たくさんの人に読まれて嬉しい限りですm(_ _)m
次話で最終話となる予定ですが、エピローグも書くかもしれません。
第1半荘が終わった。
10時のおやつのプリンアラモードを口に運びながら、私は休憩室の脇に置かれたモニターを眺める。
雀聖戦 1日目 第1半荘 〜終了〜
天江 衣 59,400 +29
宮永 照 55,600 +16
園城寺 怜 49,800 ー10
宮永 咲 35,200 ー35
衣ちゃんがトップのまま走り抜けて、私は最下位。
オーラスでラスが確定する5200点の和了を決めて少し追いついたものの、ワンツーの順位ウマを入れるとマイナスが大きく、第1半荘は完敗と言っていい。最下位スタートのタイトル戦は、約2年ぶりだ。
対局会場横の休憩室に面子が一堂に介して、おやつを食べる。言葉を発する者は一人もいない。重苦しい静寂の中で、園城寺さんがプリンアラモードとメロンクリームソーダをおいしそうに食べている音が響く。
いつものことではあるが、タイトル戦の食事会場が対戦相手と同席なのはどうなのだろう。
旅館らしいメニューは衣ちゃんの餡蜜だけで、園城寺さんも姉もプリンアラモードを注文していた。
そういえば、昔旅行先で家族4人でプリンアラモードを食べたことがあった。お父さんだけが途中で食べるのが嫌になったと言って、ホットコーヒーを啜っていたっけ……
ちらりと、姉の方を見る。真剣な表情でスプーンを持って、金属のトレイとカチカチと音を鳴らしながら口に運んでいた。おやつのことは上の空といった風体だ。
試合開始の準備を告げるブザーが鳴って私たちは、各々のペースで試合会場の麻雀卓へと向かった。糖分も補給出来たし残り2局、しっかりとこなしていきたい。
スタートに躓いたことでかえって精神的には少し楽になった。攻めなければ勝てない状況に追い込まれたことで、守ろう守ろうという意識が消えていく。
雀聖戦 1日目 第2半荘
東1局
東 宮永 照 50,000
南 天江 衣 50,000
西 園城寺 怜 50,000
北 宮永 咲 50,000
配牌は悪くない。鳴きを入れて一向聴まで加速する。
河に出た四索を大明槓で拾い上げて、嶺上牌で有効牌を持ってきて聴牌。他家の聴牌気配のないまま巡目を重ねると、あっさりと和了牌を引き当てた。
ツモ 700、1300です。
これが橋頭堡になれば良い。
衣ちゃんの支配が有効に機能している場面では、嶺上牌で強引に聴牌することの出来る私が有利だ。
東2局。重い展開に焦れるように、園城寺さんが鳴きを入れて撹乱してきた。
ポンとチーを一度ずつ入れて二副露。しかし、それでも彼女の手牌からは圧力は感じられない。
過去の牌譜を見ても、園城寺さんは放銃することがないので、和了は遠くても鳴きを入れて卓に影響力を残そうとする打ちまわしをすることが多い。
工夫はいらない。
ただ、流れに身を任せれば良い。
カン! 嶺上自摸!
2000、4000です。
満貫の手牌を倒して、そう申告する。
序盤、少しのリードを確保することが出来た。無理に動いてきた相手を斬ることは、競り合いを制することよりも容易い。
雀聖戦 1日目 第2半荘
東3局
宮永 咲 60,700
園城寺 怜 47,300
宮永 照 46,700
天江 衣 45,300
配牌から一番自然な不要牌を手に取って、河へと切り出す。衣ちゃんの支配を育てるように、牌の流れに逆らわずスローペースに持ち込んでいく。
一向聴までは流れに逆らう必要がない。必要な牌を鳴き、牌効率の良い牌を切る。
そして、一向聴まで進めたら嶺上牌から有効牌を持ってきて和了する。
ツモ 800、1600です。
雀聖戦 1日目 第2半荘
東4局
宮永 咲 63,900
宮永 照 45,900
園城寺 怜 45,700
天江 衣 44,500
一度目の私の親番。
3連続和了で良い流れだが、配牌には恵まれなかった。姉や園城寺さんが切り出した中張牌と一緒に、私の字牌が並ぶ。
ポン!
姉の気迫のこもった澄んだ声が聞こえて、その手牌を眺めやると、強い聴牌気配を感じた。鳴いてズラして抵抗を試みたが、姉は気に留めた様子もなく和了牌を引き当てた。
ツモ 400、700
40符1飜の和了。打点の低い和了から決めた時の姉の連続和了は止めにくい。
20符2飜、30符3飜と連続で軽快に和了を決めて姉と私の得点差が詰まってくる。
雀聖戦 1日目 第2半荘
南1局 2本場
宮永 咲 60,400
宮永 照 55,800
園城寺 怜 42,500
天江 衣 41,300
無理に動いて止めるべきだろうか?
早い巡目での聴牌は牌の気配を見誤ることも多く、積極的に動けば放銃の危険性がある。
逡巡しながらも自然な牌の流れのまま進行させていくと、上家の園城寺さんからギラギラとした気配を感じた。
第1半荘と同じ。園城寺さんは姉の連続和了の場面に賭けている。
それなら、私が止める必要はない。
だって園城寺さんが、姉の連続和了を喰らい尽くすだろうから。
リーチや!!!
園城寺さんのリーチ棒が真っ直ぐに立つ。
切り出した牌を衣ちゃんがポンして、一発は消されたが吸い込まれるように、和了牌が園城寺さんの手の中に収まった。
園城寺さんが手牌の横に和了牌の四萬を置くと、トンっと渇いた音が室内に響いた。
ツモ 3000、6000の2本場は、
3200、6200です。
園城寺さんが待ち望んできた速い展開。
第1半荘でも同様の和了を決めていたし、この和了は園城寺さんのゲームメイクとして試合前から入念に準備してきたのだろう。準備してきた引き出しを何度も決められると、意識せざるを得ない。
雀聖戦 1日目 第2半荘
南2局
宮永 咲 57,200
園城寺 怜 55,100
宮永 照 49,600
天江 衣 38,100
姉の連続和了が終わる。試合は再度、緩やかな展開に戻った。米国と欧州を行き来しているような不安定な牌の巡り。
卓上に急に訪れた凪に手が止まる。
満潮が近づいて、徐々に水位が上がっていく穏やかな海を切り裂くように、私は嶺上牌に手を伸ばす。
姉の捨てた南を大明槓して嶺上牌から有効牌を手牌に引き寄せる。ドラが暗刻に綺麗に乗った。
風のない海の上で、一生懸命に帆を貼って船を前へ前へと進めていく。
ツモ 3000、6000です。
海の底もだいぶ近づいた深海で私はなんとか和了牌を引き当てた。両面待ちの良形聴牌でもこの流れでは、時間が足りないくらいだ。後ろから追ってくる船はいなくとも、自分が目的に辿り着けるかどうかはわからない。
続く南3局では、これまで和了に見放されていた衣ちゃんが満貫和了を決めた。
雀聖戦 1日目 第2半荘
南4局
宮永 咲 67,200
園城寺 怜 48,100
宮永 照 44,600
天江 衣 40,100
長く続いた第2半荘もようやくオーラスに差し掛かった。
最後の親番。ここで和了して1位を確定させて良い流れで1日目の最終半荘に臨みたい。
配牌は悪くない。
姉の鳴きに対応する形で、園城寺さんも副露を入れる。手牌の気配はどちらも高くはない。先行した2人に追いつくために、五筒をポンして手牌を進める。
一向聴で横並びになった状況から、4枚揃った中をカンして有効牌を引き寄せる。
一転私が先行する形になったが、ここからが長い。和了牌は嶺上に見えているがカン材が山から見えにくい。
ツモ切りを繰り返して、ジワジワと水位が上がっていく。衣ちゃんの高火力の和了で試合をひっくり返される可能性もある。第1半荘で首位を獲得した衣ちゃんが、第2半荘でも上位につけてくると面倒だ。
私は焦れる気持ちを抑えて、手なりで手を進めていく。姉と園城寺さんに動きはない。山が短くなり海の底が近づくにつれて、衣ちゃんのプレッシャーが強くなっていく。
海底牌が見えるよりも先に私の手牌に五筒がやってきた。
この牌をカンすれば、嶺上開花で私の勝ち。
ほっと一息ついてから、ザラっとした違和感が牌を捌く右手の掌に纏わりついてきた。
これ。加槓したら、槍槓もあるんだ……
待ち侘びていた手の中の牌が途端に重くなる。
卓上の河を眺めやる。衣ちゃんからの直撃はない。可能性があるとすれば姉か園城寺さん。
五筒を抱えて海の底に沈むか、山の頂に手をかけるか。
インターハイで園城寺さんに迫られた二者択一が記憶の隅によぎる。
カン!!!
そう強く発声して五筒を明刻にそろえて、晒すと卓上に園城寺さんの槍が突き刺さった。
槍槓や!!!
ロン! 5200!
園城寺さんが両手で倒した手牌を眺める。
この槍槓での和了も園城寺さんが試合前から温めてきた和了なのだろう。深い読みと計画に裏打ちされた観る人をワクワクさせるような闘牌。
園城寺さんは麻雀を楽しんでいる。
でも、この和了はそこまで大きいものじゃあない。予想通り、園城寺さんの手は高くはなかった。
私は第2半荘を一位確定させてくれたことに、安堵のため息をつく。
雀聖戦 1日目 第2半荘 〜終了〜
宮永 咲 62,000 +32
園城寺 怜 53,300 +13
宮永 照 44,600 ー15
天江 衣 40,100 ー30
第二半荘が終わって、背もたれに深く身体を預け目を閉じる。得点もフラットになって、園城寺さんがトップに立ったが点差は僅か。最終半荘を制した者が1日目の勝者になる。
私と同様に背もたれに深く身体を預ける姉と衣ちゃんとは対照的に、園城寺さんは係員さんから牌譜を貰って、嬉しそうに卓上に牌譜を広げていた。
第一半荘終了後にあれだけ糖分を補給したのに、頭は疲れ切ってより多くの糖分を欲していた。お昼ご飯で炭水化物をしっかり食べて、喫煙室でタバコを吸って……それから、最終半荘に臨みたい。
ふと、オーラスで園城寺さんに決められた槍槓が頭をよぎる。
そういえば昔、衣ちゃんとの試合で槍槓を決められたことがあったっけ? 確かその時は、加治木さんと池田さんが同卓していて……
みんな園城寺さんみたいに、ワクワクしながら麻雀をしていた。
背筋に薄ら寒い嫌悪感が伝い落ち、右手の甲がピリピリと痛みが走るのを感じて、私は慌てて心の内から、過去の記憶を拭い落とした。
試合中に感傷に浸るなんてどうかしている。
私は牌に愛されている。
麻雀だけは私を裏切らなかったから、それがどれだけ残酷でも、私は尽くさなくっちゃいけない。
機械のように打ち続けて、私の麻雀で全部倒す。そして最後はパタリと動かなくなって、それだけが救いのはずなのに……
何度塗り直してもペンキは簡単に剥がれ落ちて、想いは心の中を錯綜する。
今度は、剥がれ落ちないように。
刷毛で灰色の塗料をベッタリと掬い取って、私は何度も何度も落書きを塗り潰した。