崩壊獣の出現が以前よりも多く確認され、活発化していると天命御三家の組織会議で報告された。
この時はまだ崩壊獣に対し有効とされた武器の発掘や開発は十分に進んでおらず、5万年前の前文明より創生され、天命御三家が引き継いでいた神の鍵を用いて、崩壊獣の対策に当たっていた。
天命は兵を増員することで対応するとしたが、増える崩壊獣に対し、武器も不十分な現状では、対策も後手に回ってしまっていた。
「ねぇ、またお父さんのお話をしてよ」
オットーはカレンの父親の話を聞くのが好きだった。
カレンが父親の話をするときは「パパがこの間話してくれたのだけど…」と前置きをしてから、話すのが恒例となっていた。
カレンの父親はカスラナ家が代々継承してきた神の鍵、天火聖裁の持ち主であり、常に最前線で戦っていた。
そんな父親をカレンは尊敬し、誇りに思っていた。
身振り手振りを交えながらまるで近くで見て来たかのように、父親の活躍を語るカレンは普段よりもいっそう生き生きとした表情になった。
「パパと一緒に人々の為に戦うの」というのがカレンの口癖であった。
家族の愛情から切り離されて育ったオットーも、次第にカレンと同様に最前線で戦うカレンの父親に憧れを抱いていた。
しかし、カレンとは違い、自分はカレンのような父親にはなれないと自覚しており、遠い存在としてみていた。
「僕はカレンやカレンのお父さんが羨ましい」
「どうして?」カレンがオットーに問いかける。
「きっとこの世界を崩壊から救うのはカレンのお父さんのような立派な人だよ。
僕もカレンのお父さんのようになりたい。
だけど、僕には力も才能も…」
カレンは首を横に振った。
「それは違う。オットーにもパパと同じように崩壊と戦えるだけの力がある。
だって、オットーは他の誰にも負けないぐらい、色々なことを知ってるもの。
それはきっと、崩壊との戦いや人々を救う力になるわ。」
「カレン…」
本音を話して少し気恥ずかしかったのか、カレンが恥ずかしげに微笑む。
カレンは一呼吸置いて、話を続けた。
「…本当のことを言うと、私のしてたパパのお話は全部、人から聞いたお話なの。
だってパパが家にいることなんて殆どないから…。
でもオットーにパパのお話をしていると、パパが近くにいるような気がして嬉しい気持ちになれた。
嘘をついてて、ごめんなさい。」
カレンの顔に悲しげな表情が浮かびあがった。
オットーはやわらかく答えた。
「謝るようなことじゃないよ。話してくれてありがとう。」
カレンが父親をとても慕っているのは話しぶりから感じていた。けれども殆ど会っていないことにオットーは内心驚いていた。
そして、オットーは次の言葉を紡ぐために空を仰いだ。
「一緒にカレンのお父さんに会いに行ってみようよ。
カレンのお父さんに会ってみたいんだ」
その言葉を聞いた瞬間、カレンの心の奥底から、わきあがるように声が出た。
「うん!」
二人はまず手紙を書いて、それを従者に届けてもらい、カレンの父親がどこにいるのかを把握することにした。
カレンが書いた手紙の内容をオットーは聞こうとしたがカレンは恥ずかしがり、教えなかった。
手紙を届けた従者はすぐに帰ってきた。
そして、父親がどこにいるのかを従者に尋ねてみると、幸いにも屋敷から離れてはいたが、歩いていけない距離にある小さな町を拠点にして、崩壊獣の討伐に当たっていることが分かった。
オットーとカレンは早速、互いに準備をして、カレンの父親の元へと向かうことにした。
だが、その思い付きが後に悲劇になろうとは二人はそのとき思いもしなかったのであった。