専業主婦、園城寺怜のプロ麻雀観戦記   作:すごいぞ!すえはら

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第25話 末原さんと3つ目のホールドポイント

 エミネンシア神戸は、前半戦の日程を全て消化した。長期の遠征から家に帰ってきた竜華にも、束の間の休息が訪れる。オールスターやタイトル戦こそあるものの、8月の後半戦開始までは日程的に余裕がある。

 そんな竜華の連休初日、乾燥機を回す音が洗面所から怜のいるリビングまで、小さく聞こえてくる。

 

 竜華は、コップやお皿などの洗い物をキッチンに備え付けられた食洗機に次々と入れていく。

 そして、怜は竜華のパジャマを着てソファーでゴロゴロしながら、竜華の家事が終わるのを待っていた。

 

 一応、怜はお皿洗いを手伝う姿勢は見せたものの、竜華側から拒絶されソファーで休んでいて良い旨、確認をとった上でゴロゴロしている。俗に言う、合意ゴロゴロである。

 

「ときー湯豆腐作ったから食べてや」

 

「食べるで!」

 

 お片付けの合間に、怜がなにか食べたいとせがんだので、竜華は湯豆腐を作って提供する。土鍋で作った昆布とお豆腐だけのシンプルな湯豆腐だ。

 

「あ〜おうちごはん最高や」

 

 利尻昆布でとった上品なダシに、豆腐の甘さが際立つような温度。外食ではなかなか味わえない、優しい味に怜は舌鼓をうつ。

 ちなみに、竜華のいない二週間もずっとおうちで出前と冷食を食べ続けたので、全部おうちごはんである。

 

「ふふっ、たーんとめしあがれ」

 

 竜華は怜が食べている様子を洗い物をしながら、幸せそうに眺めている。やっぱり、一人より家族で過ごすとええなあと怜は思った。

 

 湯豆腐を食べて少しお腹も落ち着いてきたので、怜はプロ麻雀中継を見るためにテレビをつける。

 

副将戦  東2局

 

横浜  173900 岩館揺杏  

松山  98600 天江衣   

恵比寿 77300 宮永照

佐久  50200 上埜久

 

ROOKIE CHECK

岩館 揺杏  

ドラフト3位  個人戦順位 NEW

有珠山→東北服飾大→横浜

2勝9敗6H

 

 前期ペナントの最終戦は、一方的な試合展開となっていた。トップに見慣れないチーム名があり、怜は何度か画面を見返す。

 

「今日、横浜がトップやんけ……」

 

 怜はタブレットを起動して、掲示板の実況スレを開く。

 

【完勝】横浜ロードスターズ実況 29

486名前:名無し:20XX/6/20(日)

ななしの雀士の住民 ID:tokichan

横浜、いけるやん!

 

493名前:名無し:20XX/6/20(日)

ななしの雀士の住民 ID:yokdrw4m

滅多に発動しない薄墨の裏鬼門炸裂、勝てる勝てるんだ

 

518名前:名無し:20XX/6/20(日)

ななしの雀士の住民 ID:yokdrwaw

>>493

契約延長、大四和すき

 

524名前:名無し:20XX/6/20(日)

ななしの雀士の住民 ID:yokdrmaz

大四喜と小四喜両方許していくチームがあるらしい

 

530名前:名無し:20XX/6/20(日)

ななしの雀士の住民 ID:yokdswam

もうすぐ大将戦やし、この半荘やり過ごせば勝ちやな

 

 7万点以上のリードがあり、岩館さんの顔にも少し余裕が見られる。天江さんの能力で一向聴地獄で足踏みさせられるのも、大きくリードしている横浜にとっては、都合が良いかもしれないと怜は思った。

 今日の前期シーズン最終戦は、宮永さんが大将戦を危なげない内容でまとめてゲームセット、そう怜は思っていた。

 

 

ツモ! 4400オール!

 

 

 宮永さんのお姉さんの気合いのこもった発声が、スタジアムを熱狂させる。

 

副将戦  東4局 5本場

横浜  141400

松山  122500

恵比寿 102800

佐久  33300

 

——どうしてこうなった……

 

 横浜からタイムアウトが申告され、一時試合が中断される。

 天江さんは大暴れするし、今は宮永照の連続和了が止まらない。横浜のあれだけあったリードはもう2万点しかなくなっている。

 

『宮永照!!怒涛の連続和了!!!!高校インターハイの女王はやっぱり強かった!!!!』

 

宮永 照  今年度成績

ドラフト1位  春季個人戦順位 5位

白糸台→恵比寿ウイニングラビッツ

6勝1敗0H

 

 岩館さんは振り込みこそないものの、この試合全くいいところがなく焼き鳥で安牌逡巡マシーンになっている。

 

【地獄】横浜ロードスターズ実況 33

260名前:名無し:20XX/6/20(日)

ななしの雀士の住民 ID:yokdrmaz

ああああああああああああああああああああああああああああああああ

 

281名前:名無し:20XX/6/20(日)

ななしの雀士の住民 ID:yokmrwag

姉の方はプロじゃ活躍しないんじゃなかったんですか!

 

295名前:名無し:20XX/6/20(日)

ななしの雀士の住民 ID:yokmrwag

>>281

それ去年までの話だから

 

305名前:名無し:20XX/6/20(日)

ななしの雀士の住民 ID:tokichan

真に恐ろしいのは、ここまで南入すらしていないということ

 

322名前:名無し:20XX/6/20(日)

ななしの雀士の住民 ID:yokdrmaz

愛宕監督の好みに合致しているというだけで起用され続ける女

 

336名前:名無し:20XX/6/20(日)

ななしの雀士の住民 ID:yokd6drwj

>>322

愛人の弘世といい性癖がはっきりしすぎてるのほんと草

 

353名前:名無し:20XX/6/20(日)

ななしの雀士の住民 ID:yokrcgmj

>>336

背が自分より高くてクールな雰囲気の子が好きなんですねぇ……

 

 テレビの中で愛宕監督と話している岩館さんは、完全に心が折れた表情をしている。それを見て怜は竜華に問いかける。

 

「さすがに交代やろか?」

 

「せやけど、誰に交代するかが悩みどころやな」

 

 竜華もあらかた家事が片付いたのか、怜の前に座って湯豆腐を食べ始めた。

 

「少し早いけど宮永さんでええんちゃうか?」

 

「監督はたぶんそうしたいんやろけどな、将またぎは出来ない方針とか契約になってるんやろ」

 

「なるほどなあ……うちが監督なら勝ってるときは全部副将と大将してもらいたいわ」

 

 怜が竜華の言ったことに納得すると、愛宕監督が雀審に選手の交代を告げた。

 

 リリーフカーから降りて、紫髪の可愛らしいリボンをつけた雀士が雀卓に向かう。

 

「末原さんやんけ!」

 

 驚いた怜が思わずそう声をあげる。

 

「あーそういえば横浜行くってテレビで言うとったなあ……やっと一軍あがって初登板がこの場面ってきついわあ…………」

 

 竜華は少し同情するような表情で、末原さんのことを見ている。

 肉食獣に食べられる前のインパラのように怯えながら末原さんは卓につく。テレビ越しに見ていて、手が震えているのがわかるので、相当である。

 

706名前:名無し:20XX/6/20(日)

ななしの雀士の住民 ID:tokichan

あかん……

 

711名前:名無し:20XX/6/20(日)

ななしの雀士の住民 ID:yokvsgzj

クビになった女たちの人きたあああああああ

 

715名前:名無し:20XX/6/20(日)

ななしの雀士の住民 ID:yokr0mrma

愛人から敗戦処理に切り替えていくスタイル

 

719名前:名無し:20XX/6/20(日)

ななしの雀士の住民 ID:yokdmrwk

誰?

 

723名前:名無し:20XX/6/20(日)

ななしの雀士の住民 ID:yokdrmaz

負けたな、風呂入ってくるわ

 

 

 ツモ! 6500オール!!!

 

 

副将戦  東4局 6本場

横浜  134900

恵比寿 122300

松山  116000

佐久  26800

 

 末原さんは震える手を抑えて、鳴いて宮永さんの親を流そうと試みるもあっさり和了される。

 

「これ、もう……佐久が飛ぶまで終わらないんちゃうか?」

 

「んーそろそろ他家も和了できると思うで、天江さんも絞ってきてないから」

 

 そういうものかなあと怜は思っていると、上埜プロが7巡目で満貫をツモ和了した。ツモった牌を思いっきり卓に叩きつけて、相手を威嚇していくスタイルが上埜プロの持ち味だ。

 

「ほら、言った通りやろ?」

 

「さすが竜華や」

 

 やっと南入したものの、横浜だけこの半荘で全く和了していない。

 南入直後に天江さんが跳満を和了した後、立て続けに連続和了を宮永照が決めてあっという間に、南4局である。

 

副将戦 南4局

横浜  124300

松山  122800

恵比寿 122600

佐久  30300

 

「逆転されていないのが、不思議なくらいなんやけど」

 

 怜は、ほとんど死んだ目で麻雀を続ける、末原さんを見ながら、そう竜華に問いかけた。

 

「一応、横浜も出和了だけは回避し続けとるからな」

 

「逆に、放銃せずに7万点追いつかれることあるんかいな?」

 

「まあ、あるからこの状況なんやろなあ……」

 

ポン!!!

 

 末原さん、これはまたクビやろなあと怜が思った矢先、末原さんの気合いの入った発声が聞こえてきた。

 

 まだ、心は死んでいなかったらしい。

 

 末原さんはそのまま立て続けにもう1副露しノミ手だが聴牌することに成功する。しかし、その直後に生牌の7萬をひいてきてしまい末原さんが固まる。

 

「こ、これ末原さん切れるんかな……」

 

「無理やろ」

 

 末原さんは震える手で7萬を手に加えると、現物の完成面子に手が伸びる。

 それから末原さんは俯いて一呼吸いれると、勢いよく7萬を強打した。

 

「末原さんいくなあ」

 

 竜華がそうつぶやくのを聞きながら、怜はテレビ画面を見つめる。

 

ツモ! 400 700

 

 末原さんが最後に和了し、副将戦は決着した。

 

副将戦  終了

横浜  125800

松山  122400

恵比寿 121700

佐久  29900

 

 怜は、70000点あった横浜のリードが3000点しかなくなっている惨状に、唖然とする。

 松山は、天江さんがそのまま将跨ぎで大将戦に入る。恵比寿は、宮永照に変わって三尋木さんが登板するようだ。意地でもこの前半最終戦をものにしようと、主力選手を投入してくる。

 横浜の守護神の宮永さんが登板する試合は、消化試合のような雰囲気になることが多いが、今日はそうはなりそうにない。

 

 末原さんが、雀卓に向かう半袖ワイシャツ姿の宮永さんに深く頭を下げている様子が、テレビに映し出される。

 宮永さんは末原さんの頭を優しく撫でてから、肩を強く叩き無言で雀卓へと向かった。

 

 その後、宮永さんは完璧な内容で3000点のリードを守りきり、末原さんにプロ入り後3つ目のホールドポイントをプレゼントした。

 

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