専業主婦、園城寺怜のプロ麻雀観戦記   作:すごいぞ!すえはら

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第127話 横浜遠征とスーパーノヴァ

「園城寺先輩、起きてください! 朝ごはん食べないと力出ませんよ!!!!!」

 

「うーん……」

 

 プリンセスホテル横浜のスーペリアルームにふなQの少しだけ大きな声が響く。

 まだ、朝の8時。朝起こされるなど久しぶりのことなので、怜はかなり緩慢な動作で目を擦りながら身体を起こした。

 

「おはようございます、先輩」

 

「……おはようや」

 

 シルクのパジャマの裾をパタパタとさせながら怜は、ホテルのお姉さんが配膳をしている様子をぼぅっと眺めていた。

 

「朝ごはん、ここで食べるん?」

 

「ええ、準備してもらってます」

 

 旅館であればお部屋ごはんということもあるが、ホテルの朝食といえばバイキングなので折角の遠征先なので怜は一応聞いてみることにした。

 

「バイキングはないんか?」

 

「…………あーこのホテルは、バイキングじゃないんですよ」

 

「そか」

 

 ふなQの答えに少しガッカリした怜だったが気を取り直して、テーブルに移動して朝食を食べることにした。

 トマトとレタスのサラダを頬張ってから怜は、ダイニングテーブルの上に置かれた花瓶に活けられた満開の白い薔薇をじっとながめやった。

 

「ん? どうかされましたか?」

 

「いや、特になんでもあらへんで」

 

 完全に花が開いてしまうと趣がないように感じられたが、口に出すと性格が悪そうに聞こえるので怜は言うのを止めた。

 

「ああ、それよりふなQは食べへんの?」

 

「私はもう朝早くに食べてもうたから、お気遣いなく」

 

「そか」

 

 なんとなく一人で食べるのも居心地が悪いが、手早く朝食を済ませて怜はパーソナルソファーに腰掛けた。

 窓には横浜みなとみらいの田舎町の高層ビルと観覧車が映っていた。

 

「ふなQ、横浜の牌譜見せてや」

 

「あ、はい。宮永さんのやろか?」

 

「んー、薄墨さんと岩館さんやなあ」

 

 怜がそう言うとふなQが手慣れた手つきでタブレットを操作して怜に手渡した。

 

「サンキューや」

 

 怜は2人の今シーズンの牌譜を確認してから、お風呂に入ってゆっくりと体を緩める。体が温まっていた方が、なんとなく麻雀の内容が良くなりそうな気がした。怜は、シャワーよりもお風呂派なのである。

 ドライヤーの後にお顔に乳液をたっぷり塗り込んで、ベッドの上でのんびり柔軟体操をしていたら、いつの間にか11時になってしまった。

 

「あの……14時から試合ですしそろそろ出発しませんか?」

 

「んー……まだ、お化粧してへんで?」

 

「…………そうですね」

 

 動くのが面倒だったのでそのままゴロゴロしていると、ふなQがお化粧セットとスーツを持ってきてくれたので、怜は渋々といった風体でベッドから体を起こして着替えを済ませた。

 薄くBBクリームを塗ってアイシャドウを乗せると、それなりに満足する仕上がりになった。

 

「ふなQ、もうお昼やし食べてから出発せーへん?」

 

「……とりあえず、チェックアウトして、スタジアム行ってそこで食べましょう」

 

「んー、ふなQがそう言うなら……」

 

 地下駐車場からホテルを後にして、横浜ロードスターズの本拠地、ベイサイドマリンスタジアムに入った。

 

「おはよー⭐︎ 怜ちゃん、よく眠れた?」

 

「……はい、おかげさまで。おはようございます」

 

「はやや〜⭐︎それは良かった〜⭐︎ミ はじめての遠征だから、枕があわないと大変だな〜って思ってたんだ〜」

 

「……お気遣いありがとうございます」

 

 メイクをバッチリ決めて、フリフリの衣装を着た瑞原監督(34)に挨拶をしてから、怜はスコアラーの人から相手雀団の資料を貰いベンチに腰掛けると、あることに気がついた。

 

「あれ? そういえば玄ちゃんと絹恵ちゃんおらんやん?」

 

「あー玄ちゃんはちょっと調整中だから、今日は、おやすみなんだ〜⭐︎ミ」

 

 笑顔の瑞原監督が怜の肩をポンっと叩いて、言葉を続けた。

 

「だから、よろしくね怜ちゃん」

 

 そう言って調整ルームの方へと歩いて行った瑞原監督の後ろ姿を見て、怜はだいたいの事情を察した。

 怜はふなQに、佐久のポイントゲッターの牌譜をあるだけ印刷してきてもらうように頼むと「もちろんです! 急いでやります」という力強い返事が返ってきた。

 

「ふふっ園城寺さん、期待されてますね」

 

「ん……せやなあ」

 

 ライトグレーのスーツを着た福路さんに声をかけられて、怜はそう素っ気なく答えた。

 中継ぎ陣のなかではPGの大星さんは別格として、福路さんが渡辺さんを抑えて最上位に位置しているので、怜の明確な競争相手である。

 福路さんの性格を考えるとここで、親しげに話しかけられるのは、ザラッとしたものを感じずにはいられなかった。

 

 ふなQの部下のスコアラーの人から、佐久の牌譜を受け取る。怜は久の牌譜を横にどけてから、獅子原さんの直近の牌譜に目を通した。

 獅子原さんの能力は、北海道に行った際におおよそ把握している。5種類の牌操作能力に、ホヤウカムイ様、アッコロの2柱の神さまの力を使役することが出来るが、その能力には回数制限がある。

 

「まぁ……結構残っとるから、かなり面倒そうやなこれ……」

 

 能力以外にも獅子原さんは牌まわりがかなり特殊で、掴みどころのない麻雀をしている。伊達に個人戦のタイトルホルダーをしているわけではない。

 

プロ麻雀トップリーグ

先鋒戦 第1半荘 南1局

神戸 A・ウィッシュアート 110,300

大宮 白水 哩       103,600

横浜 弘世 菫       96,300

佐久 辻垣内 智葉     89,800

 

 怜がふと牌譜から目をあげると、試合がもう始まっていることに気がついた。トップでこそないが悪くない立ち上がりだ。

 白水さんの表情や牌捌きを見ても、良い感じに集中できているように怜には見えた。

 大宮の麻雀ファンからはドラフト1位のくせに期待はずれと言われているが、玄ちゃんや大星さんと比較するからであって、1年目から今まで安定してそれなりの活躍をしている。

 

——辻垣内さんは、全然キレが戻らへんけど……ほんまに無理なんかなぁ

 

 昨シーズンまでの日本刀のような切れ味鋭い麻雀の面影はなく、牌効率どおりに工夫もなく牌を落としていく姿が印象的だった。

 

「サトハはもう駄目かもね〜」

 

 大星さんは、怜の座っているベンチの背もたれに頬杖をついてそう言った。

 

「おーん? ずいぶん冷酷やんけ」

 

「えーそんなことないけど……じゃあトキはどう思うの?」

 

「まあ、しばらく無理やろ。というか、負けたらさん付けする約束やったやろ?」

 

「次は、プロ麻雀界のトリックスターこと淡ちゃんが華麗に勝利するからいいの! というか、トキも同じ意見じゃん!」

 

「まあ、ええけどな。麻雀がなぁ、違う人やもんコレ」

 

 麻雀が強い方の二条泉さんも、辻垣内さんに対して同じ感想を抱いているあたり、調整不足というよりも、本格的に駄目なのだろうと怜は思った。佐久の今の信頼できる先鋒は、赤土さんだけということになる。

 

「それは、サワヤの牌譜?」

 

「ああ、せやなぁ……当たる確率あるやろし」

 

「佐久はこの人が一番面白いよね。サキを倒した試合とか痺れちゃうよ」

 

「名将戦の1戦目のほうやろか?」

 

「そそ、やっぱり二戦目のドッカーンって展開もいいんだけど、一戦目のやりとりがさァ。こう良いだよねーサワヤは」

 

「気が合うやんけ」

 

 天真爛漫な大星さんと獅子原さんの牌譜をみながら、ここが良いここが悪いと談笑をしているとその感覚の鋭さに怜は舌を巻いた。牌譜の説明は、ほとんど擬音で表現しているが、なかなかの理論派である。

 

「ま、というわけで獅子原さんが出てくるかはわからへんけど。逆転は頼みましたわぁ」

 

「ふっふっふっ、まかせてよ。スーパーノヴァ大星淡ちゃんに不可能はないからね〜」

 

「じゃあ7万点差でも頼むで」

 

「あーそれはちょっと無理かなー」

 

「無理なんかい!!!!」

 

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