多くの子どもたちの夢、プロ麻雀選手。
でも、その夢を追って走るなかで子供たちはいつか気づく。
自分はプロ麻雀選手にはなれないこと。
クラスで1番麻雀が上手い友達も、プロ麻雀選手になれないことに。
だから、プロ麻雀選手はそのことに気づかなかった人たちだけがなれる、特別な職業なのかもしれない。
ツモ!!! 4000オール!!!!
「六連続!!!! 宮永照が止まらない!!! 復活の宮永!!!!!」
宮永照は5雀団競合のドラフト1位として、恵比寿ウイニングラビッツに入団。しかしそのキャリアは順風満帆とはいかなかった。
先鋒としてローテーション入りを期待されたが、結果を残すことは出来ず中継ぎ、ポイントゲッターと次々と配置転換が行われた。
慣れないポジションと高校での過登板がたたったのか、プロ3年目は怪我でシーズンを棒にふった。
妹の宮永咲がプロ初年度からセーブ王に輝き新人王を獲得したこともあり、いつのまにかファンからは宮永の姉の方と呼ばれるようになっていった。
それでも彼女は、地道に次鋒や中堅で結果を残し、プロ5年目シーズン終盤についに先鋒での登板機会を手にするに至った。
宮永 照
ドラフト1位 個人戦順位 46位
白糸台→恵比寿ウイニングラビッツ
0勝3敗8H
高校インターハイを席巻したスター、今季の巻き返しを狙う
「なー竜華、これチャンピオン戻ってへん?」
怜はソファーでテレビでプロ麻雀中継を見ながら料理中の竜華に声をかける。
「まだわからへんなあ……年に一回くらいなら、とんでもなく調子のええ日とかあるから」
竜華は中華鍋でチンジャオロースを炒めながら、キッチンのカウンター越しにリビングのテレビをじっと見ていた。
怜はあんまり興味ないふうに言いながらも興味あるんだなあと思い、遠目から竜華よく見てみると目が全く笑っていないことに気がついた。
——あかん、人殺しそうな目しとるわ
麻雀モードになっているときの竜華は最近怖くて話しかけたくないので、怜はタブレットを開いて掲示板でだべることにした。
→宮永照さんの完封試合を見守るスレ
ななし雀民は宮永(姉)にごめんなさいしろよ
恵比寿三尋木、香港で学生団体を銃撃し死亡
宮永が宮永(姉)にかけそうな言葉
てるてる、思い出す
佐久実況 Part.21
「宮永照ばっかりやんけ」
怜は小さくそう呟くと1番平和そうな、完封試合を見守るスレを開く。
503 名前:名無し:20XX/09/15(木)
ななしの雀士の住民 ID:ebimgopw
7連続きたああああああああああああああああああああああ
520 名前:名無し:20XX/09/15(木)
ななしの雀士の住民 ID:emi3mg5d
ただの確変、秋の珍事
宮永照が7連続和了を決めたところで、松山フロティーラがタイムアウトをとり、今季11勝を挙げている戒能プロを降ろして臼沢プロにバトンタッチした。
臼沢 塞
ドラフト2位 個人戦順位 81位
宮守 → 松山フロティーラ
1勝5敗11H
松山フロティーラの頼れるワンポイント、能力者対策の秘密兵器
佐久と大宮はすでに先発を守備型の選手に変えているので、この交代で恵比寿以外の全チームが先発を降したことになる。
竜華はいつのまにか料理は切り上げて、右足を左足の上に組んで、ソファーでじっとテレビを見ていた。怜もタブレットを閉じ竜華と少し距離をとって、テレビを見つめる。
臼沢プロは妨害型の登板機会の多いプロで、異能力者相手に有利に運べることに定評がある。
怜はやっぱり麻雀って能力ゲーなんだなあと思いながら、試合を見守る。
ツモ!!! 8000オール
臼沢プロの妨害など一切気にするようでもなく、八連荘で倍満を和了する宮永照。
テレビ越しに、インターハイで対決したときのオーラが伝わってくるように怜には感じた。
「チャンピオンやばいわあ」
「せやなー」
宮永照の八連荘で再度タイムアウトがかかったので、竜華がミルクティーを入れてソファーまで持ってきてくれた。
口をつけるとかなり熱く火傷しそうだったので、怜は両手でカップをもって息で冷ますことにした。
「八連ってプロだと役満にならへんよな?」
そう竜華に問いかけると、竜華は紅茶から口を離した。
「ならへんけど、次で役満でるから変わらんで」
さも当然のように、竜華は答えるとカップを置きソファーのクッションに体を預けた。
「え? チャンピオン止められる人もおるんちゃうの? タイムアウトとってるし」
「これだけ御膳立てされたら、宮永も九蓮宝燈あがるから、タイムアウトは宮永に振り込みに行くかの検討やろ」
「本来はこの局面になる前にプロなら防がなきゃ駄目なんよ、先発温存するためにシフト組むのが遅かったからこうなるんや」
「結果論やけどなー」
竜華はそう言い終わると、怜の太ももに頭を乗せた。
「ちょ、いきなり膝枕要求するのやめーや」
「少し麻雀みたら、疲れたわ」
「しょうがないなあ」
そう言って怜は竜華の髪を軽く撫でた。
竜華は麻雀モードからオフモードに切り替わったようで、険のある顔つきが緩み甘えるように怜の太もものうえでゴロゴロし始めた。
「これ、全員敵チームの先発下げて照シフトにさせたってだけでも価値があるんちゃうか?」
「せやな、宮永は先鋒やりたいと思ってるやろけど、たぶん次鋒や中堅あたりの短い半荘数で登板するのが1番活躍できると思うで」
試合が再開され、配牌が行われると宮永さんの配牌は萬子ばかりで九蓮宝燈一直線。
他家からの差し込みを拒否し、ツモあがりを選択する王者の麻雀で対戦相手を捻り潰した。
ツモ!!! 16700オール!!!!
九蓮宝燈 成る!!!!!!
「竜華の言った通りになったなー」
「せやろーさすがやろー」
竜華は口を三角にして似ていない愛宕洋恵のモノマネしてから、もとの表情に戻して言った。
「ツモ和了したから、これで終わりやないんやけどな」
「そうなん?」
「ほら、この局も国士無双になりそうな配牌やろ」
そう言って竜華は怜の膝に頭をのせたまま宮永照の手牌を左手で指し示す。
ムダヅモなく么九牌が宮永照に集まっていく様子を、怜はドン引きしながら見ていると宮永照が最後の一牌を引き当てる。
ツモ!!! 16700オール!!!!
連続役満に観客は総立ちになり宮永コールが巻き起こる。
「これ、会場どこやっけ?」
「松山」
「アウェーでこの盛り上がりはやばいわあ」
宮永照は次の大三元の手作りにもたつき、連荘はストップしたものの、観客の興奮さめやらぬ中、雀卓を降りた。
交代した三尋木プロが佐久をハコワレさせ、プロ麻雀では2年ぶりの先鋒戦でのトビ決着となった。
「今日のヒロインの宮永照さんです! おめでとうございます!」
テレビの中で、針生アナが宮永照にマイクを向けている。
「ありがとうございます」
「今日はいけるなという感覚はあったんでしょうか?」
「えーそうですね、五連荘したあたりから調子の良さは感じていました」
宮永照は慣れた感じで、針生アナのインタビューに答えていく。
覚醒した宮永照からチームのエース三尋木プロへの完璧なリレーは、インターハイ王者宮永照の復活を象徴する記憶に残る試合になるだろう。そう怜は確信した。
なお、宮永照は次の登板、先鋒を任されるも炎上。マイナス40000点をたたき出し見事負け雀士となった。