
ズイ、とアメリアは手元の紙皿を渡す。おそらく自前なのだろうグレイビーソースらしきものが肉とポテトにかかったそれは、先ほどよりも豪快な魅力を放っている…
「あ、ありがとう…」
もぐもぐもぐもぐ…
「うわっこのソース両方と相性抜群ね。少し辛めで両方の味を引き締めてる…貴方BBQ料理の達人か何か?」
「…どうぞ。」
ズイ、とアメリアは両手に持つビールとコーラをを突き出す。
これは、どちらか選べということか…
「じゃあコーラを…」
ぐびくびぐび
ふとアメリアを見返すと、少し硬さの取れた表情でこちらを見ていた。
……ひょっとしてこれ餌付けされてる?
3皿と1杯目にて、恵はアメリアの真意に気付いた。
アメリア・サリヴァン、美味しそうに食べる恵を見てご満悦の様子