専業主婦、園城寺怜のプロ麻雀観戦記   作:すごいぞ!すえはら

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第102話 園城寺怜と散乱する破片

「ううっ……どうしたらええんや……」

 

 リビングのローテーブルの前で、怜は途方に暮れていた。

 

 コーヒーの入ったマグカップを割ってしまったのである。

 

 当たりどころが悪かったのか、マグカップの一部が細かく砕け散ってしまった。白い磁器の破片が雪のように床に散乱している。

 

「この破片取り除かへんと、のんびりソファーでテレビも見れへんやん」

 

 いつも頼りになる竜華は遠征中で、不在にしており、怜が自分でなんとかするしかなさそうである。

 破片だけでなく、ソファーにかかったカフェオレも拭き取らなくてはいけないことに思い至り、怜はさらに愕然とした。

 

「早くしないと、タイムアウト終わってまうし……」

 

 このような事態を想定して、竜華は自分の遠征中には陶磁器の食器ではなく、プラスチックの食器を使うことを提案していた。

 しかし、怜がプラスチックは趣がなくて美味しく食べられないと言って拒否したためこのような惨事が発生した次第である。

 

「うーん……竜華にバレると、今後はプラスチックとか言われてしまいそうやな」

 

 プラスチックの食器は色々とトラウマがあるため、出来れば使いたくはない。

 怜は床にしゃがみこんで、そーっと素手で大きなマグカップ破片を掴んで、ローテーブルの上に置いた。

 

『割れた食器触ったらあかんで! 怪我でもしたら大変やから! うちが帰ってくるまでそのままにしててや! わかった?』

 

 怜の心の中のリトル竜華がそう訴えかけてきたので、怜は足元に気をつけながらダイニングテーブルのほうまで退避した。

 ここで怪我をしてしまうと、竜華が過保護モードになって、後々地獄を見そうという直感が怜にはあった。

 

「しゃ、しゃーない。ダイニングでプロ麻雀中継は見ればええわ!」

 

 ダイニングに移動して、テレビの電源をつけると大きく苦境に立たされている宮永さんが卓に戻り着席する姿が映し出されていた。

 

プロ麻雀トップリーグ 大将戦

第1半荘 南1局

大宮 福路 美穂子 117,300

佐久 高鴨 穏乃  111,700

横浜 宮永 咲   110,500

神戸 二条 泉   55,500

 

 福路さんが宮永さんから直撃和了を奪い逆転。試合は最高の盛り上がりを見せている。

 

「あーもう、はじまるやん! 片付けるの無理やしこっちで見ればええわ!」

 

 そう言った怜だったが、お気に入りソファーにかかったカフェオレの存在だけは、気にかかったので、拭いておいたほうが良いだろうと思った。

 しかし、床に破片が散乱してソファーの近くまで行けない。

 

 怜は着ていた二条泉の名前が刺繍されたチームジャンパーを放り投げて、カフェオレの上に被せた。

 

 拭き取ることはできないが、やらないよりはマシだろう。近くにタオルがなかったので、仕方のない措置である。

 事故対応も終わったので、怜は安心してダイニングテーブルに着いて、プロ麻雀観戦に戻る。

 ちょうど配牌が終わったところだ。

 

「タイムアウトとっても、あんまり牌の流れ変わらへんなあ。宮永さんの配牌よくあらへんし……福路さんが和了しそうやな」

 

 宮永さんは逆転されてもあまり動揺しているようには見えないが、流石に運がなさすぎる。

 

ツモ 700、1300です

 

 怜の予想通り福路さんが安手をさっと和了して、流れをたしかなものにしてきた。

 

「やっぱり流れは福路さんやな。高鴨さんおるのが宮永さんが不振の原因やろ。東場は精神的にもだいぶ揺れとったし」

 

 怜はダイニングの上に置いてあったタブレットを起動して、掲示板を開いた。

 

【波乱】プロ麻雀トップリーグ実況 268

250名前:名無し:20XX/4/16(金)

ななしの雀士の住民 ID:yok00rmjz

ああああああああああああああああああああああああああああ

 

269名前:名無し:20XX/4/16(金)

ななしの雀士の住民 ID:tokichan

やっぱ福路さん強いわあ

泉も少しは頑張れや

 

276名前:名無し:20XX/4/16(金)

ななしの雀士の住民 ID:yok3rmaz

宮永焼き鳥……

 

290名前:名無し:20XX/4/16(金)

ななしの雀士の住民 ID:emi6rwaz

一万点差で勝ったと思ってるハメカスwww

 

296名前:名無し:20XX/4/16(金)

ななしの雀士の住民 ID:hea60rma

福路強すぎて草

おまえ、そんな上手かったんか

 

311名前:名無し:20XX/4/16(金)

ななしの雀士の住民 ID:emi9mrza

ハメカス哀れやなぁ^^

うちの清水谷が、セーブ失敗0の神雀士ですまんな

 

326名前:名無し:20XX/4/16(金)

ななしの雀士の住民 ID:sak0mrza

>>264

今年いつ登板したんですかね……

 

342名前:名無し:20XX/4/16(金)

ななしの雀士の住民 ID:emi9mrza

>>326

3週間前や!!!

 

371名前:名無し:20XX/4/16(金)

ななしの雀士の住民 ID:ebi6ijcj

>>342

やばすぎて草

 

383名前:名無し:20XX/4/16(金)

ななしの雀士の住民 ID:yok3rm3g

>>342

暗黒すぎるwwww

 

391名前:名無し:20XX/4/16(金)

ななしの雀士の住民 ID:emi0gam6r

今日は、ウィッシュアートだからいけると思った()

 

401名前:名無し:20XX/4/16(金)

ななしの雀士の住民 ID:sak6rwaz

>>391

ウィッシュアートそのものは強かったよ

なお、のよりん

 

420名前:名無し:20XX/4/16(金)

ななしの雀士の住民 ID:emi3imai

すまん、この雀団応援する必要あるか(^◇^;)

・最下位独走中

・先鋒ローテーション壊滅

・3億8000万の謎外人

・のよりん劣化

・椿野二軍落ち、加治木故障

・ぐう畜パワハラネキ

・ドラフト1位、二条泉

・守備が良ければ許される火力と、火力があれば許される守備が売りの片岡

・銘苅行方不明

 

434名前:名無し:20XX/4/16(金)

ななしの雀士の住民 ID:emi0imcm

>>420

もう終わりやね

 

434名前:名無し:20XX/4/16(金)

ななしの雀士の住民 ID:emirmj3

>>420

清水谷竜華と二条泉の千里山コンビを信じろ

 

454名前:名無し:20XX/4/16(金)

ななしの雀士の住民 ID:emi6rwaz

>> 434

ドラフトで園城寺怜ちゃんが神戸に来てくれるという風潮

 

470名前:名無し:20XX/4/16(金)

ななしの雀士の住民 ID:emi0mrwa

>>454

絶対、競合になるし

うちは引き当てられないんだよなあ

 

479名前:名無し:20XX/4/16(金)

ななしの雀士の住民 ID:yok0rm0im

(*^◯^*)宮永で逆転されても岩館でポジれるんだ!

 

「うーん……かなりジリジリした展開やなぁ」

 

 第二半荘が始まっても、試合に大きな変化はなく、依然として大宮の福路さんがトップである。

 逆転されても宮永さんはじっくりと守備的な闘牌をしており、特に大きな動きがない高鴨さんも不気味だ。

 

「福路さん、点差広げてるけど主導権とれなくて結構イライラしてそうやなぁ」

 

 福路さんは腰が低く女性的な雰囲気だが、実際に卓を囲んでみると、かなり積極的に自分のペースに持ち込もうとしてくるタイプだ。

 

「絶対わがままやな、福路さんは……というか泉はなにしてんねん! そんなお行儀よく麻雀しててもしゃーないやろ!」

 

 ノープレッシャーで平和にのほほんと麻雀をしている泉の闘牌を見て、怜は頭を抱えた。

 勝とうという意志が全く感じられず、なんとなくお茶を濁して、次に先鋒登板した時に頑張ればいいやという考えが透けて見える。

 テレビ越しに見ている怜ですら、そう感じるのだから、ベンチにいる竜華には絶対に伝わる。

 

「これは、後で絶対怒られるやろなぁ……」

 

 試合後、竜華から詰められるとはつゆ知らず、へらへら麻雀をしている泉に少し哀れみを含んだ目線を怜は送った。

 しかし、よくよく考えてみると泉が全部悪いし、同情の余地も一切ないことに思い至り、怜は泉のことを考えるのをやめた。

 第二半荘も南入して、やっと宮永さんの牌周りが良くなってきた。福路さんは、二副露の形を作っているが間に合いそうにない。

 

嶺上開花ツモ、2000、4000

 

プロ麻雀トップリーグ 大将戦

第2半荘 南2局

大宮 福路 美穂子 126,000

佐久 高鴨 穏乃  112,300

横浜 宮永 咲   108,400

神戸 二条 泉   53,300

 

『ここで、宮永プロにはじめての和了が来ました! 嶺上開花です!!!』

 

 三科アナの力のこもった実況が響く。

 宮永さんが四索をカンして、両面待ちを埋めた綺麗な形で和了した時、高鴨さんの表情が少し動揺したのを怜は見逃さなかった。

 彼女と宮永さんとの間で、場の支配に関するなんらかのやりとりがあったのだろうと、怜は推測した。

 

「まあ、うちにはそれがどんな取り決めなのか全くわからへんのやけどな」

 

 高鴨さんの支配の力が衰えているのだとしたら、宮永さんの嶺上開花も狙いやすくなるのだろうか?

 なんにせよ、流れは変わった。

 

 続く、南2局の宮永さんの配牌も良い。

 

リーチ

 

 特に凝った手作りをすることもなく、宮永さんはリーチをかけた。

 3、6萬の両面待ち。

 わかりやすく強い形だ。

 

 宮永さんの和了を阻止するために、福路さんが積極的に鳴いていって聴牌したものの三萬を掴んでしまった。

 福路さんの手が止まる。

 

「ここでそれツモってくるのほんまに運がないなぁ……切らへんのは流石やけど」

 

 福路さんは、宮永さんの捨てた九筒を合わせて一度受けに回った。

 回し打ちにして、三萬は抱えたまま狙いにいこうという魂胆だろう。

 しかし、その速度では絶対に間に合わない。

 

ツモ 1600、3200

 

プロ麻雀トップリーグ 大将戦

第2半荘 南3局

大宮 福路 美穂子 124,400

横浜 宮永 咲   114,800

佐久 高鴨 穏乃  110,700

神戸 二条 泉   50,100

 

 福路さんの親番。

 配牌から、流れは完全に宮永さんにあるのがわかった。

 それでも食い下がろうと、高鴨さんが福路さんの捨てた中を鳴いて形を作る。

 

リーチ

 

 そんな努力を嘲笑うかのように、またもさっと手を組み終えた宮永さんから、リーチ宣言が入る。

 福路さんの手が止まる。

 かなり迷った末に、福路さんは六筒を切り出した。

 

ロン 3900です

 

 高鴨さんの感情を抑えた発声が聞こえてきた。

 

「あーそれわかるんすごいなぁ……やっぱ福路さん強いなぁ」

 

 福路さんが高鴨さんに差し込むかどうか悩んでいたのは、当たり牌は予測できたが点数がわからなかったのだろう。

 福路さんが、トップに立ったまま入ったオーラス。親番は宮永さん。

 高鴨さんの和了でまた流れが変わるかと思ったが、勝負は呆気なくついた。

 4巡目に良形リーチをかけた宮永さんは、そのまま一発ツモを引き当てた。

 

 リーツモ三色に一発もついて満貫。

 

 宮永さんが手牌を倒した時に、福路さんが鬼のような形相で、右手を卓に叩きつけたのが印象的だった。

 そしてそのまま俯いた福路さんを、無表情で宮永さんは眺めやる。

 

プロ麻雀トップリーグ 大将戦

〜終局〜

横浜 宮永 咲   126,800

大宮 福路 美穂子 116,500

佐久 高鴨 穏乃  110,600

神戸 二条 泉   46,100

 

「怖……でも、福路さんこれは悔しいやろなぁ……」

 

 試合のはじめから最後まで、福路さんずっと工夫に工夫を重ねてきた。その結果が、配牌に恵まれただけのなんでもない立直に潰されての敗北である。

 その気持ちは、怜にも痛いほどわかる。

 

「まあでも、その理不尽さも麻雀か」

 

 最善の努力を重ねた福路さんと、不調ながらもじっと耐えてチャンスを待ち、それが報われた宮永さん。

 

「なかなかええ試合やったなぁ」

 

 怜は満足して椅子から立ち上がって、リビングの方を眺めやった。

 ソファーの上に脱ぎ捨てられたチームジャンパーと、フローリングにバラバラのマグカップが散らばっている。

 

「……なかなかええ試合やったなぁ」

 

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