専業主婦、園城寺怜のプロ麻雀観戦記   作:すごいぞ!すえはら

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第133話 園城寺怜とフリフリの畜生

 

「はい、とき。あ〜ん」

 

「あ、あーん」

 

 朝9時。園城寺怜は差し出されたスプーンの上に乗ったスクランブルエッグを、必死にモグモグしていた。

 少しでも嫌な顔をすると『うちより、絹恵ちゃんにあーんして貰う方が嬉しいん?』と竜華に詰問されそうなため、頑張って美味しそうに食べている次第である。

 

「ふふっ、おいしい?」

 

「う、うん……ごはん食べ終わったら、お風呂入りたいわあ」

 

「じゃあ、沸かしてあげるね。でも、食べてすぐだと体に悪いやろか」

 

「せ、せやなー。少し休んでから入るわ」

 

「それがええかもしれへんな。はい、怜。あーん」

 

「あ、あーん」

 

 怜は、磁器のお皿が使えていることに感謝したりしながら気を紛らわせて、竜華と食事を終えると、ベッドに寝転んで竜華に膝枕をしてもらうことにした。

 あまり寝れていないので、竜華の太ももに頭をつけるとウトウトとした眠気が襲ってきた。

 

「膝枕はなかなか落ち着くわあ」

 

「ふふっ良かった。あ、でもあんまり、ゆっくりしてると遅れるやろ?」

 

「せやなぁ」

 

 そう言ってからしばらくの間、怜が目を瞑っていると竜華の方から声がかけられた。

 

「ときー? 寝たらお風呂入れんくなるで?」

 

「ん……お風呂は入りたいわぁ……」

 

 眠い目をこすりこすりしながら怜はそう竜華に意思を伝えた。

 

「じゃあ、お風呂わかしてくるね」

 

「頼むわ……」

 

 怜がベッドに顔を埋めて待っていると、お風呂が沸いて、着替えのスーツと基礎化粧品がでてきた。怜は緩慢な動作でベッドから起き上がり、お風呂を済ませてから、スーツを着こんでスタジアムに向かう体制を整えた。

 なお、アイラインを引くところから、怜のおててをジャケットの裾に通すところまで、全部竜華がやった模様。

 

 11時過ぎに、準備を整え竜華と一緒に部屋を出ると、ホテルの廊下で渡辺さんとばったり遭遇した。

 

「お、おはよう……」

 

「あ、渡辺さん、おはようございます^^」

 

 明らかになんでいるんだという顔をしている渡辺さんに、にっこりと竜華は挨拶をした。

 

「な、なんだよ……一緒に泊まってたのかよ。そんなふうには見えなかったから、昨日は悪かったな誘って」

 

「いや……気にせんといてください」

 

 渡辺さんに誘われた時点では、怜自身もホテルの部屋に竜華がいるとは、露ほども思っていなかったので怜はそう答えた。

 

「でも良いのか? 一緒のホテル使ってて」

 

「そういう契約やから、特に問題あらへんのですよ」

 

「あ、契約なのか。それなら良かった」

 

 竜華の口から怜の知らない新情報が飛び出したことで、渡辺さんは竜華がホテルにいる理由をあっさりと納得した。エレベーターを一緒に降りてホテルのフロントへと向かう。

 

「うちも神戸の集合場所あるし、ここでさよならしよっか?」

 

「せやな」

 

「じゃあ渡辺さん。怜のことを頼みます」

 

「ああ」

 

 竜華は渡辺さんにそう伝えてから、ギュッと怜のことを抱きしめた。

 

「それじゃあ、怜。試合後は早めに帰ってきてね」

 

「わ、わかったで」

 

 綺麗な黒髪の後ろ姿を見送って、ホテルのフロントで竜華と別れると、怜は引き気味の渡辺さんから肘でトンっと小突かれた。

 

「な、なあ、あいつは一体誰だ?」

 

「竜華やけど」

 

「それはそうなんだが……いや、なんでもない」

 

❇︎

 

 横浜ベイサイドマリンスタジアムの大宮関係者控え室に到着した怜と渡辺さんの二人は、スコアラーから牌譜とオーダー表を受け取った。

 予告先鋒雀士の一覧のなかに見慣れない名前があることに、二人はすぐに気がついた。

 

プロ麻雀トップリーグ 公示

予告先鋒雀士

横浜 M.ダヴァン 

神戸 椿野 美幸

大宮 松実 玄

佐久 赤土 晴絵

 

「ま、マジかよ…………」

 

 自チームの守護神の名前が当然のように予告先鋒に記載されていることに、渡辺さんは思わず声を漏らした。

 

「玄ちゃんが先鋒なんやな。渡辺さんも全然聞いてないんですか?」

 

「そうだな。昨日の夜は大星だけじゃなくて松実もいたんだが、怜に守護神の座は渡さないと息巻いてた」

 

「うちも頑張らへんとなぁ」

 

 玄ちゃんからライバル視されていることを知り、怜は兜の緒を締める。玄ちゃんは炎上することが多いので、ファンからは馬鹿にされがちだが、その実力はプロ麻雀でもトップクラスである。

 絶好調の玄ちゃんと絶好調の自分が戦えば、勝てる確率は非常に低いだろうと怜は思っていた。

 

「それでその後、玄のやつ滅茶苦茶荒れててな」

 

「荒れる?」

 

「ん? レストランの自動ドアを殴ったり」

 

「え……それ大丈夫なんやろか?」

 

「ほら、お酒飲むと玄は極端だから……よくあることだよ。まあ、途中でやめさせたが……綺麗なフックを2回ほど決めていたな、ストレートなら壊れてた」

 

「なにしとんねんwwwwww」

 

 自動ドアとボクシングをするという斜め上の酒乱っぷりを披露する玄ちゃんに、怜はツッコミを入れる。掲示板で夜の三冠王と揶揄されるその実力は、どうやら本物らしい。

 そんな話を渡辺さんとしていると、控え室の扉が急に開け放たれる。

 

「はやや〜⭐︎ 琉音ちゃん、怜ちゃん。おはよー 早くから来てくれて、はやり嬉しいぞ⭐︎ミ」

 

「おはようございます」

 

 フリフリの衣装を着て、いつもの謎テンションで控え室に入室してきた瑞原監督(34)に、怜は丁寧におじぎをして挨拶を返した。もう、慣れてきた次第である。

 

「今日は玄が先鋒なんですね。びっくりしましたよ」

 

 渡辺さんがそう瑞原監督に問いかけた。

 

「うんうん、玄ちゃんはね! 守護神よりも自由に麻雀出来るところがあってると思うんだよ! ね、玄ちゃん⭐︎ミ」

 

「が、がんばります……」

 

 半泣きになりながら、瑞原監督の後に続いてそっと入室してきた玄ちゃんの姿を見て、怜はだいたいの事情を察した。

 

「玄ちゃんは、守護神よりも先鋒をもともとやりたかったんだよねー⭐︎」

 

「そ、そうですのだ」

 

「じゃあ今日の今シーズン初先鋒は頑張って結果を残して欲しいな⭐︎ミ はやり、応援してるぞ⭐︎」

 

「は、はい……」

 

 瑞原監督は表面的にこそ笑っているが、玄ちゃんへのプレッシャーのかけ方が半端では無い。瑞原監督が圧力をかけるたびに、玄ちゃんの顔がどんどん青くなっているのは、大丈夫なのだろうかと怜は不安になった。

 

 玄ちゃんが上手く先鋒に定着出来れば、白水さんと原村さんとあわせて、大宮の先鋒ローテーションは3枚揃うことになる。4位という現状を打破するために、監督は是が非でも玄ちゃんの先鋒転向を、成功させたいのだろう。

 青ざめて震える玄ちゃんの姿を横目で見てから、渡辺さんの方を見ると完全に玄ちゃんから目を逸らして牌譜を読むでもなく、パラパラとめくっていた。

 

「はやや〜⭐︎今日の試合、楽しみだなあ⭐︎」

 

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