専業主婦、園城寺怜のプロ麻雀観戦記   作:すごいぞ!すえはら

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第138話 名将すえはら、さいごのたたかい 中編

 

プロ麻雀トップリーグ大将戦

第1半荘 南4局

恵比寿 藤白 七実 135,700

松山  天江 衣  121,500

神戸  片岡 優希 91,000

横浜  末原 恭子 51,800

 

 南3局オーラス前に、藤白七実が片岡から5200点の出和了を和了した。これを受けてエミネンシア神戸から第1半荘では、2回目となるタイムアウトの要請が入った。

 天江衣が藤白さんとの点差をやや詰めたものの、試合に大きな動きはない。

 

「試合全然進まないですね……」

 

「せやなぁ。というか、そんなあからさまに帰りたそうな顔すんなや!」

 

「あはは」

 

 宮永から受け取った牌譜を恭子は卓についたまま、眺めやって自分の認知と記録に錯覚がないかどうかを確認する。

 藤白七実の能力は、かつての世界王者ニーマンが得意としたような他家の認知を錯覚させてリズムを崩させるというものである。

 プロの試合であるにも関わらず、藤白さんが誤ポンや誤チーをシーズン中に何度も受けているのは、一重にその能力の強さを証明していた。

 

「だいたい、半荘の間ならともかくそんなに確認作業が必要になる理由が、わからないんですけど……」

 

 すでに第1半荘が始まってから、1時間以上が経過してしまっている。

 宮永は心底うんざりとした表情で、卓から離れて真剣に牌譜を眺めている片岡と天江衣の様子を一瞥した。

 

「おまえと一緒にすんなや……気をつけないと錯覚してまうんやから」

 

「だって普通の麻雀じゃないですか、コレ」

 

 宮永は、牌譜の上の藤白さんの牌の動きを指でなぞってそう呟いた。

 

「普通の麻雀ってなあ……それは、牌譜の上だけの話や。宮永もわかってるやろ?」

 

「まあ、そうですけど……藤白さんの能力ってそんなに凄いものじゃありませんし」

 

「そら、おまえから見たらそうやろなぁ……」

 

 恭子がそういうと、宮永は頭の後ろをポリポリと掻いてから苦笑いをした。

 藤白七実の能力は、確認作業をしっかりしていれば引っかかることはない。一度術中にハマってしまうと振り解くのは難しいが、最初のきっかけさえ与えなければ良い。

 それは、各チームが小まめにタイムアウトを取る戦術にも現れている。

 

「そもそも、試合中に牌譜見て対策できるならどうして皆さんここまで負けるんだって話ですよ」

 

「そ、そんなん言われても、引っかかる選手いるんやからしゃーないやんけ」

 

「まあ、末原さんも一度生き恥を晒してますしね」

 

「嫌なこと言うなや……」

 

 あまり掘り起こされたくない記憶を宮永に言われてしまい恭子は、自分の眉間に皺が寄っていくのを感じた。

 

「あ!」

 

「どうしたんや?」

 

「よく考えたら、藤白さんだけじゃないですね。末原さんが負けてるの。末原さん、すみませんでした」

 

「馬鹿にしにきたなら、はよ帰れ^^」

 

 ケラケラと笑う宮永を早くベンチに帰そうと恭子が強い口調でそう言うと、ステージの端でリンゴジュースを飲んでいた藤白さんが卓まで戻ってくるなり口を開いた。

 

「おう、宮永。久しぶりだな」

 

「ええ、お久しぶりです」

 

 藤白さんは嬉しそうに自分の持っていた口の付けていないリンゴジュースの瓶を宮永に手渡した。

 

「やるよ」

 

「え、リンゴジュースですか? 別に要らないんですけど……」

 

「なんだよ、せっかくやるって言ってるのに」

 

 藤白さんは宮永の手から、瓶をむしり取るとそれを一気飲みしてから、近くのボーイさんに押し付けた。

 

「今は、私を倒すための悪巧みか?」

 

 藤白さんは、珍しく柔らかい口調で宮永のことを真っ直ぐに見てそう言った。

 宮永は可愛らしく小首を傾げて答えた。

 

「んーそうですね……藤白さんって強いですねって話をしていました。ね? 末原さん」

 

「あ、ああ……せやな」

 

 いきなり話を振られて少し驚いた恭子だったが、適当に同意しておいた。そもそも、そんな話は一切していない。

 

「認めてくれるのは嬉しいが、宮永にそう褒められると裏を考えてまうわ」

 

「まあ、そこは今日、麻雀をするのは私じゃなくて末原さんですし」

 

 宮永がそう答えると、藤白さんは一瞬だけ恭子の方を見たがすぐに視線を外した。

 

「あ、そろそろ。はじまりますね。末原さん頑張ってくださいね」

 

 試合開始のブザーが鳴ったのを聞いて、宮永はトテトテとした動作で、真っ直ぐに松山のベンチの方に帰っていった。

 その様子を見て藤白さんが大笑いしていたが、どうやら本人には聞こえていないらしい。

 

 中断していた試合が再開され、山が開けられると変わり映えのしない重そうな手牌が回ってきた。タイムアウトをとったからといって流れが変わったりすることはないらしい。

 一向聴までの道のりをゆっくりゆっくりと進めていく。

 宮永の言う通り、藤白の打牌には大きな特徴はなく、ミスの少ない悪く言えば平凡な打ち回しだ。

 天江衣の和了が近づいてくるのが、恭子にもわかったが回避のしようがない。

 

ツモ! 2000、4000

 

プロ麻雀トップリーグ大将戦

第1半荘 〜終了〜

恵比寿 藤白 七実 131,700

松山  天江 衣  129,500

神戸  片岡 優希 89,000

横浜  末原 恭子 49,800

 

 天江衣の満貫和了を確認して、恭子は椅子の背もたれに体重を預けてため息をついた。

 最後の登板だと思い今日こそは活躍してやると意気込んで、親満貫和了を決めたりもした恭子だったが第1半荘が終わってみれば、天江衣の一人勝ちである。

 また、再開されたばかりの試合が再度中断されてしまい恭子は頭を抱える。

 各チームの動きを見る限り、選手交代はないらしい。南場では調子の悪かった片岡も第2半荘がはじまれば息を吹き返すかもしれない。

 

 ベンチから出てきた弘世さんが、恭子に牌譜とチョコレートを差し出した。

 

「お疲れ様。後半も堅実にいこう」

 

「せやな……」

 

 恭子は、弘世さんから受け取ったチョコレートを口に運ぶ。チョコレートの甘さが体にしみる。

 熱を持った頭がチリチリと痛むのに気づいた恭子は、予想以上に自身が疲れていることを自覚した。

 前半だけで一時間半。通常ならとうに二半荘が終わっている時間だ。

 天江衣と片岡にも疲労の色が見える。そこからミスが出れば、自分にもチャンスが巡ってくることもあるだろうと恭子は自分を鼓舞した。

 藤白さんと天江衣の点差は、かなり詰まってきている。藤白さんの方から何か動きがあるかもしれない。

 

『藤白さんの能力ってそんなに凄いものじゃありませんし』

 

 タイムアウトの際に、宮永が藤白さんの能力について凄いものじゃないと言っていたことが、恭子の頭の片隅に引っかかっていた。

 恭子は、おもむろに口を開いて弘世さんに問いかけた。

 

「宮永はなにしてるん?」

 

「ん? 咲ちゃん? ああ、そういえばしばらく見てないな。調整ルームにも居なかったし」

 

「そ、そか……」

 

 その意図を確認をしたかったが、おそらくまだ松山のベンチに行ったきりか、スタジアムの中を歩き回っているのだろう。

 

——このままやと……天江衣に蹂躙される。なんとか考えないといけへん。

 

 多少無理をしてでも攻めないといけない。第1半荘と同じ遅い展開では勝ち目はない。東場では動きの速い片岡と協力して、支配の網を崩すか、藤白さんの動きを待つか。

 恭子の答えは見えないまま、休憩時間は終わりを告げた。

 

プロ麻雀トップリーグ大将戦

第2半荘 東1局

恵比寿 藤白 七実 131,700

松山  天江 衣  129,500

神戸  片岡 優希 89,000

横浜  末原 恭子 49,800

 

 牌と牌の音。

 そして、サイコロが回る。

 第2半荘の始まりと同時に飛び出していったのは、恭子の見立て通り片岡だった。2副露して攻めの形をあっという間に整える。

 

——安手になってまうけど……いくしかあらへん! まずは天江の支配を崩すことや!

 

 片岡の動きに合わせて、恭子も鳴きをいれてハイペースの展開へと誘導すると、藤白七実もその動きに追従してきた。

 牌の巡りも良く、恭子は一向聴地獄をあっという間に抜けてツモ和了った。

 

ツモ! 700、1300!

 

 まだ、勝負は終わらせられない。

 

 最後の最後まで戦い抜いてやる。

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