「なー竜華、それなんて花なん?」
怜は部屋のリビングのガラスの花瓶に、花を生けている竜華に声をかけた。
「カーネーションや」
「カーネーションに青い色なんてあるんか?」
「最近できた品種らしくてなあ、花言葉は永遠の幸福……部屋に置くと幸せになれるって人気なんよ」
大切なものを扱うように花を愛でている竜華の姿を見て、リビングにお花があると華やかな気分になるから、幸福っていうのは間違ってないかもしれへんなあと怜は思った。
「この白いのはなんなん?」
「それはかすみ草やな、あっ水用意してくるから少し持っててや」
竜華は怜に花束を渡すと洗面所へ水を汲みに行った。
受け取った花束は、カネーションの青色にかすみ草の白い小さい花が粉雪のように降っていてとても綺麗だった。
「まあでも、うちはこういう不自然な花より、青い紫陽花ほうが好きやな」
竜華に聞かれないように、怜はそうぼそっと呟いた。
花瓶に花を生けるお手伝いも終わり、一仕事終えた怜は、竜華に膝枕をしてもらいながらソファーに寝転んでのんびりしていた。
「旅行も楽しかったけど、やっぱり家がおちつくなあ」
「それは良かったわあ」
竜華は嬉しそうに怜の髪を優しく撫でた。
旅行中に無断で勝手に麻雀をしたことは、何故か竜華にバレてしまったので、とても怒られた。
竜華は怒っていても泣いてしまえば、大抵のことは許してくれる。そのため、怜は早めに泣くようにしているのだが、今回は泣いても許してくれなかったので、相当ご立腹のようだった。
携帯電話越しに、竜華が泉に低い声で詰問しながら激昂している様子を横で見ていて震え上がったので、怜は泉にちょっとだけ悪いことをしたなあと思った。
「麻雀の試合見るで!」
「はいはい」
怜がそう言うと、竜華はリモコンを操作してテレビの電源をつけた。
満員の観客席と雀卓の緑が映し出される。
松山 130500
大宮 100900
佐久 98500
横浜 70100
松山リードの中堅戦、2位につける大宮はポイントゲッターの大星淡を登板させ、逆転を狙いたい構えだ。このまま大将戦までもつれ込むと守護神の姉帯さんがでてくるため、はやめに逆転したいのが各チームの思惑だ。
大星さんの登板にあわせて、佐久が選手交代の動きを見せた。
ROOKIE CHECK
上埜 久
ドラフト5位 個人戦順位 NEW
清澄→信濃大→フリー→DS石油→帝国新薬→
佐久
0勝0敗0H
悪待ちに定評のある期待の即戦力ルーキー
『さあさあ!各チームとも交代ラッシュだああああああ、大宮の誇るポイントゲッター大星プロに対抗して佐久もルーキー投入!!!!!』
『上埜プロはプロ初登板で今日初体験を迎えますね!』
『なんでそのワードチョイスしたの!?というか気に入ってるよねその言い回し!』
ハイテンションな実況席は、竜華の仕事仲間の福与アナと、永世七冠を獲得した生ける伝説小鍛治健夜さんである。
「ああ、この人……清澄の中堅の人か信濃行ってたんやな」
「竜華知ってるん?」
「んー話だけな、大学麻雀の不祥事もあったし可哀想やなこの人も」
怜は体を起こして上埜プロを見てみる。ラフで無造作感のあるお団子ヘアにライトグレーのスーツを着こなしている。華やかな容姿ながらも少し陰のある雰囲気が魅力的だ。
「この人はなんだかすごいモテそうや」
「も、もしかして好みのタイプなんか!」
竜華が少し焦りながら、上埜プロと怜のほうを交互に見比べる。
「こういう、綺麗なんやけど幸薄そうな顔って好きな人が一定数いる気がするわ」
「つまり、怜のタイプではないんやな」
「うちは、竜華一筋やで」
「とき〜〜〜」
そう言うと、竜華は膝枕をやめて怜に抱きついた。暑苦しいと思いながらも怜は、無抵抗のままハグを受け続ける、
しばらくすると満足したのか離してくれたので怜は、体を起こしてタブレットを起動する。掲示板でルーキーの情報を仕入れようと怜は思った。
609名前:名無し:20XX/5/17(火)
ななしの雀士の住民 ID:tokichan
上埜ってどんな選手なん?
620名前:名無し:20XX/5/17(火)
ななしの雀士の住民 ID:yokdrmatg
>>609
清澄高校出身らしいから宮永の先輩
629名前:名無し:20XX/5/17(火)
ななしの雀士の住民 ID:yokmrmaw
>>620
魔王相手にイキった態度で接してるの見たい
635名前:名無し:20XX/5/17(火)
ななしの雀士の住民 ID:hea0drmat
清澄→信濃とかいう問題しかない経歴に草
640名前:名無し:20XX/5/17(火)
ななしの雀士の住民 ID:ebimr97m
清澄とかいう一年しか活動してない部活から、3人もプロになってるのははっきり言って異常だ
645名前:名無し:20XX/5/17(火)
ななしの雀士の住民 ID:saks0mrda
>>640
宮永と上埜の他にいる?
651名前:名無し:20XX/5/17(火)
ななしの雀士の住民 ID:emidrmgw
>>645
片岡
あまりめぼしい情報は得られなかったので、怜はタブレットを閉じた。
こう言う時は、竜華の意見を聞いてみると結構ちゃんとした解説が聞けたりするのだ。竜華の意見はだいぶ辛口なので、当たっていることが多い。
「このルーキーどうなんや?」
「んー上手いんちゃう」
「え?」
即答で上手いという答えが竜華から返ってきて怜は驚いた。あまり上手くないとか、短すぎてわからへんとか言われることを怜は想定していた。
「上手いとかこんな短い時間でわかるものなん?」
「わかるで」
そう言って竜華は、テレビ画面の中の河に置かれた大星さんのダブルリーチの牌を指差す。
「大星さんダブルリーチの場面で、消極的になったり過度に攻めすぎたりってなる人は多いからなあ」
「彼女の場合は初対戦なのにそれがないし、データ見てるにしても、待てる打ち手なんやと思うんよ」
ツモ! 3000 6000
『カンから一巡で引き当てたああああああああああああ!!!』
『ダブルリーチ単純なようですけど……やっぱりやられると対策に困るというか、通用するんですよね』
大星さんはダブルリーチを和了し、勢いに乗る。
上埜プロは配牌を一瞥して小手返しでフェイクをかけてから、ツモった牌をそのまま捨てる。
「ガチャガチャやるタイプの割には理牌はちゃんとやるんやな」
「あー癖やろな……大星さんの配牌はどうしてもフラストレーション溜まるし」
巡目がたってから、ようやく上埜プロは多面張を捨てて単騎待ちに切り替えてリーチをかける。
『上埜選手は高校インターハイの活躍が印象深いです』
『さすが小鍛治プロ!詳しいですね!』
『その試合こーこちゃんと一緒に実況したよね……まあいいや、インターハイで宮永さんと周りの人が活躍しているのを見ると感慨深いなあって思うよ』
『宮永世代ですか?』
『そうとも言うのかも、異能の打ち手が多く集まった世代だというのもありますし……だからこの上埜さんも…………』
すこやんが途中まで言いかけた時、上埜プロはツモってきた牌を親指で弾き上げてから、空中でキャッチし卓に叩きつけた。
ツモ!!! 6000オール!!!!!
『……めちゃくちゃマナー悪いですね』
すこやんは強打とかいうレベルじゃないツモ和了を見て、明らかに途中で言うことを変えて、上埜プロに苦言を呈する。
109名前:名無し:20XX/5/17(火)
ななしの雀士の住民 ID:tokichan
上埜いけるやん!!!!!!
181名前:名無し:20XX/5/17(火)
ななしの雀士の住民 ID:sak1drtjw
めちゃくちゃなツモり方してて草
235名前:名無し:20XX/5/17(火)
ななしの雀士の住民 ID:headrmjzh
これはレジェンドツモを超える逸材
312名前:名無し:20XX/5/17(火)
ななしの雀士の住民 ID:sak0miah
めちゃくちゃマナー悪いですね(直球)
上埜プロのド派手な和了を見て観客は大盛り上がりしているので、興行的にはありなのかもしれない。格好良かったので、今度麻雀をする時に真似してみようと怜は決意した。
その後試合は、大宮のトリックスター大星淡と、レジェンドツモの後継者上埜久の稼ぎ合いの様相を呈した。
しかし、中堅戦終盤に大星さんが松山に大物手の振り込みを許すと、上埜プロもこれに続いて放銃。結果、松山リードのまま大将戦を迎え、姉帯さんが接戦を制して今シーズン9セーブ目を挙げた。