おぜうさまロード   作:さろんぱす。

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ちょっと遅れましたが9話目です。
感想、誤字脱字の指摘ありがとうございます!


9本目:ぶっかけ

 ――どうしてこんな事になったのだろう?

 

 ナザリック地下大墳墓の西に広がるトブの大森林。

 その中央には北のアゼルリシア大山脈から流れ込む水により作られる湖がある。

 横長の楕円を上下に二つくっつけた瓢箪のような形の、20km四方にも及ぶ巨大な湖だ。

 

 そんな湖の近くに棲むリザードマンの一人、ザリュース・シャシャ。

 彼はリザードマン屈指の雄であり、また村を出て世界を見聞してきた経験を持つ賢者でもある。

 

 しかし今は地面に両膝を突き顔を伏せたまま必死に震える体を抑えていた。

 その有様は少しでも()()()の気を引いてしまえば自分の命は無いという、そんな心の内を物語っているようだった。

 

 ザリュースは伏せたままチラリと前方を窺う。

 数十mも離れた場所を見れば、そこには今の状況を作り出した元凶たちの集団があった。

 

 まずはもっとも高い立場にいると思われるのが中央の3人。

 死の支配者を思わせるスケルトン、蝙蝠のような羽を生やした女性、そして黒いスライム。

 そのすぐ側にはお付きなのか4人の女性がいる。黒い鎧と赤い鎧の女性、銀髪と金髪のメイド。

 

 そこから少し離れた所に黒くすらりとした服をきた老人がおり、横に4本の手に武器を持った武人のような蟲人、杖を持ったダークエルフ、羽の生えた赤子が並んでいる。

 

 さらに上空には村にやってきた黒いドラゴン。

 他にも周囲を見渡せば、胸から赤い光が漏れているゴーレム、真っ赤に燃える巨大スライム、森の木々より高い蜘蛛、万を超えるゴキブリの塊、などがいる。

 

 一体で世界を滅ぼせそうなモンスターが勢揃いしている様は、まるで世界に終わりを告げる魔王軍のようだった。

 

 オマケにそんな死の支配者の軍勢と対峙しているもう一つの軍勢がある。

 

 それはダークエルフの子供を中心とした魔獣達の群れ。

 恐らく100匹はいるだろう。こちらも一匹一匹が有り得ないほどの強さを匂わせている。

 

 ザリュースは震えながら必死に頭を働かせる。

 それはここに来てから何度も繰り返し考えたことだ。

 

 ――どうしてこんな事になった? 自分たちが何か悪いことでもしたのだろうか? と。

 

 

 

 ことの始まりは数時間前。

 一体の黒いドラゴンが自分たちの村へ突然やってきたことだ。

 そのドラゴンは全長が40mはあろうかというほどの巨大さだった。

 外で得た知識によればドラゴンは年を重ね体が大きくなるほど強くなっていくという。

 ならばこのドラゴンはどれだけ強さを持つのか。間違いなく名のある竜王に違いない。

 

 ドラゴンはゆっくりと村へ降り立ち、リザードマン達は恐怖で身をすくませた。

 一瞬、食われるのか!? と思ったが、予想に反してそんな事はなかった。

 代わりにその頭上に乗っていた背中から蝙蝠のような羽を生やした者は

 

『ここの責任者を出しなさい。早く。……いややっぱり湖の東側の中間地点まで来なさい。遅れたら全員エサにするから。』

 

 と言うとあっさり去っていった。

 

「どうする兄者?」

 

「どうもこうも、行くしかあるまい。」

 

 当然、ドラゴンに乗る存在の言葉を無視出来るはずがない。

 そのため村の者達を避難させつつ、族長である兄と自分の2人が指定された地点へ駆けつけた。

 

 しかしそこで見たのはさらなる絶望。

 化け物の中の化け物と思われる者達の集まりだ。

 さらにその化け物たちの前に連れて行かれ……

 

「ア、ア、ァ、ァ、ァ……。」

 

 その時のことを思い出すだけでガクガクと体が震え呼吸が荒くなる。

 ここには自分以外にも同じように集められたリザードマン5部族の族長がいる。

 彼らは部族のトップを務めるだけあって自分から見てもかなりの猛者だ。

 しかしこの場でそんな事は全く意味をなさない。恐らくあの黒いドラゴンが軽くくしゃみをしただけで自分たちの命は鼻水のように吹き飛ぶだろうから。

 

「ザリュース、しっかりしろ。ゆっくり深呼吸するんだ。ゆっくりだぞ。」

 

 声をかけてくれたのは兄であるシャースーリュー・シャシャだ。

 声に従い何度か深呼吸を繰り返す。すると若干であるが恐怖が薄れたような気がした。

 

「すまない、兄者。」

 

 こんな状況でも他者を心配できるなんて流石は兄だ。

 しかしよく見れば兄も体が時折ビクビクしてるので、やはり怖いものは怖いのだろう。

 

 幸いにして今のところは幾つか質問をされただけですんでいる。

 しかしこれからどうなるかは分からない。

 

「兄者はどうなると思う?」

 

「もはや俺たちではどうにもならん。……託すしかあるまい。」

 

 兄の言葉に周囲の族長たち全員が頷く。

 確かに自分たちが出来ることはなにもないだろう。

 しかしまだ希望は残されている。

 

 そう、あの大魔獣なら!

 瞳に深い叡智を宿したあの大魔獣ならきっと! きっとなんとかしてくれる!!

 

 ザリュースは死の支配者の前にいる一体の魔獣へ視線を向ける。

 そこにはリザードマンの最後の希望があった。

 それは白銀の体毛に蛇のような尾を持つ魔獣――森の賢王(自称)。

 

 当初、森の賢王は魔獣の群れの中に居た。それも縄でぐるぐる巻きにされて。

 恐らく捕まっていたのだろう。しかしそのままゴロゴロと群れから転がり出ると、自らを『森の賢王』だと名乗り死の王へ話しかけ、ここで起こったことを話せると言ったのだ。

 

 今までの出来事の流れを考えれば、こうして自分たちが集められたのは恐らくあの魔獣の群れについて情報を集めるため。ならばそれさえ達成されれば自分たちも解放されるのではないか? というのがここにいるリザードマン6人の思い――希望だ。

 

「上手く話がまとまってくれると良いが……」

 

「全くだ。もしかしたら信仰先が変わるかもしれんな。」

 

 リザードマンが信仰するのは基本的に祖霊だ。

 しかしこの場をうまく収めてくれたのなら、今後はあの森の賢王が神として語り継がれることになるだろう。

 

 兄の言葉を聞きつつ、こっそりと知覚強化の武技を発動させる。

 それから耳をすまし、風にのってやってくる音へ意識を集中させた。

 

『白い服から光の龍が飛び出したって、もしかして傾城傾国じゃないですか? 効果がエグすぎて使われた相手がWikiに情報載せたワールド・アイテムですよ。』

 

『ああ、完全耐性ぶち抜いて支配出来るやつね! しかも制限時間無しで。ペロロンチーノがものすごく欲しがってたアイテムじゃない(エロポーズの撮影的な意味で。』

 

『はぁ!? ワールド・アイテムって嘘でしょう!!? おい、どうしてもっと早く言わないんだ!! もう指輪使っちゃったじゃねーか!!!』

 

『ご、ごめんなさいでござる~。申し訳ないでござるよ……。』

 

『あぁ~、俺のボーナスが……。』

 

『モモンガのチンチンパワーアップが1回分無くなっちゃったわね。』

 

『モモンガさん、逆に考えるんです。チンチンの可能性をアウラにぶっかけたのだと。』

 

『逆ってなにが!? ていうか俺の流れ星の指輪(シューティングスター)はチンチンの為に残してる訳じゃないですよ!!?』

 

『『えっ』』

 

 ここからは距離があるせいで一部しか聞き取れない。

 それでも何とか推理すれば、恐らくはチンチンと指輪で対峙している魔獣の群れをどうにかするつもりなのだろう。

 

 正直かなり意味不明だ。だがそれはきっと俺がただのリザードマンだからだ。

 視線の先にはアレだけの超越者達が揃っている。ならばそのチンチンと指輪だって並ではないはずだ。チンチンに着けることで指輪の力を解放するのか、もしくは逆か……

 

「可能性のチンチン・オブ・リング、か。それにしても……」

 

「ザリュース!?」

 

 兄が何言ってんだコイツ? という顔でこっちを見てくる。

 しかし今は少しでも向こうの会話を聞き取ることが優先だ。

 

「兄者、出来れば静かにしてくれ。どうやら死の支配者のチンチンが重要な鍵のようだ。」

 

「「「「「!!?」」」」」

 

 俺は驚く族長たちを無視しさらに耳へと意識を集中させた。

 

『ひぃっ、ソレガシは食べても美味しくないでござるよ!!』

 

『あぁん!? お前を食ったら俺のムラムラが収まるのか!!? チンチンオフにしてもこれだけ何故か沈静化されないんだぞ!!!』 

 

『うーん、ここは剥製にしてオナホとして使うのはどうでしょう?』

 

『え~、ここまで大きいとどの穴もガバガバじゃない? それより皮だけ剥いで飾りにした方がいいと思うわ。貴方はどっちがいい?』

 

『どっちも嫌でござるぅううう~~~!!!』

 

 

「……ダメそうだな。」

 

 どうやら森の賢王はすでに死の支配者たちを不愉快にさせてしまったようだった。

 最後の希望は絶望へと変わったと言うことだ。おわった……。

 

「兄者、もし生き残れたら嫁になってくれる相手を探そうと思う。」

 

「……そうか。いやそうしろ。」

 

 これまで兄には『俺は結婚なんて出来ないさ』と言い続けてきた。

 しかし実は興味があったのだ。今まではそんなふうに思える相手が居なかったが、怪我の功名なのかこうしてこの場に来たことでその相手に巡り会えた。

 

 兄とは別のリザードマンに視線を移す。

 そこに居るのはリザードマンの中でも珍しい白い鱗を持つもの。

 自分とは違う部族の族長代理であるクルシュ・ルールーだ。

 その色はここから見える山脈にかかる雪のようでとても美しい。

 

「という訳でクルシュ、結婚してくれ。」

 

「はぁっ!?」

 

 クルシュが有り得ないというような顔でコチラを見てくる。

 たしかにこんな状況で告白されても迷惑だろう。しかし生きて帰れるかどうか分からないのだ。だからここは自分の心を素直に伝えることにした。

 

「生存本能が刺激されているからだろうか? 実は一目見た時からチンチンがムズムズしてたまらないんだ。」

 

「お 前 は 何 を 言 っ て い る ん だ。」

 

 兄がものすごく驚いた顔で突っ込みを入れてくる。

 たしかに自分はこんな事を言うキャラでは無かったような気がする。恐らく恐怖によって頭がおかしくなっているのだろう。あと死の支配者たちが未だにチンチンチンチン言ってるせいだ。

 

「駄目か?」

 

 気にせずクルシュへと顔を向ける。

 よく見れば瞳からは驚きの色が薄れ、代わりに軽蔑の色が強くなっている。

 

「――最低。」

 

 しかし不思議なことにそんな瞳で見られると、自分の心臓の鼓動はさらに早くなっていった。

 

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

「マジなのね……」

 

 アルベドから連絡をもらった私は咲夜を伴いすぐに玉座の間へ向かった。

 すでに主要なNPCたちは勢揃いしており、今回の件について改めて詳しい話を聞かされた。

 

 個人的には絶対に有り得ないと思ったが、しかしマスターコンソール(ギルドの管理ツール)の画面を見てみると、確かにアウラの名前の表示だけが黒色(敵対)へと変わっていたので信じざるを得ない。

 

「とりあえずアウラの居場所を見つけましょう。」

 

 それから私たちはモモンガに指示にそって占術を使いアウラの位置を特定。

 その場にいた全員で発見された場所へ向かった。しかし見つかったアウラは目に光がない。

 まるで催眠系エロゲでやられる寸前の女の子みたいな感じであり、周囲にいた魔獣達も今の状況に戸惑っているようだった。

 

 そこで手っ取り早く状態異常を解除するためモモンガが流れ星の指輪(シューティングスター)を使うも結果は空振り。

 私たちはようやくワールド・アイテムが使われた可能性に気づき、一旦ナザリックに戻って装備を変更。

 さらに湖の周囲にいたリザードマン等から情報を収集し、魔獣対策として出来る限りの戦力を率いて再びアウラと対峙するに至る。

 

「さて、問題はここからね。」

 

「そうですね。どうにかしてアウラを助けないと。こんな時にデミウルゴスが居ないのは痛いな。」

 

 今回、ここにデミウルゴスは来ていない。

 この状況で最も頼りになるであろう彼は、アウラの離反が判明すると『責任は全て指示を出した自分にある』と言って自害しようとしたのだ。

 

 個人的にこの状態は私たち3人にも完全に想定外なので責任なんて取らなくて良いと思ったが、しかし私にはどうすることも出来なかった。

 

 だって本を正せば運命がどうのと適当なこと言った私が原因だし……

 

 その時、私に出来たのは存在感を薄くして気付かれないように黙っていることぐらいだった。

 えっ、代わりに責任取ってくれるの!? 神か!! なんてこっそり思ってたのは内緒である。

 

 という訳でデミウルゴスは取らなくても良い責任を取ってナザリックで謹慎中だ。ちなみに監視はパンドラ。あのハニワと二人っきりとか、もうそれが罰ってことで良いんじゃないかな?

 

「はぁ~、なんとも困ったことになりましたね~。チラッ」

 

 そう言いつつもヘロヘロがチラチラとコチラを見てくる。その顔からは『モモンガさんに言っちゃおうかな?』という思いが見て取れる。おい馬鹿止めろ。責任を蒸し返すな。マジやめて!!

 

「それにしても、どうしてアウラ様はその傾城傾国の射程に入ったのでしょうか? そこのハムスターの話では多種多様な格好をした変な集団が近づいてきた、とのことでしたが。」

 

 ソリュシャンが疑問を投げかける。

 確かに言われてみればそうだ。アウラはレンジャーのクラスも修めている。その感知能力はナザリックの誰よりも高い。さらに性格も慎重である。

 本来なら1km先からでも気配を察知し、少しでも相手が強そうなら距離を取って情報収集へと切り替えたはずだ。

 

「それは恐らく勘違いしてしまったのではないかしら。」

 

「ふむ、どういうことだアルベド?」

 

 アルベドの発言にモモンガが先を促す。

 

「先日回ってきた報告書には『森に魔樹が封印されている』という記載がございました。さらに『封印を行った者たちはいずれ戻ってくると言っていた』ともありましたので。」

 

「封印を行った者……13英雄だったか? ではアウラはそれと誤解して近づいてしまったと?」

 

「はい。魔樹の情報収集は最優先になっていたようでございます。ただ途中で気づいて反撃したのでございましょう。」

 

「ふむ、命令が下される前に使用者を行動不能にした。だから今のような状況――その場に立ったまま、になっているということか。」

 

 なるほど。つまりそいつらは話を聞こうとした優しいアウラに、卑怯にも不意打ちで傾城傾国をぶっぱしたという訳ね? おのれ! どこのどいつだか知らんが絶対にゆるさんんん!!!

 

 アルベドの話が終わると心もち周囲の温度が10度ぐらいぐぐっと下がった。

 恐らくナザリックの者たちがみんなキレそうになったせいだろう。

 後ろの方からは噛み殺したような震え声とガチガチガチガチと歯を鳴らしているような音が聞こえてくる。

 

「それでどうしますモモンガさん? やはり予定通りですか?」

 

「それしか無いでしょうね。」

 

 モモンガが忌々しそうな声でヘロヘロに同意する。

 恐らく顔に肉があれば苦虫を噛み潰したような表情になっていることだろう。

 というのも支配から解放するためにはアウラを殺さなければいけないからだ。

 

 アウラ――正式名、アウラ・ベラ・フィオーラ。

 ナザリックに4人しか居なかった女性プレイヤーの一人、ぶくぶく茶釜が作った少女型のNPCであり、その種族はダークエルフ。

 古今東西の創作物におけるオークが竿役としてのレジェンド種族なら、ダークエルフはエッチなお姉さんとしての殿堂入り種族だ。

 

 今はスラリとした体躯でボーイッシュな見た目だが、きっと将来はムチムチバインバインになってビキニアーマーみたいな装備でイケイケになるに決まっている。

 さらにギルドでも数少ないリアル女同士ということもあって私はぶくぶく茶釜とはかなり仲が良かった。そのため友人の子供としても私の将来のハーレム要員としても今回の作戦は失敗など許されない。

 

「それで準備は終わったの?」

 

「自己バフは掛け終わりました。」

 

 実は今回の件で問題なのはアウラ本人ではなく周囲の魔獣達だ。

 ユグドラシルでは先にテイマーが殺された場合、使役されていたモンスターは最後の命令に従って動き続けた。しかしコチラの世界ではどうなるか分からない。

 もし暴れだしたら戦わざるを得ないが、しかし殺してしまった場合は別の問題が発生する。

 

 テイムしたモンスターはレベルダウンの代わりに能力値ペナルティを受けることで蘇生魔法などで蘇生できる。だが100匹分になると結構なリソース――アイテムもしくは蘇生魔法の費用、が必要になるわけで。

 ならば出来るだけ殺さずに弱らせて捕獲しようというのが今回の肝である。

 

「ではそろそろ始めようと思います。山河社稷図の準備は?」

 

「バッチリですよ~。」

 

 ヘロヘロが手に持っていた大きな巻物のようなアイテムをぶんぶん振る。

 

 山河社稷図(さんがしゃしょくず)

 それは私たちが集めたワールド・アイテムの一つ。

 その効果は対象を巻物の中に隔離すること。今回の場合は魔獣達を逃さないために使う。

 ただし効果がめちゃくちゃ広いので恐らく湖とその周辺まで丸ごと隔離されるだろう。

 

「……行きます!」

 

「そっちは任せたわね。“戦場の魔法(オーダー・オブ・バトル・マジック)”。」

 

 私のバフを受けたモモンガは気合を入れる為なのか両手で顔を叩き、ついで魔法を行使する。

 するとアウラの姿だけがその場から消えていった。

 複数の方法で強化され、抵抗を突破したモモンガの魔法により強制的に転移されたのだ。

 

「ではこっちはお願いします。<上位転移(グレーター・テレポーテーション)>。」

 

 続いてモモンガ、アルベド、シャルティアの姿が消える。

 予定通りならナザリックの地表部分へ転移が行われたはずで、そこでアウラと戦闘が始まるだろう。

 

「さーて、こっちはどうかしらね?」

 

「これは……駄目そうですね。」

 

 モモンガを見送った私は魔獣の群れへと視線を向ける。

 そこには主が攫われた事で戦闘状態に入った魔獣達の姿があった。

 

「全く、大人しくしててくれればいいのに。」

 

 そう言いつつ私は()()に持った真っ赤な槍『スピア・ザ・グングニルMkⅦ』の効果を発動させる。すると何も持っていなかった()()に赤い光で出来た同じような槍が出現した。

 

 これが私のメイン武器の能力。

 その効果は『同じ性能の武器をもう一つ作り出す』こと。

 こんな事をする用途はもちろんレミリアロールの一環としてぶん投げるためだ。

 ユグドラシルではモンクなど一部クラスは投げられた物をキャッチ出来た。

 なので投擲にはこういった工夫が必要なのである。

 

「間違えて左手の方を投げないでくださいよ? ユグドラシルのいつかの時みたいに武器が無くなって戦力外とかマズイですからね?」

 

「わ、分かってるわよ。流石にもう間違えないわ。」

 

 実際、Ⅰ~Ⅵまでのグングニルは実物の方を投げてしまい、そのままパクられて紛失している。

 

「だといいですけど。じゃあ山河社稷図を使いますね。」

 

 そう言ってヘロヘロが山河社稷図の効果を発動させる。

 すると周囲の全てが巻物の中へと吸い込まれた。

 もちろん私たちも対象な訳だが、しかしその中の風景は前にいた場所と全く同じ。

 これはこのアイテムが周囲の地形ごと取り込んだ為だ。

 

 するとそれが合図になったのか、魔獣たちは主の元へ帰せと言わんばかりに襲いかかってきた。

 しかし恐れることはない。アウラのスキル範囲から出た魔獣たちはせいぜいレベル70程度の力しか無いのだ。たいしてコチラはレベル80を超えるシモベが何十体もいる。

 

 あとよく見れば後ろに居たリザードマンたちも巻き込まれているがこれはしょうがない。

 元よりこのアイテムは一部だけ効果から除外するなんて器用な使い方は出来ないのだ。

 まっ、放っておけば魔獣たちの餌ぐらいにはなるだろう。ちょっとでも隙ができれば御の字だ。別に守ってやる義理も無いし。

 

「やるわよ。」

 

「「「「はっ!」」」」

 

 コキュートスが全ての手に持った武器を構える。

 咲夜がマジカル☆さくやちゃんスターを展開し、マーレとセバスも戦闘態勢に入った。

 後ろにいたメイリン(黒龍)がブレスを吐かんと大きく息を吸い、他の者もそれぞれ必殺の構えを取る。

 

「いくぞぉおおお!!!」

 

「「「「うぉおおおおおお!!!!」」」」

 

 私は叫び声をあげながらスキルを初動させる。ここで出し惜しみする意味はない。

 周囲の味方がまとめて強化され、指定した1人(コキュートス)の物理ダメージと命中が超パワーアップされる。

 さらに前へ軽くステップを踏ながら自己強化スキルをありったけ使うと、それから先頭を駆けてくる魔獣へ向け、強化した()()の武器を渾身の力で投擲した。

 

 

「……あっ。」

 

 

 

 だ れ か ひ ろ っ て き て 。

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

「えぇ~……」

 

 アウラを追って転移したモモンガは目の前の光景に困惑していた。

 魔獣をヘロヘロたちに任せナザリック地表部へ。

 しかしその先で繰り広げられた戦闘は彼にとって余りにも衝撃だった。

 

「シャルティア! そっちに行ったわよ!!」

 

「任せるでありんすぅー!!」

 

 それは黒と赤のフルプレートメイルが、幼い子どもを二人がかりでボコボコにしている光景だ。

 

「ああもう! うっとおしいなぁ!!」

 

 アウラは泣き言を言いながらも鞭を振るう。

 

「……ふんっ!」

 

 しかしそれはアルベドというナザリック最高の盾にあっさりと阻まれる。

 

「今でありんす!!」

 

 そこにシャルティアが魔法を撃ちながら突っ込み、容赦なくスポイトランスを振り回す。

 

「くうううぅっ、シャルティアのくせにぃ!!」

 

 ビーストテイマー兼レンジャーであるアウラが魔獣を奪われ距離を詰められているのだ。

 もはやこのまま見ているだけで決着がつきそうだった。

 

(ここに転移する前の俺の葛藤はなんだったんだ? 強制的に転移させるだけでも罪悪感がすごかったのに。)

 

 なのにアルベドとシャルティアの2人にはそんな葛藤がまったく見当たらない。

 

(もしかして女ってみんなこうなの? それともこの2人だけなのか??)

 

 実際は敬愛する主であり旦那(予定)であるモモンガの気苦労を少しでも減らそうと2人は頑張っているだけなのだが、しかし数日前に童貞を捨てたばかりのモモンガはその事に気づくことが出来なかった。

 

(もうこれ俺の魔法とかいらないよね? あっ、気が抜けたらちょっとムラムラしてきた。)

 

 モモンガがそんな場違いなことを考えている間もアウラのHPはもりもり減っていく。

 シャルティアは自分の分身を生み出す死せる勇者の魂(エインヘリヤル)をすでに使用済みであり、アルベドも騎獣召喚によりレベル100相当に強化された双角獣(バイコーン)を召喚済み。つまり実質4対1だ。

 

(ていうか何なの? どうしてそんな遠慮なくボコボコに出来るの?)

 

 モモンガは2人の余りにも容赦のない猛攻にドン引きである。

 このままならあと数分もすれば戦いは終わるだろう。

 一応、何かの為にこうして控えているが、恐らくもう玉座の間へ向かっても問題ない気がする。

 

(しかも2人とも普段は喧嘩腰なのにめっちゃ息あってるし。……女ってこわっ!)

 

 モモンガは思った。今後この2人を怒らせるのは絶対に止めようと。

 

 

 

 

 それから数分後。

 特に何事もなく戦いは終わり、アウラはHPが0になると装備を残して消えていった。

 しかし金貨(5億枚)を支払うことで無事に復活。

 

(復活したアウラが生まれた時の姿(ぜんら)だったのはびっくりしたな。思わずチンチンが飛び出そうになったし……。)

 

「モモンガさま?」

 

「すまないアウラ。聞きたいことはたくさんあるだろうが、しかし今はお前の魔獣達を迎えに行ってくれないか?」

 

「……えっと、はい分かりました。モモンガ様がそういうのでしたら。」

 

(いやほんとごめん。一回抜いたら俺もすぐ追うから。)

 

 そして魔獣たちは戻ってきたアウラによって再びテイムされた。

 こうして一連その騒動は一旦終了し、ナザリックには元の平穏が戻ったのだった。

 なお、アウラは自分を助けるために貴重な指輪を使ったと聞き、そのままモモンガハーレムに入った模様。




@オマケ・アウラが支配された時のやり取り(森の賢王訳)
隊長 「この魔獣たちは全部君の?」
アウラ「そうだよ!」

隊長 「君が一人で支配してるの?」
アウラ「そうだよ!!」

隊長 「君の言うことは絶対に聞く?」
アウラ「そうだよ!!!」

隊長 「よし使えッ!」
アウラ「えっ!!?」
老婆 「きぇえええ!!!」

やったね隊長! 漆黒聖典はみんなナザリックの絶対ぶっ殺すリストに乗ったよ!!

それからザリュースは恐怖で一時的におかしくなっただけです。
あとリザードマン6人+賢王はみんな死にました(蘇生済み)
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