ぱちり。
意識の浮上した俺は目を開いてみた。
ガラス……か? 透明なドームのような屋根が見える。その向こうの景色からして室内にこの屋根があるらしい。俺が入っているのはケースか何かだろうか。
ひとまず起き上がって周りを確かめようとするが、体が思うように動かない。仕方なく視線を動かすだけで周囲の様子を把握しようと試みる。で、目に飛び込んできたのは赤ん坊である。
……んん……?
反対側もまあ、確認してみるか。顔をぐるりと回す。で、また赤ん坊。何だこの保育士さんみたいなポジション。何で赤ん坊に挟まれてるんだ?
左右どちらも俺と同じように透明なケースに入っていて、髪が異様にフッサフサだ。そしてなんかデカい。乳児特有の丸っこいぽちゃぽちゃ体型から赤ん坊なのは明白だが、なんかデカいのだ。俺とほぼ同じサイズに見える。いや、同じサイズだ。それはつまり──
「あぶぁばぁっ!!?(俺赤ん坊かよ!!?)」
待てよ? となると誰に憑依したんだ?
まず状況的に俺はサイヤ人か。両側の赤ん坊にはよく観察すれば尻尾があるし、保育器に入っているならばこの透明ケースの説明もつく。どれ……俺にも尻尾あるな。間違いない。
てことは、名前のあるサイヤ人キャラか。結構いるぞ。ちっちゃい愚息があるから男なのは確定だが、それにしても絞れねぇな……悟空、ブロリー、ベジータ、ラディッツ──
「おい、こいつか?」
出し抜けに響いた声に驚いていると、ドームの上ににゅっと男の顔が現れた。生え際がM字の額に長髪……え? M字ロン毛? ラディッツ??
その男は呆気にとられている俺の前でスカウターをピッと押し、
「チッ……戦闘力10か。カスが」
酷ぇww
誰がカスだおい。戦闘力10って言ったら原作初登場時の悟空と同等だぞ。赤ん坊がだぞ? そりゃサイヤ人にしちゃ雑魚かも知れんが……
「残念だったなパーニップ。まあ所詮下級戦士のガキだ、そんなもんだろうよ」
「黙れ。貴様もその下級戦士だろうが」
パーニップぅ……?
誰だそれ。ラディッツじゃないのか。
パーニップと呼ばれたラディッツ似の男はフンと忌々し気に鼻を鳴らし、俺に向けていた視線を外した。行くぞともう1人の男を促す。
「もういいのか?」
「バーダックはどうせ辺境の星に飛ばされる。俺の知ったことではない」
「冷てぇ親父だなぁおい」
「こんなカスの父親なら願い下げだ。欲しいならくれてやる」
「ははっ、そりゃこっちもゴメンだぜ」
遠ざかっていく話し声と足音を聞きながら、俺はあんぐりと口を開けていた。
バーダックって……言いいませんでした?
俺のことだよな? で、あのラディッツモドキのパーニップとかいう男が、父親? いや、いやいやいや……
「あばばぶぁうぁぁぃうっ!!(原作前に死ぬじゃねぇかオイッ!!)」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
おう、バーダックだ。
ベビーフェイスで失礼するぜ。
現在丸っこいポッドに乗るために運ばれている。俺の戦闘力はやはり下級戦士の赤ん坊としてもカスだったらしく、パパさんの言っていたように辺境の星へ送られるのだ。
そう、あれから暫し放心していたわけだが、まさか、まさかなぁ……バーダックになるとは。原作ワールドを満喫しようと思ってたのにバーダックになるとはっ……!!
いや、バーダックは好きだ。
推しキャラも推しキャラ。ドラゴンボールで最も好きだと言っても過言ではない。
主人公孫悟空──カカロットの父親にして、戦闘力ならエリート戦士にも匹敵する叩き上げの下級戦士。あのフリーザ様にも最後まで抵抗したサイヤ人として覚えられている。
そんな彼を推すのは無論俺だけではない。元はテレビスペシャルのアニメに1度登場しただけのキャラクターであるにも関わらずDBファンからの支持は高く、超化するわヒーローズに進出するわで最早その待遇は原作キャラ。更には鳥山先生までもが痛く気に入り、原作コミックの26巻94ページにフリーザの回想としてひとコマだけ出演するという快挙も成し遂げている。かくいう俺もバーダックのカードは全身全霊を以てして集めたものだ。なぜか柱乗りの白桃おじさんばかり俺の元へ集結していたのも今となっては良い思い出である。
だがしかし、なりたいかと言われれば話は別だ。むしろ辞退したい。
だって……原作に関われないんだぞ? フリーザ様にちょこっと思い出して貰う程度だぞ? 長男が一言だけ話題に出すような立ち位置だぞ? 間違っても無印からGTまで一切出番はない。死んでるからな。惑星ベジータと一緒にドカンだ。
え? 『エピソード オブ バーダック』? そりゃダメだ。その世界線かどうかもわからない上に、万一そうだったとしてもその後が全く不明なのだ。アテにならんだろ。というか、生きててもアレは過去の世界だ。やはりどう足掻いても原作には掠りもしない。
しかも俺の場合、赤ん坊からのスタート。バーダックがどのような人生を歩んだのかなんて俺は知らないのだ。いくらバーダックというキャラクターが好きでも、設定にない部分に関しては全くの無知である。どうすればこの世界の歴史が刻まれるのか見当もつかない。とりあえずフリーザに特攻すれば何とかなるだろうか。……そんな簡単な話じゃないよなぁ……
しかしこう悩んでいても仕方ない。何せ少なくとも30年近くは戦闘民族サイヤ人としてやっていかねばならないわけだ。まずはすぐに死なないよう努力しよう。送り込まれた星で死にましたなんてことになったら転生した意味が──
──ん?
ちょっと待て。
仮に俺が早々にまた死んだとしよう。すると、悟空の存在はどうなる? 父親がバーダックではない世界線が発生しないとも限らないが、単純に考えて孫悟空という存在は生まれなくなるはずだ。更に、死ななかったとしてもギネとゴールインしなければ結局同じことが起きる。当たり前と言えば当たり前だが、原作は主人公が消滅しては始まらない。
つまり、だ。
死ぬ=原作終了。
生き延びる→ギネと結ばれない=原作終了。
こういうことである。
……もしや、俺はかなりの重責を背負ってしまったんじゃなかろうか(白目)。
生き延びるのは頑張ればどうにか出来る。だが、ギネとの馴れ初めなんか知らねぇぞ。我流で行くとしても、魔法使いになりかけていた清き男子にはどうすればいいのかさっぱり……くそ……言ってて泣けてくるぜ……
そんなに無理ゲーなら原作なんか気にしなきゃいいじゃんという意見は却下だ。それこそ転生の意味がない。何度も言うように、俺はDBワールドを味わいたいがためにもう一度生を受けたのだ。原作を見ずにまた死ぬなんてのはゴメンだぜ。
最低限、悟空の存在は守る。……まあ、Zの開始に重要なラディッツも。そして、あわよくば、何とかして惑星ベジータ爆発後も生き延びる。後者は相当難易度が高いが、それまで時間はたっぷりあるんだ。何か良い策を捻り出せるかも知れない。
……よし、ひとまずの目標は定まった。あとはどれだけ頑張れるかだ。「あきらめたらそこで試合終了ですよ……?」という安○先生の言葉を胸にバーダックやってくか。
うんうんと1人納得していると、急にぶん投げられた。「んにょっ!?」と情けない声が出る。背中にソファーのような感触があり、ポッドに入れられたのだと理解した。サイヤ人さんよ……赤ん坊はそんな扱いするもんじゃないぞ……
「せいぜい雑魚同士で遊んで来るんだな」
大人気ない捨て台詞と共にハッチが閉められ、目の前のコンピュータがピコピコと動く。外から操作しているのだろう。どんな操作をしているのか俺にはさっぱりわからないが、多分コールドスリープで眠り、起きたら知らない星という段取りである。
……とか言ってるうちに、意識が持ってかれ始めた。俺はただ……眠るだけd……Zzz……
バーダック:
カカロットパパ。最高にクズな親父で最高にサイヤ人な彼の魅力は計り知れない。尚、優しいパパバージョンは賛否両論である。何やかんやあってちゃっかり超化まで果たしている。SS4バーダック? 知らない子ですねぇ……
パーニップ:
バーダックパパ。原作にこんなキャラはいない。名前はパースニップ(ニンジンっぽい根菜)から。作者の勝手な創作である。鳥山先生にスライディング土下座。2度と登場することはないだろう……
ポッド:
1人乗りの丸っこい宇宙船。赤ん坊のカカロットが乗って来たのはコイツ。ベジータ、ナッパ、ラディッツが地球に襲来した時に乗って来たのもコイツ。動力が何なのか、作者にはわかりませぬ。
コールドスリープ:
ポッドの中に搭載されている長期睡眠装置。寝ている間に目的地! という便利グッズ。