夏の昼下がり。
平日の真昼間から、お風呂を堪能してソファーに寝転んで、顔パックに励む一人の女がいた。
顔に緑色の泥を塗り付ける者、園城寺怜。
そのひとである。
「これは、女子力あがってる気がしますわあ」
青と白のボーダー柄バスローブを身にまとい、出来損ないのお化けのようになっている姿に、女子力などカケラもないのだが、本人は満足しているので問題はない。
「少しお腹すいたけど……レンジでチンするのめんどいから後でええか」
女子力はともかくとして、神戸の24歳児の異名を持つ怜の女児力は一級品である。一度ソファーに寝転んでしまったからには、キッチンに行って竜華の作った料理を温めるのは途方もなく困難だ。
「あーでも少ししたら泥パック洗い流さな……とりあえず、テレビでも見よか」
そう独り言を言いながら、怜はテレビの電源入れる。
プロ麻雀中継をつけると、まだ先鋒戦がやっている時間だった。
プロ麻雀公式戦 先鋒戦 東1局
横浜 120600 弘世 菫
大宮 100700 白水 哩
佐久 93400 赤土 晴絵
神戸 85300 加治木 ゆみ
今年度成績
弘世 菫
ドラフト2位 前年個人戦順位 51位
白糸台→家慶大→横浜
1勝6敗0H
高い身長と整った顔立ちが女性ファンに人気の注目選手
白水 哩
ドラフト1位 前年個人戦順位 39位
新道寺女子→大宮
3勝7敗0H
名門新道寺女子から、大宮でローテーション入り伸び盛りの期待の若手選手
赤土 晴絵
ドラフト1位 前年個人戦順位 11位
阿知賀→博多→阿知賀(監)→DS石油→ 佐久
9勝14敗0H
今期絶好調の佐久フェレッターズのエース、タイトル獲得に期待がかかる
加治木 ゆみ
ドラフト1位 前年個人戦順位 24位
鶴賀→伊稲大→神戸
4勝9敗0H
昨年新人王を獲得した六大学のプリンス、曲線的な闘牌が持ち味
「あー、普通に神戸負けとるやん……というか赤土さんいつも試合でとるな」
知り合いばっかりの先鋒戦だったので、怜は試合の途中からではあるが思わず録画ボタンを押す。
『さあ、先鋒戦も第二半荘にさしかかりましたああああ!!! すこやん、今日の試合はどうかな?』
『し、試合の時くらいはすこやんはやめてよ……こほん、えーそうですね前半は非常に安定した内容で良かったと思います。とくに弘世プロが、加治木プロを狙い撃ちにした南2局は六大学リーグを彷彿とさせる熱い展開でしたね』
どうやら、加治木さんが弘世さんに放銃してしまい神戸は最下位になってしまったらしい。まだ、始まったばかりなので挽回に期待したいところである。
「ただ、加治木さん一年目ほど結果残せてへんのが気がかりやなぁ……やっぱり他チームから対策されてるんやろなあ」
前年度8勝をあげた加治木さんも、今年度はまだ4勝で、平均獲得素点も3000点程悪化している。
二年目のジンクスという言葉もあり、全方位から研究対策されるプロの世界で、安定した成績を残すのは難しい。
一般麻雀ファンの間では、ルーキーの時は活躍できたのに、なぜ数年すると活躍しなくなる選手がいるのかという疑問を覚える人が多くいたりする。しかし、癖や能力や牌の流れを他チームに研究されれば、勝てなくなるのが当たり前で、むしろ成績が安定している選手の方がおかしいと怜は思っていた。
激しい攻防が行われるなか、怜は泥パックを洗面所で洗い流して、ツルツルになったお肌に乳液をたっぷり塗り込んでからタブレットを起動した。せっかく立ち上がったのに、ご飯の準備はしない立ち回りが怜の持ち味だ。
プロ麻雀公式戦実況共用 part16
329 名前:名無し:20XX/8/5(月)
ななしの雀士の住民 ID:yokdrwjz
弘世が勝ってる!? いけるやん!
382名前:名無し:20XX/8/5(月)
ななしの雀士の住民 ID:yokmizaz
大学時代を思い出したな
401名前:名無し:20XX/8/5(月)
ななしの雀士の住民 ID:tokichan
今日の先鋒全員ドラ1やん
412名前:名無し:20XX/8/5(月)
ななしの雀士の住民 ID :sak11pvjh
>>401
おっそうだな
420名前:名無し:20XX/8/5(月)
ななしの雀士の住民 ID:hearm0zg
>>401
赤土 二雀団競合ドラフト1位
加治木 ドラフト1位
白水 外れ外れ外れドラフト1位
弘世 実質ドラフト1位
百里ある
434名前:名無し:20XX/8/5(月)
ななしの雀士の住民 ID:heamrwg
>>420
白水なんか取らずに素直に清水谷か愛宕姉いっとけば良かったと思うんですけど
445名前:名無し:20XX/8/5(月)
ななしの雀士の住民 ID:emi6rmaz
>>434
くじ引きハズしすぎて頭がおかしくなってたんやろなあ……
463名前:名無し:20XX/8/5(月)
ななしの雀士の住民 ID:hearwaz6
>>434
その年辻垣内にも特攻してたし
先鋒できる人を獲得したかったらしい
弘世さんは本当はドラフト2位なのだが、実質ドラフト1位と広くネタにされている。
ドラフト1位が競合指名になった場合くじ引きとなるが、2位以降の選手は指名したチームから早い者勝ちで交渉権が決まる。2巡目は、その年のチーム順位が下の球団から順番に獲得していく。
定位置を最下位としている横浜ロードスターズは、その年のドラフトで7番目に評価が高い選手を確実に獲得できる。その7人目の選手が弘世菫というわけだ。
一昨年のドラフト会議で横浜はインターハイ個人戦優勝者の高校三年生を指名し交渉権を獲得したが、ドラフト1位にも関わらず交渉が決裂しプロ入りを断られ、大学に進学されるという信じがたい事態が発生した。
そのため、横浜ロードスターズは契約金に引っ掛け、1億5000万貰っても行きたくない球団のレッテルを貼られ、最強高校生と大学BIG3の両どりを、ポジり倒していた横浜ファンは深い悲しみに包まれた。
ドラフト2位の弘世さんを、もともとドラフト1位だったことにするという、記憶の改竄を行うことでファンは、精神の安定を図った。
『すこやん、これってあそこで押しておけばこの七索で和了してたんじゃない?』
『結果論から言えばそうですけど……トップですからね。押さずにあえて回して安全にいくというのも選手の判断次第でしょう』
前半荘をトップで折り返した弘世さんだったが、後半荘ではリードを守ろうとして今一歩踏み込めない闘牌が続いていた。他家がまだ聴牌もしていないのに押さずに、面子から現物を切って手を進めずに和了し損ねる。
「あーなんかこれ……ピリッとせーへんな」
逡巡しながら時間をかけて回し打ちをしている弘世さんに、怜は違和感を感じたが、掲示板を見る限りあまり話題にはなっていない。
『少し……弘世さんのリズムが悪いですね』
『リズムですか?』
『そう、こういうふうに闘牌すると運が逃げていくというか……まだ先鋒なんだから、もっと積極的に攻めていく姿勢が欲しいかな?』
今まで、弘世さんの闘牌を否定も肯定もしていなかったすこやんが少しイライラしながらそう言った。
706名前:名無し:20XX/8/5(月)
ななしの雀士の住民 ID:mat3miwa
毒舌解説きたーーーー
730名前:名無し:20XX/8/5(月)
ななしの雀士の住民 ID:yokrwazg
あれだけイケメンの弘世でも不満なのか……
741名前:名無し:20XX/8/5(月)
ななしの雀士の住民 ID:ebimrwaz
>>730
前半はウキウキだったし、愛ゆえにやろなあ
753名前:名無し:20XX/8/5(月)
ななしの雀士の住民 ID:yok4rwaz
ボロボロに毟られてチームメイトや監督から罵声浴びせられる弘世様楽しみ
768名前:名無し:20XX/8/5(月)
ななしの雀士の住民 ID:yokrmazg
加治木と獅子原に比べて弘世に歪んだ愛情向けるファン多すぎませんかね
プロ麻雀公式戦 先鋒戦 南2局
佐久 106600 赤土 晴絵
大宮 100900 白水 哩
横浜 98600 弘世 菫
神戸 93900 加治木 ゆみ
そんな弱気の麻雀内容が悪かったのかは不明だが、南入して弘世さんは3位に後退し、赤土さんがトップにつけている。
一位から転落したにも関わらず、二萬を保留し長考しながら回し打ちを続ける弘世さんにすこやんがついにキレた。
『いいから! 二萬きろうよ! 生牌でも五萬切れてるんだからさあ!!!』
『あ……ちょっとすこやん、落ち着こ?』
椅子から立ち上がるすこやんの願いも通じず、弘世さんは悩んだ末に九索を切り出した。すこやんが握り拳で机を思いっきり叩いた音がマイクにのる。
『何故!? 二萬を切らない! そんなに弱気の麻雀をして楽しいのか?』
『切れないのか?』
『切りたくないのか?』
『切る度胸もないのか!!! 弘世ええええええええええええ』
アナウンサーの静止も聞かずに、人の麻雀にブチギレる32歳実家暮らしの叫びがお茶の間に響く。
『すこやん、落ち着いて! 落ち着いて! 止めて、音声とめて!』
『せっかく良い流れだったのに! この水差し野郎!!!!! 勝つ気がないのか!』
ピーーーーーーーーーーーーーーー
103名前:名無し:20XX/8/5(月)
ななしの雀士の住民 ID:sakglwaz
切れたwwwwwww
141名前:名無し:20XX/8/5(月)
ななしの雀士の住民 ID:matrwazg
まーた放送事故か……
196名前:名無し:20XX/8/5(月)
ななしの雀士の住民 ID:yokrmjzr
すこやんじゃなきゃ許されない解説ほんとすき
223名前:名無し:20XX/8/5(月)
ななしの雀士の住民 ID:ebimrwaw
無音声試合wwwwwwwww
「なぜ……麻雀をみているだけでここまで怒ってしまうんやろか」
知り合いの醜態にドン引きしながらも、怜の言いたいことは大体言ってくれたので良い解説者なのかも知れないと思った。
怜がしばらく無音声試合を眺めていると、画面が実況席に切り替わりすこやんが頭を下げている映像が流れ始めた。
『えー、このたびは解説者としてあるまじき不適切な言動があったこと、心より……』
試合の映像は画面端に追いやられて、始まったすこやんの謝罪放送を楽しんでいると、怜は自分がお腹がすいていることに、気がついた。
「あかん……ソファーに寝転んでもうたから、料理温めにキッチンに行けへん」
こういう時に竜華がいれば温めて運んできて貰えるのになあと怜は思った。
「切らない、切れないのか、切りたくないのか、切る度胸もないのか」
「ひろせーー」
怜は小鍛治健夜の四段活用を復唱しながら、いつキッチンに向かってご飯を用意するか苦悩することになった。
なお、弘世さんは4位に転落しその後、特に良いところもなく横浜は負けました。