たくさんの感想、非常に励みになっております。自分が面白いと思えるものが書けるよう、完結を目指して頑張っていきます。
——選手会が園城寺選手の雀聖戦の出場を邪魔をしているのではないかと批判の声も、一部ではありますが?
『そんな意図は全くない。プロテストの受験を容認する声明が運営委員会側からも示されている。彼女にはしかるべき雀団と契約の上で、雀聖戦に望んでもらえればと考えている』
——プロ編入試験後の年俸制限について、運営委員会から提案がされ、可決される見通しですがどうお考えでしょう?
『まだ可決されるという話は聞いていない。外国人選手に年俸制限はなく、日本人選手にのみ年俸制限をかけることは、明らかに不当なので非常に遺憾に思う』
『本来、契約は雀団側と選手の自由意志に基づいて行われるべきもので、運営側が制限を設けるのは見当違いだ』
新幹線のシートモニターに、記者からの質問にテキパキと受け答えをする渡辺琉音の映像が映る。
言っていることはそう間違っていないのだが、かつて減俸限度額問題でストライキまで起こした選手会側が、契約は双方の自由意志とのたまっているのは、どの口が言っているのかと雅枝は苦笑いを抑えきれなかった。
「恵比寿の会長が『分を弁えろ、たかが選手が』と発言して問題になったことがあったがその通りだよなぁ……いや、今はそれが批判の対象になる時代なのか」
プロ麻雀の運営に、過剰に干渉してくる選手会側のやり方に雅枝に思わないことがないわけでもない。
しかし、瑞原さんが選手会長を務めていた時代と比べれば、現選手会は比較的穏健な運営がされているので、この辺りが落とし所なのだろう。白糸台、新道寺、千里山の3校が上手く互いの力関係を図りながら選手会を運営しているのは、千里山ー明明ラインに太いパイプのある雅枝にとっても悪い話ではない。
「それにしても、怜の獲得は年俸制限でまたわからなくなってきたな」
雅枝はボールペンを手の中でもてあそびながら、グリーン車のシートの背もたれに体を預け物思いに耽る。
園城寺怜の獲得のマネーゲーム化の動きを嫌った運営委員会側から、プロ編入試験の合格選手が雀団と契約する際にはドラフト1位選手と同条件の契約を結ぶよう提案がなされた。
年俸1500万円、契約金1億5000万円の合計1億6500万円という水準は一般の感覚からすれば高額だが、シーズン途中の補強としてみれば格安と言っても過言ではない。
恵比寿の最低6億宣言のように真正面から金額を積まれてしまうと、横浜のような資金力の乏しいチームは太刀打ちできないが、契約に上限が設けられれば話は変わってくる。
運営委員会に方針に沿うように契約を締結する。しかし、その後2億円ほど裏から渡して2年目のオプション契約をてんこ盛りにすれば、獲得のチャンスは充分にあると雅枝は考えていた。
4億円程度であれば横浜ロードスターズでも賄うことができるだろうし、契約金や年俸という形ではなく支出すれば、親会社の広報費等から支出させることも可能になり、本人以外の関係者に配ることも考えると色々と便利だ。チームの収支の枠を拮抗させようと思うから、無理が生じてくるのだ。
「なにより、怜や竜華は高校時代の教え子やし、私が直接行けば誠意も伝わるはず!」
トップリーグの監督みずから獲得候補選手を訪問し、獲得の意思を伝えるのは禁じ手と言われるほどプロ麻雀では異例のことなので、その辺りの意図は怜にはともかく、プロ雀士である竜華には伝わるはずだ。
うちは本気で怜の獲得を考えていますよと、しっかりアピールしておく必要がある。
怜の麻雀は高校1年生の頃から見ているが、はじめて部活動で見た時から、観るものをワクワクさせる非凡な牌捌きをしていた。
清水谷竜華のバーター入学ということで、あまり期待はしていなかったが、思わぬ掘り出し物だと当時喜んだのを覚えている。
周囲のレベル差から、入学直後は手が縮こまっていた時期もあったが、藤白の助言もあって順調に実力が伸びていった。2年次、3年次には戦力になるだろうと期待をかけていた。しかし、そんな折に病気で長期の療養に入ってしまった。
病気に加えて麻雀のほうでも、技術的にはまだまだ未熟で大器の片鱗を感じさせていたこともあり、高校でその才能が花開くことはないだろうと考えていた。卒業時にそれなりの大学で麻雀を続けられるように、手筈を整えてあげようと思っていたが、良い意味で予想が外れた。
園城寺怜、一巡先を見る者。
クラブチーム育ちで純粋培養の叶絵やセーラとは違う本物の天才の羽化に雅枝は歓喜した。ライバルをあっという間に置き去りにして、千里山のエースに登り詰めるその成長ぶりに熱狂していった。
そして、インターハイ団体に敗退してより一層と切れ味の鋭いカミソリのような冴えを魅せるようになった怜の麻雀に、危うさを感じながらも好奇心を抑えきれなかった。
どれくらい強くなるのか?
やめろと言っても聞かなかっただろうが、怜の個人戦の出場は無理にでも辞めさせるべきだったと今でも後悔している。
期待、自主性、好奇心こういった言葉でオブラートに包んでいたが、なんのことはない彼女の才能に指導者として向き合うのが怖かった。私が下手に介入して、成長が止まってしまったら? 身がすくむような恐怖が、保留を生み判断を狂わせてしまった。
体調が大丈夫ではないことなど、わかっていたはずなのに……
「食後のコーヒーは如何ですか?」
「ん……ありがとう。貰おう」
新幹線のスタッフさんが淹れてくれたコーヒーがカップに注がれる。香ばしく甘い香りに思考がクリアになって、過去の自責の念からふっと解放される。
雀聖戦での怜の麻雀は、高校時代を彷彿とさせるブランクを感じさせない素晴らしいものだった。体調は良好だと聞いている。
普通、長く麻雀をしていないと技術的な面もそうだが精神的に気後れしてしまって、麻雀に対しての情熱を持てなくなってしまう。しかし、彼女にはそれがない。
やはり、天才は天才ということなのだろう。
先鋒の柱として期待できる怜を獲得することが出来れば、セーラを中継ぎやPGで起用することで中継ぎ陣が充実する。現在首位を走る横浜の優勝がより鮮明になることは間違いない。
なにより神戸や恵比寿を出し抜いて、横浜に入ってくれればファンも喜んでくれるだろうし、千里山女子高校時代の繋がりを意識してチームを選んだと印象づけられるので私の麻雀界での立ち位置も良くなるだろう。
セーラもいるし、横浜を選んでくれる可能性は充分にある。
怜にとっても体調面でサポートが得られやすい環境で麻雀が出来るので、なかなか悪くない話である。
「しかし、資金力がなぁ……」
これまで信頼関係を構築した選手を、資金力のある強豪チームに奪われる。プロとして麻雀をしているのだから仕方のない部分もあるが、寂しい話だと雅枝は感じていた。
怜を獲得して、宮永とのダブルスター体制で優勝という構想には夢がある。
そこに欧州選手権16位の岩館や、弘世といった才能溢れる選手が成長していれば、必ずファンの心がワクワクするような麻雀が出来る。
効率的で洗練された強いチーム。それが善とされるプロ麻雀の世界に一石を投じるような優勝をしてやりたい。
麻雀では常にトップを目指す。
アレクサンドラ監督や瑞原さんなど、優秀な若手指導者が跋扈するプロ麻雀界だが、私だって伊達に歳を重ねているわけじゃない。亀の甲より年の功という言葉もある。
まずは直接交渉。ここでがっちりと他雀団からリードして怜の獲得につなげる。
そして、今年こそ優勝するんだ!