専業主婦、園城寺怜のプロ麻雀観戦記   作:すごいぞ!すえはら

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第15話 3勝15敗する先鋒と微笑みの国

 園城寺怜はカーペットと向き合っていた。

 

 竜華が料理や洗濯を頑張っているのを見て、自分も家事をやってみようと思い立ったのだ。

 コロコロくんを片手にカーペットのホコリや髪の毛をとる。

 

 一回、コロコロ。

 

 二回、コロコロ。

 

「あんまり、とれへんな……」

 

「粘着シート変えないととれへんで、少し貸してや」

 

 そう言って竜華は、怜の持っているコロコロくんの粘着シートを一枚剥がし怜に手渡す。

 

「おおーめっちゃ、とれるやん!」

 

 カーペットの髪の毛がとれて、ご満悦の怜を見て、竜華が微笑む。

 軽快なリズムで怜はカーペットにコロコロくんをかけていく。しかしだんだんと粘着力がなくなってしまい、ホコリがとれなくなってしまう。

 怜は、無言でコロコロくんを竜華に手渡す。以心伝心なので竜華は、粘着シートを剥がしてから再度怜に手渡した。シートの剥がし方がイマイチわからなかったので、仕方がない。

 

 その一連の流れを何度か繰り返してから、怜は竜華に言った。

 

「満足したで!」

 

「お疲れ様やーお風呂わいとるで」

 

「まだお風呂はええわ」

 

「ひのきの精油入れたから、ひのき風呂出来てるで、時間経つと匂い飛んじゃうから入ってや〜」

 

「はいるで!」

 

 竜華は、一仕事終えた表情の怜を誘導してお風呂に入れる。竜華の家事量が増えただけで怜のコロコロ作業は、全く役に立っていないのだが、双方満足しているのでとくに問題はない。

 

 お風呂上がり。ひのき風呂を満喫した怜がポッキンアイスをくわえていると、テレビの前にいる竜華に呼ばれた。

 

「今日の試合、セーラでとるでー」

 

 横浜の先鋒を務め雀卓に座るセーラは、2位の大宮に12000点ほど差をつけ、トップにたっている。

 

「お、勝ってるやん!さすがセーラや!それにしても……」

 

江口 セーラ  昨年度成績

ドラフト3位  個人戦順位 18位

千里山→横浜

3勝15敗0H

昨年度は勝ち星に恵まれてないながらも、先鋒ローテーションを守り続けた。その火力は横浜の重戦車。

 

「いつみてもこの成績はやばいわあ」

 

 登板数と闘牌内容に比べて、明らかに勝ちが少なすぎる。上位の個人戦成績にも関わらず、あまりにも悲惨すぎる勝率などツッコミどころしかない。

 

「んーせやなあ……セーラは横浜やなかったら、10勝は無理でも8勝くらいはしそうな感じするけど」

 

 竜華はそう言ってから、ああでも横浜やなかったら先鋒やってないかと付け加えた。

 怜は前から疑問に思っていることを、口にする。

 

「というか、こんな成績でクビにならへんの?うちが監督なら違う選手つかうで?」

 

 怜はタブレットを操作しながら竜華にそう質問すると、竜華は台所から持ってきた紅茶の入ったマグカップをテーブルに2つ置きながら冷静に言った。

 

「負けたら違う選手を使えばいいだけ?なに甘っちょろいこと言ってるんや?」

 

「横浜にほかの選手なんかいるわけないやろ、去年セーラの放銃率に勝率が負けたチームやで?」

 

【江口】横浜ロードスターズ応援13

605名前:名無し:20XX/5/2(月)

ななしの雀士の住民 ID:yok0drtg

すまんな、江口

 

626名前:名無し:20XX/5/2(月)

ななしの雀士の住民 ID:yok8mitm

3勝しても15敗する先鋒はいらない

 

650名前:名無し:20XX/5/2(月)

ななしの雀士の住民 ID:yokmrjav

>>626

先鋒のなかで一番信用できるんだよなあ

 

 セーラは、面前主軸の手作りと持ち前の高火力を生かしてプロ入り後すぐに一軍昇格し、レギュラーを獲得した。

 ルーキー、2年目と主にポイントゲッターとして起用され、当時横浜にいた三尋木さんの後継として期待された。

 しかし、プロ3年目に就任した高校時代の恩師、愛宕雅枝が監督に就任するとチーム改革に着手。その大胆な采配でポイントゲッターから先鋒に転向。先鋒転向後いきなり5勝をあげ、チーム先鋒の最多勝に輝いた。なお、この年の最優秀先鋒を獲得したのは、17勝をあげた戒能さんである。

 

「なあ、このチームなんでこんな弱いん?」

 

「んー横浜だからやなー」

 

 紅茶が少し熱いのか両手でマグカップを持って、冷ましながら竜華はそう答えた。明らかに理由になっていない。

 

「選手は宮永さんとか良い選手おると思うんやけど?」

 

「例えば先鋒を変えるとして、咲ちゃん以外に良い選手おる?」

 

 少しばかり怜は唇に手を当てて考える。そして一つの結論に至った。

 

「いないで」

 

「せやろー」

 

 悲惨すぎるチーム事情を怜が認識したところで、テレビから聴き慣れたセーラの発声が聞こえてくる。

  

 ツモ!!! 4000!8000!

 

 オーラス。流局で次鋒戦へと移るかと思われたが流局間際にセーラは倍満ツモを和了し、チームに弾みをつける。これで横浜は3万点近いリードを獲得したまま次鋒戦に移った。

 

「セーラめっちゃカッコ良いわあ」

 

「せやなあ、先鋒あんまり向いてないと思ってたけど、最近はあわせてきてるし流石セーラや!」

 

 竜華も嬉しそうにかつてのチームメイトの活躍を祝福する。

 怜が小学生のころから、セーラは大きな役を軽々と和了っていた。セーラのようになりたくて、役や点数計算の勉強を竜華と一緒に頑張ったこともあった。プロになってもカッコいいままのセーラでいてくれることに、怜は安堵する。

 

「子どものころからセーラってやっぱなにかもってへん?」

 

「もっている?せやなあ……でもそれなら……」

 

 そこまで言いかけてから、急に言うのをやめて竜華はマグカップに口をつけて紅茶を飲む。

 

「それなら?」

 

「なんでもあらへん、急になに喋ろうと思ったか忘れたわー疲れてるかもしれへん」

 

 そう言って竜華は笑顔を作って、肩こりをなおすように首を左側に倒し伸びをした。

 

「変な竜華やなー、体には気をつけないと駄目やで」

 

 そう答えながら、怜はタブレットで掲示板を覗いてみる。

 

810名前:名無し:20XX/5/2(月)

ななしの雀士の住民 ID:yokdijaz

江口最高や!おまえがエースや

 

832名前:名無し:20XX/5/2(月)

ななしの雀士の住民 ID:yokmijad

これが、江口セーラ!横浜先峰三本柱の力だ!!!

ダヴァン 5勝10敗

江口   3勝15敗

弘世   2勝7敗

 

850名前:名無し:20XX/5/2(月)

ななしの雀士の住民 ID:yokdr3mi

>> 832

やっぱ5勝とかいう壁が高すぎる

 

855名前:名無し:20XX/5/2(月)

ななしの雀士の住民 ID:yokmijad

>> 832

去年、愛宕がなんだかんだ理由つけながら、ルーキーの弘世を使い続けて愛人とか言われてたけど

実際には代わりがいないだけなんだよな

 

868名前:名無し:20XX/5/2(月)

ななしの雀士の住民 ID:yokdrmaz

>>855

最後の方、監督も褒めるとこなくなって身長高くて顔が良いとか言い始めたのほんと草やった

 

870名前:名無し:20XX/5/2(月)

ななしの雀士の住民 ID:yokmdjg0

>>855

炎上しても若手選手のチャンスは無限に与えられ続ける模様

 

 

 続く次鋒戦、横浜はリードしつつも徐々に差が詰まっていく展開となった。しかし依然として横浜トップのままであり、横浜ファンの期待が高まっていく。

 次の中堅戦と副将戦さえ乗り越えれば、勝ちなのだ。

 

 中堅戦は、ファンの期待を背負い霜崎プロが卓につくも、南入前に満貫直撃をくらい横浜のタイムアウトがかかる。

 

横浜  110700

大宮  108000

恵比寿 97500

松山  83800

 

「あーこれは交代やろなあ」

 

 そう言った竜華の読み通り、ベンチから出てきた愛宕監督は、眼鏡の位置を整えてから交代を雀審に告げた。

 リリーフカーから降りて、元気よく岩館さんが卓へと向かう。

 

「お、有珠山高校の人やな!」

 

「あれ?やっと思いだせたん?」

 

「このまえ竜華がそう言ってたわ」

 

 岩館さんが有珠山高校にいた記憶は全くないが、竜華がいたと言うのならたぶんいたのだろうなと怜は思った。

 そのままぼんやりとテレビを見ていると、その時事件は起こった。

 

 ロン! 36000

 

『ああっと!天江選手トップ横浜から三倍満を直撃!!!!一躍トップに立ちました!素晴らしい和了です!!!!!!』

 

109名前:名無し:20XX/5/2(月)

ななしの雀士の住民 ID:yokdrmaz

いきましたー

 

162名前:名無し:20XX/5/2(月)

ななしの雀士の住民 ID:yokmrdzm

ほな……また、明日

  

 映像が横浜のベンチに切り替わり、頭を抱える愛宕監督とひきつった笑みを浮かべるセーラ、そして放銃して固まる岩館さんの映像を見ながら大爆笑している宮永さんが映し出される。明らかにテレビで映しちゃ駄目な映像である。

 愛宕監督は宮永さんに一声かけて、笑いを止めさせてから、タイムアウトをかけるべくベンチを後にした。

 

 まだ、ツボに入り微笑んだまま肩が震えている宮永さんに、薄墨さんがタバコとライターを見せる。宮永さんが首を横に振ったので、ダヴァンに声をかけて薄墨さんはベンチを後にした。

 その様子を見ながら、ずっとベンチで微笑んでいる菫さんの姿が印象的だった。

 

「これは勝てませんわ」

 

「せやなー」

 

 苦笑いを浮かべながら竜華は、怜の発言に同意した。

 

 その後、横浜はマシンガンのように選手を登板させたが、逆転するどころか点差は拡大。4位で無事敗北した。

 

 なお、翌日の試合も岩館さんは元気に登板した模様。

 

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