専業主婦、園城寺怜のプロ麻雀観戦記   作:すごいぞ!すえはら

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第120話 園城寺怜ちゃん、プロ雀士になる

「園城寺怜さん、貴方はプロ麻雀トップリーグの雀士として麻雀の普及、技術向上に励むことを誓いますか?」

 

「はい、誓います」

 

「それでは、プロ麻雀編入試験は以上で終了となります。今日はお疲れ様でした」

 

「はい、お疲れ様でした」

 

 小鍛治さんが試験官を務めた口述試験が終了し、怜は緊張感から解放されてパイプ椅子の背もたれに体を預ける。

 神戸のおうちから、プロ麻雀トップリーグ大阪支部までずうっとスーツを着用していたためかなり疲労が溜まってしまった。

 プロ麻雀編入試験は、受験資格を得た段階で麻雀の実力に関しては、水準を満たしていると判断されるため実技試験はなく、筆記試験と口述試験で合否が判定される。

 筆記試験は自分の名前がひらがなで書ければ合格(どうしても書けない場合、アルファベットでも可)というとんでもない内容だったが、『おんじょうじ とき』とはっきりと鉛筆で記入して合格を勝ち取った次第である。

 

「あ、園城寺さん。口述試験の結果だけどいいかな?」

 

「はやすぎへん!?」

 

 試験用紙に自分の判子を押している小鍛治さんが、力の入っていない様子でそう問いかけてきたので思わずツッコミをいれてしまう。

 

「こほん。園城寺さん、おめでとうございます。プロ麻雀編入試験は合格です」

 

「は、はあ……ありがとうございます」

 

 あまりにもあっさりと合格を告げられて拍子抜けしてしまった。プロテストというから身構えてきたのに、今日やったことは自分の名前を書いたことと、小鍛治さんとお話ししたことだけである。

 

「ふふっ、緊張しました?」

 

「あー、せやなぁ……小鍛治さんもスーツ着てるし筆記試験もあると聞いていたからなぁ」

 

「あ、試験内容については口外無用でお願いしますね」

 

「わかったで」

 

 明らかに簡単すぎる試験だったのだが、そのあたりの事情は外部に悟られたくないということらしい。

 怜はもうすぐ25歳になるお姉さんなので、そのあたりの含みもわかるのである。

 

「それにしても、兵庫県大会で会った時からあっという間だったね。園城寺さんがプロに来てくれて良かったよ!」

 

「ありがとうございます。でも、小鍛治さんには特にメリットとかないんちゃう?」

 

「ん? そんなことないよ? 私は麻雀が好きだから。園城寺さんがプロ麻雀をしてくれて嬉しい」

 

 小鍛治さんにそう真っ直ぐに見据えられて、怜は背筋がゾクゾクとするのを感じた。

 宮永さんが出てくるまで、日本麻雀最強と言われたレジェンドの期待に対する高揚感とプレッシャーが怜を包み込む。

 

「そら、どうも……ところで、今日の試験官はなんで小鍛治さんなんや?」

 

「んーなんでだろうね? 私もよくわからないけど、運営委員会から頼まれたからちゃんとやらなきゃって思ったんだ」

 

 小鍛治さんが試験官を務めた理由は、小鍛治さん自身にもわからないらしい。

 

「どの雀団にするかは、もう決まったの?」

 

「んーまだ、全然やな」

 

「うーん、雀聖戦までに決まっていればいいから、まだ少しだけ時間はあるけど……もう、決めても良いんじゃないかな?」

 

「全然話が進まへんし、はやく決まって欲しいわ」

 

 プロ編入試験を受ける直前になっても、愛宕監督が会いにきてくれたくらいで、怜のところには契約の詳細な話は一切きていない。

 年俸は1500万円までという制限が出来たという話も聞いたし、条件面で変わらないのであれば、竜華に交渉してもらう必要もないのではないかと思う。

 

「え? ほとんどのチームのスカウトが接触して話を進めてると思うんだけど?」

 

「挨拶だけで、別に契約するとかいう話は全然やで。そのへん全部竜華がやっとるし」

 

「あ、そっかあ……清水谷さん。そうなんだ」

 

 竜華が関係者とよく会って話をしている旨を話すと、小鍛治さんは妙に納得した様子で頷いていた。

 

「お財布関係はやっぱり、人にやってもらうほうが楽でいいよね。人にもよるけど、その辺気にすると競技に集中できないって人も多いし。園城寺さんもやって貰えるなら、やらなくて良いと思うよ」

 

「せやなあ」

 

 小鍛治さんは怜のことをやれば出来る子だと過大評価しているようだったが、正確にはお金の管理など怜には一切出来ないので、竜華が全部管理するより他ないのが実情である。

 

「でも、最後は金額じゃなくて、自分の意思で行きたいチームを決めること。わかった?」

 

「了解や!」

 

 怜がそう元気よく返事をすると、小鍛治さんは少し気恥ずかしそうに頬を掻いた。

 

「ま、まあ……私もそんなに先輩風吹かせられるものじゃないんだけどさ」

 

「いや、色々と参考にさせて貰ってるで!」

 

「そ、そうかな……? ありがと」

 

 小鍛治さんは少し嬉しそうに、顔を赤らめながら頭を掻いた。照れ照れしてる小鍛治さんに、二条泉さんの面影を怜は覚える。

 これだけ、麻雀が上手いのに面と向かって褒められることは少ないのかなと怜は思った。

 

「それじゃあ、別館のホールで記者会見の準備されてるけどもう大丈夫そうかな?」

 

「え? 記者会見するんか?」

 

「え!? 聞いてなかったの?」

 

「聞いてないで! そもそも試験前で合格するのかわかってないのに、記者会見やること決まってるのってどうなんや?」

 

「…………珍しく、真っ当なこと言うね」

 

「いつも真っ当やろ!?」

 

 小鍛治さんからの鋭いツッコミに機敏に反応した怜だったが、本心から言えば記者会見などやりたくない。なんとか逃げる方法はないかと模索することにした。

 

「記者会見、やりたくないで」

 

「いや、500人くらいもう集まってるし……やらないっていうのは無理じゃないかな?」

 

「記者会見、やりたくないで!」

 

 大事なことは2回言う園城寺流のスタイルで抵抗したものの小鍛治さんの顔が曇っただけで、記者会見からは逃げられそうにないので怜は諦めて職員に連行される運びとなった。

 

「…………とりあえず、ニコニコしてれば大丈夫だよ。たぶん」

 

「せやろか?」

 

 両脇をハイヒールを履いた背の高い運営職員に挟まれながら、怜と小鍛治さんの2人は記者会見の会場へと足を進めた。

 

 記者会見会場に入ると記者たちのシャッター音が、銃声のように怜たちに降り注いだ。

 小鍛治さんは慣れているのか全く動じていないが、怜としてはこれだけ多くの報道陣の前に立つのは初めての経験なので萎縮してしまう。

 

 プロ麻雀トップリーグのマークが一面に張り出された巨大パネルの前に白いクロスをかけた長テーブルと椅子が2つ用意されていたので、係員に促されるように怜は席についた。

 それから、スーツをバッチリと着たいかにも仕事が出来そうな眼鏡の女性司会者が口を開いて、記者会見は開始された。

 

『皆さまご準備よろしいでしょうか。それでは、園城寺怜選手のプロ麻雀トップリーグ編入試験の合格についての記者会見を発表させて頂きたいと思います』

 

『それでは、はじめにプロ麻雀トップリーグ、小鍛治健夜理事よりご挨拶申し上げます』

 

「えーはい、記者のみなさま。そして、テレビを通じて見ていらっしゃる麻雀ファンのみなさま本日はご参加いただき誠にありがとうございます」

 

「えーこのたび、プロ麻雀運営委員会は園城寺選手の編入試験の受験を認め……えー、同選手のプロライセンスを正式に交付する決定を下しました。非常にプロ麻雀界にとって良いニュースなのかなと思っています」

 

 大勢の記者を前にほとんど淀みなく挨拶する小鍛治さんの大人力にビビりながらも、怜は受け答えが変にならないよう心構えをした。

 まあ、なんとかなるやろの精神である。

 

『続いて、園城寺選手より一言いただければと思います』

 

「えー、あーはい……このたびは忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。えー、このたび、プロ麻雀選手となることができました。プロの舞台で麻雀が出来ることを……えー非常にワクワクしています。はい」

 

『園城寺選手、ありがとうございました』

 

 まずまず無難に挨拶できたことに怜は内心ドキドキした。確実にその場の思いつきで参加しているような記者会見の規模ではないことに動揺しながら、この会見が早く終わってくれるよう神様に祈った。

 

『それではこれより、質疑応答に入らせていただきます』

 

『まず、公営第一放送。村吉みさきさんからお願いします』

 

——はい、第一放送の村吉です。それではよろしくお願いします。このたびはインターハイ以来となる公式大会復帰から電撃のようなプロ入りとなりましたが、率直に今の心境を教えてください」

 

「えーはい……そうですね。大勢の記者さんを前にしてとても緊張しています」

 

 怜が正直にそう答えるとドッと会場が湧いたが気を取り直して言葉を続ける。

 

「体調もよくなって、これならイケるなと確信を持ってから雀聖戦の予選で少しづつ実践を経て良くなっていったのかな思います。えーあと、プロ入りは素直に嬉しいです」

 

——ありがとうございます。挑戦者決定戦では、姉帯プロ、清水谷プロ、大星プロを下して挑戦者となられたわけですが……手応えを感じたのはこのあたりでしょうか?

 

「えーそうですね。挑決に関しては展開が向いた面もありましたので、福路プロと対戦した二次予選の……えー決勝でしたか? そのあたりから手応えは感じていました」

 

——ありがとうございました。あらためて、プロ入りおめでとうございます。

 

『続きまして、麻雀TODAYの西田順子さんお願いいたします』

 

——はい、麻雀TODAYの西田です。園城寺選手はプロ試験合格後、所属雀団を決める形となると思いますが……希望する雀団はありますか?

 

「えーそうですね……まだ、検討中です。6雀団全てから……えー、環境とかみて決めていきたいです」

 

——ありがとうございます。園城寺選手は37年ぶりとなる編入試験の合格者となりましたが、試験の内容はいかがでしたか?

 

『えーそうですね……』

 

 怜は返答に困って小鍛治さんの方をチラリと見ると、すぐに代わってくれた。

 

「えーすみません小鍛治です。試験内容についてのコメントは公平性の観点から、差し控えさせて頂ければと思います」

 

——申し訳ありませんでした。最後に園城寺選手の方から、プロ麻雀……トップリーグへの意気込みをお聞かせ頂ければと思います。

 

「えーそうですね……プロ麻雀トップリーグという日本では最高の舞台で……出来る麻雀にワクワクしています。また、親しい人……先輩や友人に、やっと追いついたという気持ちもあります」

 

「それから、えー……高校時代によく麻雀部内で言われていた言葉があります」

 

 怜がそう言って、一度言葉を切ると一斉に報道陣のカメラのフラッシュが点灯する。

 それから、怜は千里山女子高校の理念を高らかに宣言した。

 

「それは……常にトップを目指すということです」

 

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