怜は竜華に買ってきてもらった、プロ麻雀せんべいをダイニングテーブルの上に並べた。怜はカードを開封する前のワクワク感を大切にしているのだ。
プロ麻雀せんべいは、微妙に美味しくないお煎餅に、プロ麻雀選手のカードが2枚ついているお菓子である。どちらかというと、カードにお煎餅がついていると、言ったほうが正しいかもしれない。人気選手のレアカードとノーマルカードの2枚がついて150円なので、なかなか良心的な値段設定だと怜は思っている。
「楽しみやわあ」
今日は竜華に2つしか買って貰えなかったので、当たるカードは計4枚となる計算だ。
今まではもっとたくさん買ってくれていたのだが、怜が付録のお煎餅をゴミ箱にそのまま大量に放り込んでいるところを、竜華に見つかり怒られたため、一度に買うのは最大2つまでという制限が設けられてしまった。
「ええ、カード当たるとええなあ」
対面に座っている竜華は、のんびり紅茶を飲みながら怜のことを見ている。言葉にこそしないが、お煎餅も食べろよという圧力を怜は感じた。
気を取り直して、怜はパックを開封する。
松実 玄 前年度成績
ドラフト1位 個人戦順位 3位
阿知賀→ハートビーツ大宮
6勝9敗16S 最優秀防御率(1回)
得失点差に優れた大宮の守護神。その闘牌は
まるで終盤のファンタジスタ。
「お、光ってるカードやん! おめでとう」
1枚目からホログラム加工された玄ちゃんの、カードを引き当てる。牌を持って決めポーズをしながら、キラキラ光り輝く玄ちゃんのドヤ顔が眩しい。
竜華は祝福してくれたが、怜は少し顔を顰めながらカードをじっと見つめる。
「うーん……微妙やな…………」
「え? 光ってるからその玄ちゃんのカードレアなんちゃう?」
「ああ、6枚しかないシークレットレアやからレアはレアやで」
怜は、竜華の方を向いてそう答える。
「良かったやん?」
「でもなあ……………」
怜は玄ちゃんのカードをもう一度見る。
「せっかくのシークレットレアなのに、なんで玄ちゃんなんや……うちは姉帯さんが良かったわあ…………」
宮永咲や姉帯豊音などのシークレットレアの中に混じる松実玄に、理不尽な怒りを覚えながらも、怜はカードにスリーブをかけて保管する。
「玄ちゃんってファンから過小評価されがちやけど、十分強いと思うで」
「カードにも書いてあるけど玄ちゃんは得失点差がほんま優秀やし、平均+10000くらいあるやろ」
竜華が玄ちゃんのフォローをする。ちなみに倍満直撃で、去年の玄ちゃんの負け数を1個増やしたのも竜華である。二向聴から和了を目指していた玄ちゃんが、他家がまだ誰も張っていないと勘違いして、無警戒に切っていったため発生した現象だ。なぜか解説のすこやんが玄ちゃんにキレたので、掲示板でかなり話題になったので怜も覚えていた。
「でも守護神にするのはあかんやろ?」
「そうなると大宮の守護神は、大星さんになるけどええんか?」
怜は、先日あった大星さんの雀聖戦のダブリー放銃機械っぷりを思い出し、戦慄する。
「やっぱり、玄ちゃんは大宮の守護神でええ気がしてきたわ」
「せやなー」
家族間で玄ちゃんが大宮の守護神に相応しいと共通認識できたので、怜は2枚目のカードを見ることにした。
小瀬川 白望 前年度成績
ドラフト2位 個人戦順位 26位
宮守→恵比寿
5勝3敗10H
恵比寿の中盤を支える、高火力が持ち味のイケメン雀士。
「お、当たりやな!」
ご満悦で、小瀬川さんのカードを怜はスリーブに入れる。玄ちゃんも小瀬川さんのようにノーマルカードであれば、当たり認定されていたのに哀れな女である。
「小瀬川さん、結構上手いからなあ」
竜華は怜から手渡されたカードを見ながらそう呟いた。竜華は小瀬川さんと公式戦で対戦することも多いため、少し意識しているように見えた。
「どういうところが上手いん?」
「面前重視で点棒持ったら固いし、鳴くべきところでは鳴いてるし、牌譜見てて疑問に思うところは、あんまりあらへんな」
「オカルトや感覚重視の雀士やと思ってたけど、わりと理論派なんやな」
「彼女の場合は、本人的には感覚重視で打ってるつもりなんやろけど、内容がデジタル的にも合致するっていうタイプやなー」
竜華の話を総合すると、小瀬川さんはセンスが良いタイプらしい。チームの顔になるタイプではないが、どのチームでも勝ちパターンに入る競争が出来るだけの力はある、というのが竜華の評価だ。しかし、能力の迷い家の性能が微妙なのが、トッププロと比較して残念とのこと。
「珍しく人の麻雀褒めとるなあ……いつもの毒舌竜華はどこにいったんや?」
「あはは……まあ玄ちゃんも小瀬川さんも良い選手だから特に悪いことは言わへんよ」
怜はあまり美味しくないお煎餅を食べながら、竜華の話を聞きそういうものかと頷いた。
そして二袋目を開封する。
弘世 菫 昨年度成績
ドラフト2位 個人戦順位 51位
白糸台→家慶大→横浜
2勝7敗0H
六大学麻雀で活躍し実質ドラフト1位で横浜に入団、ルーキーながらも先鋒で起用され今後の飛躍が期待される。
「この人はどうや?」
怜が、竜華に問いかけてみるも返答がない。
「この人はどうやろか?」
仕方がないのでもう一度聞くと、答えが帰ってきた。
「ま、まあまあちゃう?」
竜華は誤魔化すように怜から目線を外しながら、そう言った。
「絶対、下手やと思ってるやろ?」
「そ、そんなことないで……」
「ほんまに? 正直に教えてほしいわあ」
「まあ…………本音で言うとあんまり上手くはないなぁ」
竜華は口を開くと性格が悪そうな解説になるため、あまり話したくなさそうに続ける。
「弘世さんは他家を狙い撃てる能力は優秀なんやけど……この人そもそもの麻雀がヘタクソなんよな、高校の時はもう少しマシやった気もするんやけど守備が甘いし、押し引きの判断も微妙やわあ」
「能力の性質上しょうがないところもあるんやろけど、牌譜見てると先切りが早くて待ちを絞りすぎてる印象があるわあ、出和了多いから火力も無いし」
「あと、リーチ判断も微妙かな……内容も悪いし……あ、でもでも能力は強いと思うで!」
能力が強いとフォローを入れるたび、麻雀の微妙さが際立ち株が下がるという、高度な毒舌解説を竜華はやってのける。
恵まれた能力から、クソみたいな麻雀を繰り出すことに定評がある選手。
あまりにも酷すぎる評価を下す竜華に、怜は苦笑した。
「先鋒やってるのが悪いんかな?」
「それはあるんやけど、中盤の複雑な場面で使うと弘世さん麻雀が下手だから、能力と噛み合わないんよなあ。逆にあの能力で、牌の流れに無頓着なのは不思議なくらいや」
「ちょっと言ってること酷すぎちゃう?」
「怜が無理に、教えてっていうたんやない!?」
竜華は少し落ち込みながら、弘世さんのカードを手に取って、ごめんなあと小さく謝った。
「2年目やし、これからプロの麻雀に対応していくと良い感じになるんちゃうかな。麻雀が荒いのは、伸びしろがあるとも言えるわけやし」
「敵チームだからあんまり強くなられても困るけどなー」
竜華は解説を終えるとそう付け加えた。怜は解説に納得しながら、最後のカードに手をかける。
清水谷 竜華 昨年度成績
ドラフト2位 個人戦順位 14位
千里山→エミネンシア神戸
4勝3敗31H
冷酷無慈悲な闘牌で、相手を完封する安定感抜群の神戸の女王。
「この人はどうなんや? 神戸のチームレアらしいで」
怜は引き当てた清水谷プロのカードを竜華に見せる。
「そ、その人はまあ普通やなー」
竜華は気恥ずかしいのか、カードを手に取って苦笑いする。
「冷酷無慈悲な麻雀するらしいで」
「たぶん、その人優しいからしてへんと思うわあ」
「毒舌女王様らしいで」
「そんなことカードに書いてへんやろ!?」
怜は、落ち込んでる竜華に二枚入っているお煎餅を一枚プレゼントする。あまり、美味しくないお煎餅も2人で食べると、少しだけおいしく感じた。