「ちょい、タンマ……」
そうつぶやくのは、恵比寿ウイニングラビッツの小瀬川白望プロ……ではなく、おうちでのんびりしている専業主婦、園城寺怜である。
今日は竜華が遠征で家に帰ってこないため、出前をとる必要があった。しかし、晩ご飯がなかなか決まらずに悩んでいるのだ。
「お寿司にするべきか……中華にするべきか」
怜はさっぱり系とガッツリ系の、全く方向性が違うもので悩み始める。
「でも、ウニ食べたいわあ……」
1390円の回鍋肉定食も捨てがたかったが、松にぎりセットにウニを3貫追加すればなかなか満足できる気がする。白身魚のさっぱり感とウニのパンチ力で、さっぱりとガッツリ双方の要望を満たす、最良の選択だと怜は思った。
迷うと手が高めになる小瀬川白望プロの特性を無意識に、完全再現する園城寺怜。やはり、天才か。
もちろん、食費を稼いでくるのは竜華である。
出前を頼み終わると、一仕事終えた様子で怜は、ソファーに腰かけテレビをつける。
恵比寿、追いつけるのか大将戦に白望投入!!!!!!
松山 123500
佐久 102900
恵比寿 102600
神戸 71000
恵比寿は、大将戦途中で小瀬川さんに選手交代することにより積極的にチャンスを掴もうとする狙いだ。
『ダルっ……』
テレビで放送してはいけなさそうな発言が、パンツスーツ姿の小瀬川さんの口から飛び出す。どうやらリリーフカーから降りて雀卓へと向かうのが、面倒だったらしい。
「面識はあらへんけど、宮守のこの人はなんか親近感あるわあ」
容姿端麗でめんどくさがり屋。そして能力まで一致していたから、怜が親近感を持つのも自然である。
『わーシロだー、シローーー』
姉帯さんは小瀬川さんに、試合会場で抱きつきはじめる。ネクタイを整えられたり、髪を撫でたり、ほっぺたをスリスリされたり、やりたい放題されているが、小瀬川さんは無抵抗でされるがままにしてあげている。
『ダルい…………』
412 名前:名無し:20XX/4/14(木)
ななしの雀士の住民 ID:emidrwkg
白望ちゃん、かわいい
この2人って仲ええの?
420 名前:名無し:20XX/4/14(木)
ななしの雀士の住民 ID:tokichan
>> 412
同じ高校やで
424 名前:名無し:20XX/4/14(木)
ななしの雀士の住民 ID:yok3mgwj
同じ高校で仲が良いとかいうオカルト
430 名前:名無し:20XX/4/14(木)
ななしの雀士の住民 ID:yok3mgwj
>> 424
普通は仲良いだろ!良い加減にしろ!!!
姉帯さんから解放された小瀬川さんが、ようやく卓につき試合が開始される。
小瀬川 白望 前年度成績
ドラフト2位 個人戦順位 26位
宮守→恵比寿
5勝3敗10H
火力とバランスの良い打ち筋に定評のある、女性ファンから大人気の麗人
「今年の松山、ほんま強いわあ」
松山フロティーラは大きな補強をしたわけでもないのに、現在首位を走っている。今、映っている守護神の姉帯さんを発掘し、その翌年には天江さんをドラ1競合の末、くじ引きで引き当てるなど、ドラフトでの成功が目立つ。
ドラフトで良い選手を獲得して、選手の成長を待つという方針が結果に繋がっていた。
「八百長レベルの神ドラフト連発しとるからなあこのチーム、そりゃ勝てるわ」
『ん……ちょいタンマ』
小瀬川さんは配牌された手牌を見て、悩みはじめる。それを見て他家が露骨に警戒をはじめる。小瀬川さんの能力は、発動がわかりやすいのが欠点である。
580 名前:名無し:20XX/4/14(木)
ななしの雀士の住民 ID:ebiorwkg
ちょいタンマきたあああああああ
620 名前:名無し:20XX/4/14(木)
ななしの雀士の住民 ID:ebi3midb
勝負手であることを周りにバラしていくスタイル
悩んでも黙ってれば良いはずなのにわざわざ言うのは、他家に悩んでいる旨を申告することが、おそらく能力発動のキーになっているのだろうと怜は感じた。姉帯さんの能力で有効牌のひきが制限されている中、一人だけ手が進んでいく様子は見ていて気持ちがいい。
「これ、カッコええよなあ……うちも機会があったら使ってみようかな」
先程出前を頼む際に使用したことについては、完全に怜の記憶からは抜け落ちていた。
ツモ…… 3000 6000
小瀬川さんは少し小さい声で、だるそうに発声した。
会場から大きな黄色い歓声があがる。
松山 117500
恵比寿 114600
佐久 99900
神戸 68000
『わあ!シロの迷い家!ちょーすごいよー』
小瀬川さんが和了して、姉帯さんは無邪気に喜んでいるが、親被りを受けて松山と恵比寿の点差は3000点以下である。
松山からタイムアウトの申し出がかかり、雀卓に人が集まりはじめる。各チームとも特に選手を交代する動きはないようで、松山側は流れを切るために、タイムアウトを使用したようだ。
『だるい……』
小瀬川さんは卓に突っ伏したまま、頭だけ上げて宮永照が差し出したエネルギーバーをついばんでいる。むせないかどうか非常に心配な体勢である。
そして何故かすぐに栄養補給をする必要のない宮永さんまで、エネルギーバーのチョコ味をおいしそうに食べている。
『気合入れ直していくね!』
姉帯さんがチームメイトにそう宣言してから、試合が再開された。
全く有効牌をツモできず流局する展開が数局続いた。
ノーテン テンパイ ノーテン ノーテン
試合は形式聴牌をとり点数を稼ぐ姉帯さんと、あくまで門前での和了にこだわる小瀬川さんの一騎打ちという様相になっている。
105 名前:名無し:20XX/4/14(木)
ななしの雀士の住民 ID:ebimgwa1
シロチャーの派手な和了のあと地味な展開続きすぎやろ
塩試合やんけ!
120 名前:名無し:20XX/4/14(木)
ななしの雀士の住民 ID:tokichan
>>105
姉帯さんがめちゃくちゃかたいから、もうああいう和了はでえへんで
130 名前:名無し:20XX/4/14(木)
ななしの雀士の住民 ID:ebi0drwa
動いていかないなら、新子とかに変えたほうがええんちゃう?
141 名前:名無し:20XX/4/14(木)
ななしの雀士の住民 ID:mat3gdkg
>>130
小瀬川一気に浮上して勢いあるし、変えてくれるならその方がありがたい
『ダルっ……』
小瀬川さんは鳴いて動いていくべきか逡巡するのような仕草を見せるも、なかなか動かない。
「下手に動くと転げ落ちるような、姉帯さんのプレッシャーやばいわあ」
テレビ越しに観ている怜でもそう感じるのだから、実際に対峙している選手にかかる圧力はかなりのものだろう。逆転に焦り動いたところを、労せずして打ち落とし勝利を得る。姉帯さんの得意技だ。
『あれー?シロいいのー?もう終わっちゃうよー』
『だるい』
局の合間に姉帯さんは小瀬川さんに話しかけているが、小瀬川さんは全く相手にしない。
流局が続き点差はどんどん開いていく。
しかし、満貫ひとつで逆転できるのだ。小瀬川さんは機会が来るのを信じて、じっと耐える。
そして、オーラス。
ツモ!!! 500 1000
姉帯さんは嬉しそうに手牌を倒した。タンヤオとドラ1だけの形。
小瀬川さんの跳満もあり一時はかなり競った展開になったものの、結果的には姉帯さんが小さなリードを守りきりセーブをあげた。
最後は呆気ないものである。
『残念だったねーシロ、ギリギリのところで守りぬいたよー』
姉帯さんに話しかけられ、小瀬川さんは少し目を閉じてから答える。
『…………つぎは負けないから』
『うん、待ってるね!』
そう言って姉帯さんは卓からベンチに引き上げていく。無表情で膝を握りしめてスラックスに、たくさんシワが入ってしまった小瀬川さんの姿が妙に印象的だった。
「今日の試合はレベル高かったわあ」
怜はそう言って満足げにウニを食べながらリモコンを操作し、テレビの電源を消した。