専業主婦、園城寺怜のプロ麻雀観戦記   作:すごいぞ!すえはら

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第24話 麻雀牌と洗濯物の姫

 6月に入りペナントレース前半戦も佳境に入ると、各チームとも遠征が多くなる。竜華の所属しているエミネンシア神戸も、横浜から恵比寿それから佐久と長期遠征を敢行している真っ最中だ。

 

「竜華ー早く帰ってきてやーーーー」

 

 そう悲鳴をあげるのは、麻雀では能力者だが、生活面では無能力者の園城寺怜である。

 

 二週間の竜華の遠征。怜にとってはまさしく死のロードといえる。一週目は時計が壊れたくらいでなんとかやり過ごしたものの、二週目は竜華が帰ってくるまで、あと3日を残して深刻な事態を迎える。

 

 着るものとバスタオルがないのである。

 

 怜は洗濯機が使えないので、洗面所にあるLLサイズの巨大なランドリーバスケットに洗濯物を放り込んで、竜華の帰りを待つことしかできない。

 もう、バスケットは二個目に達した。

 

「困ったわあ……もう少したくさん竜華にパジャマを買っといて貰えばよかった」

 

 怜はそうひとりごちた。

 ちなみにパジャマの数は、20着用意されているのだが、怜がコーヒーを溢して着替えたり、お風呂のたびにパジャマを変えたりしたため、数が足りなくなった次第である。

 バスタオルも1日に2回お風呂に入ったり、溢したコーヒーを拭き取るなどして全て使用したため、なくなってしまった。

 真っ白なバスタオルでコーヒーを躊躇なく拭いていく、豪快なスタイルが、園城寺怜の持ち味だ。

 

「ウチはどうしたらええんや……」

 

 残り1着になってしまったパジャマを見て怜は、コロコロ君でカーペットのホコリを取りながら絶望に打ちひしがれる。

 コロコロ君とお風呂掃除ができることが、怜の自慢なのだが、状況は好転しそうにない。

 怜は仕方がないので、ソファーでゴロゴロしながら考えることにした。粘着力がなくなった、コロコロ君をポイしてソファーにダイブする。

 

「竜華に電話するしかないやろか……」

 

 遠征中は、試合の関係もあるので出来るだけ怜の方からは、連絡をとらないようにしている。夜の10時から11時ごろに竜華から、電話がかかってくることが多い。

 

「今、試合出てるかもしれへんな」

 

 怜はそう思い、テレビの電源をつけた。洗濯物の問題はひとまず諦めて、プロ麻雀中継を楽しもうと気持ちを切り替える。

 

大将戦 東3局  

神戸  132800   清水谷竜華  

大宮  118600   大星淡

恵比寿 110600   三尋木咏

横浜  38000   岩館揺杏  

 

清水谷 竜華  今年度成績

ドラフト2位  春期個人戦順位 9位

千里山→エミネンシア神戸

1勝1敗4H5S

前年度は副将起用も抜群の安定感で守護神に抜擢。ファンに絶大な人気を誇る、神戸の女王。

 

『神戸、清水谷選手を猛追する三尋木プロ!!!そして大宮の大星淡は逆転できるのかああああああ』

 

 テレビからハイテンションな福与アナウンサーの実況が聞こえてくる。ちなみに声は聞こえてこないが、いつものようにすこやんが解説になっている。

 

「やっぱり、竜華でてるやん」

 

 竜華は今シーズンの途中から、セットアッパーから守護神に配置転換された。シーズン序盤に獅子原さんに逆転され、リードを守りきれず途中降板をしたこともあった。しかし、大きく崩れたのはその時くらいで、好調を維持し首脳陣の信頼を得た形だ。

 今日は点差が少ない場面での登板のため、大宮、恵比寿の両チームから一番良いポイントゲッターが起用されている。

 

「竜華、これはきついなあ……」

 

 ツモ! 2000 4000

 

 三尋木さんが満貫を和了し、二位と三位が入れ替わり更に点差が縮まる。満貫を和了して親が恵比寿の三尋木さんに変わったので、流れは完全に恵比寿にあるように怜は感じた。

 

大将戦 東4局  

神戸  130800   清水谷竜華  

恵比寿 118600   三尋木咏

大宮  114600   大星淡

横浜  36000   岩館揺杏  

 

 

「この点差でこの流れはまずいわあ……負けてしまうかも……」

 

 大星さんは早い巡目でリーチをかけるし、岩館さんは岩館さんなので、聴牌出来れば三尋木さんが出和了できる確率は高い。他家からの出和了なら、満貫までならギリギリ逆転されないんやなと怜は簡単に計算した。

 

「まあ、でも親が流れないから三尋木さんがここで満貫出和了すれば、ほぼ負けやな」

 

「人の麻雀見てるほうが緊張するわ……」

 

ダブルリーチ!!!

 

 宮永さんとの雀聖戦から、調子があまり良くない大星さんだが、積極的にダブルリーチをかけていく。大星さんの能力で周りが聴牌から遠い状態でのダブリーは、なかなか迫力がある。

 竜華の配牌は五向聴だったが、字牌を整理するとわりと伸びそうな手になった。

 

「大星さん、ほんま面倒な能力してるわあ……」

 

 周りの配牌を悪くし、自分だけが先に聴牌できるという、小学三年生が考えたような能力に怜はため息をついた。

 

 同じく五向聴から8巡目でさっと揃えて、聴牌した三尋木さんが追っかけリーチをかける。綺麗な両面待ちで跳満も見えてくる大物手だ。

 親の私が和了するから、お前らはオリろという、三尋木さんの心の声が、聞こえてくるような気がした。

 

『小鍛治プロ、三尋木プロからリーチ、ここは2人はどうするのがいいのかな?』

 

『そうですね……良形であれば仕掛けてみるのも良いとは思いますが、ベタオリが自然でしょうね』

 

 手牌が全く進んでいない岩館さんは、諦めて完成面子から現物を切る。未来の見えている怜でもなければ、勢いに乗る親のリーチには逆らえない。

 

 竜華の手はまだ二向聴。しかし、竜華は特に迷うような素振りも見せずに、浮いている六索を保留し、無スジを河に捨てる。

 

「こ、これ回すのは駄目やろ……」

 

 間四間の六索こそ警戒して回したものの、ほぼ全ツである。テレビ越しに見ていると六索は通ることがわかるのだが、竜華から見たら絶対に切れない牌だ。

 一筒と四筒が三尋木さんの当たり牌なので、竜華が手持ちの一筒を切るんじゃないかと、怜はハラハラする。

 そんな怜が三尋木さんと竜華が牌をツモるたびに変な声をあげながら、テレビを見ていると、竜華が大星さんの当たり牌の七筒をツモる。

 

「あかん……」

 

 ずっと保留し続けた六索を切って、七筒を取り込めば最低満貫以上で聴牌できる。生牌の七筒と、あれだけ回し続けた六索をここでは切れない。そうなると、回し打ちを続けるなら一枚切れの一筒から落としても、不思議ではないような気もする。

 竜華も流石に手が止まり、唇に人差し指をあてて逡巡している仕草をした。

 

 リーチ

 

 竜華は六索を優しく横向きに置く。

 

「なんでそれ切れんねん!? というかリーチする意味ないやろ」

 

 なにやってるんやと竜華にツッコミを入れながらも、あの局面から回し打ちが成功したことに怜は安堵した。満貫以上の手なのにリーチを入れたのは謎だが、何はともあれこれで2人に追いついた形となる。

 

 ツモ  4000 8000

 

「は?」

 

 竜華が両手で牌を倒してから、理牌を軽くして和了したことを示す。三尋木プロは一瞬顔を顰めたが、すぐにいつもの表情に戻って手牌を倒してから中央に投げ入れた。

 まさかの、一発ツモである。

 

「流石、竜華や!!!!!!」

 

 あまりの驚きに変な声が出てしまったが、それから怜はガッツポーズをする。

 派手な和了に盛り上がる、神戸ファンの姿がテレビに映し出される。レッツゴーポーズをしている、女性ファンも多く見受けられた。

 

大将戦 南1局   

神戸  140800   清水谷竜華  

恵比寿 110600   三尋木咏

大宮  110600   大星淡

横浜  32000   岩館揺杏

 

「レッツゴー竜華、ゴーゴー竜華」

 

 怜もスタジアムにいる神戸ファンに負けじとレッツゴーポーズをとりながら、竜華を応援する。

 その応援が通じたのか竜華は南入後も好調だった。堅実な闘牌で守りを固め、機会があれば早和了を狙う守護神の王道の麻雀で、勝利を近づけていく。

 

「ん……なんか、なかなか始まらへんなタイムアウトかな?」

 

 三尋木さんと雀審が、なにか話している映像が映し出される。選手は4人とも卓についているので、タイムアウトではなく、ルールの確認だろうと怜は思った。しかし、少し待っても始まらずタイムアウトがとられて、恵比寿の監督が出てきた。

 

『恵比寿からタイムアウトがとられました、この試合恵比寿は三回目のタイムアウトです』

 

「いま、タイムアウトとったんやな、なにしてるんやろ?」

 

 しばらく様子を見ていても、怜は全く状況が掴めない。

 三尋木プロが席から立ち上がり、雀卓を指差して雀審と話している映像が流れ続ける。

 

『どうやら、咏ちゃ…いえ、三尋木プロは麻雀牌の交換を要望しているようですね』

 

『牌の交換?』

 

『ええ、審判の判断次第で認められるので』

 

 すこやんの解説を聞くも、怜にはなぜそれが必要なのか全くピンとこない。牌が変わると流れは変わりそうな気がするが、試合途中に変えているところを見たことがない。

 

 雀審が3人集まって自動卓から麻雀牌を取り出し、卓上に並べたその瞬間。三尋木プロは竜華と麻雀牌を指差してから、もの凄い剣幕で審判に猛抗議した。

 その様子を見て、各チームのベンチから一斉に監督と選手が出てきた。愛宕監督がさっと手を引いて、選手を雀卓の外に連れ出す。竜華は卓についたままだが、野依さんが横について目を光らせている。

 走ってきた小瀬川さんが三尋木さんと、雀審の間に割って入る。しかし三尋木さんは小瀬川さんを押し除けて抗議をやめず、瑞原監督も手を広げて、雀審に迫る。

 

『あーやっちゃった……』

 

『ど、どういうことでしょうか?』

 

 各チーム入り乱れての大騒ぎに、福与アナは、動揺しながらすこやんに問いかける。

 

『牌が汚れているか傷がついてるかわからないけど……選手を下がらせないで、目の前で検品したら全部牌が見えちゃうよね』

 

『そうですね? どういうことでしょう?』

 

 福与アナは意味をよく理解していなかったが、そこまですこやんに言われて怜はやっとピンときた。

 

——ああこれ、竜華には結構牌が見えてたのかもしれへんな

 

 特に気にせずに、竜華は検品の様子をずっと眺めている。三尋木さんが、竜華に何か言っているが野依さんが止めに入る。

 

 検品の結果問題なしと審判団は判断したが、各チームの抗議が収まらない。

 

 クソ麻雀牌やんけ!おい!

 選手の前で空けたんやから交換やろが!

 意地になったらあかんよ!意地になったら!

 なんや、そのふて腐れた態度は?

 

 なぜか、三尋木さんよりも熱くなっている元牌のお姉さん瑞原監督の罵声が、小さくテレビから聞こえて来る。

 その後、10分近くに渡って抗議が続いたが、判定は覆らず麻雀牌の交換は行われなかった。

 

 その後、竜華は完璧な内容で抑えきり、嬉しい今期6セーブ目をあげた。

 洗濯物を竜華の回し打ちから見習い、保留することにした怜は配偶者の活躍を見て呟いた。

 

「あれだけの騒ぎになって、いつもと変わらず麻雀できる竜華やばいわあ」

 

 

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