専業主婦、園城寺怜のプロ麻雀観戦記   作:すごいぞ!すえはら

22 / 147
第22話 園城寺怜と大学のプリンス

 雨がざあざあと降っている。

 

 怜は、子どもの頃から雨を見るのが好きだった。外に出ると濡れてしまうのでおうちの窓から、雨の雫が葉っぱから溢れ落ちるのを眺めていると、なんともいえない幸せな気持ちになれた。

 

「高層マンションじゃなければ、もっと雨の音もよく聞こえるんやけどなあ」

 

 怜は窓のカーテンを閉めて、ソファーに腰掛ける。カーテンを閉めると雨音はもっと小さくなって、まるで外で雨が降っていないようだった。

 高級家具と快適な空調。そして大きなテレビに、座り心地の良いソファー。

 広くて綺麗なリビングに一人ぼっち。

 怜は、少しぬるくなったココアの入ったマグカップを両手で持って、口をつけた。

 

「竜華はやく遠征から帰ってこないかなあ」

 

 ガラス張りのローテーブルの上にマグカップを置くと、その音は意外なほど響いた。雨音が聞けない部屋でなければ、ここまで響かななっただろうと怜は思った。

 泉やふなQと奈良に遊びに行った時は楽しかったわあ……温泉と料理も良かったし、でもそれよりも。

 

——麻雀またうちたいなあ

 

 怜は竜華の書斎から麻雀牌を持ってきて、手の中で遊びながらリモコンを操作してテレビの電源をつける。

 

「今日はエミネンシアの試合あるから、竜華の応援せな」

 

 怜は少しの寂しさを紛らわすように、プロ麻雀の試合を見ることにした。

 

佐久 113000

大宮 102900

神戸 96700  

横浜 87400

 

『さあ、佐久リードのまま先鋒戦!まだまだわかりません』

 

 いつもよりも早い時間にテレビをつけたのでまだ先鋒戦をやっていて、試合は始まったばかりだった。

 

『あらためまして、各チーム先鋒選手の紹介です』

 

加治木 ゆみ  前年度成績

ドラフト1位  個人戦順位 24位

鶴賀→伊稲大→神戸

8勝14敗0H

六大学のプリンスは先鋒ローテーションの一角に、新人王を獲得し更なる飛躍が期待される。

新人王、敢闘賞(1回)

 

赤土 晴絵   昨年度成績

ドラフト1位  個人戦順位 11位

阿知賀→博多→阿知賀(監)→DS石油→ 佐久

10勝22敗0H

新人王 雀聖位(1期)ゴールデンハンド(2回) など

佐久フェレッターズのガラスのエース、高い防御力と対応力に定評がある。

 

江口 セーラ  昨年度成績

ドラフト3位  個人戦順位 18位

千里山→横浜

3勝15敗0H

昨年度は勝ち星に恵まれていないながらも、先鋒ローテーションを守り続けた。その火力は横浜の重戦車

 

愛宕 絹恵  前年度成績

ドラフト5位  個人戦順位 67位

姫松→大宮

2勝6敗3H

昨年度途中に先鋒転向。堅実な指し回しでローテーション奪取を狙う。愛宕洋榎(佐久)は実姉。

 

「この先鋒戦……全員知り合いやんけ!誰応援したらええんや!」

 

 怜は少し驚きながらも、誰を応援しようか思案する。心情的には元チームメイトのセーラを応援したいが、なんだか今日は負けそうだ。それに神戸の応援をしようと思って、テレビをつけたので、竜華の同僚の加治木さんを応援しようと決めた。

 

「加治木さんは顔もそうやけど、牌さばきがカッコええんよなあ」

 

 加治木さんは薬指を使って、牌をツモってくる独特の所作が印象的だ。無能力者でありながら、六大学麻雀で能力者たちをひらりと躱して斬り倒す曲線的な闘牌と、甘いマスクでアマチュア時代から人気がある。

 怜は真似をしようと思い、薬指で牌をツモ切る動作をすると、牌が勢いよく飛んだ。そしてテレビ横の置き時計に、嫌な音を立ててブチ当たった。

 

「……………………まあ、大丈夫やろ」

 

 飛んだ牌を回収する際に置き時計を見ると、風防のガラスにヒビが入っていた。

 無言で怜は、置き時計をそっと逆向きに置いた。無かったことにして、誤魔化そうとする作戦である。壁のほうを時計が向いているのは、明らかに不自然なのだが、他の方策を思いつかなかったため仕方がない。

 

 テレビから、絹恵ちゃんの気迫のこもった発声が聞こえてきたので、怜は試合に意識を集中する。

 

「3人ともめちゃくちゃ鳴いてくるわあ、これだけ展開が早いと、セーラなかなか和了出来へんよなあ」

 

 どちらかといえば、加治木さんと赤土さんもセーラと同じ副露率の低い門前手役型の雀士なのだが、今日は展開が早いので切り替えて麻雀をしているのだろう。セーラはこういう場面で器用に鳴いていける選手ではないので、大物手にかけるしかない。

 

「でも、これは無理そうやなあ……」

 

 赤とドラが重なったので珍しく役牌を鳴いて、積極的に仕掛けていこうとするセーラだったが、あっさり赤土さんのノミ手に流されてしまう。

 

「セーラもう和了できんわ、はよ代えてあげたほうがええ」

 

 流れを掴みにいって失敗してしまったセーラを見て、直感的に怜はセーラのことを諦めた。本来なら愛宕監督は、もっと早いタイミングで選手交代をするべきなのだが、代わりの選手がいないので、先鋒区間はセーラに賭けるしかないのだろう。

 

 絹恵ちゃんは必死に鳴いて喰らい付いていくが、徐々に差をつけられていく。

 

「赤土さんほんまに上手やなあ……」

 

 大宮からタイムアウトの宣言がされ、選手たちの周囲にチームメイトが集まり始める。瑞原監督は口元を隠しながら、色々と絹恵ちゃんにアドバイスしている。

 セーラは、宮永さんから手渡されたエネルギーバーを齧りながら特に話すこともなく、雀卓を見つめていた。こういう先鋒がへこんだ時に一人しか出てこないから、このチーム弱いんやろなと怜は思った。

 渡辺プロが軽く絹恵ちゃんの肩を叩いてから、ベンチに引き上げていくと試合が再開された。

 

佐久 120300

神戸 110600

大宮 90800

横浜 78300

 

 試合再開直後に絹恵ちゃんは、自信を持って門風牌を鳴いていく。それをみて、加治木さんも六筒をポンする。タイムアウトがかかっても、流れは全く変わらない。あまり手が進まない鳴きが連発される試合展開は、怜にとっては最良だが、セーラにとっては地獄である。

 

「今日は牌触りながら見てるせいか、河も山もめちゃくちゃ良く見えるわあ」

 

 怜は、自分がセーラだったらどんなふうに打とうかと考えながら観戦を続ける。

 

ツモ! 2000 4000

 

 加治木さんが、タンヤオとドラのみの満貫を和了し最終局に逆転した。明らかに普段の打ちまわしと違うのだが、しっかり対応してくるあたりに彼女の地力の高さが窺われた。

 加治木さんとは、同い年というのもあり怜は何度か一緒に出かけたことがあり、竜華の同僚のなかでは一番親しい間柄だ。

 泉やセーラ以外の人と2人で出かけたりするのは、大抵の場合独占欲の強い竜華に反対される。

 しかし何故か容姿端麗の加治木さんとは、怜が2人きりで出かけても、竜華に何も言われないので、誘いやすいというのもある。

 

 高校時代は無名の選手だった加治木さんは、推薦ではなく一般入試で伊稲大学の政治経済学部に進学し、麻雀部に入部。大学BIG3と言われるほどの絶対的エースにまで登り詰めた。国麻が終わってから、毎日14時間は勉強したと言っていたので、かなりの努力家なのだろう。

 怜は彼女ほど上手なプレイヤーが、高校時代無名だったということに驚いたが、高校から麻雀をはじめたと聞いて納得した。

 歴代最高とも言われるハイレベルな年度の六大学リーグを、伊稲大が優勝することが出来たのは、主将の加治木さんの力によるところが大きい。

 

「出身長野って言ってたから、宮永さんや天江さんと一緒なんやな」

 

神戸 118600

佐久 116300

大宮 88800

横浜 76300

 

 エミネンシア神戸が首位にたって、先鋒戦が終了する。佐久の赤土さん以外は全員交代するようで、選手交代のアナウンスがテレビから聞こえてくる。

 

「赤土さん、次鋒戦もそのままいくんか」

 

 派手な鳴き合いの麻雀だったにもかかわらず、赤土さんは特に疲れた様子も見せずケロっとしている。

 それに対して怜は麻雀を見ているだけでも少し疲れたので、手の中で遊んでいた牌を手放してソファーにダイブする。

 

「伊稲大……進学してれば加治木さんと一緒に麻雀できたんやなあ」

 

 怜は、少し残念に思いながらそうつぶやいた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。