専業主婦、園城寺怜のプロ麻雀観戦記   作:すごいぞ!すえはら

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第112話 雀聖戦挑戦者決定戦 『激流』

 

雀聖戦挑戦者決定戦

第2半荘 東1局

清水谷 竜華 60,200

大星 淡   59,100

姉帯 豊音  52,300

園城寺 怜  28,400

 

リーチ!!!!!!

 

 雀聖戦挑戦者決定戦、第2半荘東一局は大星さんのダブルリーチで幕を開けた。

 配牌こそ五向聴だが、これまでとは打って変わって、有効牌をツモる未来しか示されない。

 第2半荘の始まりの時点で速い展開にする決意を固めていたのか、大星さんのダブルリーチを見て姉帯さんが方針を切り替えたのかは、未来視の力からはわからない。

 しかし、姉帯さんが仏滅の能力から、有効牌の引きを上昇させるように戦略をシフトしたことは疑いようがなく、この東1局で第1半荘から完全にトレンドが転換した。

 

 今まで堰き止められていた牌が、決壊したダムの水のように溢れ出す。

 

 遅緩な展開よりも、早い展開のほうがずっと対応することは容易い。

 姉帯さんが、やっと押してくれたリセットボタンを最大限に利用して、点差を詰めておかなくてはいけない。少し無理をしておくだけの価値がこの局面にはある。

 

 3巡先を覗き見ると大星さんの満貫和了が見えたので、鳴きをいれておく。

 

 他家の手を妨害しながら、自分の手を仕上げていき、聴牌までたどり着いた怜だったが回避できない未来が視えたので、未来視の力を元に戻した。

 2巡先の竜華のツモ和了が近づいてくる。

 

ツモ、2000、4000

 

 竜華の理牌のされていない萬子の混一色が開けられる。

 一瞬、目が踊った怜だったが和了しているっぽいし、姉帯さんが何も言わないので和了しているのだろうと予想した。

 あまり自信がない。

 麻雀の強い方の泉も竜華の和了を目で追いかけながら、自信のなさそうな顔をしている。

 

——見にくすぎやろ……理牌くらいしろや。竜華に和了されるの痛いけど、これなら次局につながるからそう悪くもあらへんかな。

 

 姉帯さんさえトップに立たせなければ、このチャンスは継続する。

 

雀聖戦挑戦者決定戦

第2半荘 東2局

清水谷 竜華 69,200

大星 淡   54,100

姉帯 豊音  50,300

園城寺 怜  26,400

 

 第2半荘のはじめての親番。

 牌の激流のような高速展開。大きなビハインドを背負っている現状、鳴いて無理にズラすのは打点低下が痛い。

 

 切り出す牌で、流れをコントロールしていくしかない。

 

 4巡先の牌形から不要牌を逆算して、怜は六筒から切り出した。聴牌が近そうかつ、国士も見える不思議な切り出しから、他家を牽制していく。

 チャンスが限られている以上、鳴いて無理に和了しようとすれば負ける。

 

 激流を制するは静水。

 激流に対し激流で立ち向かってものみこまれ砕かれるだけだ。

 

 1巡先の未来を変えようとはしない、遠い未来の出来事を改変する。

 ほんの少しの不確実性を取り入れるだけで、ずっと先の未来は大きく変わる。

 積極的な仕掛けは必要ない。

 むしろ、激流に身を任せて同化する。

 

リーチや!!!

 

 怜が気合を込めてそう発声し、リーチ棒が真っ直ぐに立つ。

 姉帯さんが追っかけリーチをかけてきたが全く問題にならない。

 未来は、もう決まっている。

 怜は、ツモってきた牌をそっと優しく横に表向きに置いた。

 

ツモ 6000オール!

 

 立直、一発、門前自摸、平和、断么九、ドラ2。

 試合の流れを変える跳満和了で、姉帯さんを最下位に蹴落とした。

 

「おい、そろそろまぜろや」

 

「ふーん、絶対安全圏は破れなかったみたいだけど……なかなかやるじゃん」

 

 目を輝かせて好戦的な笑みを浮かべる大星さんの反応に気をよくした怜だったが、猜疑心の塊のような姉帯さんの視線を浴びて気を引き締める。

 

雀聖戦挑戦者決定戦

第2半荘 東2局 1本場

清水谷 竜華 63,200

大星 淡   48,100

園城寺 怜  45,400

姉帯 豊音  43,300

 

 跳満和了から波に乗りたい怜だったが、あまり良い未来は見えてこない。

 姉帯さんの支配による牌の激流は続いているので、逆転のチャンスは継続するのが救いだろうか。

 

——追いついたはええものの、これ姉帯さん、うちだけ牌いじってるんちゃうか……

 

 疑心暗鬼に駆られながらもいつものペースで巡目を進めていくとあっさりと、大星さんに和了された。

 ダブルリーチからの満貫で8300点。

 お手軽な高火力に怜はため息をつく。

 

 続く東3局は姉帯さんの親番。

 絶対に姉帯さんをトップに立たせるような展開にはしたくないので、怜は自分の和了よりも姉帯さんを妨害することを優先して麻雀を組み立ていく。幸い竜華も姉帯さんを和了させないことに関しては協力的なので、いくつもの有効な未来が怜の前に示された。

 何度も姉帯さんの和了の影がチラついたが、またも大星さんが満貫を引き当てて、なんとか姉帯さんの親番を凌ぎ切った。

 

雀聖戦挑戦者決定戦

第2半荘 東4局

大星 淡   64,400

清水谷 竜華 59,100

園城寺 怜  39,300

姉帯 豊音  37,200

 

 大星さんが再度トップに返り咲く。

 せっかくトップに立ったのに平然とダブルリーチをかけてくるあたり、大星さんの麻雀はどこか壊れている。

 しかし、その無鉄砲さが事態を好転させる事が多いので、彼女からみれば期待値的に最も良い選択をしているということなのだろう。

 姉帯さんの追っかけリーチが入って、大星さんが当たり牌を掴みそうになったので、竜華の捨て牌を鳴いてズラす。

 

ツモ! 3000、6000

 

 姉帯さんが嬉しそうに両手で牌を倒して、跳満が卓に晒される。

 第二半荘が始まってから必ず10巡以内に和了し最低満貫以上の和了しか登場しないインフレ麻雀に、試合をテレビで見てる人はイカサマとか言ってるんやろなあと怜は思いながら牌を卓に投げ入れる。

 先の先まで見通すことで未来視の力は少し曇ってきたが、頭痛がするくらいで身体的な負担はあまりない。

 北海道で出会ったホヤウカムイ様に、怜は深く感謝した。

 

雀聖戦挑戦者決定戦

第2半荘 南1局

大星 淡   60,400

清水谷 竜華 53,100

姉帯 豊音  50,200

園城寺 怜  36,300

 

 大星さんの親番。

 当たり前のようにダブルリーチがかかって、卓に緊張感が増す。

 

——というか、こいつら未来視使ってるわけでもあらへんのになんで振り込まんねん……

 

 怜は、放銃の全くない今日の面子に恐ろしさを感じながらも、牌の流れに沿って切っていく。

 

 この局は3巡先に自分の和了がある。

 

 無理をする必要はない。

 たまには、こうして牌なりで和了できる場面がなくてはやっていけない。

 

リーチや!

 

 予定調和を果たすために1000点棒を立てて追っかけリーチをして、大星さんが捨てた三萬をそのまま回収して和了する。

 

ロン! 8000

 

 怜がそう発声すると、大星さんの顔が曇った。

 差し込みを除けば、この対局ではじめての出和了を決めてトップとの差を大きく縮めることに成功した。

 

雀聖戦挑戦者決定戦

第2半荘 南2局

清水谷 竜華 53,100

大星 淡   51,400

姉帯 豊音  50,200

園城寺 怜  45,300

 

 トップの竜華との差は約8000点。

 最後の自分の親番はなんとしても和了しておきたい。

 怜は、五向聴のぐしゃぐしゃの配牌を見据える。

 大星さんのダブルリーチはかからない。

 手牌は最悪だが、他家の手牌も大星さんの安全圏の力によってそう良くはないだろうと怜は推測した。

 

——前局と違ってすんなりとは和了できへん、無理矢理動いてずっと先の未来を変えたる!

 

 姉帯さんの捨てた九索を鳴いてから、中を鳴いて役をつける。

 未来が視えているからこそ自信を持って行える鳴きを活かして、高速の和了を狙いに行く。数多の未来を切り捨てて、自在に未来の形を作り替える。

 

ツモ! 2600オール!

 

 和了牌を引き当てて、怜はそう力強く発声した。

 

雀聖戦挑戦者決定戦

第2半荘 南2局 1本場

園城寺 怜  53,100

清水谷 竜華 50,500

大星 淡   48,800

姉帯 豊音  47,600

 

 最終盤の土壇場でトップに立った怜だったが、バラバラの配牌と大星さんのダブルリーチが入るのを確認して、自分がもう一度和了しなければならないことを悟った。

 

——この局はどう動いても和了出来へんやろから、他家の守備力考えたら親かぶりになるやろ……なんとか姉帯さんの和了だけは阻止せなあかんし……

 

 ここで最下位の姉帯さんに満貫和了を許しトップに立たせれば、スローの展開にされ怜の勝ちの目はなくなる。

 緩慢な展開で強いのは、大星さんと姉帯さんだけだ。後2局であれば、点棒の差でそのまま押しつぶせるくらいの支配力が姉帯さんにはあるだろう。

 トップに立っているにもかかわらず追い詰められているような錯覚に囚われそうになる気持ちを怜は振り払った。

 

——ここが踏ん張りどころ……3巡先の未来視は崩せへん!

 

 姉帯さんの和了を鳴いて崩すと、竜華の方に流れがいってしまったが、これは仕方がない。

 自力で和了出来ない以上、親かぶりになって必ず沈む。

 

ツモ 1100、2100

 

 怜と同じように鳴いて流れを切るように動いてきた竜華が、役牌を絡めた和了を決めて再び首位に返り咲いた。

 

雀聖戦挑戦者決定戦

第2半荘 南3局

清水谷 竜華 55,800

園城寺 怜  51,000

大星 淡   46,700

姉帯 豊音  46,500

 

 決着も近くこれ以上竜華に点数を稼がれると、逆転が困難になるが姉帯さんに和了させても負けてしまう。

 チリチリと痛む頭をフル回転させて、怜は考え込む。大星さんを使う方法も頭によぎったが、南3局でその仕掛けは悠長すぎる。

 南3局、南4局と高速和了を目指して競り勝つしかない。今は打点よりも和了が欲しい!

 

ポン!!!

 

 怜が覚悟を決めて役牌を一鳴きすると、竜華と姉帯さんも鳴いて仕掛けをいれてきた。大星さんが、鳴きを入れてこないということはすでにダマで聴牌しているのだろうと怜は予想した。

 

 卓の誰もが早い和了を欲している。

 

 こうした鍔迫り合いのような叩き合いの場面では、牌が見えているおかげなのか圧倒的に竜華が早い。

 怜は何度も竜華が和了する未来に介入して、自分に流れを引き寄せる。

 

 誰よりも早く。麻雀にも思考の刹那、時速300kmの世界がある。

 

ツモ! 700、1300

 

 怜は両手で丁寧に牌を倒してそう言った。

 

 全力疾走をしたあとのように脳裏が熱い。

 最後のオーラスで全てが決まる。その高揚感が怜を包み込んだ。

 

雀聖戦挑戦者決定戦

第2半荘 オーラス

清水谷 竜華 55,100

園城寺 怜  53,700

大星 淡   46,000

姉帯 豊音  45,200

 

 行き詰まるような緊張感と麻雀牌の音。

 怜は上がってきた配牌を眺めやってから、軽く目を閉じた。

 この配牌はもうレールが引かれている。

 あれだけ工夫を凝らしてきたのに、麻雀の終わりはいつも呆気ない。

 

 四萬、西、三索鳴、七萬、北、六筒。

 

 決められた通りの手順をなぞるたびに、未来の景色がより鮮明になっていく。

 最後に一萬を引き入れてから、怜は牌を倒した。

 

ツモ! 1300、2600

 

雀聖戦挑戦者決定戦

第2半荘 終了

園城寺 怜  58,900

清水谷 竜華 52,500

大星 淡   44,700

姉帯 豊音  43,900

 

 雀聖戦挑戦者決定戦は、園城寺怜の勝利で幕を下ろした。

 試合終了のブザーが響くのと同時に、疲労感を感じて、怜は椅子の背もたれに深くもたれかかった。

 後半に展開が自分に向いてきてくれて、助かったと怜は思った。

 今回の勝ちは、薄氷の勝利。

 壮絶な斬り合いをしたら最後に立っていたのが、自分だったというだけの話だ。

 それだけ、トッププロの支配力は強い。

 

——家に帰ったら、もっとトレーニングして、介入できる余地を増やしておかなあかんな。

 

 牌と牌の擦れる音が響く。

 麻雀を愛すれば愛しただけ、牌は必ず応えてくれる。

 

 誰よりも、私は麻雀を好きでいたい。

 

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