専業主婦、園城寺怜のプロ麻雀観戦記   作:すごいぞ!すえはら

36 / 147
第36話 園城寺怜と病院患者

 インターハイ個人戦を終えた怜は、病院のベッドで目が覚めた。薄暗い病室と機械音。体の至る所がチューブで繋がっていたから、試合前にトイレで見た予言の通りやなと怜は思った。

 目覚めた時、病室にいたのは愛宕監督だった。眠いのか、目の下にクマを作ってうつらうつらしている。

 

「千里山は優勝しましたか?」

 

 怜がそう問いかけると、愛宕監督はびっくりしたように飛び起きた。それから、怜の手を取って「したぞ」と強く言ってくれた。未来視の幻視や、最後まで意識がなかったから無効と言われなくて、怜は安心する。

 

「ナースコールするからな! 怜大人しくしとけよ!」

 

 体についている邪魔なチューブをぐいぐい触っている怜に注意しながら、愛宕監督が各方面に連絡をとっている。ナースコールをすると深夜にも関わらず、看護士さんやお医者様が集まってきた。取り囲まれることに居心地の悪さを感じながらも、怜が時刻を確認すると、インターハイ個人戦が終わってから二週間ほど経過しているようだった。

 

 それから2日も経つとチューブは全部外れて、普通に歩けるようにまで回復することができた。

 リハビリを終えてから、病室でお母さんが買ってきてくれたアイスクリームを食べていると、愛宕監督がセーラと竜華を連れてお見舞いに来てくれた。

 

「ときぃぃいぃぃ……ときぃぃ………………」

 

 怜が、のんびりアイスを食べている姿を見て安心した竜華は病室に入ってくるなり、その場にへたり込んで泣いた。怜は竜華の側に行って背中をさする。

 

「ごめんなあ竜華、心配かけたわあ」

 

「良かった……良かった」

 

 絶交したはずなのに、自分の回復を知って泣いてくれるのを見て、少しのボタンの掛け違いがあっても、竜華とは一心同体なんだなと怜は思った。

 持ってきてくれたガーベラのブーケをセーラが戸棚に飾ると病室がパッと明るくなった。

 

「この通り、完全回復しましたわあ」

 

 怜は右手を曲げて力こぶを見せつけるポーズをして、健康っぷりをアピールした。

 

「なんか腕曲げとるけど、力こぶはどこにあるんや?」

 

「ウチの力こぶは、入院してから心の綺麗な人にしか見えなくなってもうたんや」

 

「もともと、なかったやろ!!!」

 

 セーラからのツッコミを躱しながら、怜は自分の二の腕をプニプニする。心の綺麗な人には、力こぶが見えるらしい。

 久しぶりの和やかな雰囲気の中、怜はお見舞い品のクッキーを怜は頬張る。アイスクリームとクッキーを交互に食べると、なかなかおいしい。

 

「体力も戻ってきたし、そろそろコクマに向けて頑張らなあかんな」

 

 怜がそう決意を込めて宣言すると、場の空気が凍った。なんか変なこと言うたかなと怜は思いながらも言葉を続ける。

 

「さすがに、インターハイ優勝したんやから、予選会なんかないやろ?」

 

「そ、それはもちろん全国大会のシードから始まるが……」

 

「シード!? それならいきなり強い人と当たるから、尚更練習しとかなあかんやん!」

 

「もう少し回復してからで良いんじゃないか? インターハイも優勝したんだし、焦ることはないさ」

 

 愛宕監督は眉間にシワを寄せながら諭すように、怜に言った。

 

「昨日、少し牌を触ってみたんですけど深い分岐まで澄み切ったように視えて、牌が語りかけてくるような感覚があったんです」

 

「この感覚をはやく実戦で一回試してみたい! 全国のライバルだって打倒園城寺怜のために練習してるはずやし、のんびりしてられへん」

 

 国民麻雀大会では高校一年生と高校三年生は出場区分が違うので、宮永さんとは当たらないとはいえ、あまり調整しないで出場して勝てるほど甘い大会とも思えない。宮永照や、個人戦四位に終わった辻垣内さんもリベンジを狙ってくるだろう。相性の悪い能力者と当たる可能性も高い。

 怜は、戸棚から麻雀牌を取り出して、病室の机の上にばらまいた。そして伏せた牌を神経衰弱の要領で未来視の力を使ってノーミスで当てながらケースにしまっていく。

 

「うお!? すっげーーー」」

 

「せやろー、このくらいなら楽勝やし倒れても未来視の力は冴え渡ってますわあ」

 

 怜はセーラからの歓声があがったのに気を良くして、テーブルの上にあける牌の数を増やそうとしたところで、竜華に手首を掴まれた。

 

「今は、安静にしてないと駄目やで」

 

 竜華は、あまり感情のこもっていない瞳で怜のことを見据えながら言った。

 

「少しくらいええやん、あんまり牌に触ってへんと感覚おかしくなるわあ……痛っ」

 

「あ?」

 

 竜華に手首を捻り上げられて、怜の手から一索がこぼれ落ちる。こぼれて病室の床に落ちた一索を竜華は拾いあげてケースのなかに戻した。

 

「な、なにするんや!?」

 

 怜は抗議の声をあげたが、竜華に本気で睨まれてなにも言えなくなってしまい、そのまま黙って俯いた。せっかく仲直りしたのに、また喧嘩をするのも嫌だった。

 

「とにかく安静やから、わかった?」

 

「わかった……」

 

 竜華に念を押されて、怜は不満はありつつも退院するまでの辛抱やと思い同意した。

 

 それから病院で色々な検査をしたが、特に異常は確認できないと診断され、退院の運びとなった。あれだけ無理をしても三週間で回復出来るのだから、未来視の能力にそこまで不安を覚えなくても大丈夫だと、怜は自信を深めた。

 それよりも病室でのんびりしてしまったので、コクマまでの練習時間の確保に頭を悩ませていた。

 

 愛宕監督からの提案もあり、しばらくは自宅ではなく、竜華の家から通学することになった。千里山女子高校に近い竜華の家から通った方が楽だし、怜の両親が共働きなのもあり、竜華や監督のサポートがあった方が麻雀に集中しやすいと怜は判断した。

 

 退院の日は、愛宕監督が車で迎えに来てくれた。ミニバンの後部座席に座って怜は、何切る問題を読みながら時間を潰した。本を読んでいても全く酔わなかったので、いい車だなと怜は思った。

 

「退院、おめでとーーーーー」

 

 愛宕監督にお礼を言ってから、久しぶりに高層マンション上層階の竜華の家の玄関に入ると竜華がクラッカーを鳴らして祝福してくれた。

 

「な、なんや大袈裟やなあ」

 

「退院できてほんまによかったわあ」

 

 嬉しそうに竜華はそう言って、怜の着替えや私物の入ったドラムバッグを玄関からリビングまで運んでくれた。

 

「サンキューや、しばらくの間……といってもコクマ始まるまでの間だと思うけど、よろしく頼むな」

 

「もちろんや、お部屋は結構準備するの大変やったから、気に入ってくれるとええんやけど」

 

 そう言って竜華は鍵を開けて、怜の部屋まで案内してくれた。怜は少し違和感を感じつつも竜華の後をついて部屋に入った。

 

 清潔なベッドにライトグリーンが生えるソファー。ホワイトオーク材の明るい木を使ったテーブルとイス。シンプルだがセンスの良い北欧風の部屋だ。そんな素敵なお部屋に異物が2つ。

 怜は、部屋のテーブルに置かれた金属製の手錠と足枷を見て、ここまでノコノコと竜華についてきた自分の選択を後悔した。

 

「な、なあ……これ、なんなん?」

 

 恐る恐る竜華にそう聞くと、竜華はテーブルの上に置かれた手錠を手に持って言った。

 

「怜に謝らなきゃいけないことがあるんや、コクマのためにウチの家から学校通おうって話は嘘や。ごめんな」

 

「怜には麻雀は辞めてもらうから、そのつもりでなー」

 

 そう言いながら笑顔で近づいてくる竜華に怜は身の危険を感じて、部屋から出ようとした。しかし、竜華がさりげなくドアの前に移動していて逃げることができない。

 

「な、なあ竜華……これ、ほんまに言うてるん?」

 

「当たり前やん、こうでもしないと絶対麻雀するやろ?」

 

 竜華は笑顔で怜のことを見つめているが、目は全く笑っていない。麻雀をする時のような相手を観察する目をしている。

 

「は、犯罪やろ! やめろや!」

 

「昔、うちが大事にしていたモルモットのハムムの話をしたことがあったやん? 結局、私が目を離した隙に、お母さんが窓を開けっぱなしにして寒さで死んでもうたけど……」

 

「あ、あったなー」

 

 抗議も聞かずに小学校の思い出を語り始める竜華に怯えながら、怜は部屋から逃げ出すチャンスを伺う。

 

「それも、お母さんが悪いわけでもないやん? わざと殺そうとしたわけじゃなく、事故やった訳やし」

 

「で、うちなそのことを思い出すたびに決意するんよ」

 

「大切なものは絶対に自分の近くに置いて、どんなことをしてでも守らなきゃいけないんだって……」

 

「い、嫌や……」

 

「ふふっ、今度は絶対に守ってあげるからね」

 

 完全に常軌を逸しているとしか思えない竜華の立ち振る舞いを見て、怜はもう逃げられないことを悟った。

 力なく首を横にふる怜を無視して、竜華は怜の両手に手錠をかける。

 

「だから、怜」

 

「協力してや」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。