専業主婦、園城寺怜のプロ麻雀観戦記   作:すごいぞ!すえはら

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第42話 専業主婦と百貨店のパンケーキ

「やっぱ、竜華の車はおちつくわー」

 

「それじゃあ、私の車に不満があるみたいじゃないか」

 

 怜は、竜華の運転する車の後部座席に座って加治木さんと話していた。

 加治木さんの愛車は、フィアール500というイタリアの旧車だ。とくに聞いてもいないのに、加治木さんとドライブに出かけた際に教えて貰った。見た目はとてもお洒落で可愛いらしいのだが、信じられないほど乗り心地が悪く、坂道のたびにけたたましいエンジンの悲鳴が響き身の危険を感じるので、怜は出来れば乗りたくないなと思っていた。

 

「あの車は狭すぎるわ、せめて後部座席に人が乗れる車にしてや」

 

「あはは……うちはゆみの車、運転してて楽しそうやし、良いセンスしてると思うけどな」

 

「たしかに、主婦には賛同が得られにくい車かもしれんな……」

 

 加治木さんは、竜華のフォローに少し気を良くしてくれたようで、高級セダンの後部座席の乗り心地を満喫していた。

 

「あ、ときコーヒー無くなったからとってや〜」

 

 竜華がそう言ったので、怜はクーラーボックスの中から、プラスチック容器に入ったカフェラテを取り出して、ストローをさしてから竜華に手渡した。竜華は、特に口をつけることもなく、カップホルダーにそのまま置いた。

 

「まだつかへんの?」

 

 怜がそう竜華に尋ねると、加治木さんがかわりに教えてくれた。

 

「大阪の市街地に入っているし、もうすぐだと思うが」

 

「それなら良かったわ」

 

 車に乗って頑張ったので、目的地の大阪の高級百貨店についたら、まず休憩せなあかんなと怜は思った。

 

「なあ清水谷、この間野依さんに紹介された税理士と話したんだが、法人化ってするものなのか?」

 

「あーそらなあ……うちはわいちゅーぶの配信やCMもあるし、配偶者を社員に出来るしで、ゆみとはまた状況が違うとは思うけど……」

 

「他の税理士にも会ってみたいなら、うちも紹介しよか?」

 

「ああ、悪いな。よろしく頼む」

 

 なんだか竜華と加治木さんは難しそうな話をしているので、怜は全て無視してクーラーボックスからカフェラテを取り出して、自分も飲むことにした。150円ほどの商品だが甘くて、なかなか美味しい。

 

 そうこうしているうちに百貨店に到着したので、店員さんに案内されたラウンジで、竜華と加治木さんと一緒にパジャマを選ぶことにした。

 本当は、買い物の前に休憩をしたかったのだが、ラウンジのソファーがそれなりだったので、そのまま商品を選ぶことにした。

 

「いきなり選ぶのパジャマなのか……お、これはどうだ? ピンクでなかなか可愛いじゃないか?」

 

「それは肌触りがイマイチや……シルクというだけではダメなんや」

 

 加治木さんの提案を断り、真剣な表情で怜はパジャマを吟味していく。ここで妥協すると、クオリティーライフに関わってくるので、慎重に選ばなくてはならない。

 悩みに悩んだ末、シルクを2着と綿を2着、そして夏なので、ざっくりした素材感ながら触り心地の良かったリネンのパジャマを1着購入することに決めた。

 加治木さんは夜にパジャマを着る習慣がないらしい。睡眠を大事にすると成績が伸びるだろうと思い、怜は3着ほどシルクのパジャマを加治木さんにプレゼントした。もちろん竜華のお金である。

 

 パジャマ選びという最大の難所も終えたので、あとの私服は竜華に選んでもらう事にして、怜は加治木さんと店内をお散歩する事にした。

 竜華も連れて三人で一緒に出歩きたかったのだが、プロでの竜華の知名度が上がって、変装していても、人だかりが出来てしまうことがあるので、竜華はラウンジに残して2人だけで出かける事にした。

 そして20分後、2人は百貨店内パンケーキ屋さんにいた。

 

「なあ、休憩早すぎないか?」

 

「結構頑張ったやん? あんまり買うとかさばって重くなるし……」

 

 雑貨屋さんでゼラニウムとフランキンセンスのアロマオイルを買ったくらいで、たいした買い物をすることもなく、休憩を選択する怜に加治木さんは呆れた顔をしている。

 怜は、ストロベリー&ホイップパンケーキとホットコーヒーを注文したが、加治木さんはあまりお腹がすいていないようで、ホットコーヒーだけ注文した。

 

「ん……砂糖とミルクはセルフなのか、私は大丈夫だが、園城寺は使うな?」

 

「使うで!」

 

 そう言って、砂糖とミルクをとりに行こうとした加治木さんだったが、席を立ち上がってからテーブルの隅にミルクと砂糖が置かれている事に気がついた。

 

「店員さんが、気を利かせてくれたのかもしれんな」

 

 そう言って、少し首を傾げてから加治木さんが砂糖とミルクを渡してくれたので、スティックシュガーを2本いれてから怜はコーヒーを飲み始めた。ブラックコーヒーを美味しそうに飲む加治木さん、カッコええなと甘いコーヒーを飲みながら怜は思った。

 

「麻雀の話なんだが、最近少し悩んでいる」

 

「調子よくあらへんもんな」

 

 真剣な表情で相談する加治木さんに、怜はパンケーキを食べながらそう言った。

 

「園城寺から見てもそう見えるのか?」

 

「せやなー、コーチに相談したほうがええで?」

 

「いや、コーチよりも園城寺のほうが信用できる、悪いところがあれば言ってくれ」

 

 コーチよりも信用できるという意味不明なリップサービスを言うほど、加治木さんも悩んでいるようだったので、加治木さんの麻雀を見ていて思った感想を怜は伝えた。

 

「悪いところはあらへんで、いつもの加治木さんの麻雀や」

 

「…………っやはり、そうか」

 

 加治木さんはハッとしたように頷いた。

 

「自覚あるやろけど、対策されてるんやろなあ、加治木さんは特異な能力がないように言われとるけど……実際には牌の流れがかなり独特で、自分の世界を持っとる雀士やから対策が刺さるんやろ」

 

「牌の流れか、オカルト全開だな……いや、未来が視える支配系能力者が目の前でホットケーキを食べているのだから、そう不思議なことでもないか?」

 

「未来が視えたり、何度も嶺上開花で和了したりっていうのはただの現象やからな、そこから目を背けるのは、非科学的やない?」

 

「うん?」

 

「たとえば、牛乳を飲むと背が伸びるって昔から言うやん? カルシウムがたくさん入っているからとか理由は色々あるんやろけど、牛乳を飲むと背が伸びるって現象が理由より先にあるんや」

 

「カルシウムでは、背が伸びないというのが今の定説らしいが?」

 

「そこらへんはあれやろ、よーわからん力が働いて背が伸びるんやろ」

 

「なるほどな、一理ある」

 

 そう納得して、加治木さんは頭に手を当てて考え込んでいる。おそらく、どうやって勝っていくかで頭がいっぱいなのだろう。その楽しそうな加治木さんの姿を見て、怜は羨ましく思った。

 加治木さんの相談に乗ってあげたので、こちらからも1つ相談をしてみようと怜は思った。

 

「竜華と片岡さんってやっぱり仲悪いん?」

 

「悪いな」

 

 加治木さんは、眉間に少しばかりシワを寄せてそう断言した。それから、コーヒーを1口飲んでから加治木さんは話を続けた。

 

「私は片岡も清水谷も好きだが……清水谷は片岡のことが心底嫌いなようだ。普段あまり他人には、関心がないタイプのように見えるんだが……片岡が入団した当初から、あそこまで嫌っているというのはちょっとな」

 

 若干加治木さんが目を背けたのを見て、相当陰湿なイジメとかしてるんやろなあと怜は思った。とりあえず、竜華が竹の物差しで片岡さんの頭をペチペチ叩いている図を怜は想像した。

 

「なんとかならへん? なにか理由があるんやろか?」

 

「いや、おそらく気質の問題だろうが詳しいことはわからない……清水谷は観察眼が鋭い」

 

 どうやら、加治木さんも嫌っている理由はよく知らないようだ。片岡さんとはほとんど面識がないのでまあいいかとも思った怜だったが、竜華が特定の人と仲が悪いのはやっぱり悲しい。

 その時、ふと怜はある事に思い当たった。

 

「ま、まさか…………」

 

「ん、どうしたんだ?」

 

 クリームを口元につけながら、顔を青ざめさせる怜の姿を、加治木さんは心配そうに見守る。

 

「す、好きな人に悪戯したくなっちゃうアレとちゃうやろな!?!!!!!」

 

「絶対ないから安心しろ」

 

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