竜巻注意報   作:スマイル

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作者はダイヤのAが好きですが、実際アニメでしか見たことないです…。なのでここから少しずつおかしな点も現れてくるかもしれませんが、どうか勘弁してください。




敗北の味

ーーズバッッッッッ!!!!!!

 

 

「ストライク!バッターアウト!ゲームセット!」

 

審判は手を挙げ、試合終了宣言のコールをする。

ゲームスコアは2−1、青道高校は稲城実業高校を下した。

 

「試合終了ー!青道高校ついに稲城実業を倒し、甲子園出場を決めましたー!!!」

 

青道高校はここ数年、同地区の市大三高や稲城実業に甲子園出場を阻まれ続けていた。しかし、今年は東清国率いる強力打線に加え、竜崎昇一が活躍したことで予選を勝ち上がり、とうとう稲城実業を倒し全国出場を決めた。

 

無論、竜崎が1人で投げ抜いたわけではなく、3年生投手2人と2年生の丹波も失点を抑えてきた。しかし、どの場面でも竜崎の影響は及んでおり、やはり竜崎がチームの中心の1人になっていたことには違いなかった。

 

「2−1で青道の勝利!互いに礼!」

 

「「「「ありがとうございました〜!!!!!」」」」

 

「勝てよ!東!負けんじゃねーぞ!」

 

「ああ、当たり前やんけ!お前らの分も勝ち続けたるわ!」

 

青道、稲城互いの主将は握手を交わす。

 

稲城の3年は一部を除いて引退となる。負けた悔しさを心に隠し、青道選手に想いを託す。青道もその想いを背負う。しかし、その中で成宮だけは何も言わず立ち尽くしていた。

 

彼はわがままな投手だった。それは悪いことではなかった。己の力を信じ、打たれない、打たせないとマウンド上では王様として、試合を1人で投げ抜いた。しかし2点取られた。

 

打たれてしまったことの悔しさか、3年生の夏を終わらせてしまったことへの罪悪感か、涙が溢れていた。稲城選手たちは成宮を慰めつつ、ベンチに戻ろうとしていた。

 

成宮は自分を信じていた。しかしその気持ちが強すぎていた。打たれてから顔つきが強張り、なんとか抑えていたものの、どこか、何かに怖がっているかのようだった。

 

打たれてしまった。しかし竜崎は投げ合っていて楽しいと思った。真剣勝負として、最高の試合をすることができた。だからこそ、もう一度、また強くなって戻ってきて欲しい。初めて、そんな存在と出会えた。

 

「ショウ?どうした、戻るぞ」

 

「成宮」

 

竜崎が声をかけると、キャッチャー原田に連れられていた成宮は足を止めた。原田も振り返り、竜崎を見る。

 

「お前に足りなかったのは打者の感覚を狂わせる緩急だ。一級品のストレートにキレのあるスライダーとフォーク、それに緩急が加わったらお前はまた一つ上のレベルにいける。そしてもう一つ」

 

竜崎はどうしても伝えたかった。彼自身もそうなったことがあったからだ。

 

「野球はチームスポーツだ。1対1のスポーツではない。9人が並ぶ打線を投手と捕手、そしてチーム全員で立ち向かう。お前は今日、今までそれを理解していなかった。だから点をとられて強張った顔してたんだ」

 

アメリカに行き、確かな力が自分につき始めた頃、味方の守備が下手なことに気分が悪くなった。送球や捕球、ミスは必ず起きるものだ。しかし竜崎はそれによって点が取られ、試合が決まることに苛立った。そうして自分の力で勝とうと思っていた時、かつての相棒が救ってくれた。説教してくれた、チームの前で。そしてそこから「仲間」になれた。

 

「…」

 

「ショウ、戻るぞ!」

 

「『俺が勝つ』なんて言っている内は、お前は怖くない」

 

自分の力しか信じていないような投手は怖くないと、竜崎は言い切ると、振り向き、ベンチに戻ろうとする。今行ったのはもちろん、事実と本音だ。今後どうなるかは本人次第だ。

 

ここで落ちるか、復活するか。

 

「竜崎!」

 

成宮のその声に竜崎は振り返る。

 

「次は!俺たちが勝つ!甲子園勝って帰ってこい!」

 

成宮は目の涙を拭わず、声を張り上げ、竜崎の目を見ながら言った。そしてすぐにまた竜崎に背を向け、原田とともにベンチに帰っていった。

 

 

 

こうして青道高校は甲子園出場を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてまた時は流れーーーーーー

 

 

「試合終了ー!青道高校、惜しくも届かずー!」

 

青道高校は東清国を中心とした全国屈指の強力打線と大型ルーキー竜崎の活躍によって全国の猛者を倒し、準々決勝まで駒を進めたものの、最後の最後惜しくも届かず甲子園をベスト8で去ることとなった。

 

しかし、東はもちろんのこと2年生の結城や小湊たちもその実力によってチームに貢献し、来年も驚異的存在であることを知らしめた。

 

さらにその中で最も輝いていたのは竜崎だった。伝説を彷彿とさせるフォームとボール、さらには打率こそ高くないものの投球フォーム同様の独特なバッティングスタイルから特大ホームランを打ち、甲子園の目玉となった。

 

青道高校選手は試合終了後、涙を流し、拍手を受けながら球場を去った。

 

 

 

 

「なあ、カズ」

 

「…」

 

「負けたな」

 

「ああ…」

 

「俺は今まで負けたことがないわけじゃなかった。勝つことが全てと思った時もあったが、負けることにも意味があって、負けという種を蒔いて、いつかそれがなんらかの形で実ればそれでいいと思ってた、今もそう思っているが」

 

「ああ…」

 

「けど初めてだな、負けてこんな気持ちになるのは」

 

「…」

 

「先輩たちの努力してる姿思い出してさ。もちろん他の高校の選手を軽んじているわけじゃない。けど、それでも先輩たちの努力がここで終わるって、そう思ったらさ」

 

「…」

 

「来年、俺は、俺たちはもう一度帰ってくる」

 

「ああ…」

 

「負けることにだって意味はある。ただまあ、こんな経験は二度としたくねーや。それに大好きな野球で負けるのは嫌だしな」

 

「だな…」

 

竜崎にとって敗北というものは慣れ親しんだものだった。小さい頃は両親との勝負で負けて負けて負け続けて、勝ったのは野球に出会う寸前のたった一度だけ。その後にリトルのチームに入った時も勝った負けたを繰り返していた。アメリカに行き、最初は自分の力不足でよく打たれた、そして負けた。実力をつけ、アメリカでもトップクラスの選手になったときでさえ、味方のエラーや他投手が打たれて負けたこともあった。

 

負けるたびに、それを糧にしてきた。しかし、そこにはいつだって自分しかなかった。悔しいという感情は強くなかった。自分がどうだった、こうすればよかった。仲間を信じていたが、野球はスポーツとして見られていて勝負とは言い難かった。

 

しかし高校野球は明確なチームスポーツ。チーム一丸となって勝利を目指す。竜崎は、そのための仲間の努力を見てきた。皆野球に一筋だった。夜になってもバットを振り、ボールを投げ、戦略を練り、血の滲むような努力をしていた。だからこそ、彼らに強い敬意を、尊敬を抱いた。このチームこそ他のどの高校よりも強いと。

 

高校野球でしか味わえないドラマ、それは互いに高め合った仲間と共に、青春をかけて、想いをかけて戦うからこそ生まれるのだろう。

 

少年もまた初めて味わう敗北の味を、心に刻む。

 

 

 

そして少年たちはこの敗北を糧に、また走り出す。

 

 

 




急に話が飛ぶのは申し訳ないですが、東世代の選手のことわかりませんし、書きづらかったのでこう言った形にしました。

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