専業主婦、園城寺怜のプロ麻雀観戦記   作:すごいぞ!すえはら

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第18話 懐石料理と満月の少女

 松実館の離れで怜は懐石料理に舌鼓をうっていた。いつも竜華が作ってくれる家庭的な料理もおいしいが、こうして目で楽しめる懐石料理もなかなか良いものである。

 

「問題は食べきれへんことやな」

 

「というより先輩、先付けと椀ものしか食べてない気がするんですが……」

 

「見て楽しんでるんや!」

 

 少食の怜は懐石料理を全部食べることは出来ない。そのため先付けとお碗だけいただいて、あとは全部一口ずつしか食べないという荒技を敢行している。

 お造りはウニとアワビだけ食べて鯛と鮪は無視、鍋は豆腐にしか手をつけないし、天ぷらはタラの芽しか食べない。

 

「食べるのって体力いるやん?」

 

 さも当然のように怜は語っているが、泉は全くピンとこない表情をしてうなずく。

 

「だから、今日は赤土さんと麻雀したりサインしまくって、疲れたからこれ以上は無理なんや」

 

「そうですか……」

 

「だから、欲しいものがあったら泉が食べてええで」

 

 怜はこれ以上は食べられないと言いながらも、後から運ばれてきた季節のフルーツが盛り付けられたデザートはしっかり全部食べる。超わがままである。

 ただ、サイン会で疲れたのは本当で、そのまま寝てしまおうかと怜は思った。しかし、おいしそうなご飯が運ばれてきたのでもう少し起きていることにしたのだ。

 付き合わせてしまった埋め合わせとして、赤土さんが他のプロ選手のサインを、扇子に貰ってきてくれることになった。そのためタダ働きにはならずに済んだことに、怜は安堵した。

 

「お久しぶりです、遅くなってしまいましたわ〜」

 

 障子を開けて部屋に、スーツ姿のふなQが入ってきた。

 

「お疲れ様や〜仕事忙しかったん?」

 

「まあ、それもありますけど奈良はやっぱり遠いんですわ」

 

 ふなQは高校を卒業後、難波大学に進学した。大学の麻雀部時代からプロチームに出入りし、プレイヤーとしてではなくその情報力と分析力に一目置かれていた。その実力を買われて大学卒業後は、エミネンシア神戸の職員になり、各学校のスカウトやスコアラーの仕事をして、多忙な日々を送っている。

 

「テレビ中継つけてもええですか?」

 

「ええでー、あとこの辺の料理も好きに食べてや」

 

 テレビに、ウサギの耳のようなヘアバンドをつけた金髪の少女が映し出される。松山のポイントゲッター天江衣だ。

 

天江 衣    昨年度成績

ドラフト1位  個人戦順位 5位

龍門渕→松山

21勝4敗0S

首位打点王(2回)、最多勝(1回)、敢闘賞(1回)、山紫水明(1期)

日本麻雀界を代表するポイントゲッター、今年は守護神姉帯豊音との身長差70cmコンビで優勝を狙う

 

「天江衣のスコアつけてるん?」

 

 カバンからノートとボールペンを取り出し、副将戦の記録をつけているふなQに、怜は声をかけた。

 

「いや、これは趣味ですわあ……いつスカウトからスコアラーに異動しても大丈夫なようにっていうのもありますけど」

 

「さすがです、船久保先輩」

 

 泉は、プライベートでも他チームのプレイヤーの研究をする、仕事熱心なふなQの姿をみて感心している。その姿勢を少しでも自分の麻雀に、活かしてくれたら上手くなりそうなもんやけどと怜は思った。

 

「天江さんほんま強いやんなあ……少し強さにムラがある気もするけど、ポイントゲッターなのに守備も上手だし」

 

 天江さんの守備は卓上全体を支配しているせいか本当に上手だ。怜から見ると他チームの守護神と比較しても、良いと感じるレベルにある。少なくとも大宮の守護神よりは確実に上手い。

 何より怜の未来視の力は、場を支配し能力で麻雀をするかのようなタイプの天江さんとは、非常に相性が悪い。

 

「姉帯プロよりも彼女を守護神にという声も大きいですしね。私はまあ今のポジションのほうが向いているとは思ってるんですが」

 

「そうなん?守護神ウチはむいていると思うんやけどなあ」

 

 怜がそう言った途端、天江さんは大物手をツモ和了した。

 

『乏しいな……闕望したよ』

 

海底撈月! 3000 6000

 

『素晴らしい和了です!松山!追いつきました!』

 

「やっぱり、守護神というよりも火力が凄いんですわあこの選手は」

 

「うわあ……」

 

 くっくっと楽しそうに笑うふなQとは裏腹に、怜は全くいい気分にならない。

 有効牌を支配し他家の工夫を叩き潰した上、一筒で海底をツモ和了する所業に怜はドン引きする。

 

「闕望ってどんな意味なんや?」

 

「さあ?ちょっとわかりませんけど……がっかりしたとか、そんなに感じじゃないですか?」

 

「ガチクズやん……なんで麻雀強いやつは性格の悪いやつが多いんや!」

 

 眼鏡の位置を整えながら言葉の意味を教えてくれたふなQに、怜は憤る。なぜか、泉がじっと言いたいことがありそうにこちらを見ていたが、怜は無視することにした。

 

「それにしてもこいつ強すぎやろ、ウチが前に見たときはこんな強くなかったんやけど」

 

「今日は月が満ちている夜ですからね」

 

「よる?」

 

「天江衣は夜のほうが成績が良いんですよ、大きな月がでている満月の日はとくに強い」

 

「そんなオカルトありえへんやろ」

 

「まあ、本人も言ってますしデータにも出てるから事実なんやと思いますよ」

 

——オカルトパワー全開すぎるやろ……なんで麻雀に月齢とか関係あんねん…………

 

 怜は自分のことは完全に棚に上げて、オカルト能力を否定する。しかし、ふなQが言うならそういうこともあるか、と受け入れられる柔軟さが怜の良いところでもある。ふなQと話していると、体が予想以上に疲れているのを怜は感じた。

 怜は疲れを癒すべく、マッサージ機に移動した。食べたばっかりなので、肩揉みはせずに足揉み機能だけ利用する構えだ。そしてタブレットを操作し掲示板に書き込む。

 

204名前:名無し:20XX/5/13(金)

ななしの雀士の住民 ID:tokichan

天江衣強すぎやろ、野依さんとかおるのに普通に飛ばす勢いやん

 

221名前:名無し:20XX/5/13(金)

ななしの雀士の住民 ID:emi0diwa

焼き鳥のよりん、哀れ……

 

228名前:名無し:20XX/5/13(金)

ななしの雀士の住民 ID:matditaw

>>204

舐めプしなきゃ最強の雀士やぞ

 

235名前:名無し:20XX/5/13(金)

ななしの雀士の住民 ID:ebij2drda

>>228

昼間は舐めプしているという風潮

ナイターの方が強いとか、謎すぎるからしょうがないね

 

236名前:名無し:20XX/5/13(金)

ななしの雀士の住民 ID:matrt8dg

ころたん、イェイ!防衛待ったなし!

 

245名前:名無し:20XX/5/13(金)

ななしの雀士の住民 ID:matditaw

ころたん、遺影w

 

250名前:名無し:20XX/5/13(金)

ななしの雀士の住民 ID:sakdrmjh

>>236

>>245

こいつが宮永に勝てると思ってた時期が俺にもありました

 

272名前:名無し:20XX/5/13(金)

ななしの雀士の住民 ID:ebiragwj

>>250

高校の頃ですら負けてるんだよなあ……

 

「この後に出てくるのが、姉帯プロっていうのも結構えげつないですよね」 

 

 泉は手酌で、自分のグラスにビールを注ぎながらそう言った。

 

「やっぱり首位を走るチームは違いますわあ……選手層に厚さがあって競争もある」

 

 浴衣に着替えたふなQは、怜が残したご飯を食べ始めた。ほとんど食べていないので、全く箸をつけていないように見える。

 

「飲みます?」

 

 泉はビール瓶を持ちながら、ふなQにそう尋ねた。

 

「あ、いただくわ、ありがとう」

 

 そう言ってふなQは泉にビールを注いでもらってから、泉にビールを注ぎ返した。

 

「園城寺先輩もオレンジジュースもっと飲みます?」

 

 そう声をかけながら、オレンジジュースのビンを持って立ち上がった泉だったが、怜からの返事はなかった。

 

「寝ちゃったみたいですね」

 

 マッサージ機に座って気持ちよさそうに目を閉じている怜に、泉はタオルケットをかけてあげた。

 

「麻雀したって松実さんから聞いたし疲れているんやろ、園城寺先輩どうやったん?」

 

「いやー……ヤバかったです、自信なくしちゃいましたよ…………自分の大学での4年間ってなんだったんだろうって」

 

 泉はそう言ってから、グラスに入ったビールを一気に空ける。無言でふなQは、泉のグラスにビールを注いだ。小さくお礼を言ってから泉はふなQに問いかけた。

 

「船久保先輩ははじめからスカウトに?」

 

「大学に入った時にはもう決めてたなあ、プレイヤーとしては諦めてた」

 

「そうですか……」

 

 泉は、大学ではそれなりに結果を残しているものの、プロ指名されるかは微妙なラインである。下手に下位指名でプロに行くくらいなら実業団に入る選手も一定数いる。社会人麻雀ならプロほど過酷な競争もなければ、一定の生活も保証される。一般就職したって六大学の麻雀部出身なら一流企業に簡単に入れる。いろいろな選択肢があるのだ。

 

「泉はプロ行きたいんやろ?」

 

「はい」

 

「あの先輩と一緒に麻雀してプロに入りたいって思えるのは泉のこと尊敬するわ、私は自分のデータを役立ててくれてるってだけで満足してもうたから」

 

「……ありがとうございます」

 

「がんばりや」

 

 窓ガラスから顔を覗かせたまんまるのお月様は、グラスを持ったまま涙を滲ませる少女を優しく見守っていた。

 

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