専業主婦、園城寺怜のプロ麻雀観戦記   作:すごいぞ!すえはら

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第29話 専業主婦と守りの化身

 竜華の出張中、暇を持て余した怜は愛宕洋榎の実家に来ていた。

 クーラーの効いた部屋でお菓子を食べてから帰ろうと思って、出されたイチゴのショートケーキを食べながら、リビングで寛いでいたのだが、偶然にも洋榎が実家に帰ってきた。

 帰ってくると同時に、洋榎は目を丸くして固まる。

 

「なあ……なにしてるんや?」

 

「ゴロゴロしとるで」

 

 怜はドン引きしている洋榎に、当然のようにそう答える。

 怜は洋榎の家のソファーはなかなかバネが硬くて寝にくいわあと思いながら、人の家のリビングで平和な時を過ごしている。洋榎の家はプロ雀士一家だけあって、高級そうな家具が並んでいる。それなのになぜ、全家具の中で一番大事なソファーが硬いのか、怜は疑問に思った。

 

「なーーに人んちでくつろいでんねーーーーん!!!!!」

 

 洋榎は大阪仕込みのツッコミを決め対応力の高さを見せつけるも、怜はまったく動じない。

 

「そんなかっかすんなや、バリウケさん食べるか?」

 

 そう言って、ソファーに寝転んだまま洋榎にお煎餅を二枚差し出す。当然、洋榎の家のお菓子である。

 洋榎は、お煎餅を一枚だけ受け取り立ったまま食べはじめる。

 

「どこから、うちの実家に侵入したんや? 通風口か?」

 

 洋榎はキッチンから持ってきたゴキブリ殺虫スプレーを手にしながら、通風口を確認している。

 

「普通に玄関からやで」

 

「そんなに堂々と侵入したんか!?」

 

「絹恵ちゃんに言ったら、ケーキも出してくれたわあ」

 

 洋榎は妹が園城寺怜に餌付けしていた事実に、少しショックを受けたようだったが、諦めて怜の頭の位置あたりにソファーに腰掛けた。

 

「膝枕も頼むで」

 

「誰がやるか! アホ!」

 

 頭の位置に洋榎が腰掛けたので、膝枕をしてくれると怜は思ったが、どうやらそうした意図はないらしい。

 

「ん……これはなんや……」

 

 洋榎はローテーブルの上に置かれた、姫松高校の卒業アルバムを手に取った。

 

「せっかく来たから、少し読書してたわ」

 

「これも絹に出してもらったんか?」

 

「いや、洋榎の部屋の本棚から自分で持ってきたで」

 

「そのネタほんま好きやな!? 何回このアルバム見せたと思ってんねん!」

 

「洋榎と末原さんのページは、もうだいたい暗記したわあ」

 

 怜は姫松の麻雀部の写真を開いてから、洋榎のクラスの集合写真のページを開く。

 

「今日は洋榎の思い出の1ページに、ウチも加えて貰おうと思ってな」

 

「ん?」

 

 怜はおもむろにカバンの中から、自分のプリクラを取り出し、洋榎のクラスの集合写真の右上にどうやって貼りつけようか悩み始めた。それを見た洋榎が必死に止める。

 

「同じクラスどころか、姫松高校の人間ですらないやん!!!」

 

「ええやんええやん、一緒にインターハイ戦った仲やろ? 貼らせてや」

 

「そもそも、おまえ1人やなくて泉もプリクラに写り込んでるやんけ! そいつ同級生ちゃうやろ!」

 

 そう言って洋榎は、卒業アルバムを怜の手から取り上げた。

 

 その後、怜は泉の目元をマジックで黒塗りにするから、貼らせて貰えないかと交渉したが「うちの卒業アルバムに、いかがわしい写真を貼るな」と言われてしまい、残念ながら断られてしまった。

 しかし、怜は意味もなくプリクラに写る泉の目元をマジックで黒塗りにして、洋榎を爆笑させることには成功した。

 

「現役JDやぞ! 指名せーや! 貼らせろ!」

 

「えwwwええ加減にせーよwwww」

 

 笑い続けている洋榎を無視して、怜はテレビのリモコンを探す。そのついでに、淹れてくれた紅茶がなくなったので、キッチンにいた絹恵ちゃんにおかわりを要求した。

 

「オールスター戦見たいから、つけるな」

 

「おう、見てけ見てけ」

 

 洋榎は、少し落ち着いたのか絹恵ちゃんから紅茶を貰いケーキを食べている。

 

『大星淡選手! 最高の形で副将にバトンタッチだあああああああ』

 

『随分と差が出てしまいましたね、Bチームの大将は宮永選手ですから……副将の清水谷選手を相手にどれだけ各チームが迫れるか、見どころですね』

 

 ハイテンションで実況する福与アナと、珍しく真面目に解説をしているすこやんの音声が流れる中、Bチームの副将の清水谷プロがテレビに映し出される。

 

「おー竜華でとるやん」

 

「清水谷さん、今では神戸の守護神ですし参考にさせて貰ってます」

 

「サンキューや」

 

 紅茶を持ってきてくれた絹ちゃんに、お礼を言いながら怜はティーカップを受け取る。一口飲んで爽やかな味がしてなかなか美味しかったので、春摘みのダージリンやろなと、怜は思った。

 

「清水谷は、高校卒業してから成長止まらないのがやばいなあ……ファン投票も3位やし随分水あけられてもうたわ」

 

 ファン投票23位で惜しくもオールスター出場を逃してしまった洋榎が、悔しそうにそう言った。

 洋榎のような場の支配を持たない守備型の雀士は、リード時に中堅や副将で起用される事が多い。そのためどうしてもチームの順位や、状況にあわせた打ち方が求められる。年度ごとの振れ幅もあり、実力がなかなか一般のファンには評価されづらい。

 なにより、チームの顔である先鋒や大将、派手な和了をするポイントゲッターと比べると地味なので、得票が集まりにくい。

 

「まあ、洋榎も佐久じゃなくて恵比寿か神戸なら、オールスターでれてたやろ」

 

「お姉ちゃん、ファイトや!」

 

 2人に励まされた洋榎は、気恥ずかしそうに頭をかいた。

 

「ま、まあ うちもこれからやからな!」

 

 洋榎は、似たようなタイプの竜華が自分よりも活躍することが内心、面白くないと感じているのだろう。そして、竜華に嫉妬している自分に洋榎自身が気がついていて、そのことが一番気に入らないのだろうなと怜は、長い付き合いから推測した。

 ライバル心を持つことは悪いことではないし、もっと敵意を剥き出しにしても別にええのに、面倒な性格しとるわと怜は思った。

 しかし、そうした性格の良さが洋榎の魅力でもある。

 

「清水谷さんの活躍は、やっぱり園城寺さんと結婚して、麻雀に集中できる言うのもあると思います」

 

 絹恵ちゃんが言った言葉に、洋榎も同調する。

 

「家事とかダルい面もあるしなあ、あと税金とか……生活面のサポートって結構大きいと思うわ」

 

「園城寺さんがしっかり支えてあげて……清水谷さんも守るべきものがあると、強くなれるんでしょうね」

 

 洋榎が例示したものは、怜には出来ないので、全て竜華がやっている。そのため実際には、生活面のサポートはゼロである。しかし、怜は絹恵ちゃんに持ち上げられて悪い気はしなかったので、適当に同意しておくことにした。

 絹恵ちゃんの言った前半部分はともかくとして、後半部分については当たっているように怜には思えた。

 

「清水谷は家では麻雀したりするん?」

 

「うちはもう全然打たへんからなあ、竜華はたまに家で牌譜みたりはしてるで」

 

 怜がそう答えると、洋榎は少し残念そうな顔をした。もしかしたら、怜が竜華と一緒に練習していることを洋榎は期待していたのかもしれないと、怜は思った。

 

 その後、洋榎と絹恵ちゃんと一緒に、竜華の試合を観戦した。

 竜華の出番が終わり、Bチームから宮永さんが登板して、大将戦が始まった頃、怜はソファーから体を起こして言った。

 

「結構もうええ時間になってきたし、そろそろ帰るかなあ」

 

「大将戦最後まで、見ていけばええやん? 夕飯ぐらいなら用意するで」

 

「6万点もリードがあれば、そら宮永さん勝つやろし見せ場もできへんやろ」

 

「まあ、せやな」

 

 洋榎の引き止めを断り、怜は帰りのタクシーを電話で呼んだ。歩くのが面倒なため公共交通機関を利用せずに、距離に関係なくタクシーで移動するのが、園城寺怜のスタイルである。

 

「んじゃ、またなー」

 

「見送りサンキューや」

 

 わざわざ、玄関前まで見送りに来てくれた洋榎に怜はお礼を言う。帰りのタクシーのドアが開き乗り込もうとした際、怜は洋榎に言いたいことがあったことを思い出した。

 

「なあ……洋榎、帰る前に最後にひとつだけええか?」

 

「な、なんや……急にあらたまって」

 

 いつになく真剣な雰囲気の怜に、洋榎は身構える。

 

「ソファーが硬くて少し寝転がりにくいから、次来るときまでに、ソファーの買い替えを頼みますわぁ」

 

「はよ、帰れ」

 

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