異世界に投げ込まれたロボットが世界を破壊するまでの物語 作:青汁鼈甲飴
マグマの海に立つと、粘り気による抵抗で足を上げるだけでも一苦労です。燃料切れが心配ですね。
レモナもホログラムを消し、僕の周りを浮かびながらついてきます。
地面が赤熱している箇所があって人間の視覚ではきついものがあり、思わず目を細めます。カメラを持っていたらよかったのですけれど。なかなか見る機会がない景色ですからね。
それにしても本当に視界が悪い。右目のレンズに罅が入っているからか、マグマが染みる気がします。痛みはなく現時点では害にもならないですけれど、固まってしまうと困ります。できれば取り外して洗いたいですね。
「レモナ、灯りをお願いします」
「ええ……電池が切れそうなんですけド」
「僕のエネルギーが切れたら共倒れでしょう。あとでいくらでも充電してあげますから」
「仕方ないですネー」
「頼りにしてます」
灯りがマグマの上を照らしていきます。
「結局どれくらいの期日が経過したるのでしょうネ……」
「分かりませんけれど、私の燃料はほとんど減っていなかったので――」
「一億年単位で揮発する燃料を参考に出されてモ……」
「そうですかね」
とはいえ千年程度でも関節部分なんか劣化するでしょうし、そこまで時間は経っていないように感じます。
「新しいパーツもありますかネ?」
「十年くらいでもこの業界じゃ骨董品ですからね。寧ろ経っていない方がありがたいのですけれど。パーツが生産終了されているかもしれませんし」
しばらく歩いていると、足元が岩石の硬質な感触へと変わりました。マグマ地帯を脱したのです。
「広いですね、坑道でもなさそうなのに」
「どこの火山でしょうかネ」
しかしどうも歩きにくいですね……。
「溶岩が固まっていますね。不安定なわけです」
靴に付いた黒い固形物をべりべりと音を立てて引きはがします。汚れの付きにくい靴でよかった。
「真っ黒ですネ。レーザー洗浄しますカ?」
「今はいいです。どうせ汚れるでしょうから、二度手間になります。外に出たらお願いするかもしれません」
「外に出たなら全身丸洗いしましょうヨ」
――高エネルギー反応を確認。位置は地下7000M。
――振動波を検知、漸次増大中。0.55秒後に落盤を予測。
「レモナ!」
「はイ!?」
「飛ばしますよ!」
大きな声にびっくりしているレモナを強引につかんで胸ポケットに収納し、
大地が激しく揺れる、と各種計器がその前兆を観測したのです。次第に大きくなる揺れは、通常の火山活動では見られないパターンです。一刻も早くこの場所を離れなければいけません。
整備不良と燃料不足でボッボッという不規則な音がするのは不安ですが、この際仕方ない。炎の翼を広げたままに地を駆けます。
本当に一瞬のうちに周囲に亀裂が
僕の中のスーパーコンピューターな部分がこの後の未来を予測します。こうなればやるしかない!
――“
左腕を上へ向け、その掌から白色のレーザー光線を分割して放射します。複雑に織り込まれたレーザーの笠で、天井から降り注ぐ岩盤を焼き払うのです。
数秒か、数分か。しばらくそうして迎撃を繰り返していると、轟くような揺れはぴたりと収まりました。
今のは一体何だったのでしょう。
周囲は落下してきた岩石群によって埋められ、道が閉ざされていました。
まずは、この岩をどうにかしなければいけませんね。
◇ ◇ ◇
少し過去のことを思い出していました。
何せ、ここは今真っ暗だから。レモナは衝撃で電源が落ち、入らなくなったようです。大丈夫でしょうか。
僕はブラン。16歳程度の男性型として設計された広域防衛用ロボットです。男性体だからアンドロイドと言うことになるのでしょうか? 生物とは身体の作りが違うので、本来男性も女性もありませんが。
実は、(この変な場所へ移動させられたときにかかった時間はよく分かりませんが)生まれてから三か月くらいしか経過していないのです。
僕の元になったのはどこかの爆発に巻き込まれた男子高校生で、死にかけていたところの記憶データを僕に移植されたようです。さらっととどめを刺されている気がしますが、いいのでしょうか? いうなれば前世であり、その男子高校生が経験したことがデータとして僕の中に蓄積されています。しかしそれは僕自体が経験したことではありませんし、何があったのかは本来彼だけの胸に秘めておくべきだったものが多いでしょう。
まっさらな状態に一人分の記憶を入力したのなら、本来僕は彼自身のように振る舞うのかもしれませんが、プログラムによって意思や行動規範が設定されています。そのためか、どうにも男子高校生のようには振る舞えないのです。
今、火山の中というこれまで見たこともない場所にいることには期待と不安が半々といったところでしょうか。期待している項目と不安な項目をを一つづつ列挙して数値化したら、きっと不安の方が多いですけど。
さて、かの男子高校生の記憶の中に、火山で落盤に見舞われたときの対処法はあるでしょうか……?
主人公は男だったり女だったりしたことがありますが、本作では終始男で一人称は『僕』なのでもし『私』になっていたらご指摘ください。それは作者の一人称です。